発端丈山 〜日本人の心に触れる〜


 

【静岡県 伊豆の国市 平成25年11月23日(土)】
 
 巷ではそろそろ師走の声を聞く頃になりました。もう山地では紅葉の盛りは過ぎたでしょう。でも街中はこれから。低山なら今が見頃のところもあると思います。今回は暖かいことで有名な伊豆半島のその付け根、伊豆長岡にある発端丈山に行くことにしました(伊豆長岡は周辺と合併して現在は「伊豆の国市」という名前になっています。)。
 発端丈山はそのまんま「ほったんじょうやま」と読みます。あまり聞き慣れない名前です。標高も410mと里山の域。でも、富士山を眺めるのには最高のポジションにあることで知る人ぞ知る山なのだそうです。なので今日は登山というよりもハイキング感覚です。ドライブがてら遠出ハイキングを楽しんで、できれば帰りに美味い海鮮を食べるという行楽の一日とする予定です。
 
                       
 
 6時。ドリーム号に乗って出発。さすがこの時間はもう明るいです。東名高速は川崎ICを過ぎたあたりから渋滞が始まり、横浜町田ICまでビッチリ。この渋滞で1時間以上はロスしてしまいました。渋滞が解消してからは海老名SAに寄って昼食用の弁当を調達。あと給油も。沼津ICで一般道へ下りてからは、国道1号線を経由して三島から国道136号線を南下。そしてようやくという感じで伊豆の国市にあるパノラマパークに着いたのは10時15分になっていました。なんと出発から4時間以上が経過。まあ、絶好の行楽日和ですから、混むのはしょうがないですね。

 ロープウエイ(ゴンドラ?)

 このパノラマパークというのは葛城山(452m)の麓と山頂とを結ぶロープウエイの駅があるところで、レストランや物産館なども併設されていて、大型観光バスなどもたくさんやってくる観光施設です。
 もともと410mの発端丈山に登るのに452mまでロープウエイで上がるとは何事か。「山下り」か。という感じですが、今日はレジャー感覚なので(いつもの山歩きもレジャーです。)。


Kashmir 3D

 今日のコースは、ロープウエイを使ってまず葛城山の山頂へ。そこから発端丈山に向かいます。 葛城山からいったん200mほど下り、あとは徐々に登って行きながら、最後の急登をこなせば山頂です。

 葛城山山頂へ

 出発地点の標高は20mくらいなので、乗っている時間も長くそこそこ昇った感があります。遠くに見えている皿を伏せたような山塊は箱根山。その中央部にちょこんと出ている台形の山は駒ヶ岳と神山です(肉眼で駒ヶ岳のロープウエイも見えました。)。

 展望デッキ

 そして山頂駅に到着。外に出てみると目の前に展望デッキが。どれどれ…

 

 おお、地球は丸い(いや、パノラマ効果)。写真左手前の山が発端丈山です。その向こうの海は駿河湾。手前におむすび形の島が見えますが、あれは淡島という島です。駿河湾の右にある街は沼津。ネコの耳のような沼津アルプス(鷲頭山と大平山)を挟んで右側の市街地は三島です。富士山の手前で二人羽織状態になっていて分かりにくいですが愛鷹山も見えています。そして富士山の左奥に居並ぶ南アルプスの峰々までも。ここからの眺めでももう十分ですが、発端丈山からはひと味違う絵画的な調和のとれた富士山を眺めることができるというのです(山番組情報)から、楽しみです。

 ???

 山頂部には展望デッキのほか、食事処や足湯などがありましたがそれほど広くはありませんでした。ここのどこかに発端丈山への登山口があるはずですが、案内表示などはまったくなし。どうもあえて積極的には案内していないような印象です。お土産屋さんのレジのお姉さんに聞いてもフワッとした回答でしたが、カウンターの中からハイキングマップを出してくれました。確かに軽装の観光客が登山道に入り込んでゴンドラの最終便に間に合わなくなるようなトラブルは避けたいところでしょう。
 もらったマップを見ながら山頂の向こう側に回ってみると、小さな案内表示が。ここが登山口でした。上の写真の右側に急降下していくところです。ところで妻は何をしているかというと、準備体操。これでも精一杯反らせているんだそうです。

 登山口にあった紅葉。植栽のものですが、きれいですね。

 スタート

 11時10分、スタート。せっかくゴンドラで450mまで上がったのに、ここからいったん200mほど下ります。結構な下り坂で、小石が多い歩きにくい道でした。やはり軽装の観光客は入り込んではいけません。

 ハコネトリカブト?

