北本自然観察園 〜戻ってきた夏空の下で〜


 

【埼玉県 北本市 令和3年8月19日(木)】
 
 このところ秋雨前線というには早すぎる前線が停滞し続け、東京では一週間以上連続して雨が降りました。しかもその降り方が梅雨末期のそれのようで、やっぱり近頃の天気、何か変です。地球温暖化の影響でしょうか(何でもかんでも温暖化)。
 そのぐずついた天気がようやく回復し、今日は久しぶりに陽が差しました。そうなるとどこかに出かけざるを得ませんね。
 ということで、今回は埼玉県北本市にある北本自然観察公園に行ってみることにしました。ここなら圏央道に乗ればそう遠くはありません。
 
                       
 
 ドリーム号Vで家を出たのは昼過ぎ。途中どこかで昼食をとらなければなりません。以前、この公園を頻繁に訪れいていた頃には、隣接する北里大学メディカルセンターの食堂をよく利用させてもらっていましたが、今回はちょっと奮発して鰻屋さんを探すことに。荒川中流域は鰻が名物ですからね。

 清水の舞台から…

 ということで、本来であれば桶川北本ICで高速を下りるところを2つ手前の坂戸ICで下りて、スマホで検索したお店へ。田園地帯の真ん中にぽつんとあるような店でした。店内に入ると、いきなり「当店の鰻は愛知県産です」の張り紙。なんだ、地物ではないのか、まあいいですけどね。三河地方も鰻の名産地ですし。(そうか!今思えば、この張り紙はむしろブランドのアピールだったのかも。)
 すっかり財布の中身が寂しくなりましたが、美味しかったので満足です。

 公園入口

 食事後、あらためて公園に向けて出発。2時30分、駐車場に車を入れて、園内に向かいました。

 自然観察センター

 ほどなく自然観察センターに到着。ちょっと寄って行きましょう。

 生きものマップ

 入口の先のホールには「生きものマップ」があります。このマップの情報は鮮度が高く、園内の動植物について、その観察したポイントを示して「8/16 ユウガギク花」とか「8/15クサヒバリ声」とか紹介しています。リアルタイムに今日のことまで掲載されているので、まずはこのマップを確認してから観察を始めると助けになります。
 ところで、このセンターには今から10年ほど前に白いシマヘビが飼育されていました。この園で発見されたものだそうで、眼だけは黒かったことからアルビノではなく「部分白化」という珍しい個体と聞きました。

 当時の写真

 係の人にその後どうなったか尋ねると、あれから5年間くらい生きた後、当初から患っていた心臓肥大が元で死んでしまったそうです。ヘビにも心臓肥大ってあるんですね。死んだときには体長は1mくらいになっていたそうです。写真の頃は50cmちょっとだったはずです。

 クサギ

 さて、外に出て観察開始です。この時期、花はあまり多くはないと思います。
 最初に出会ったのはクサギでした。花序としてはこれから盛りを迎えるといったところでしょう。
 写真右の白い花は雄しべ、雌しべ共にありますが、左のやや痛んでいる方の花は雌しべしか残っていません。クサギの開花期間は3日程度で、その間にまず雄しべが成熟し、次に雌しべが成熟すると共に雄しべが脱落し、最終的に雌しべだけが残るのだそうです。雄しべ先熟型なんですね。

 センニンソウ

 軒を這い上がるように繁っていたのはセンニンソウ。白い萼片(花弁ではない)が陽射しをはね返していますね。よく似た花にボタンヅルがありますが、両者の違いは葉を見れば一目瞭然。センニンソウの葉は全縁ですが、ボタンヅルの葉はボタンの葉に似て粗い鋸歯があります。

 八つ橋

 「八つ橋」を通って浅い池を渡って行きます。両側にはヒメガマがびっしりと生えていました。そのヒメガマが風がないのでそよとも動かず、体感の暑さを倍加させているようでした。

 ヒメガマ

 この褐色のものは「ガマの穂」。正しくは雌果穂です。冠毛を持つ小さな果実が密集したもので、一箇所でもほぐれるとわらわらと崩れてしまいます。(こちら参照)

 シオカラトンボ

 おっとこれはシオカラトンボ。トンボも暑いでしょうね。いったいどうやって体温調節をしているのでしょうか。(そもそもトンボに体温ってあるのか?)

