鐘撞堂山 〜木々とともに陽を浴びて(前編)〜


 

 (前編)

【埼玉県 寄居町 令和2年3月15日(日)】
 
 気がつけば3月も半ば。天気予報では毎日スギ花粉の大量飛散を知らせています。yamanekoは、例年年明けから坑アレルギー薬を飲んでいて、この芽吹きの時期にあまり苦しむことなく野山歩きができるようにしています。春は四季のうちで一番好きな季節ですから。
 さて、そんな春間近な休日、埼玉県は寄居町と深谷市にまたがる鐘撞堂山(330m)に行ってみることにしました。「鐘撞堂」の読み方は「かねつきどう」です。野山も少しづつ輝く準備を始めているでしょう。
 
                       
 
 午前8時半、ドリーム号にて出発。圏央道、関越道と走り継ぎ、2時間弱かけて野山歩きの起点となる寄居町に到着しました。 スタートは、秩父鉄道の桜沢駅近くにある八幡大神社から。桜沢駅は寄居駅の隣の駅になります。

 Kashmir 3D

 今日のルートは、まず八幡大神社の裏手の登山口から登り始め、八幡山へ。そこからアップダウンを繰り返しながら標高を上げていき、深谷市との境界の稜線に出たところで西進。最後に急登をこなして鐘撞堂山の山頂に至ります。下山は稜線の南側に入り込む谷筋に下りて、スタート地点に戻ってくるというものです。



 10時45分、神社の参道からスタート。まずは今日の安全を祈願しましょう。

 八幡大神社

 地元の方が一人参拝されていました。静かな神社です。
 由来によると、猪俣党(鎌倉時代を中心に関東地方で勢力を持っていた武士団で、武蔵七党のうちの一つ。)の武将を祀ったもので、創建年代は不詳とのことです。

 登山口

 参拝後、神社右手裏にある登山口に移動。いきなりの急登に挑みます。「熊出没注意」の看板のクマが恐いです。

 タンキリマメ

 登山口脇の立木にタンキリマメがとりついていました。艶のある黒い種子が光を反射して、こうやって写真で切り取るとちょっとしたブローチに見えないこともありません。



 いきなりかなりの斜度がお出迎え。ジグザグの山道になっています。

 ヤマザクラ

 ヤマザクラの蕾が膨らんでいました。葉と花が同時に展開するところがソメイヨシノとは違うところです。



 頭上も明るく輝いています。夏の光とは違って、仮に光に重さがあるなら「軽い光」に感じます。



 道は更に急になってきました。へたしたら転がりそうです。



 とはいえ、明るい日差しの中を歩くのは楽しいですね。

 コウヤボウキ

 コウヤボウキの新芽。去年の花殻の脇から若々しい芽が出ています。

 寄居町中心部方向

 左手の木立の先に見えるのは寄居町の中心地域です。寄居町は人口3万人ちょっとで、昔は秩父往還の宿場町として栄えた街だそうです。

 ヤマツツジ

 樹木は大きく落葉樹と常緑樹に別れますが、ヤマツツジは半常緑樹というちょっと変わったタイプ。春に出て秋に落葉する春葉と、夏から秋に出て冬を越す秋葉があって、写真のものはまさに今展開し始めている春葉です。写真の左下に写っている小さな丸っこいのが秋葉です。

 ヤブコウジ

 褐色の地面でひときわ目立っていたのはヤブコウジの実。直径8mmくらいと小さいのですが。それはきっと、こんなに背丈が小さくても立派な樹木であることのプライドが宝石のような実を付けさせているのだと思います(笑)。



 おっ、ピークのようです。



 誰もいませんね。スタートからここまで20分です。
 ベンチの横の木にビニールパウチされた紙が貼ってありました。「八幡山@」と書いてあります。あれ?もう八幡山の山頂かと思い、地図と見比べて不審に思いましたが、首をひねりつつそのまま歩きました。



 むむ、これはガマズミの若葉だと思うのですが…。

 八幡山山頂

 2つめのピーク。スタートからの急登で腿の筋肉が張ってきました。水分補給を兼ねて小休止です。
 あれ、ここにも「八幡山」の標識が。しかも「八幡山A」です。??? ここでハッと気がつきました。どうやらこれは場所を特定するための標識だと。登山中にケガや体調不良になったとき、この掲示を伝えれば場所を正確に伝えられるということだと思います。丸数字は八幡山エリアの何番という意味でしょう。で、ここが本当の八幡山の山頂のようでした。紛らわしい。



 休憩後、次のピークに向かって坂を下ります。こちらも結構な斜度です。

 鐘撞堂山山頂方向

 木立の向こうに鐘撞堂山が見えています(写真正面のピーク)。もうすぐ行くからねー!

