岩国・城山 〜輝く箱庭を眼下に〜


 

【山口県岩国市 平成17年12月18日(日)】
 
 今年は12月に入ってからというもの寒気団の波状攻撃にさらされています。暖冬とか言っていたの、誰だ!
 前日の夜から降り積もった雪は、その夜のうちから広島近郊の高速道路をことごとく通行止めにし、今朝に至っても交通機関をガタガタにしていました。
 今日は12月の定例観察会。場所は山口県岩国市にある城山。何もなければ高速道路をすっ飛ばして行くところですが、急遽JRで行くことにしました。

 白い世界

 家を出てみると白銀の世界。向こうの山も真っ白で、その背後に雪雲が覆いかぶさっていました。対照的に真っ青な空。透きとおった朝日を受けて月が冴え冴えと居残っていました。
 ところで、最寄りの横川駅まで歩いて行こうと思ったのですが、とんでもない大間違い。歩きにくくていったいいつになったら着くのか分かりません。行き交う車もほとんどない交差点でたまたま信号待ちしていたタクシーを停めて、なんとか横川駅に到着しました。ところが今度はJRがストップ。駅の手前でポイント故障だそうです。寒いホームで電車を待つこと30分。ようやくやって来た電車に乗って岩国に向かうことができました。
 9時35分、岩国駅に到着。コンビニで昼食を調達した後、バスで錦帯橋に向かいます。今日の集合場所は、錦帯橋を渡ったその向こうにある吉香公園です。

 錦帯橋

 錦帯橋も錦川の河原も雪化粧。対岸には今日登ることになっている城山も雪をかぶっています。岩国は広島から約35q南に位置しています。そのせいか積雪は深くはありませんでした。ただ今日は気温が上がらないという予報だったのでこのまま融けないかもしれません。

 岩国城

 欄干ぞいの橋の両側だけ除雪されていたのでこんな傾斜の橋でも渡ることができました。
 城山の上に岩国城が見えます。今日はふもとから城を目指してこの山肌をほぼ真っ直ぐに登っていくのです。

 吉香公園(駐車場)
 (右:ロープウェイ駅、正面:歴史美術館)

 10時。集合場所に行ってみるとスタッフ3人(今日のリーダー新川さんと六重部さん、前田さん)と会員はNさん1人だけ。自分を含めてわずか5人です。このスタッフは中止と知らずにやって来た会員に対応するために現地入りしたのですが、yamanekoは中止と知りつつ(出がけに電話で確認済み)あえてやってきました。定例会は中止としても、現地入りしているスタッフを誘ってプライベート観察会をしようという魂胆なのです。
 ということで、(計画どおり)この5人でスタートすることになりました。駐車場横から山頂までロープウェイがありますが、もちろん歩きです。

 登り口の神社

 駐車場の隣にある「白山比■神社」(■は口偏に羊)の横に登山口があります。ちなみにこの神社は「しらやまひめじんじゃ」と読むのだそうです。

 登山道

 森の中はチッチッという鳥の声が聞こえるのみで、驚くほど静か。梢に積もった雪がひっきりなしにパラパラ落ちてきます。

 ヤブソテツ(右)
 イノモトソウ(左下)

 ヤブソテツとイノモトソウ。いずれもシダ植物です。この城山には100種類を超すシダがあるとのこと。シダ類のことはまったくと言っていいほど分からないので、今日はリーダーの新川さんから逐一教えてもらおうと思います。

 雪にモミジ。ありそうでなかなか見ない取り合わせです。もともと日当たりのよくない場所なので紅葉しきらず淡い色のままなのが残念ですが。

 オオアリドオシ

 これも初めて見る植物、オオアリドオシです。アリドオシの仲間なので葉腋に鋭い刺がありますが、アリドオシほど長くはないとのこと。写真では分かりにくいですが、大きな葉と小さな葉とが2枚ずつ交互に付いていました。

 ヌリトラノオ  ベニシダ

 ヌリトラノオは先端近くの葉の軸に不定芽が生じるのが特徴だとか。確かにちょんとあさっての方を向いた芽が付いています。このタイプの葉の形は「単羽状複葉」といいます。「複葉」とは2個以上の小葉でできている葉のことで、小葉が葉の軸の左右に鳥の羽のように付くものを特に「羽状複葉」といいます。1つの羽状複葉で1枚の葉ができあがっているので「単」という字をつけて「単羽状複葉」ということになります。なお、羽状複葉の場合は小葉のことを特に「小羽片」というそうです。
 ベニシダは1m近くにもなるシダ。根元の小羽片のみ小さく丸い形をしているそうです。このタイプは「二回羽状複葉」。全体を一つの羽状複葉として見たときその小羽片の一つ一つが単羽状複葉になっています。こんな形をフラクタル図形(ある形の一部を拡大してみても全体の形と同じ形になる自己相似性を持つ形)といいますね。

