小菅村 〜人工林の手入れを学ぶ vol.2〜


 

【山梨県 小菅村 平成19年12月2日(日)】
 
 ううぅ…、重い。4枚重ねた掛け布団に身動きが取れず、ようやくの思いで布団からはい出てきました。時間を見ると7時前。昨夜9時に床につき、こんなに早く寝ると3時くらいに目が覚めるんじゃないか、などと考えていたのですが、そんな心配はまったく必要なく、たっぷり10時間睡眠をとってしまいました。
 もうすぐ朝食の時間です。今日も朝から素晴らしい天気。食欲も申し分ありません。やっぱり田舎に来ると体調が良くなる気がします。(昨日の様子はこちら

 霜の朝

 朝食を終えて外に出てみると、あたり一面、霜の白いベールをかぶっていました。それでも日向では溶け始めているのを見ると、1億5千万qの彼方にありながら太陽の放つ光の偉大さを感じます。
 午前8時30分、山水館を発って、バスでまた三つ子山に向かいます。

 ホオノキの絨毯

 昨日と同じ広場でバスを下りて、装備を整え、昨日と同じ現場に入っていきます。

 これはモミ  受け口、切りすぎ

 現場にはいると、さっそく昨日ピンクのテープを巻いた木を伐って行きます。手順は分かっているので、周囲に注意喚起しながらめいめいに取りかかりました。上の写真はモミ。スギやヒノキに囲まれて小さく、また、この樹種はこの森では不要とされるので間伐の対象です。スギはヒノキより軟らかく切りやすいですが、モミはさらに切りやすかったです。

 ロープをかけて  後ろから押して

 ちょっと太めの木の場合、追い口を切る前に木にロープをかけておいて、追い口を切った後ロープを引いて倒すこともあります。このロープをなるべく高い位置まで持っていくのがまたテクニックで、望月さんは馬の手綱を引くような要領でホイホイと幹の上の方までもっていっていました。yamanekoもやってみましたが自分の不器用さを再認識しただけでした。また、ロープは自分の思う方向に倒すために使うこともあります。森が密な場合は他の木に引っかかってにっちもさっちもいかなることがあるそうですから。

 ありゃ

 そういっているうちにやっぱり引っかかってしまいました。この木は直径20pくらいあって、切るのにもかなり苦労したもの。(今回の体験作業ではあえてチェーンソーは使いません。) なので、最後までうまい仕事をしたいものです。ロープを引いてももうびくともしません。こうなったらちょっと危ないですが、切れている根元の部分を持ち上げて後ろにずらしてみるしかないようです。望月さんのアドバイスの元2、3人で幹を抱え引っ張って、ようやく木を倒すことができました。そのなんと重たいこと。COがたっぷり詰まっていそうです。

 yamaneko作

 どうでしょう、yamanekoが伐った檜です。昨日に比べて格段に上達したでしょう。受け口の深さは直径の3分の1、追い口もまっすぐ水平に切り込み、受け口の先端まであとわずかというところで止めています。我ながら会心の出来です。

 記念に

 あまりに気に入ったので切り口から15pほど下で水平に切って、記念にもらって帰ることにしました。ヒノキは香りが良いので、皮をむいて乾燥させたあと、押し入れに入れておくと、数年は良い香りを放ってくれるのだそうです。

 年輪の記憶
 (マウスオーバーで別バージョン)

 このヒノキ、直径はわずか10pほどですが、その年輪を数えてみると、1980年生まれだったことが分かりました。世の中では毎年さまざまな出来事が起こり、そしてそのほとんどは忘れ去られていきますが、木々には年輪としてその生きた証がしっかりと刻み込まれているのです。人間には年輪はできないので、yamanekoは毎日日記風の記録を付けることにしています。もうずいぶん続けている気がするものの、それでもこの年輪の15本分にしかなっていません。

 去年の作業現場

 午前中いっぱいかかって昨日テープを巻いた木を全部間伐できました。他の班も同様に作業を終えたようです。伐り倒した木の後処理をして、下山の準備です。途中、去年間伐した場所を見ました。木と木の間隔がほどよくたもたれ、林床に十分に日光が届いているので、すでにヤマブキなどの下草が茂り、土壌をしっかりとつなぎ止めているのが分かります。
 
