北本自然観察公園 〜荒川中流の冬・2月〜


 

【埼玉県 北本市 平成23年2月13日(日)】
 
 建国記念の日からの3連休。2日目までは雪が横殴りに吹き付ける荒天でした。都心の日中の最高気温が初日は1.6度で2日目が3.5度。凍えるような休日でしたが、最終日はスカッと晴れました。今日は気温も上がりそうです。
 2月の定点観察。さて、荒川中流域にある北本自然観察公園の様子はどうでしょうか。今回も妻と二人でおもしろいものを観察してみたいと思います。

 定点写真(北側の谷地)

 駐車場にドリーム号を入れて公園に入ってきました。ふれあい橋の上からの定点写真。北側に延びる谷地の様子です。先月とかわらず、枯れたヨシに覆われていますが、奥の方は耕耘されているようです。

 クスノキ

 自然学習センターの前にあるクスノキ。冬の日差しを明るく反射しています。建物の外装工事は終わったようです。

 卵鞘

 カマキリの卵鞘がありました。オオカマキリのものだそうです。この卵鞘は、メスのカマキリがお尻から粘液を出して泡立て、その中に卵を産み付けたもの。中には200個ほど卵が入っていて、5月くらいになるとわらわらと孵化してくるそうです。

 いきもの教室

 今日は1時半から「いきもの教室」があり、引き続いて2時から1時間の自然観察です。
 いきもの教室のテーマは「コウノトリと湿地の生き物」です。埼玉県では昔、コウノトリを普通に見ることができていたそうです。今は絶滅してしまいましたが、コウノトリの繁殖を支えていた生き物たちの様子は今でもうかがうことができます。以下はレクチャーの概要です。
 コウノトリは、体長110p、翼を広げると2mになる大型の鳥です。くちばしと尾羽が黒く、足と目の周りが赤いのが特徴。浅い水辺を好み、高い木の上に巣を掛けます。遠目にはツルに似ていますが、ツルは地面に営巣するそうです。成鳥になると鳴くことができなくなり、カタカタカタとくちばしを鳴らしてコミュニケーションをとるのだそうです。
 基本的に渡り鳥ですが、適した環境があると一年中居付くこともあり、かつて日本各地で繁殖していました。餌はカメ、カエル、ヘビ、魚や昆虫など。コウノトリはこれらの生き物の豊かな生態系の上に君臨していましたが、明治時代になると稲を踏みつける害鳥として狩猟の対象となり、また、戦時下では営巣に適した樹木が次々と伐採され、更に戦後には農薬や圃場整備のために餌が激減するなど、コウノトリにとっては苦難の時代が続き、その数はどんどん減っていったのだそうです。そして1971年、ついに日本で野生のコウノトリは絶滅してしまいました(渡りでやってくるものはときおりいます。現在世界で3000羽ほどだそうです。)。その後、コウノトリが住める環境を取り戻そうという運動が起こり、1985年に旧ソ連から送られた6羽の幼鳥をもとに人工繁殖を手がけ、現在、兵庫県の豊岡市の繁殖施設に44羽が生育しているそうです。そのうち9羽はかつて日本全国で見られたように野生で繁殖したものだそうです。
 北本市の隣には鴻巣市という市がありますが、これはかつてこの辺りにコウノトリがたくさん暮らしていたということでしょう。また、荒川を挟んだ向こう側には鶴ヶ島市という市があり、この「鶴」はコウノトリのことなのだそうです。地名にその名が織り込まれるほど、昔は荒川周辺の田園地帯で普通に見られたのでしょうね。

 自然観察

 30分のレクチャーが終わり、外に出て自然観察のスタートです。コウノトリの餌となった生き物たちを実際に観察しようという内容です。

 ビオトープ見本園

 自然学習センターの裏手に回ってみると、そこには用水路が。いや、用水路に見えますが、これはビオトープ見本園。様々な生き物たちが生態系を形成しながら生きている場所です。「ビオトープ」と言い切らずに「見本園」と付けているのは、本格的なものではなく、学習用に簡易に作られているからだと理解していますが、本当のところは分かりません。

 ツクシ

 水辺に小さな春を見つけました。今年初ツクシです。

 ニシノオオアカウキクサ

 水面に浮いている赤いもの。これはニシノオオアカウキクサという水草で、水田や湖沼に見られる浮遊性のシダ植物なのだそうです(だから胞子で増える。)。緑色のはれっきとした(?)種子植物の水草です。このシダ、アップで見るとウロコみたいですね。冬になると赤く色づくのだそうです。

 