 タマキクラゲ

 これは何だ?表面は乾燥していますが、プニプニとした触感。多分、力を入れると破れてゼラチン質のものが出てきそうな気がします。これはタマキクラゲというキノコの仲間。確かに玉のようなキクラゲといった外観です。ブナ科の落葉樹の枯れ枝に着くのだそうです。可食とか。食べるにはちょっと勇気がいりますね。

 大正池分岐

 ほどなく鞍部に到着しました。「大正池」を示す標識が左手を示していました。ここは素通りして次のピークに向けて登り返します。

 コナラ

 コナラが若葉を伸ばし始めていました。遠くから見ると枝が淡いレモンイエローに見えます。自然の色の鮮やかさにハッとさせられます。芽吹きの姿がよく似ているものにクヌギがありますが、こちらは遠目に見ると若干褐色味 を帯びていて、両者が混在する雑木林ではその違いがよく分かります。



 小さなピークが続きます。ここはスルー。

 ホンダ・寄居町 共働の森

 途中、斜面が開けている箇所がありました。看板が立っていて、それによると、ここは自動車メーカーのホンダと地元自治体とが共同で整備した 「共働の森」というエリアだそうです。

 コブシ

 その片隅に立つコブシが満開になっていました。この花が咲いているのを見ると春の訪れを感じますね。

 ヤマツツジ

 ヤマツツジが満開です。日当たりの関係でしょうか、登り始めに見た株よりも開花が進んでいるようです。それにしても明るい日差しを受けて輝いていますね。



 日本の野生のツツジの代表種。花冠は漏斗型で先端で5つに別れています。そのうちの上側の1つに胡麻粒のような斑点があるのが特徴です。 



 11時50分、三角点のあるピークに到着しました。ここも眺めが良いです。で、その三角点はと探しましたが、どうやらここから北東に延びる稜線を100mほど行ったところにあるようでした。
 もうお昼なので、とりあえずここであんパンを食べて空腹をしのぐことにしました。

 赤城山

 北の方角には赤城山が。大きな山塊です。ここからの直線距離は50km弱。結構離れているのに近く見えますね。



 小休止後、鞍部に向かって下りていきます。正面に見える稜線に登り返し、そこから左手に稜線を辿っていくことになります。まずは転ばないように。



 下る途中で振り返ると…写真では急傾斜感があまりないですね。実際には壁みたいに感じたのですが。

 鞍部

 鞍部に到着しました。左に下れば大正池、右に下れば金嶽池。いずれも灌漑用のため池です。もちろんここは直進で。



 そしてすぐに登り返します。葉が茂る前の林は地面にまでたっぷりと日差しが届いて明るく気持ちがいいですな。陽を浴びての野山歩きはこの季節の楽しみでもあります。

 ウグイスカグラ

 これはウグイスカグラ。みな俯いて花を付けるので、写真を撮るならローアングルの方がオススメです。名の由来には諸説あるようですが、この木を訪れたウグイスが茂った枝の間を忙しく飛び交う様子をまるでウグイスが神楽を舞っているように見えるからとも。

 市町境界尾根

 12時10分、鐘撞堂山に続く稜線に出ました。ここは市町の境界になっていて、稜線の北側(写真奥側)は深谷市になります。
 ここは左手へ。ちなみに、右手に行くと下りになり、深谷市の十二社神社へと続いているようです。



 ここにも貼ってありました。「八幡山D」だそうです。もうここは八幡山ではないでしょうに。

 アセビ

 アセビに新しい葉が展開し始めています。下の方にあるのが去年の葉で、枝の先端の赤っぽいのが若葉。
 若葉が赤い樹木はときどき見かけますが、その理由は正確には分かっていないのだとか。ただ、赤い色素は、葉緑体の発達を助けたり、発達中の葉緑体を紫外線から守る働きがあるとのことです。まだ弱々しい葉を守る機能をもっているんですね。
 
 さて、山頂まではまだまだです。急がず明るい野山を楽しみながら行きましょう。(後編に続く