温井ダム 〜川の流れのよ〜に〜♪〜


 

【広島県加計町 平成15年8月10日(日)】
 
 台風10号が通り過ぎて夏らしい青空がもどってきました。これから暑くなりそうです。
 今日は8月の定例観察会の下見のために広島県加計町にやってきました。
 加計町は太田川中流域にある人口5千人弱の静かな町ですが、太田川の川船による荷役が盛んだった戦前までは、太田川に滝山川や丁(ようろ)川が合流する水運の要衝として賑わった町のようです。
 
 午前10時、町はずれにある「川・森・文化・交流センター」に集合。当日はここに保管されている今は絶滅してしまったニホンオオカミの頭骨を見せていただくことになっています。併せて生態系に関するレクチャーを予定。

 
 次に滝山川を3qほどさかのぼり、平成14年に完成した温井ダムへ。

 でかい! アーチ式ダムではあの「プロジェクトX」で有名な黒部第4ダムに次いで国内第2位の高さだそうです。この時期は夏なので貯水量はさほどではありませんが、下流への放水はさながら巨大な水鉄砲といった感じで、水の力のすさまじさを感じます。
 
 温井ダムの周辺は公園化されていて、サイクリングコースなども設置されています。まずはダム湖のほとりにある自然生態公園で下見。しかし、ケビンあり庭園あり巨大滑り台ありで、お世辞にも自然の生態と言えるような場所ではありません。水没を免れた山のてっぺんに街場風の公園を造成した、と言ったら厳しすぎるでしょうか。でも、人の手が入った自然を観察するにはちょうど良いのかもしれません。ゆっくりと時間をかけて観察したいと思います。
 当日の観察会はここまで。ダム本体は各自で自由見学です。
 
 ダムの上を渡った先にある管理所からはダム下に降りるエレベータがあります。エレベータ入口の気温は26度(日影なので)。ところがエレベータ出口の地下通路の気温は16度。涼しいというよりは肌寒いくらいです。出口に常駐している案内の女性も防寒コートを着ていました。

 エレベータ出口から地下通路を歩くこと200m。ダム下に到着です。高さ156mの堰堤はさながら覆い被さってくるように見えます。ゴォォォーッという音が辺りを覆い、会話もままなりません。放水された水のアーチは着水と同時に激しく砕け散り、水しぶきとなって高さ30mくらいまで舞い上がっています。おかげで地下通路ほどではないにしろかなり涼しく感じます。辺り一帯マイナスイオンだらけでしょう、きっと。
 体が冷えてきたのでまたダムの上にもどります。管理所内の資料室に行ってみるとダム周辺のジオラマがたくさん展示されていて、「金かけてるなぁ」といった感じです。観察会本番用にパンフレットをいただいて帰りました。
 
 この温井ダムは大規模なダムなので自らが湛えた水を使って発電していますが、太田川沿いにいくつも見かける発電所は、いずれも遠くの貯水池から取水し、その水を山中を貫く導水管を通して発電所の頭上まで運んできます。そしてそこから山の斜面のパイプを通し発電所へ一気に落とすのです。
 太田川の両岸に連なる山々の中には、この導水管が川の流れとつかず離れず延々と走っているのです。導水管の内径は約4mもあるのだとか。相当量の水が山の中を流れているのです。いわば「第2太田川」です。昔は川船が行き交っていた太田川はこの「第2太田川」のおかげで水量が減り、また、取水のための堰堤なども各所に造られたことから、今では船を通わせることはできないのです。
 
 太田川上流部では、大きく分けて2系統の導水ルートがあります。
 芸北町八幡にある聖湖からスタートして三段峡下流の柴木を経て、戸河内町の土居立岩貯水池からスタートした流れと合流、筒賀村の吉ヶ瀬を経て安佐北区の間野平に向かうルート。
 もうひとつは、芸北町の王泊ダムからスタートして、加計滝山松原川からスタートした流れと合流し、加計町の安野を経て間野平に向かうルート。この2つのルートは間野平で合流し、最終的には安佐北区可部町の太田川発電所に向かいます。

マウスオーバーで導水管ルートを表示

 導水管の水がどういう落ち方をしているかを下の図に示してみました。
 上流部に近いほど短い水平距離で大きな落差を稼げていることが分かります。

 これらの発電所の多くが造られたのは大正から昭和初期。当時の技術をもってこれだけの構造物を造るのは並大抵のことではなかったでしょう。厳しい労働条件の中での工事だったであろうことを考えるとその殉難もいかばかりかと。
 
 およそ一世紀が過ぎようとする現在、発電の主流は火力と原子力です。


 ダムをまたぐ虹