 水際にタモ網を突っ込んでガシガシとすくい、生き物を探します。黄色いマリオみたいな人は自然学習センターの解説員の方です。

 卵塊

 ニホンアカガエルの卵塊です。これは水面に浮いているので網でガシガシしたわけではありません。触ってみると結構な弾力です。大きさは直径15pくらい。だいたいひとかたまりで500個から3000個の卵が寄り集まっているそうです。
 カエルなどは「キーストーン種」と呼ばれています。その数が減ってくるとこれを餌とする生き物が生きられなくなり、更にそれを餌とする生き物が…、というように、生態系の底辺を構成する種が生態系全体の命運を握っているということです。

 ニホンアカガエル

 で、こちらが生みの親。体長は5〜6p。この体の中にどうやってあの卵塊が…、と思ってしまいますが、生んだ直後はぎゅっと小さくなっていて、ゼリー状の部分は生んだ後に水を吸収して膨らんだものなのだそうです。これは帯状の卵でも同じです(生んだ直後はポッキーほどの太さなんです。)。

 ヤブヤンマ

 網から取り出されたヤゴ。ヤブヤンマだそうです。あまり馴染みがありませんが、それほど珍しいものではないとのこと。資料を見ると青い目をした美しいトンボでした。このトンボは樹木の下など暗いところを好むのだそうです。ここのビオトープ見本園は夏になると木々の葉が茂り、ヤブヤンマの好きな環境になるのです。
 その昔、この辺りのコウノトリはカエルや水棲昆虫などを食べて繁殖していたのでしょうね。

 場所移動

 次に北側の谷地に移動してきました。多くのバードウオッチャー(いやバードカメラマンか)が並んでいます。

 

 ここでも解説員の方が水に入って生き物の採集をしてくれました。冷たいだろうなあ。

 ドジョウ

 ドジョウという名のドジョウ。何を言っているのか分かりにくいですが、シマドジョウやホトケドジョウといった名前と同じように種の名前が「ドジョウ」ということです。ちょうどスミレという名のスミレがあるのと同じようなことです。
 まるまると太った体をしていて、体長は13pほどでした。この辺りの環境で見られるドジョウは、このドジョウとホトケドジョウの2種だそうです。

 アメリカザリガニ

 ザリガニやドジョウもコウノトリの好物だったでしょうね。このザリガニはアメリカザリガニです。赤くないのはまだ子供だからです。アメリカザリガニはウシガエルの餌としてアメリカから移入された種。繁殖力が強く在来の生態系を壊す存在です。なので、観察の後他の生き物は川に戻されますが、アメリカザリガニは戻されないそうです(それを聞いた1年生くらいの小さな子が「ねえねえ、この後どうなるの? 殺処分?」と解説員を苦笑させる質問をしていました。なんでそんな言葉知ってんの。)。なお、ウシガエル自体も食用として持ち込まれたものです。

 メダカとタモロコ

 網には小魚もかかります。メダカやモツゴ、タモロコなどです。このタモロコはもともと東日本には生息していなかった種で、人為的に西日本から持ち込まれたものなのだとか。これを「国内移入」といい、基本的には海外からの移入と同様に立派な生態系破壊なのだそうです。日本原産の種でもそれぞれの生態系の中で生きてこそなのですね。

 タシギ

 観察を終えて自然学習センターに戻る途中、水路にタシギを見つけました。獲物を狙っているのか微動だにせず固まっています。繁殖地はシベリア。長旅の末ここを越冬の地として選んだのでしょう。

 

 解散後、八つ橋の方へ行ってみました。池にまだ雪が残っています。この辺りは南側に林があるため、日差しが届きにくいのでしょう。

 定点写真(高尾の池)

 いつのまにか雲が出てきました。寒々とした風景です。写真ではよく分かりませんが、遠くの水面にコガモが数羽休んでいました。

 ジョウビタキのカップル

 藪の中にいたジョウビタキのメスにオスがちょっかいを出し、開けた場所に連れ出しました。二羽が微妙な距離感で見つめ合っています。逆バレンタインか? 一日早い。
 この後二人がどうなったかは見届けていません。野暮ですし。

 桜土手

 自然観察園の西端にある桜土手までやってきました。ここから先が荒川の河川敷です。といっても駐車場とかがありますが。

 どこ?ここ

 河川敷の奥に分け入るとこんな茫洋とした雰囲気の場所もあります。荒川中流域には昔はこんな風景が延々と続いていたのだと思います。

 シメ

 時計を見るともう4時近く。寒くなってきたので、自然学習センターに戻ることにしました。
 途中、シメの姿を見かけました。木訥としたようなちょっとコミカルなような、愛らしい姿。妻のお気に入りの鳥です。
 
 さあ、そろそろ花粉本番の季節。でもこれから春に向けてが楽しい季節でもあります。来月にはどんな自然を見つけることができるでしょうか。楽しみです。
 
 

  荒川と北本自然観察公園