 この時期には花はもう数えるほどしか出会えません。これはトリカブトの仲間。葉の切れ込みの深いところからも、おそらくハコネトリカブトではないかと。

 コセンダングサ

 コセンダングサの花が満開状態でした。頭花の直経1pほどの地味な花ですが、アップで見ると小さな花が寄り集まった賑やかな花です。

 ハキダメギク

 これはハキダメギク。ちょっと気の毒な名前です。でも命名の経緯は立派なもので、植物学の父、牧野翁が東京下町の掃き溜めに咲いていた可憐な花を見つけて名をつけたのだとか。よく見るとポップな花弁の可愛い花です。

 林道に合流

 ずいぶん下ってようやく山腹を巻く林道に出ました。ここからはほぼ水平移動。道はコンクリートの簡易舗装になっています。

 山の西側を行くので道は基本的に日陰。ちょっと肌寒いです。木々の上の部分にのみ日が当たり、そこだけ紅葉が浮き立つように見えていました。

 見上げるとこんな感じ。実際にはバックの青空とのコントラストが鮮やかで美しかったのですが、コンデジ写真では…。そう考えてみると人間の目(というか脳?)ってすごい機能なんだなと思います。

 山道に

 しばらく歩くと山道の入口が現れました。ここから尾根筋までスギ林の中を登って行くことになります。

 薄暗い道を登ること10分弱。尾根道に出ました。こっちは木洩れ陽が差していて気持ちいい。やっぱりこういう道を歩くのはいいですね。心がほぐされていくようです。

 フユイチゴ

 これはフユイチゴ。花は秋に咲き、冬に実を付けるのでフユイチゴと名が付けられたもの。イチゴの名が付くだけあって食べられます。美味です(もっともヘビイチゴなど食べられない(不味い)ものもありますが。)。色の少ない季節にはこんな小さな赤い実でも見かけると嬉しいものです。

 映画にでも出てきそうな風景。この道は昔から人々が行き来した道でしょう。この先に益山寺という古刹があるとのことなので、往時の参詣者もここを通ったことと思います(ネット情報では、ケヤキとイチョウの巨木があるとのこと。今では無人のお寺だそうです。)。

 ハナミョウガ

 ハナミョウガの実を見つけました。薄暗い藪の中でよく目立っています。ちょっと気になるのは、ハナミョウガの実はもう少し楕円形のような気がするのですが。よく似た球形の実を付けるアオノクマタケランというのがありますが(生息地もこの辺りと符合)、ひょっとしたらそれなのかも。ただ、アオノクマタケランは株自体がもっと大型のはず。うーむ…。

 鞍部

 12時20分、発端丈山の手前にある鞍部までやってきました。益山寺へはここを左折します。山頂はここを直進。ここまでは木立の中の道でしたが、ここからはやや急な稜線を登って行きます。明るい広葉樹の森です。

 コウヤボウキ

 コウヤボウキの花。短冊状の花弁がちょうど吹き戻し(丸まったやつをピロピロピローと吹いて伸ばす笛みたいなアレ)を吹いたように伸びて咲いています。キクの仲間です。

 コブシ

 これはまた綺麗に黄葉していますね。コブシです。春先には白い花が満開になるでしょうね。

 急登

 傾斜がどんどん急になっていきます。ようやく山歩きらしくなってきました。人ともほとんど出会わず、静かです。

 ゴンズイ

 これはゴンズイですね。赤い果実が熟して開裂し、中から黒い種子が飛び出しています。これでは鳥は果肉だけを食べてしまって、種子を運んでもらうことはできなくなるんじゃないでしょうか。
 ところで、ゴンズイという名前。魚にも同名のものがいます。でも両者の名前の関連はどうも不明とのこと。 同じようにマンサク、サワラ、アカザ、キハダなども植物と魚とに共通した名前ですね。

 リュウノウギク

 舌状花(白い花弁のような部分)がやややせ細っているようですが、これはリュウノウギクですね。

 アオツヅラフジ

 美味そうに見えるアオツヅラフジの実ですが有毒です(ちなみにバックの黄葉は別の植物。)。植物観察を始めた頃にこの実を見て「自分の知らないものがたくさんあるんだなぁ」と感じたことを何故か今でも覚えています。その頃出会った植物はみなそんな印象と共に記憶されているのです。

