大町自然観察園 〜里山は癒しの空間〜


 

【千葉県 市川市 平成20年5月5日(火)】
 
 今年のGWは天気が今ひとつすぐれません。衣替えや家の用事などをして過ごしていましたが、そろそろ連休も終わりなのでどっか近場にでもと、千葉県は市川市にある大町自然観察園に行ってみることにしました。市川と聞くと頭に浮かぶのは「湾岸市川」というインターチェンジの名前。なので、沿岸部といったイメージがあったのですが、この自然観察園があるのは内陸の里山。同じ市内といっても市川市はずいぶん広いようです。
 
                       
 
 今日の目的地は近いので高速道路を使うこともありません。新宿から市ヶ谷、神田、浅草と都心を走り抜け、そこからは水戸街道(国道6号)を松戸方面に北上。千葉県に入り、途中「二十世紀が丘」という地名のところで道をそれて、住宅地と畑が入り交じったのどかな風景の中を走ります。この辺りには梨園が多く、地名が示すとおり二十世紀梨の発祥の地だそうです。これまで鳥取産だとばかり思っていましたが、なんと千葉産だったのですね。

 長田谷津

 さあ、どんよりとした空の下、自然観察園の観察スタート。こんな天気ですが、今日はこどもの日ということもあって、そこそこの人出です。
 ここは「長田谷津」と呼ばれるところで、両側を小高い丘に囲まれた湿地となっている地形。長さは約1q。昔ながらの里山風景が細長く残ったところです。「谷津」=「谷地」で、里山の浅い谷の奥まったところという意味ですね。

 キンラン  ギンラン

 さっそく大好きな花がお出迎え。キンランとギンランです。丘の斜面の少し乾燥したところに咲いていました。里山を代表する花ですが、ちょっとした開発ですぐに消えてしまう脆い命でもあります。

 キツネノボタン

 キツネノボタンは野山のやや湿ったところでよく見かけます。光沢質の花弁が印象的。昔から家畜の餌として土手などの草刈をする際にも、この花には毒があるので刈り残されていました。キツネの名が付く植物には毒を持つものが多いとのこと。狐のもつ妖しいイメージにつながるところがあるのでしょうか。

 オランダガラシ

 オランダガラシ。別名クレソン、といえば「あぁ」という反応が返ってくるでしょう。繁殖力が強く、葦原に大きな群落を作っていました。ヨーロッパ原産で、明治の初めに在留外国人向けに持ち込まれたのだそうです。ところで、ハンバーグなどの鉄板に添えられているクレソン、いままで残すことなく必ず食べていましたが(あと、エビフライとかのパセリも)、最近報じられた食材の「使い回し」のニュースを聞くにつけ、これからはちょっと遠慮しておこうかと考える今日この頃です。

 観察路

 観察路は木道方式(コンクリート製ですが)になっていて丘と湿地との際を巡っています。丘の側から様々な植物が枝を伸ばしてくれているので、目の高さで花や葉を観察しやすい状況になっていました。写真の木はハリギリです。

 イヌザクラ

 変わった姿をした花。イヌザクラです。ウワミズザクラに似ていますが、花穂はずいぶん小型で、花の密集度もこちらの方が疎ですね。白い花弁が5個あるのですが、後ろに反り返っているので、長い雄しべだけが目立っています。
 さっきのキツネノボタンにしてもこのイヌザクラにしても、植物の名前に動物の名前を用いる例はたくさんあります。他にも、ウマノアシガタ、カラスザンショウ、タヌキマメ、オカトラノオ、ネコノメソウ、ウシハコベなどなど。コイヌノハナヒゲなんてのもあります。

 いい雰囲気

 ところどころにハンノキの林などもあり、こんな風景の中をゆっくり歩くと、全身に人間を元気にする物質が染み込んでいくのが分かるような気がします。はぁ〜、のどかのどか。

 ミズキ  クマノミズキ

 ミズキはちょうど今が花の時期。純白の花です。一方、クマノミズキは花期が一月ほど遅く、まだ花序を伸ばし始めたばかりでした。

 ツタウルシ

 湿地の中に立つ木を飾るツタウルシ。初夏には輝くグリーンに、そして秋には深いガーネットに衣替えをしていくでしょう。それにしてもこの里山にもいろんな命が様々な営みを繰り広げながら、相互に関わり合って生きているんだなぁ、とあらためて感じます。

 キショウブ

 観察路の脇にひときわ目立つ一群が。キショウブです。これもオランダガラシと同様に、ヨーロッパから明治の初めにやってきたもので、今では日本全土で野生化しているそうです。それにしても鮮やかなレモンイエローですね。

 エゴノキ

 まだ咲きはじめで花数が少なかったので、ぱっと見てハクウンボクかとも思いましたが、葉をみてやっぱりエゴノキだと気づきました。ハクウンボクといえば深山で出会う豪奢かつ気品あふれる花といったイメージですが、このエゴノキだって捨てたのもではありません。枝という枝から吊りさがる白い花が木全体を真っ白に彩る姿も、思わず足を止めるほどの美しさです。

 ムクノキ

 今までムクノキは公園樹としてしか見たことがなかった(野山で目にしても認識していなかった)のですが、こうやって花をじっくり見たのは初めてです。写真は雄花。花被が開ききっていていずれも花粉を放出し終わったあとのようです。雄しべの花糸がまだ白いのが今日開いたばかりのものでしょう。
 ちなみに、ムクドリという鳥がいますが、これはムクノキの果実を好んでこの木によく飛来することから名が付いたのだそうです。

 アカネ

 夕焼けや黄昏の風景を表現するときにつかう「茜色(あかねいろ)」。それはこのアカネの根の色からきている言葉で、まさに朱い根だからアカネです。染め物などに利用され、遠い昔から人間と深い関係をもってきた植物なんですね。ツル性ですが他のものに巻きついたりはせず、茎にある下向きの小さな刺で他の草などに引っかかるようにして伸びていきます。

 ツリバナ

 やじろべえ、いや、モビールのように涼しげに揺れているのはツリバナの花。春のこの清楚な花もいいですが、秋には工芸品のようなデザイン性の高い朱い果実を吊り下げます。野山で出会って心和む植物のうちの一つです。

 細長い長田谷津をぐるっと巡ってスタート地点に戻ってきました。ウグイスやホトトギスの声と風の音くらいしか聞こえない静かな野山歩きで大満足でした。郊外とはいえこのような里山の環境はずいぶん少なくなっているのだと思います。未来に向かっての貴重な財産として、次の世代に守り受け継いでいかなければならないですね。
 今度はまた秋に来てみようと思います。