 昼食はまた山水館にもどって、おばさん特製のカレーライス。懐かしい味でした。

 ワサビ田見学へ

 午後は、自然観察を兼ねてワサビ田の見学に出かけました。

 サワラとヒノキ

 途中、サワラとヒノキが並んで生えていたので、その葉の違いをみんなで観察してみました。サワラもヒノキも同じヒノキ科の針葉樹。サワラの方が少し枝がまばらで、樹冠が透けているのが特徴だそうです。あと、おもしろいのは葉の裏側。ヒノキには白いY字形の線が入るのに対し、サワラはX字形の線が入ります、この白い部分は気孔が変化したものです。ちなみにアスナロは葉の裏にW字形の白い線が入っています。

 名残の紅葉

 谷間には早くも陽が陰りはじめました。紅葉の名残が午後の浅い光線を受けて、最後の輝きを見せています。もう数週間もするとこの山も白い雪に覆われるのでしょう。
 エナガやシジュウカラなどが混群を作って、梢から梢へと移動していきました。冬によく見かける光景です。

 沢を渡る

 沢に架かる苔生した木橋を渡って小さな支谷へ入っていきます。

 ワサビ田跡

 ここは数年前までワサビ田として使われていましたが、台風で土砂が流れ込んで、今は使われていません。ワサビは小石と小石の隙間に入って大きく育っていくのですが、その隙間を泥が埋めてしまうとワサビ田としてはもう使い物にならないのです。ここを元の状態に戻すには大がかりな土木工事が必要となりますが、個人にはあまりにも負担が大きいのです。

 小菅の湯

 ワサビ田から折り返して、ゆっくり観察しながら小菅の湯まで戻ってきました。この隣にある物産館で解散時刻まで休憩です。

 物産館  やっぱり、これ

 今日も物産館の正面でおばちゃんがヤマメを焼いていました。さっそく缶ビールとともにおやつの時間です。作業を終えて開放感もあり、最高に美味!
 
 午後2時40分、これで今回のプログラムはすべて終了しました。またマイクロバスに乗車して、奥多摩駅まで送ってもらいます。
 この2日間、天候にも恵まれ、そんなに寒くもなく、比較的作業がしやすかったと思います。でも、たったあれだけの広さを手入れするだけで相当の時間と体力を要したことを考えると、生業として山の手入れをするということは生半可なことではないのだと実感しました。放置された森林は保水力が落ちて、先ほどのワサビ田のように災害が起こりやすくなるほか、きれいな水を供給する機能やCOを吸収する力も弱くなります。では、いったい誰が山を守るのか。当然ですが、答えが出ないまま小菅村を後にすることになりました。


 

 今回、縁あって、11月と12月、2回にわたって小菅村の森に関わる体験作業に参加しました。
 参加前は、面識のない人たちに混じっての泊まりがけのイベントということもあり若干おっくうな感じはありましたが、新たな活動のフィールドとなるのではといった期待もありました。仮に単発の村興し的なイベントであったとしても、合間に個人的に自然観察ができればそれはそれでいいかという気楽な気持ちも。
 でも、実際の作業、レクチャーを通じて、今回の作業が単なる村おこしイベントではなく、ここで体験したことが周辺の環境保全にどう繋がっていくのかを確認できました。これにより自分の中で今回の体験の意味づけが明確になり、それなりに意義のある活動に参加できたとの満足感を得たと思います。さらに、新たな人間関係の中に一歩踏み出すことに伴う煩わしさの部分よりも、人との繋がりを広げることを優先した自分について、まだこういう元気は衰えていないと認識できたことは大きかったです。
 
 通勤電車の中でふと小菅村の風景や活動の場面を思い出したりすると、気持ちがすっと軽くなる感覚を覚えることがあります。一時的に現実を忘れるというより、目の前の現実が自分の世界のうちの一部分に過ぎないと再認識され相対的に小さくなるということだと思います。自分と繋がりのある空間があることの安心感のようなものでしょうか。