 急に傾斜が緩くなりました。山頂部に至ったということでしょうか。

 発端丈山山頂

 12時40分、発端丈山の山頂に到着。なぜか大きなイチョウの木が一本立っていました。

 山頂からの眺め、素晴らしいの一言です。
 富士山の左手には南アルプスが。第2位の標高をもつ北岳から間ノ岳、農鳥岳の白峰三山。そして更に左手には荒川岳、赤石岳、聖岳の山々も。これらが駿河湾越しに一望です。しかし、いつかBSの山番組で紹介していた「日本の美」とも言える風景は、山頂から登山道を反対側に少し下ったところから見えるというのです。お腹も空いていますが、まずはその景色を見に行きます。

 日本人の心

 山頂から歩くこと数分。目の前にはこの景色が広がっていました。日本画をそのまま写真にしたような景色です。駿河湾越しの富士山。長いすそ野。湾の色が濃いのは、その水深の深さからか、それとも黒潮が湾入しているからでしょうか。伊豆が暖かいのはこの暖流のおかげです。 海沿いに御用邸跡。右手には鷲頭山。標高は392mですが、海沿いに聳えているので立派に見えます。手前の島は淡島。まるで庭師が配置したかのようなポジショニングにしばし感動でした。

 景色を堪能して山頂に戻ってみると、妻がシートを敷いて待っていてくれました。

 昼食

 さてお腹も空いているし、ご飯にしましょう。昼食は海老名SAで調達した弁当。左が明太牛たん丼弁当で、右が牛めし弁当。yamanekoは牛めしの方をいただきました。美味でした。暖かかったらもっと美味かったでしょうね。

 ハゼノキ

 ハゼノキの紅葉は深紅。見上げた青空によく映えます。昔は果実から蝋を採るためによく栽培されたのだとか。ここのものは自生っぽかったです。

 葛城山

 谷をはさんで東側には葛城山の山頂部が(ちょっとズームで。)。ロープウエイの山頂駅などの施設が見えています。

 しつこいくらいに富士山の写真を。ススキとともに。

 下山

 昼食後、ひとしきり山頂でまったりしたあとは再び来た道を戻ります。急傾斜では歩幅を小さくしてゆっくりと。

 ヤマノイモ

 鮮やかなツル性の黄葉はヤマノイモの葉。似たような種類がいくつかありますが、葉が対生で付くのがヤマノイモの特徴です。

 カラタチバナ

 赤い実を付け、おめでたい植物とされるカラタチバナ。正月飾りに用いられたりもします。庭木としても人気で、センリョウ(千両)、マンリョウ(万両)に対して「百両」とも呼ばれています。確かに枯れ色一色の冬にあって緑色と赤色のとり合わせは生命力を感じさせ、それをおめでたいものと感じるのには説得力がありますね。ちなみに十両も一両もあり、十両はアリドオシ、一両はヤブコウジだそうです。

 14時35分、葛城山の山頂に戻ってきました。時間もあるので、このボードウォークの先にある「幸せの鐘」を見に行ってみることに。葛城山に登ってきた観光客の多くが訪れるスポットです。両サイドの紅葉がきれいですね。

 ヤクシソウ

 ヤクシソウ、この花を見ると里の秋も深まってきたなと感じます。

 「幸せの鐘」

 山頂部の南端に幸せの鐘はありました。念のため二人でロープを握って振ってみたら、案の定息が合わずにコンとも鳴りませんでした。あらためて一人で振ってみるとカーンと景気のいい音が。

 天城連山

 幸せの鐘のある展望デッキからは、南に天城連山が望めました。写真中央が天城山(万二郎山、万三郎山)、その左に少し離れて遠笠山、さらに少し離れて矢筈山です。

 さて、ロープウエイで下界に下りてきたのは3時半。お土産を物色してミカンと穴子の燻製を購入。 この時間、高速道路の渋滞もひどいでしょうから、一休みしてから帰途につくことにしました。

 それでも高速道路に乗る前から三島市内や沼津市内は夕方の渋滞。 お腹も空いてきたし、沼津ICの手前にある「やぶ」という和食割烹に入って夕食です。今日の目的の一つだった海鮮料理を食しました。ノンアルコールビールにはもの足りなさを感じつつも、料理には満足でした。
 
 帰りの高速道路は、出だしは快調。でも大井松田ICから横浜町田ICまで2時間以上の渋滞にはまってしまいました。交通集中と事故のためだったようです。行楽には絶好の一日でしたからね。人出もハンパなかったのでしょう。家に着いたのは夜10時を回っていました。