 まだ道半ば

 登山道からはほとんど眺望がありません。常緑の葉をあれこれ観察しながら、色の少ない世界を歩いていきます。

 コバンモチ

 コバンモチは名前からするとモチノキ科のようでもありますが、じつはホルトノキ科。葉がモチノキのそれに似ていて、しかも小判型だからこんな名が付いたのだといいます。葉柄が長くテカテカとした葉が枝の先に輪生状に付く姿が特徴的ですが、さらにもう一つ見分け方が。葉柄の上部がぷくっとふくらんでいるのがコバンモチの特徴なのだそうです。宮島ではこのコバンモチの樹皮を鹿が好んで食べるため、その生育に大きなダメージを与えています。現地ではこんな保護活動も。

 ヒトツバ

 これもシダの仲間。ヒトツバです。名は体を表すとはこのことで、まさに「一つ葉」ですね。このタイプは複葉でもなければ羽状でもない。単葉です。

 岩国城

 11時30分、山頂に到着しました。山頂は城趾公園として整備されています。
 岩国城は江戸時代の築城ではめずらしく山城です。慶長8年(西暦1603年)、吉川広家が岩国に移ってから後に築城され、完成したのは慶長13年。でも、わずか7年後には幕府が発した「一国一城の制」により取り壊されてしまったのだそうです。現在の天守閣は昭和37年に復元したもの。本来はもっと奥に位置していたものをふもとからよく見えるようにわざわざ崖っぷちに建てたのだとか。(いや、看板じゃないんだから…)

 どーん! 岩国の市街地が箱庭のように見えます。眼下に蛇行する錦川。大きくカーブしてその先には海に。
 北西の山の方から次々と押し寄せる雪雲。町並みも河原もそして錦帯橋も白く輝いています。

 ホシダ

 日向の石垣にホシダが茂っていました。先端の羽片が細く伸びるのが特徴なのだとか。それを穂に見立てて「ホシダ」です。

 山頂駅

 天守閣があった場所から尾根沿いに西にしばらく歩いていくと、ロープウェイの山頂駅があります。(広場にはなぜか木炭自動車が展示してありました。)
 ちょうど昼どき。この駅舎の待合室で昼食です。メニューは冬場の山歩きの定番食、カップラーメンとコンビニむすび2個。お湯はポットに入れて家から持参です。

 下山路

 下山は舗装道路を。この道は普段は車止めがしてあって、自動車で上がってくることはできません。山腹を大きく迂回して谷沿いに下りていきます。

 ウラジロ  コシダ

 おなじみ、ウラジロとコシダです。
 ウラジロも二回羽状複葉。ハの字形に葉を開きますが、1年で枯れることなく、次の年には葉の要の部分から軸を伸ばして、その先にまたハの字形の葉を広げます。それを繰り返し5、6年かかって大きな葉を完成させるのです。ウラジロが正月の飾りに用いられるのも、この寿命の長さをめでたいものとしたからともいいます。
 コシダもウラジロ同様に1年では枯れません。小羽片が細長く切れ込んでいるのが特徴。軸に弾力があるので、これで籠を編んだりしたのだそうです。

 ホソバカナワラビ

 ホソバカナワラビ。こうなってくるともうみんな同じように見えてきます。

 クリハラン

 クリハラン。もちろんランの仲間ではなくシダです。この葉はまだ小さかったですが、最終的には40pくらいにまで大きくなるのだとか。ぱっと見、ヒトツバに似ています。

 岩肌

 道路脇の岩肌が積み木のよう。これは堆積岩とチャート(珪質沈殿物)の層の岩石なのだとか。各層の厚さは2pほど。堆積岩ということは本来は水平に層ができていたはずですが、それがほぼ垂直になっているということは、例えば地下から別の岩石が隆起してきてそれに突き上げられ押しのけられる形で立ってしまったとか、そんなことがあったからだと思います。現にあちこちで褶曲している姿を見せていました。ちなみにこの岩石は1億5千万年前に造られたものだそうです。恐竜がウロウロしていた時代、ここは水の中だった時期があったということになります。

 オオバノハチジョウシダ

 オオバノハチジョウシダ。比較的大きなシダでした。写真でも分かるとおり、先端の羽片がひょろっと長いのが特徴。

 ノキシノブ

 13時30分、ふもとまで下りてきました。
 おっと、ここにもシダが。モミジの木の幹にノキシノブが着生しています。葉は線形で革質。家の軒先などに生えていて土が無くても堪え忍ぶことから名が付いたのだとか。雨が降ったときに水を吸いその間だけ光合成を行って、あとはじっとしているのだそうです。

 クルマシダ

 今日は気温が低かったせいか、午後になっても雪が融け残っています。朝は大変な目に遭いましたが振り返ってみるとやっぱり今日も楽しい野山歩きになりました。もちろん花は望むべくもありません。でも、普段は見過ごしている(というか敬遠している)シダともちょっとだけ仲良くなったような気がしました。でもあまりにも奥が深すぎです。(苦笑)
 


 

 12月18日
 17:00

 今日の雲の様子です。日本海からのすじ雲が太平洋にまで流れ出していて、見るからに寒そう。
 広島市の最低気温は−2.4℃、最高気温は1.9℃。一方、岩国市は−3.6℃、1.8℃。数値上では岩国の方が寒かったようです。積雪量は広島市の方がはるかに多かったですが。