北本自然観察公園 〜荒川中流の冬・1月〜


 

【埼玉県 北本市 平成23年1月16日(日)】
 
 新しい年が始まりました。年末から全国的に大荒れの天候が続き、各地で雪のため交通機関がマヒしたりしていますが、こちら関東地方南部だけは毎日良い天気です。でも、さすがに気温は例年に比べて低く、朝、ベランダに出ると冷たい風にそのまま凍りついてしまいそうです。
 
 さて、本年最初の野山歩きは、埼玉県北本市にある北本自然観察公園です。ここには4年くらい前に一度来たことがあって、毎週末に行われているミニ観察会に参加したことがあります(こちら)。
 東京近郊の小さな自然を一年間眺めてみるという企画。これまで野川公園(東京都調布市)、生田緑地(神奈川県川崎市)、大町自然観察園(千葉県市川市)と楽しんできました。野川公園は武蔵野台地、生田緑地は多摩丘陵、大町自然観察園は下総台地とそれぞれ違った表情を見せてくれて、東京近郊の自然も捨てたものではないと感じた次第です(何を偉そうに。)。ということで、今年は荒川のほとりにあるこの自然観察公園で、一年を通して観察会に参加してみようと思います。
 
                       
 
 北本市は埼玉県のほぼ真ん中に位置していて、荒川中流の左岸に接しています。市内にJR高崎線の北本駅があって、都心へは湘南新宿ラインで50分ちょっと。十分通勤圏内です。道路ではJRと平行して国道17号線(中山道)が通り、最近では関越道にアクセスする圏央道のインターチェンジもできました。おかげで車でも都心から1時間あまりで到着します。

 自然観察公園入り口

 関越道から圏央道を経由し、桶川北本ICで下りると、北本自然観察公園はすぐそこです。駐車場にドリーム号を停めて、県道を渡ると自然観察公園の正面入り口。北に向かって延びる谷地をまたぐ形で「ふれあい橋」が架かっています。

 北側の谷地

 上の写真はふれあい橋の上から見た北側の谷地です。冬枯れの風景ですね。

 自然学習センター

 橋を渡ってさらに進むと、ほどなく自然学習センターが現れます。ここは埼玉県内の自然学習・環境教育の拠点施設で、北本自然観察公園のビジターセンターの役割も負っているのだそうです。今は外装の改築中でした。
 ここが素晴らしいのはとにかくスタッフが充実していること。専門性とホスピタリティーを兼ね備えていて、来園者の自然や環境への興味を上手に引き出してくれるのです。

 「一本の木は語る」

 玄関を入ると真っ先に目に入ってくるのは大きな木。「一本の木は語る」というコーナーで、巡る季節に寄り添うようにつながっていく自然の様子が示されています。ちなみに生木ではありません。

 情報がぎっしり

 ホワイトボードには園内の動植物のリアルタイム情報が書き込まれていました。毎日書き込まれているようで、訪れた日(16日)のものも何件かありました。これを見ているだけでもあっという間に時間が経ってしまいます。ICTのこのご時世にこのアナログ感がまたいいですね。

 観察会開始

 観察会は毎土日祝日の午後2時から約1時間で行われています。もちろん無料で、受付の名簿に住所氏名を書いておけばOKです。「それではこれから観察会を始めまーす。」玄関ロビーで声がしました。小さな子供連れからお年寄りまで、全部で10人ちょっと。ちょうど良い規模ですね。

 事前レク

 まずは館内で双眼鏡の使い方の練習から。今日はバードウォッチングもするようです。奥の壁に貼ってある鳥のステッカーを目標に、ピント合わせの方法などのレクチャーがありました。

 

 自然学習センターの外に出てみました。庭は丈の高い草が枯れて見通しが良くなっています。フェンスの上にスズメが。いつもは一瞥するだけで、茶色の小鳥というか塊にしか見えていませんでしたが、双眼鏡で見ると羽の細かい模様までよく見えて、これはどうしてカワセミにも負けない美しさではないか、と再評価した次第です。
 足下には早春の花が。ホトケノザ、オオイヌノフグリ、ヒメオドリコソウなどの小さな花たちです。

 北側の谷地へ

 一行は北側の谷地へと向かいました。谷地には葦原や耕耘地があって、鳥たちの格好の食事の場所となっているのです。

 ニワウルシ

 リーダーの声に足を止め、正面の高い木を見上げました。ニワウルシ(別名シンジュ)です。明治初期に中国から渡来したニガキの仲間で、河原や土手などに野生化しているそうです。ここ荒川河畔もニワウルシにとって暮らしやすい環境だったのでしょうね。

 花?、葉?、実?

 「枝先にある、あれは何でしょう?」 たしかに高木の更にその枝の先端に白く輝いて見えるものがあります。「花だと思う人? じゃあ葉っぱだと思う人? それとも実だと思う人?」 それぞれぱらぱらと手が挙がりました。これも双眼鏡で確認してみます。

 ちょうど足下に落ちているものがあったので、それを観察。いわゆる「翼果」です。翼は縦方向にねじれていて、中央に扁平な果実があります。つまんで放り上げてみると、水平姿勢をとって横ロールしながら落ちていきました。ご存じのとおり滞空時間を長くして遠くまで飛んでいこうとする戦略です。

 

 次に、谷地の耕耘地に下りていきます。谷地には小さな池が点在し、葦原を縫うように細い流れが蛇行しています。

 声はすれども…

 耳を澄ますとあちこちから鳥の鳴き声が。近くの低木でジョウビタキが鳴いています。地味な色合いのメスですが、背中にはちゃんと白い斑がありました。これがジョウビタキのアイデンティティーです。ジョウビタキは縄張りをもっているので、飛び立っても待っているとまた戻ってきます。観察者にはありがたい鳥ですね。

