北本自然観察公園 〜荒川中流の夏・6月〜


 

【埼玉県 北本市 平成23年6月19日(日)】
 
 今年もあっという間に半分が過ぎようとしています。関東地方は例年よりかなり早く梅雨入りしてしまい、毎日どんよりとした天気の日が続いています。九州地方では大雨で災害が発生しているようなので、こちらでもこれから梅雨の後半に向けて注意が必要です。
 さて、6月の定点観察。草花の勢いもますます盛んになっているでしょう。

 北里大学MC

 北本自然観察公園に隣接して北里大学のメディカルセンターがあります。ここには病院や研究所、看護専門学校などがあり、運動場や駐車場なども含め、広大な敷地を有しています。ここのコンビニやレストラン(社食的な)は部外者にもオープンなので、今日はここで昼食を済ませて観察会におもむきました。

 ネジバナ  

 昼食後、200mほど離れた自然観察公園入口に向かって歩いているとき、道ばたでネジバナを見かけました。なんか久しぶりに見た気がします。花自体は小さいので世間的には注目度はあまり高くないようですが、そこはそれやはりランの仲間だけあって、花をアップでよく見ると華麗な姿をしています。シバザクラみたいに辺り一面にビッシリ生えていたりするとそれなりにちやほやされるのでしょうが。

 ニワゼキショウ

 ニワゼキショウもこの時期の花ですね。公園の緑地など人の手が入っているところを好んで咲くようです。小さいですがこれでもアヤメの仲間です。

 自然観察公園入口

 ほどなく自然観察公園の入口に到着。2箇月前はサクラのゲートでしたが、今は緑のゲートになっていました。おお、なんか緑が濃いぞ。

 ジャコウアゲハの幼虫

 ウマノスズクサの葉裏になにやら角だらけのものがいます。これはジャコウアゲハの幼虫だとか。これを見てスターウォーズのエピソード1に出ていたダース・モールを思い起こしたのですが、飛躍しすぎでしょうか。

 定点写真(北側の谷地)

 アシ原から去年の枯れたアシが完全になくなりましたね。緑一色です。草丈も高いです。周囲の土手の樹木も盛り上がるように繁っています。空は梅雨時の空ですね。

 オカトラノオ

 草っ原に一株だけ咲いていたオカトラノオ。これぞという典型的な咲き具合です。でも「虎の尾」というより「カンガルーの尾」でしょう、これは。

 抜け殻

 自然学習センターに入ってカウンターの上を見ると、シマヘビ(部分白化のやつ)の抜け殻が展示してありました。ここにやってきてから4回目の脱皮だそうです。昆虫は成虫になるまでの脱皮の回数が決まっていますが、ヘビの場合は決まっていない、すなわち生きている限り何回でも脱皮して成長を続けるのだそうです。ちなみにシマヘビの寿命は10数年(よく分かっていない)そうですが、少なくともイヌやネコよりも長生きなのだそうです。

 

 ちょうど今日は身体測定の日だったようで、頭と尻尾を持ってビーンと伸ばして、メジャーに当てて、体長を測っていました。けっこう雑、いや大胆な扱いです。測定結果は、体長52pで前回(4月8日)と変わらず(エッ?)。でも体重が15gから20gに増えていたようです。

 八ツ橋

 観察会まではまだ時間があるので、セルフ観察会をすることに。まずは自然学習センター裏手の八ツ橋の方へ行ってみました。草丈が伸びて八ツ橋が隠れてしまっています。

 ミクリ  

 八ツ橋のたもとに変わった形の花が。これはミクリですね。白いトゲ爆弾のようなものが雌頭花(雌花の集合体)です。白いのが雌しべの柱頭で、その数だけ花があるということになります。その上の緑色の小さな丸いものは雄頭花。まだ雄しべを伸ばしていない状態です。自家受粉しないように成熟する時期をずらしているのでしょうね。右の写真は集合果。受粉後に果実を付けた雌頭花の部分です。この実がクリのようなので「実栗(みくり)」という名が付いたそうです。

 モンシロチョウ

 派手な色の靴を花に見間違えたのでしょうか。モンシロチョウが止まりました。そんなところに蜜はないよ。
 15年くらい前から外来種のオオモンシロチョウというのが日本で急速に分布範囲を広げているそうです。チョウは地球温暖化の指標となる生き物だそうで、今年NACS−Jではいくつかの種類のチョウの分布状況を調べるイベントを全国で展開しています。オオモンシロチョウもその対象です。このチョウは名前のとおり全体に大型なのですが、中にはモンシロチョウと似たようなサイズのものもいたりして、大きさでの識別はあまり頼りにならないそうです。一番の相違点は、オオモンシロチョウは前翅の先の黒っぽい部分が縁に沿ってずっと下の方まで伸びていているところだそうです。

 定点写真(高尾の池)

 ガマの穂が伸びてきましたね。全体的に緑に勢いがあるように感じます。もう夏ですね。

 ガマ

 高尾の池の畔に咲く、ガマの花穂です。黄色いのは花粉をいっぱい付けた雄花穂。まだ苞が包むように残っています。いわゆる「ガマの穂」と呼ばれる部分になるのは、雄花穂の下の黄緑色の部分で、そこが茶色くフランクフルト状になる頃には、上の雄花穂は枯れて縮んでしまっています。

