北本自然観察公園 〜荒川中流の夏・7月〜


 

【埼玉県 北本市 平成23年7月24日(日)】
 
 今年は梅雨も早々に明けましたが、その後今ひとつ夏らしい日が続きません。時には5月中旬の気温の日もあったりして。でも、節電にはちょうどいいかもしれません。
 さて、7月の定点観察です。(いつものカメラが壊れてしまって、今日は別のなので、今ひとつ設定がよく分かりません。)

 園内

 定例観察会が始まるのは午後2時。まだ1時間ちかくあるので、いつものとおり自主観察会をしてみます。高尾の池をぐるっと回ってみましょう。

 クリ

 クリの実が育ちはじめています。

 ジョロウグモ

 このクモは…。ジョロウグモですね。まだスレンダーな姿をしています。

 ヒルガオ

 ヒルガオって花自体は優雅なのに、どこか雑草感がありますね。生えている場所がそう感じさせているのかな?

 ヤブガラシ

 ヤブガラシです。初めて知ってからしばらく「藪芥子」と思っていましたが、やがて誰かが「藪枯らし」であることを教えてくれました。藪で他の植物を枯らしてしまうほど旺盛に繁殖していることから名が付いたのだとか。別名をビンボウカズラというそうで、手入れのされていない庭にはびこっていることからだそうです。それにしてもあんまりなネーミングです。

 ヘクソカズラ

 あんまりな名前といえばこのヘクソカズラも負けていません。なにしろ悪臭の二大巨頭を冠しているのですから。…花は清楚なのに。

 クワコ

 クワの葉の上にクワコがいました。カイコの野生種といわれています。カイコは人間の手によって絹糸製造マシーンに改良されてしまったことから、人間の飼育下でなければ生きられないようになってしまったそうです。
 よく見ると、クワコ、可愛いですね。

 キリギリス

 アリとキリギリスのイソップ寓話は知っていても本物のキリギリスを見たことのある人は多くはないのでは。結構コンパクトな体型をしていて折りたたんだ後脚が長いので、なんとなく掃除機のようなイメージです。
 東北地方から九州まで分布しているキリギリスはつい最近まで一つの種だと考えられていたそうですが、今世紀になって少なくともヒガシキリギリスとニシキリギリスに分類されるべきとの考え方が一般的になってきたそうです。更に細かく分類される可能性もあり、まだ結論は得られていないそうです。キリギリスを取り巻く状況がそんなことになっていたとは。身近な自然にもまだ分かっていないこともたくさんあるんですね。

 

 夏本番、繁り放題に繁ってますね。

 定点写真(高尾の池)

 うわっ、なんだこりゃ。池が一面赤銅色になっているじゃないですか。異常気象が原因か?と思ったら、近くに解説板が設置されていました。それによると、赤いものの正体はアカマクミドリムシというプランクトンが大発生しているからだそうです。アカマクミドリムシっていったい赤なのか緑なのか(いや、見てのとおり赤か。)。池の富栄養化と夏場の水温上昇とで、毎年発生するそうです。ミドリムシの仲間としては大型のものだそうで、髪の毛の太さ(約90ミクロン)くらいの大きさがあるそうです。池全体で何匹くらいいるんでしょうか。

 エゴノキ

 見上げるとエゴノキの木の実がぶら下がっていました。少し涼しげです。

 

 そろそろ自然学習センターに向けて戻りましょう。

 ミズキ

 ミズキの実が色づきはじめています。3箇月前に来たときには柔らかそうな若葉を伸ばしたばかりだったのに、今では果実を実らせようとしています。落葉樹の生活サイクルは早いですね。

 ジャコウアゲハの幼虫

 ジャコウアゲハの幼虫がムシャムシャと葉を食べていました。ウマノスズクサの葉です。「俺に近づくな、危ないぞ。」というオーラが身体中からでているよう。先月も見かけましたが、なんかだんだんかっこよく思えてきました。

 ヤマトシジミ

 シジミチョウの仲間で最もポピュラーなものの一つ。ヤマトシジミです(本家の貝の方にもヤマトシジミというのがあるのでややこしい。)。カタバミを食草としているので、カタバミがどこにでも生えるぶん、この蝶もいたるところで見かけます。ただ、小さくて地味なので、認識できているかという問題がありますね。

 クララ

 先月はまだ花だったクララ。今はすっかり実になっています。花の時はちょっと豪華な感じでしたが、今の姿にはどこかうらぶれた感が漂いますね。場末の飲み屋の縄暖簾みたいです。

 開会

 時刻は2時となり定例観察会が始まりました。今日のリーダーは先月コケの観察をしたときと同じ方。一生懸命さが伝わってきて好感が持てる方です。妙な手慣れた感がなくてそこに惹かれるのです。
 今日のテーマは「植物の怪談」 身近な植物にまつわる古い言い伝えなどを紹介してくれました。以下はリーダーのお話の要約です。

 ハンノキ

 開会後、自然学習センターの横手に移動。そこには濃い緑色が全体的に黒々とした印象さえ与える大きなハンノキが立っていました。この木の葉は、ミドリシジミやオオミズアオの食草となっているとのことです。
 ハンノキは湿ったところに生えることから、西洋では妖精が棲む木として語り継がれていることが多いそうです。シューベルトの有名な歌曲に「魔王」というものがありますよね(そう言われてyamanekoにはどんな歌曲だかすぐにはピンと来ませんでしたが。後で曲を聴いてみると「ああ、…あん?」といった反応でした。)。これは、父親が我が子を抱えて嵐の中馬を走らせていると、どこからともなく魔王の声が聞こえてきて子供を誘おうとするのですが、父親はそれに気づかず、声に応えた子供はその魂を奪われ死の世界に連れ去られるというストーリーです。この歌曲の原詩であるゲーテの詩では「魔王」ではなく「ハンノキの王」とされていたそうです。さっき感じた黒々とした姿からなんとなくそれも肯けるような気がしました。

