加計・温井 〜ニホンオオカミよ、何処〜


 

【広島県加計町 平成15年8月24日(日)】
 
 8月の定例観察会は、植物中心のこの観察会にしてはめずらしく動物がテーマ。場所は広島県北西部にある加計町です。この町の教育委員会が保管しているニホンオオカミの頭骨を教材に、野生動物をとりまく厳しい環境、特に種の絶滅という点にスポットを当てて学んでみようという企画です。その後、近くにある温井ダム周辺で自然観察も。

 川・森・文化・交流センター

 午前10時、加計町にある「川・森・文化・交流センター」に集合。
 2週間前の下見のときも暑かったのですが、今日はそれに輪をかけて布団をかぶせたくらい暑い。駐車しているドリーム号の中も灼熱地獄のようです。
 この施設は、3q上流にある温井ダムの建設作業員宿舎として造られたものですが、当初からダム完成後の再利用を見越して造られていて、ダム工事終了後に立派に改装されました。中にはいると500人収容のホールを中心として、図書館、民俗資料館、視聴覚室や研修室、調理実習室などが備えられていて、加計町の文化スポットとして町民の皆さんに利用されています。

 水の文化館

 また、1階には国土交通省の「水の文化館」があます。太田川流域の自然や歴史、川の水質保全などについての展示があり、個人的には好きな場所です。特に床一面に太田川流域全体の航空写真が描かれている部屋があり、地図ではイメージしにくい川の浸食作用の様子が一目瞭然で理解できます。

 ニホンオオカミについての
 レクチャー

 今回の参加者は44人。いつもの観察会に比べて2割ほど少ないようです。
 広島自然観察会が行う定例観察会は、毎回「自然保護」(日本自然保護協会の定期刊行誌)に開催予告を掲載しています。今回、遠く佐賀県から帰省してきたというご家族連れの方がこの「自然保護」を見て来たといって参加されました。参加者数が少なくてもこういった人たちが来てくれるとホントうれしいですね。

 担当リーダーの藤田さん

 午前中は今日の担当リーダーの藤田さんからニホンオオカミについてのレクチャーです。
 (以下は藤田さんの話からの抜粋です。)
 日本には明治時代まで本州、四国、九州にニホンオオカミが、北海道にはエゾオオカミが生息していました。オオカミと聞くと「赤ずきん」に出てくる獰猛なオオカミや「もののけ姫」に出てくる大きなオオカミを思い浮かべる人が多いでしょう。エゾオオカミはまさにそんなオオカミだったのですが、ニホンオオカミは意外にも小さく、中型の日本犬や雌のシェパード程度の大きさだったそうです。日本には剥製が3体だけありますが、その容貌から獰猛さを窺うことはできません。ただ、犬ともどこか違う印象を受けます。
 この広島県にも明治時代まで、ほんの100年前までは野山を駈けていたのです。
 
 エゾオオカミの絶滅原因は狩猟圧と考えられています。明治以降本州から入ってきた人はエゾオオカミの餌であったエゾシカを食肉用に大量に捕獲しました。餌を奪われたエゾオオカミは家畜を襲い、人との軋轢が生じたのです。
 一方、ニホンオオカミの場合は事情が異なります。ニホンオオカミはシカやイノシシなどを食べていたようです。農耕によって生計を立てていた人々にとって害獣であるシカやイノシシを捕らえてくれるニホンオオカミは時には神として大切にされたのです。地方によっては「大口真神(おおくちのまがみ)」として信仰されていました。一説ではオオカミの語源は大神であると言われています。「送り狼」という言葉がありますが、もともとはオオカミの縄張りである森の中に入った旅人の前となり後となりついてきて群狼から守ってくれるという話から生まれたものとのこと(異説もあり)。ニホンオオカミと人間とは案外いい関係だったのかもしれません。
 ニホンオオカミの絶滅原因は特定できていません。もともと個体数の少なかったところへ、環境劣化による餌の減少、ジステンパーなどの外来の病気の流行、狩猟圧などが複合的に作用したのでしょう。しかし、確実に言えるのはヒトの営みが関わっているということです。
 古来、生態系の頂点にあったオオカミが絶滅したことによって、天敵のいなくなったシカやイノシシが増え、生態系のバランスが崩れてしまいました。

 頭骨

 大台ヶ原や奥秩父を中心に、今でもニホンオオカミの生息情報は後を絶ちません。数年前九州で撮影された写真は専門家をして「ニホンオオカミそのものと考えざるをえない」と言わしめたほどです。
 ニホンオオカミは本当に絶滅したのでしょうか。
 一つの種が存続するのには相当数の個体の生息が必要となります。相当数の個体が生息していながら100年間一頭も捕獲されないということはやはり考えづらいことです。一般的には絶滅したと考えることが妥当でしょう。
 でも、ひょっとしてどこかに…
 


 午後は温井ダムのダム湖のほとりにある「自然生態公園」で観察です。

 自然生態公園

 下見の時のレポートで「ケビンあり庭園あり巨大滑り台ありで、お世辞にも自然の生態と言えるような場所ではありません。水没を免れた山のてっぺんに街場風の公園を造成した、と言ったら厳しすぎるでしょうか。」と書いたとおりの場所です。

 ヌルデ  コマツナギ

 めずらしい植物を見に行く観察会も悪いとは言いませんが、今日のような場所に行って「開発の手が入った自然はこうなる」といった観察会もいいかもしれません。ただ、その場合は単にブラブラ歩くだけではだめで随時その視点での解説を行うことが必要でしょう。

 アメダス

 公園内にアメダスのセンサーが設置されていました。
 舛田指導員の説明によると、風向、風速、気温、湿度、日照量、降水量などを観測しているのだそうです。
 こんなところにもあったのか。
 
 時刻はもう2時半。そろそろ閉会の時間です。
 後は自由行動で、ほとんどの人はダム見物に行ったようです。
 (温井ダムについては下見の時のレポートをどうぞ。でも、今日は放水していなくて残念でした。)