小石川植物園 ~都心で冬ド真ん中を楽しむ(後編)~
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(後編) |
【東京都 文京区 令和8年1月24日(土)】
都心の喧噪のエアポケット、小石川植物園での野山歩きの後編です。(前編はこちら)
小石川植物園は本郷台の縁に位置していて、上下二段の雛壇状になっています。今回yamanekoは、いつもとは逆に、まず下の段を散策してから上の段に向かいます。
| オオアメリカキササゲ |
この岡本太郎の作品のような樹木はオオアメリカキササゲ。大きいです。何かが棲んでいそうな佇まいですね。別名をハナキササゲというようですが、日本のキササゲも普通に花を付けます。
キササゲは、ササゲの樹木バージョン、といったネーミング。そのササゲとは大豆や小豆と同様に豆の一種で、古く奈良時代には渡来して食用に供されていたようです。でも、ササゲはマメ科ですがキササゲはノウゼンカズラ科。他人の空似ですね。
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ササゲは漢字で「豇豆」とか「大角豆」と書き、その頭に「木」の字を付けてキササゲとするのが通例のようですが、それ以外に「楸」という字を充てることもあり、yamanekoは「楸」をこのサイトのロゴとして使わせてもらっています。木偏に春・夏・秋・冬。一年中野山で遊ぶという意味で作ったものです。
| オオアメリカキササゲ |
これがオオアメリカキササゲの果実。既に鞘は裂けて中の豆果は落ちてしまっていますが、確かにインゲンマメや小豆みたいですね。
下の段の北端まで来たので、ここから上の段に向かいます。比高は15mくらいです。
上の段に向かう階段の途中、振り返るとこの風景です。ここが都心のド真ん中であることをあらためて認識しました。正面のビル群は豊島台の上に建っています。標高はこことほぼ同じ。間を谷端川が削ったということですね。
| 東屋 |
上の段に上がると東屋がありました。木立でさっきのような眺望が得られていないのが残念。
| センリョウ |
ササ藪の中にセンリョウの株がありました。そういえばセンリョウを庭以外で見ることはあまりないような気がします。マンリョウの場合、鳥が種子を運んで竹藪や雑木林に逸出しているのをよく見かけますが、センリョウの実は鳥に好まれないのでしょうか。と思って調べてみると、むしろマンリョウよりセンリョウの方が鳥に好まれるのだそう。ということは、藪の中では発芽や生育が難しいということか。
| シロマツ |
中国原産のシロマツ。日本にはクロマツやアカマツはありますが、シロマツはないですね。ただ白というよりはどちらかというと緑ですが。樹皮が鹿の子模様に剥げ落ちていて、その点はアカマツと共通しています。その模様をよく見てみると、元の樹皮の色は濃い緑色で、剝げかかっている部分は灰色になっていて、剥げた後の部分は黄緑色になっていました。かさぶたとその剥げた後みたいな感じです。
| カリン林 |
カリンの林です。カリンの樹皮もシロマツに似て斑模様です。ただ、カリンはバラ科、シロマツはマツ科ですが。
| カリン |
以前来たときには林床にカリンの実がたくさん落ちていて、そこから甘い匂いが漂っていましたが、今回はきれいに片付けられていました。切り株の上に誰かが置いたものが残っているのみ。
| シマサルスベリ |
シマサルスベリ。台湾や中国南部に生育する樹木で、日本では琉球地方に自生しているそうです。高さは10m近くはありましたが、大きいものは20mほどにもなるそうです。炎のような樹形で、力強いですね。街の公園などでよく見かけるサルスベリはもっと華奢な感じですが。
| シマサルスベリ |
もう老木なのか、幹はゴブゴブで表面はツルツルでした。誰かが磨き上げたのかというレベル。こりゃサルも滑るわ。
| タラヨウ |
タラヨウが朱い実を付けていました。大きさは1cmほど。堅くみっしりと付いていて、触ってもちょっとやそっとでは落ちません。
| タラヨウ |
タラヨウといえばなんといってもこの大きな葉。葉の裏側を傷付けると黒く変色するので、細い棒を使って字を書くことができます。とはいえここの葉に書くのはアウトでしょう。「絵手紙のご縁、つながりますように」とか書いてありましたが、神社の絵馬感覚なのでしょうか。あくまでもここの植物は研究対象として植えられているものですから、五感を使って観察するにしても、せいぜい引き寄せて匂いを嗅いだり触るくらいにしておきましょう。
カゴノキの樹皮も斑に剥げ落ちます。剥げ方はシロマツより細かいですね。この樹皮の様子が鹿の子模様なので「鹿子の木」です。
| モミジバスズカケ |
モミジバスズカケノキの巨木。丸裸ですね。プラタナスの仲間で、本来ならグローブほどの大きな葉が木の下一面に散らばっているはずですが、奇麗に掃除されていて、落ち葉はまったくありませんでした。そういえばこの木に限らず園内には落ち葉はほぼゼロ。自然観察をする上では落ち葉も重要な観察の対象で、公園によってはあえて落ち葉掃除はしないところもありますが、ここの施設は設置の趣旨が異なるのでしょう。さっきのカリンの実も然りです。
| クロガネモチ |
これはクロガネモチの実。さっきのタラヨウの実にちょっと似ていますが、こちらには果実に1cmほどの柄があります。なのでみっしりと付いている感じではありません。