 シロハラ

 向こう側の林のたもとにシロハラがいました。30mくらいの距離があり、コンデジ+テレコンバーターではこれが限界です。ジョウビタキと同じく冬鳥として中国北東部からやってくる鳥で、写真のように地面にいる姿を目にすることが多いそうです。土の中の虫を食べているのでしょうか。

 カラスウリ

 枯れ果てて中身も落ちてしまったカラスウリ。趣がありますな。

 雑木林

 谷地を縁取る雑木林からも鳥の声が。チチッ、チチッ…。声のする方を双眼鏡で探してみると、いました。太いくちばしが特徴のシメです(写真なし)。シメは、本州では冬鳥です。一方、同じ雑木林でキィー、キィキィと甲高い声で鳴いているモズ。こちらは一年中見られる留鳥です。
 あと、谷地の小さな流れにはコガモがやってきていました。でも、こちらを警戒しているようで、そそくさと奥の方に行ってしまいました。

 蜂の巣

 双眼鏡で鳥を追っていると、んんっ? なんだあれは。どうやらスズメバチの巣のようです。でかいです。リーダーの人に聞いてみるとキイロスズメバチの巣なのだとか。この時期は、女王バチたちは巣立って付近の物陰でじっと春を待っている頃。働きバチや雄バチたちも死に絶えて、今は空き家です。よく見ると底が抜けていますね。

 ムラサキシジミの越冬  (マウスオーバーでわかりやすく)

 観察会の一行は谷地の西側の縁にやってきました。こちら側は常緑樹が多く、すこし薄暗い感じです。ここからは越冬する虫たちの様子を観察するのだとか。
 まずはシラカシの枝先で越冬するムラサキシジミ。葉陰に隠れていてぱっと見には分かりません。光量が不足していて写真がぶれていますが、枯れ葉と一体化するようにじっとしていました。この蝶は羽を閉じているときは地味ですが、開くと光沢のある紫色をしています。
 成虫で越冬する蝶は多くはなく、タテハチョウの仲間やシジミチョウの一部にいるのみなのだそうです。

 このハートは

 木の節の暗がりに見える黄色いハート。これは背中にハートの模様を背負っているエサキモンキツノカメムシというカメムシだそうです(この写真も若干ブレ気味)。このカメムシは産んだ卵を守り続けることで知られていて、孵化してもしばらくは子に付き添うのだそうです。まさにハートフルですね。

 ツヤアオカメムシ

 こちらはずいぶんと簡素な体勢で越冬をしているカメムシ。鮮やかな緑色をしているツヤアオカメムシというものだそうです。気温が低いせいかぴくりとも動きません。
 昆虫には、卵で冬を越すもの、幼虫で越すもの、蛹で越すものと様々あります。成虫で越すと目立ってしまって外敵に食べられるリスクが高いのではないかと思うのですが、そこはまあ、いろんな事情があるんでしょうね。大人の事情が。

 自然学習センターへ

 そうこうしているうちに1時間が経過しました。出発地点の自然学習センターに戻って、解散です。

 シマヘビ

 解散後、自然学習センターの受付で展示されていた白いシマヘビを見に行きました。30p四方くらいの水槽で飼育されていて、ヒーターで保温されています(写真手前の緑色のものはヒーターのサーモスタット)。この白いシマヘビは生後3か月ほど。去年の秋に自然学習センターの前の草原で見つかったものだそうです。その後、年末に飼育水槽の中で1回脱皮したそうで、今の大きさは30pほど。太さは鉛筆を一回り太くしたくらいでした。自然界にまれに見られるアルビノのようでもありますが、本当のアルビノは目まで色素がなく赤い目をしているのだそうです。この状態は「部分白化」というらしく、日本で初めて発見された個体だと聞きました。
 シマヘビは本来この時期には冬眠をしますが、飼育水槽が保温されていることから、起きて活発に動いていました。自然界ではカナヘビ(トカゲの仲間)などを餌にしているそうですが、自然学習センターではペットショップなどで売っている爬虫類用の餌(ネズミの赤ちゃん)を与えているとのこと。はじめはなかなか食べなかったそうですが、カナヘビにこすりつけて匂いを付けて与えたら、飲み込んでくれたそうです。だいたい5日から1週間に一度の給餌だそうです。

 定点写真(高尾の池)

 再び外に出て自然観察公園内をぶらっと歩いてみました。河川敷の方に向かって歩くと自然学習センターより一段下がったところに「高尾の池」という大きな池があります。今日は水面の9割方が凍結していました。なんでも昨夜初雪が降ったそうで、朝方には氷の上に白く積もっていたそうです。
 今年の定点写真はこの場所に決めました。ここを1年間眺めてみたいと思います。

 アオジ

 池に架かる八つ橋のたもとに餌を探すアオジを見つけました。枯れ葉と一体化して保護色のようです。

 氷結

 高尾の池の北側は完全に氷結していました。おそるべし埼玉。内陸部なので日中でも気温が上がらないのでしょう。

 定点写真(北側の谷地)

 再びふれあい橋の上から。ずいぶん影が伸びてきました。ここも定点写真の場所にしましょう。
 
 さて、本年最初の定点観察。思いの外楽しかったです。観察会に参加することで、見落としがちな小さな自然にも目を向けることができました。願わくばこのフィールドがもう少し近くにあればよいのですが、あまり贅沢は言いますまい。ドリーム号に乗って、これから1年間通ってみたいと思います。
 
 

  荒川と北本自然観察公園