四季の森 星野 〜人々の関わりで保たれる自然〜


 

【栃木県 栃木市 令和4年2月26日(土)】
 
 スギ花粉の飛散が本格化してきました。花粉症のyamanekoには厄介な季節ですが、心待ちにしていた春の息吹を感じることができる楽しみな季節でもあります。スプリングエフェメラルと呼ばれる花々が咲き始めるのもこの時期。花粉のことは考えないことにして、出かけることにしました。
 向かったのは、栃木市の北西端、三峰山の麓にある「四季の森 星野」です。ここには14年前に一度来たことがあります。
 
                       
 
 ドリーム号Vに乗り込んで圏央道から東北道へ。栃木ICで高速を下りて県道32号線を約10km走ると現地に到着します。道沿いにある里山の麓といった立地で、アクセス良好。駐車場も無料という親切さです。
 

 四季の里 星野

 午前11時過ぎに現地に到着。写真のとおり道からすぐです。手前の白っぽい樹木の下が緩い斜面になっていて、そこにセツブンソウが自生しているのです。
 道の反対側にある駐車場にドリーム号Vを停め、とりあえず昼食をとることにしました。植物観察はその後です。



 国道から1本裏手に入った旧道沿いに蕎麦屋さんがあり、そこで鴨汁そばを注文。前回来たときもここで食べた記憶がありましたが、はからずもそのとき注文したのも鴨汁そばでした(進歩なし)。この14年でかき揚げのボリュームがアップしたような(前回の鴨汁そば)。

 田虫地蔵

 食後、四季の森に向かう途中にあったお地蔵様。「田虫地蔵」と呼ばれるお地蔵様を中心にいくつかの石碑、石仏が集められ安置されていました。昔の人は農作業の行き帰りに、田畑の虫、蝗(いなご)の退散と疫病予防などを祈ったのだそうです。

 入口

 さて、県道を渡って四季の森へ。入口付近でさっそく黄色の花が出迎えてくれました。

 ソシンロウバイ

 ソシンロウバイです。青空をバックに映えていますね。香りも甘いです。

 セツブンソウ

 おお、あちこちにセツブン草が咲いています。ちょうどいいタイミングだったようです。
 セツブンソウは石灰岩地の樹林内に生える植物で、分布もそう広くはありません。この花を初めて見たのは広島県中部の総領町で、やはり石灰岩台地の広がる場所でした。関東では秩父地方に多く群生地が知られています。



 セツブンソウの花冠の構造はちょっと変わっていて、白い花弁のように見えるものは萼片。本当の花弁は黄色の蜜腺が付いている機関。よく見ると扁平な筒状になっていて先端両側に2個蜜腺が付いているのが分かります。花弁の内側の青紫色のものは雄しべの葯。その中心付近にある薄桃色のものが雌しべになります。雌しべは後に種子を作る機関。花冠はこの雌しべを多重に守るような構造になっているんですね。

 フクジュソウ

 春の訪れを告げる花としてはこのフクジュソウもその一つ。「福」に「寿」という名前には、人々の春を待ちわびる気持ち、春の訪れを喜ぶ気持ちが込められているような気がします。



 散策路のあちこちで可憐な花が迎えてくれました。



 短い花期が終わると種子を作り、初夏には地上部からその姿を消してしまいます。「花の命は短くて」とはいいますが、まさに今がセツブンソウのにとっての晴れ舞台ですね。ただし短期公演です。

 コブシ

 見上げると、コブシの冬芽も心なしか膨らんでいるような。



 中にはこんな賑やかなグループも。楽しくさざめき合っているようです。

 紅梅

 セツブンソウ以外にもたくさんの花に出会いました。例えば、紅梅(品種は分かりません)。



 こちらはマンサクですね。



 里山風景。原っぱの先に国道が走っていて、見えている家々はその向こう側に位置しています。それにしても山肌の斑模様がくっきりしていますね。色が薄い部分は落葉広葉樹林で、葉を落としているのでこんな色に見えています。色が濃い部分はスギなどの植林地。雄花が花粉を飛ばすまでに成熟して赤褐色に見えています。

 ソシンロウバイ

 ソシンロウバイはクリアな黄色。花弁が蝋質の梅というネーミングだけあって、花の付き方は確かにウメに似ていますね。(実際にはウメの仲間ではない)

 マンサク

 マンサクの花弁はクラッカーから飛び出た紙テープのような形。種子を作って世代をつなぐという目的は同じであっても、花の形には様々あるものです。



 散策路は山際に沿った長さ約300m、幅約50mの広さ。地元の団体が管理されているようですが、年間を通じて整備が必要でしょうし、労力とか資金とか大変なのではないでしょうか。無料の公開だし。せめて駐車場くらい有料でもよいのでは。



 ああ、春ですね。「梅切らぬ馬鹿」といいますが、形良く剪定されなくても、花に彩られる姿は春の華やかさを感じさせてくれます。

 ロウバイ

 ロウバイです。花冠の中心部が暗褐色なのは内側の花被片の色。ソシンロウバイに比べてキリッとした印象です。



 これはスイセンの若葉かな。なんか生命力を感じますね。



 左のセツブンソウは萼片が5個でスタンダードな姿ですが、右のは萼片が7個もあります。レアものです。



 午後の光がすこし傾いてきたようです。



 もう少しセツブンソウの姿を目と写真に焼き付けておこうと、散策路をぶらぶら歩きました。



 50年前も、100年前も、もっとずっと昔からこんなふうに咲いていたんでしょうね。



 地上に姿を見せる期間はごくわずかでも、毎年時期が来ると花を付け、種子を作り、翌年につないでいく。そしてまた時期が来ると花を付ける。この花を愛でる存在(人間)が現れる前からこのサイクルで営々と生をつないできたんですね。

 カワラヒワ

 午後2時前、四季の森を離れ、川沿いの公園にやって来ました。木々の先端でカワラヒワがさえずっていました。「ねえ、あなたいつ旅立つの?」「ワタシ? ワタシは実家(繁殖地)が東北だからもうちょっとこっちで休んでからにするわ。」「そう。ワタシ北海道だから先に行くわね。じゃ、また来年。」とか言っていたりして。



 今日は早春の使者をたっぷり鑑賞することができました。
 四季の里星野。この里山の環境は地元の人々の手が入ることによって維持されているのだと思います。昔は柴刈りとか間伐とか、生活の中での関与だったでしょうが、現在はこの環境を維持しようという意思によってなされるところも大きいでしょう。その想いが様々な花をより輝かせているように思いました。
 
 ところで花粉は? やっぱり鼻腔が腫れぼったいですが、セツブンソウを始め多くの花に会えたのでよしとしましょう。