クロガネモチは漢字では「黒鉄糯」。樹皮から鳥糯が採れ、若い枝が紫色を帯び全体として黒鉄色に見えるということだそうです。ところで「鳥糯」って何のことだか知らない人も多いでしょうね。かくいうyamanekoも使ったことはありませんが。
植物園の上の段は広々としています。台地の上面だけあって平坦ですし。
| ボダイジュ |
枝先にぶら下がっているのはボダイジュの実。よく見ると葉のようなものの途中から柄が伸びて、その先に丸い実を付けているのが分かります。ボダイジュの葉はもっと幅広で先端は尖り、縁には粗い鋸歯がありますが、写真のものは総苞葉と呼ばれる特殊な葉。花序の基部にあって花序を包み守る役割に特化した葉です。そのため花柄が途中まで葉と合着しているということでしょう。
| ロウヤガキ |
ミニトマトのような実を付ける低木がありました。プレートにはロウヤガキと書かれていました。中国原産で、昭和初期に移入された植物だそうです。普通のカキは果柄がほぼなく枝に直に付いているように見えますが、このカキには長い果柄がありぶら下がるように実が付いています。名前のロウヤガキは漢字で「老鴉柿」と書き、本来は「ロウアガキ」ですが、発音しやすい表記となったようです。この先、実が真っ黒に熟すので、そこから鴉の名が付けられたとのことです。羽根つきの衝羽根に似ることからツクバネガキとも呼ばれるそうです。
| シセントキワガキ |
ロウヤガキの隣にはシセントキワガキという柿がありました。実のサイズや付き方はロウヤガキとほぼ同じですが、こちらの木にはこの時期でも葉が繁っています。中国四川省原産で常緑なので「四川常葉柿」なんですね。ロウヤガキは渋柿ですが、こちらは甘柿だそうです。
早咲きのサクラがありました。見たところ九分咲きくらいでした。
| 寒桜 |
プレートには、品名「寒桜」とあり、「カンヒザクラ×ヤマザクラ」と付記されていました。名前のとおり寒中に咲いているわけですね。花はソメイヨシノに比べてやや小ぶりで、花柄が短いからか枝にしっかり付いているように見ます。ソメイヨシノのように風にワサワサ揺れるような様子はありません。
| 精子発見のイチョウ |
この植物園のシンボル的な樹木。精子発見のイチョウです。樹齢は約300年とのこと。
そもそも植物が精子を作る? なんかピンときませんが、いったいどういうことでしょうか。あらためて調べてみると…。種子植物のうち精子を作るのは裸子植物のうちのイチョウとソテツ類だけで、他は精細胞を作るのだそう。受精のメカニズムが大きく違うということのようです。
被子植物では雌しべの柱頭に花粉が着き受粉すると、花粉の中から花粉管が伸びて精細胞を卵細胞に届けるそうです。裸子植物の場合は花の構造が異なり、珠孔から花粉を取り込むことで受粉しますが、その場合でも花粉管により精細胞が届けられるそうです(理科の教科書の挿絵が思い浮かびます)。一方、イチョウとソテツ類については、珠孔から取り込まれた花粉がそこで細胞分裂を繰り返し120日くらいかけて精子となり、その精子が自走して卵細胞に到達するということだそうです。本当はもっと細かな過程があると思いますが、ざっくり精細胞は自ら動くことはできず花粉管により届けられるのに対し、精子は自分で泳いでいくということのようです。分かったような分からないような…。
「ここは公園ではありません」とはいうものの、芝生の上でシートを広げる家族連れもチラホラ。ただ、特段咎められることもないようで、静かに過ごす分には問題ないようです。
| 温室 |
地震で傾いてしまったような建物ですが、これでデフォルトの姿。ここは温室です。今回はパス。
| 本館 |
上の段の南端(正面入口からまっすぐ坂を上ったところ)には本館と呼ばれる建物がありました。昭和14年の竣工だそうで、80年以上前の築造ということになります。中には研究室や事務室があって、標本や図書も多数あるそうですが、非公開とのこと。
本館の前を通り過ぎ坂道を下っていきます。下りきると正面入口です。
| ソシンロウバイ |
坂道の脇に人が集まっているところが。寄ってみるとソシンロウバイが花を付けていました。時期が遅かったのかなんとなく花弁の色が薄いような。本来ならもう少しレモンイエローなんですが。
| ロウバイ |
こちらは「素芯」ではない普通(?)のロウバイです。花冠の中心が花弁と同じレモンイエローなのがソシンロウバイ、花弁の色がやや濃く中心が赤っぽいのがロウバイです。
| ウンナンロウバイ |
もう一つありました。ウンナンロウバイだそうです。花弁が白っぽいです。これらロウバイ三種はみな中国原産。最後の最後に花に出会うことができ、満足です。
12時45分、正面入口に戻ってきました。
今日は花こそ少なかったですが、普段目にすることのない樹木にも出会え、様々な疑問や気づきも得ることができました。やっぱり野山歩きは楽しいですね。
| 天丼+ビール |
地下鉄に戻る途中、往きに気になっていた定食屋さんに入って昼食をとりました。入口の外側のガラスだけでなく店内の壁という壁に大量のお品書きが貼ってあり、その情報量の多さに思考が止まってしまいました。かろうじて天丼とビールを注文し、あらためて席に着き落ち着いて水を飲みました。味は「こういう店が家の近くにあればなあ」と声に出して言いそうになるレベル。この辺りに住んでいる人や勤めている人が羨ましいです。