 ムラサキシキブ

 先月イチモンジカメノコハムシに葉を食い荒らされていたムラサキシキブ。今日見る限りではきれいな葉ばかりのようでが、ひととおり食わせた後でまた新しい葉を展開したのでしょうか。それにしてもムラサキシキブの雄しべと雌しべ、飛び出しすぎです。

 ショウジョウトンボ  シオカラトンボ

 左の赤いトンボはショウジョウトンボ。右の白いのはシオカラトンボです。一説によるとトンボは「飛ぶ穂」が転訛したもので、トンボが飛ぶ様子が細い稲穂が飛んでいるようにも見えたことによるものだそうです。黄金色に実った田んぼの上をたくさんのトンボが飛び交う様子から付いた名前でしょうね。

 クワの実

 クワの実が熟してきました。先月はまだ固く緑色でしたが。写真のものはまだ熟し方が足りず、今食べると酸味が強いと思います。真っ黒になったらびっくりするほど甘く美味しくなるのです。ただ、指先や口の周りが紫色になってしまうので注意が必要です。

 クララ

 先月はまだ花穂が伸び始める前でしたが、一月でこの変わりよう。こういうのを「鈴生り」というんでしょう。で、なんで鈴生りっていうのか調べてみたら、この場合の鈴とは「神楽鈴」といって、小さな鈴を10数個つなげて柄を付けた道具(巫女さんがシャン、シャンいわせながら回っている、アレ。)のことだそうです。実際ここまでびっしり付いていたら賑やかな舞になるでしょうね。

 観察会開始

 午後2時になって、観察会が始まりました。今日のテーマは「苔の観察」です。梅雨時にぴったりなテーマ。この時期、苔が美しいのだそうです。

 

 容器に入れられた苔っぽいものが7つ。この中に2つだけ苔ではないものがあるので、それを当てようというアイスブレイクです。答えは粘菌のようなもの(菌類)と小さなツメクサ(種子植物)でした。中学校の教科書を思い出すと、生物はおおざっぱに言って植物界、動物界、菌界に分けられ、さらに植物界はコケ植物、シダ植物、種子植物に分けられていますが(あくまでもおおざっぱにです。)、生物分類の根っこの方で分かれていても、見た目にはよく似ていたりするんですね。
 菌類は他のもの(木の根など)に寄生して栄養を得ますが、苔は葉緑素を持っていて光合成により栄養を作り出します。そういった意味ではツメクサなどの種子植物と同様ですが、光合成に必要な水を根から吸い上げるのではなく、空気中から直接体全体で取り入れるのだそうです。やっぱり生活様式はそれなりに違うようです。

 ハマキゴケ

 辺りを見渡すと、たしかにコンクリートの上で生きている苔がありました。体から水分を取り入れることができるからこそなせる技ですね。ちなみにこれはハマキゴケという苔だそうで、乾燥すると葉がくるくる巻くからだそうです。

 苔の採集

 北側の谷地にある木道に下りて、目についた苔をちょっとだけ採集しました。これを自然学習センターに持ち帰って観察してみようということです。

 ジャゴケ

 湿った地面にへばりつくように生えていたジャゴケ。ブツブツの一つ一つが部屋になっているそうです(何の部屋?)。

 

 コツボゴケ

 湿地に群生していた明るい緑色の苔。普通(?)の植物のように見えますが、コツボゴケというれっきとした苔だそうです。

 ナミガタタチゴケ

 木道の角に生えていたのはナミガタタチゴケだそうです。こんな苔にもちゃんと一つ一つ名前があるんですね。

 

 自然学習センターに戻って採集した苔を顕微鏡で覗いてみます。それぞれの顕微鏡をローテーションしながら順々に覗いていきました。多くの苔にはちゃんと葉(の形をした機関)があって、なんだやっぱり植物なんだと妙に納得したりしました。ところで、顕微鏡で覗き見る世界って興味が尽きませんよね。先日、つま楊枝を見てみたら先端が全くとがっていなくてびっくりしました。とがるどころか真っ平らでした。

 ベニシジミ  ツバメシジミ

 知らないことだらけの苔の観察会はけっこう楽しくてあっという間に終わってしまったので、その後また野原に出てみることに。
 ぶらぶら歩いていると、シジミチョウの仲間を2種見かけました。赤褐色の翅を持つのはベニシジミ。きれいなチョウです。ツバメシジミには後翅に小さいながらアゲハチョウのような突起があって、これをツバメの尾にみたててその名が付いたとのことです。こちらも灰色がかった白が気品があっていいですね。

 胞子体(凵j

 これは自宅の顕微鏡(ファーブルミニ)で見た近所の苔の胞子体。実際にはもっとくっきりと視野も広く見えましたが、なにぶん接眼部分にコンデジをあてがって撮ったものなので…。長い柄の先に凵iシダ植物でいうところの胞子嚢)が付いています。なんか角みたいなものが付いていますね。どんな役割があるのでしょうか。 
 
 一年間を通じた北本自然観察公園での定点観察も今月で半分が終わりました。さて、来月は梅雨明けしているかしていないか。どっちにしても暑いですよ。
 
 

  荒川と北本自然観察公園