 コウホネ

 密生するガマの中に黄色のコウホネの花が。写真を撮ろうとしてもこれが精一杯のアングルでした。池の底の泥の中に地下茎があって、そこから長い花柄を伸ばし、水面上に顔を出して花を咲かせます。

 ミズキ

 向こう岸に上がるところにミズキがあり、たくさんの実を付けていました。黒く熟しかけています。一本の木で毎年ものすごい数の実を付けるのでしょうが、成木になれる確率は、この木が倒れでもしない限り、ほぼゼロでしょうね。それでもいつか訪れる世代交代のときを逃さないよう、ひたすら毎年実を付けるんでしょう。愚直な、しかし尊い営みのように思えます。

 ウワミズザクラ

 これはウワミズザクラの果序。いい色合いです。同じ果序の中でも熟す度合いがまちまちであるのはなぜなんだろう。戦略的な何かがあるんだろうか。



 対岸の森の縁を歩いて行きます。木陰に入ると若干暑さをしのげます。

 エゴノキ

 ミズキ、ウワミズザクラに続いてエゴノキの果実。「実りの秋」といいますが、この時期から実を付けて秋に成熟させるということなんですね。
 このエゴノキの実にはエゴサポニンという有害な成分が含まれていて、食べると危険ですが、実を潰して擦ると泡立つので、昔は石鹸と同じように洗濯に用いられたのだそうです。

 キレハノブドウ

 こちらも実ができていますね。キレハノブドウでしょうか。ヤマブドウの実は食用になりますが、ノブドウは不味くて虫の寄生も多く、食用には向かないとのことです(でも虫にとってはご馳走ということ。)。

 ヤブマオ

 イラクサ科のヤブマオです。長く伸びるのは雌花序です。花はこの花序に球状に集まって付きます。

 ヤブラン

 茂みの中にヤブラン。昨日までの長雨で若干傷んでいるものもありました。



 そのヤブランの花をアップで。涼やかな薄紫色ですね。「ラン」と名が付いていますがラン科ではなくユリ科。同じようなネーミングのものとして、スズラン、ノギラン、タケシマランなどがあって、これらもみなユリ科の植物です。でも、逆のパターンはちょっと思いつきませんが、あるのかな。



 園の奥の方まで行ってから池の反対側の丘沿いの径を通って戻ってきます。陽射しが少し柔らかくなってきました。

 ヤブミョウガ

 これはヤブミョウガの花のアップ。同じ株に雄花と両生花があるそうです。ヤブミョウガの果実が若干まばらに付くのはそのためだったんですね。

 夏の午後

 時刻は午後3時を回っています。照りつけるような陽射しが和らぎ、風も穏やかに吹きはじめました。ミンミンゼミの鳴き声に混じってヒグラシの声も聞こえてきています。

 キンミズヒキ

 キク科のキンミズヒキ。「金色の水引」という意味の名前です。水引は祝儀袋などに帯のように巻かれている紅白(あるいは黒白、黄白)の細い飾り紐のことですが、この写真からは水引を連想させるようなところは見当たりませんね。ただ花序の先端の方の蕾が開花する頃には花序が長く伸びていくことから、その姿を水引に例えたのかもしれません。

 コナラ

 丘の上に上がる途中、葉を付けたままのコナラの若い実が足下にたくさん落ちていました。どれもみな葉と実がセットで、枝の途中で折られています。これはチョッキリの仲間の仕業です。写真右の実の殻斗に小さな穴が空いているのが分かりますが、チョッキリは殻斗から穴を空けその奥に卵を産み付けた後、その実を枝ごと切って落とすのだそうです。枝先で卵から孵るより地面にあった方が幼虫にとって都合が良いのかもしれません。葉が付いたままになっているのはパラシュート効果…とも思いましたが、よく考えるとわざわざ葉を切ってから落とす意味がないからそのままにしているということでしょう。

 クリ

 丘の上にはクリの木があり、実が育っていました。昔は畑だったところだと思います。この北本自然観察公園のある辺りは、平坦な荒川中流域の中にあって他の地域よりも標高が高いところ(わずかな差ですが)。畑作も盛んだったのだと思います。氾濫原なのでもともと肥沃な土地だったでしょうし。

 Kashmir3D

 荒川流域の地形図です。地図にマウスポインタを乗せると北本自然観察公園の位置を表示できます。

 エノキ

 エノキの実。食べると干し柿に似た甘みがあるそうですが、水分は少ないとのこと。この点ムクノキの実と似ていますね。yamanekoはこれまでムクノキの実は何度も食べたことがありますが、エノキの実は食べたことはありませんでした。なにしろ実が小さく、人が食べるようなものという認識がありませんでした。

 クズ

 秋の七草のひとつ、クズの花です。近づくとファンタグレープそっくりの甘い香りがします。いや、逆にファンタグレープがクズの花の香りそっくりということですね。できた順からいうと。



 丘から下りてきて、その横手に伸びる谷戸の湿地を歩いてみます。

 タコノアシ

 以前はユキノシタ科に分類されていたタコノアシ。今ではタコノアシ科だそうです(祝独立)。秋になって実が付くようになると全体に褐色になり、一層茹でダコに似た感じになります。



 ぐるっと一周回り終えました。久々に訪れたフィールドで1時間ほどののんびりとした散策でした。谷戸や森の中を歩いていると、昨日までの長雨で地中や木々にたっぷりとため込んだ水分が真夏の陽射しでさかんに蒸発するのが分かるような感じがしました。ただ、街中での夕立の後のような不快感はないんですよね、不思議と。
 
 さて、これから数日は夏空が戻ってくるとのこと。夏はやっぱりそうでなければ、スイカも素麺もアイスクリームも美味しくないですからね。