熊城山 〜静かな里に秋深し〜


 

【広島県大朝町 平成16年11月17日(水)】
 
 今日は平日、でも休み。天気上々、ヨッシャー、どっか行くかー!
 ちゅーことで、今日は大朝町と芸北町の境にある熊城山(くまのじょうさん)へGo、です。
 
 山陽道の広島ICから、中国道、浜田道と走り継いで、大朝ICで高速を下ります。一般道を浜田方面に5分ほど走ると大朝町の中心部に到着。田原温泉方面に左折したら、後は道なりに進むとやがて正面に熊城山が見えてきます。
 辺りは晩秋の里山風景。木立の頂ではモズがさえずり、白い日差しの下でおばあちゃんが畑仕事。あぁ、のどか。
 子供の頃、稲刈りの終わった田んぼで走り回ったりしてた風景にどこか似ています。

 晩秋の里山
 (右:熊城山)

 熊城山の登り口には、国の天然記念物「天狗シデ」があります。車を降りて歩いて行ってみました。

 天狗シデ

 解説板には次のようなことが書いてあります。
 天狗シデは、イヌシデの変種で、幹や枝がくねくねと曲がり枝先がしだれるなど、その独特な姿に特徴があります。 これは突然変異によるものと考えられていますが、普通突然変異によって生まれた生物は一代限りで終わることがほとんどです。それが、このように代々受け継がれて群落を形成することは、極めてめずらしいのだそうです。
 「この木に登れば天狗に投げられる」、「木に傷を付けると天狗のたたりをうける」などと地元の人たちは言い伝え、この貴重な群落に「天狗シデ」の愛称を付け大切に守ってたとのことです。
 確かに近くから見上げてみると「ほえ〜」と感嘆してしまいます。群落の中に入って辺りを見渡すともっとすごいのでしょうが、踏みつけによって根が傷むのを防ぐために柵が設置されていました。これはやむなしです。
 
 山歩きの本にはここから登り始めるように書かれていて、もちろんそうする人が多いのですが、実は山の中腹まで林道が通っていて、そこまで車で上がることができます。今日は散歩感覚なので終点まで車で上がっていくことにしました。

 寒曳山

 林道の終点から北東方向を見ると、よく目立つテーブル型の山が。9月の定例観察会のステージとなった寒曳山です。あれからもう2ヶ月。あのときはまだ夏の名残がありました。今はもう冬の足音が聞こえてきています。
 
 靴を履き替えて、ストックを持って、あと熊鈴も。さあ、静かな山歩きのスタートです。

 熊の砦

 中世、中国山地には多くの山城がありましたが、ここ熊城山には城が築かれたという記録はないそうです。頂上直下の岩峰がクマでも住み着いていそうな城壁に見えることから「熊城山」と名がついたといいます。でも、本当にクマがいてもおかしくない場所ですが。

 アキチョウジ  ヤクシソウ  オトギリソウ

 道の脇にはいろんなドライフラワーが。あでやかな色こそないですが、こういう花の姿を見てみるのも悪くないです。

 ツルアジサイ  アキノキリンソウ

 春、芽を出して、初夏にぐんぐん成長し、そして花を付け、最大の目的である受粉を終えると実を結び、種子を放ってその役目を終える。今、晩秋の陽を浴びながら静かに佇むこれら草花たちの姿からは、遠い祖先から綿々ととリレーされてきたDNAを自分の種子に載せ換えて次に手渡すという、一生をかけた目的を無事に果たした安堵と、そして寂寥を見てとることができました。と、晩秋の植物を見るとつい人間に置き換えてしまうのです。個体の滅失を「死」ととらえる意味ってあるんですかね?

 残りわずかのごちそう

 アザミは比較的遅くまで花を咲かせているので、マルハナバチの雄(秋にだけ現れるそうです。)にはありがたい花だと思います。ところでこいつは雄なのか? 気温が低いせいか動きが鈍く、近づいてもまったく逃げようとしませんでした。

 岩峰

 頂上が近づいてきました。ブナの林に守られるようにして岩の砦がそびえています。
 この辺りまで来ると、遊歩道ではなく登山道と呼んでもよいような傾斜になってきます。

 山頂

 そうこうするうちに山頂(998m)に到着。だーれもいません。そうか、今日は平日か。
 とりあえず昼食です。風はほとんどありませんが、それでも座って弁当を食べているとだんだん汗が冷えてきて、上着をはおらなければならなくなります。

 1:龍頭山 2:野々志山 3:猿喰山 4:海見山 5:可部冠山 6:堂床山 7:備前坊山 8:白木山 

 南西方向の展望が開けていて、一番奥に白木山あたりが見えていました。
 雲の切れ間から光のエスカレーターが下りてきています。

 下山道

 下りは来た道ではなく、反時計回りに稜線を回って下りることにします。
 下山途中も誰とも行き会うことはありませんでした。
 ただ熊鈴の音が響いているのみ。立ち止まるとその音も消え、耳の奥で「シーン」という音が聞こえるほど静かになります。そうか!静かな様子を「シーン」と表現するのは、周囲の音が消えて自分の耳の中の音が聞こえる状態になるからなのか。な〜るほど。

 シンボルツリー

 この山のシンボルツリー(と勝手に思っている)のブナが、台風にも負けずにしっかりと立っていました。周りには倒木も多くありましたが、何事もなかったかのように立っています。
 このブナも毎年たくさんの実を落とすことでしょう。でも実生で育つのは極めて困難で、運良く芽吹いたとしてもこの林の下では十分な光を得ることはできません。そのほとんどは枯れていくことになります。この先何年か何十年か経ってこのブナが倒れるときが来たら、そのときこそが生命のリレーのときです。このブナが枝を広げていた空間がぽっかりと空いて、そこには十分な陽光が降りそそぎ、自分の生命を載せ換えた種子から子孫が育っていくのです。もちろん生きていくための競争にさらされながら、ですが。
 
 今日のように林道終点まで車で上がってくると、そこから2時間もあればぐるっと回って下りてくることができます。ふもとの天狗シデのところから歩いて登っても、トータル4時間くらいでしょうか。
 平日の山歩きはリフレッシュ度も倍増。帰路は満足感に包まれながらドリーム号を走らせました。