 クズ

 中国ではクズが繁る場所には祖先の霊が宿るとされているようです。クズに薬効があるのはご存じのとおりで、葛根湯は有名ですよね。中国の神農が薬になることを発見したのだそうです。
 この神農、中国の伝説に登場する皇帝で、実在したかどうかは知りませんが、今から4千7百年くらい前の人だそうです。数多の植物を嘗めて効能を確かめ、万民に医療と農耕の術を教えたとされています。言い伝えでは、体が人間で頭が牛だったとか、脳と四肢以外は透明で内臓が透けて見えていた(毒を食すと影響を受けた臓器が黒く見えたとか)とか、もはや人間ではないだろうという超人です。
 それはさておき、ここではクズの葉を筒状にした左手の上に乗せて右手でポン!と叩いて音を出すという遊びをしてみました。大人の参加者でも初めての人が少なくなかったようです。

 

 次は北側の谷地の入口に移動。

 ゲジゲジシダ

 西洋では、シダの生えているところには悪魔が寄りつかず、雷も落ちないと信じられていたそうです。ドイツでは葉の裏の胞子嚢に魔術的な力があると信じられていて、中世、庶民は禁止令が出されるほど胞子嚢集めに熱狂したのだそうです。
 写真のシダはゲジゲジシダ。葉軸に翼があるのが特徴です。

 キヅタ

 今度は自然学習センターの南側に回ってきました。法面を覆い尽くすキヅタ。生命力の強い植物です。
 日本の造り酒屋の軒下には仕込みの時期になると杉玉が吊されますが、西洋にも同じようなものがあるらしく、酒神バッカスの神木とされるキヅタで造り酒屋のシンボル的なものが作られるそうです。なぜキヅタがバッカスの神木なのかというと、バッカスの行くところ常に彼を狂信する大勢の女性信者が付き従い、彼女たちは陶酔しきって山野を乱舞し、感極まると野獣を裂いて喰らうと行った狂態を演じたそうで、その頭には皆キヅタで編まれた冠を戴いていたということです。キヅタには彼女たちを狂喜させる媚薬的な力があったのかもしれません。ちなみにバッカスは別名で、本名(?)はディオニュソスというのだそうです。

 フクラスズメ

 腰が引けそうになるような容姿の毛虫。フクラスズメという蛾の幼虫だそうです。この幼虫は触ってもかぶれたりはしないとのこと。さっそく触ってみるとフワフワとしていて、これは確かに鳥たちにとってご馳走なのかもしれません。

 クワ

 見上げるような大木。なんとこれはクワです。よく見かけるのは葉の刈り取り作業がしやすいように低く剪定されているもの。自然に育つとこんなに大きくなるのです。
 クワの花言葉は「共に死のう」だそうです。物騒な花言葉であることもさることながら、クワに花言葉があることに驚きました。その由来とはこうです。紀元前20数世紀のバビロン。親に結婚を反対された男女が駆け落ちをしようということになり、街はずれの大きなクワの木のところで待ち合わせをすることにしました。待ち合わせ場所には娘の方が先に着きましたが、見るとクワの木のそばにライオンが横たわっています。これは危ないと娘は近くの物陰に隠れて待つことにしましたが、そのとき本人は気づかないまま頭にかぶっていたベールを落としてしまったのです。しばらくして遅れてやって来た男の方は待ち合わせのクワの木の手前でびっくり。なんとライオンがベールを咬みちぎっているではないですか。男はてっきり娘がライオンに喰われたと勘違いし、悲嘆のあげくに自殺してしまいました。ライオンが立ち去ってから出てきた娘が自殺した男を見てすべてを悟り、自らも命を絶ったということです。基本悲しい話ですが、早とちりしすぎだろとしか言いようがないですね。

 ニワトコ

 ニワトコはグリム童話の中で悪魔の木として描かれていることが多いそうです。そのせいか、ニワトコの枝で子供をなでると成長が止まるとか、キリストの十字架はニワトコの木だったとか、ユダはニワトコの木で首をつったとか、とても子供たちには紹介しがたいような言い伝えがたくさんあるようです(「じゅうじかってなに?」とか、親に聞いていましたが。)。

 シラカシ

 シラカシの若い実です。これから秋に向けてぐんぐん大きくなるでしょう。ドングリにはその年の秋に実るものと翌年の秋に実るものとがあり、シラカシは前者のグループです。(こちら参照)

 マユミ

 マユミにも若い実が付いていました。秋が深まる頃にピンク色に熟します。一見美味そうにも見えますが、実は有毒。信州ではマユミのことを「嫁殺し」と呼ぶそうです。この名が付いたいきさつもきっと嫁姑のドロドロとした話のような気がします。くわばらくわばら。

 トビモンオオエダシャク

 こんな調子で観察会も終わりました。その後、会の途中で教えてもらっていたトビモンオオエダシャクを見に行きました。どうですこの擬態っぷり。教えられなければ絶対に見つけられないと思えるほど驚きのパフォーマンスです。ところが更に驚くことに、見た目だけでなく体の表面の組成も寄主植物の枝の成分に化学的に擬態し、天敵のアリの攻撃を防いでいるのだそうです。アリは完全にだまされて、枝との見分けがつかないのだそうです。凄い。

 定点写真(北側の谷地)

 ますます勢い盛んな木々たち。アシ原もみっしりと繁り、多くの命をはぐくんでいることと思います。
 来月来るときはもう暦の上では秋だと思います。北本自然観察公園の植物や昆虫たちがどんな姿を見せてくれるか楽しみです。
 
 

  荒川と北本自然観察公園