榛名外輪山 ~新緑の尾根歩き(後編)~


 

 (後編)

【群馬県 高崎市 平成23年5月21日(土)】

 日本には気象庁が定義する活火山が108あります(6月7日、2つ追加されて110になったそうです。)。関東地方には群馬県と栃木県に7つあり、榛名山はそのうちの一つ。火山としての榛名山については、気象庁のHPに概ね次のような解説があります。
 榛名山は底面の直径約20㎞の大型の成層火山。頂部に、径2㎞×3㎞の小型のカルデラがあり、数個の溶岩ドームがあります。活動史は複雑で、主体となる成層火山の形成後(50万年から30万年前)、山体の破壊・再構築、数回の火砕流の流出、2回のカルデラ形成などが起きたそうです。溶岩ドームはカルデラ中央の榛名富士のほか、主山体の東斜面にかけて東西方向に数個あり、その最新のものが6世紀の噴火でできた二ツ岳だそうです。


Kashmir 3D

 さて、松之沢峠に向かう車道を渡ったところから後編の始まりです。(前編はこちら

 

 12時30分、車道を離れてまた上りにかかります。これまたベタな階段ですね。

 ヤマツツジ

 路傍のヤマツツジはまだ蕾。でももうすぐほころびはじめるでしょう。

 サラサドウダン

 こちらの小さな蕾はサラサドウダンです。さすがはツツジの山ですね。

 カルデラ内

 コース上で唯一カルデラ内が見渡せるポイントにやってきました。榛名湖の奥にあるのが掃部ヶ岳で、左が天目山です。

 

 火山活動が激しかっただけあって奇異な形をした山があちこちにあります。正面の山(名前不明)との間が松之沢峠で、県道28号線が通っています。

 フデリンドウ

 明るい日向を好むフデリンドウ。ちょっと乾燥気味で元気が足りないようでした。

 相馬山

 相馬山がぐっと近づいてきました。もうすぐ行くから待っててけろー。

 ツクバキンモンソウ

 一見ニシキゴロモに似ていますが、花冠の上唇の大きさがポイント。一般にニシキゴロモの花は桃色でツクバキンモンソウは白色なのですが、シロバナニシキゴロモというのもあるので、花の色だけでは決められません。葉の主脈に沿って紫色になるのは両者とも同じです。

 

 登山道は明るい尾根道から林の中に入ってきました。なんだかゴツゴツした岩がむき出しになっています。この付近に磨墨岩(するすいわ)という巨岩があり、コース上のビューポイントにもなっています。写真の岩も巨大ですが、磨墨岩はこんなものではありませんでした。

 フモトスミレ

 小さいですが端正な顔立ちのフモトスミレ。見た目、陶磁器のような質感です。

 磨墨岩

 再び開けた場所に出て振り返ると、磨墨岩の全貌が。岩自体の高さは10mくらいでしょうか。それが小ピークの上に乗っているので、高度感がすごいそうです(yamanekoは登っていません、もちろん。)。「磨墨(するす)」とはこの辺りで「臼」のことを指すのだそうで、形が臼に似ているから磨墨岩なのだそうです。
 ここまでは磨墨岩の右下の樹林の中を通って来ました。写真奥にこんもりとした先ほどの名前不明の山。その遙か向こうで裾野を広げているのは三ツ峰山です。

 

 磨墨岩に別れを告げて、稜線の西側山腹をどんどん上っていきます。

 

 やがて道が稜線に達したところで朱色の鳥居が見えてきました。
 これは相馬山山頂にある黒髪山神社の参道の鳥居。参道と言ってもかなり厳しい登山道ですが。さらに鳥居には「東日本大震災により危険箇所があると思われます。登山参拝にはご注意ください。」との注意書きが。うーむ、「思われます」って、未確認箇所もあるってことか?

 

 1時20分、鳥居をくぐり相馬山に向かいます。いきなりの急登でゼーゼーいわされました。

 

 こんな梯子場も数箇所ありました。ストックが邪魔になるので、ザックに縛り付け、両手をフリーにして登ります。

 

 鎖場も何箇所かあり、更に急な岩場を進みます。ところどころに錆びた鳥居がありました。信仰の力ってのはすごいですね。昔の人もこの岩場を登ったのでしょうから。

 山頂近し。

 肩で息をしながら昇っていきます。 おや、少し傾斜が緩んできました。山頂が近いのか。

 1時45分、相馬山の山頂に到着しました。標高は1411m。きつい上りでした。プレハブのように見えるのは黒髪山神社。神社は南を向いていて、そちらから見るとちゃんとした神社でした。右の写真の石垣の上には石灯籠や石碑があったようですが、多くは下に落ちて割れたりしていました。割れた断面が新しかったので、おそらく3月の地震で倒れたのではないかと思われます。
 神社の縁起によると「黒髪」とは「闇龗神(くらおかみのかみ)」から転訛したものとされていました。「闇龗神」は「高龗神(たかおかみのかみ)」と共に水を司る龍神のことで、遠く麓から相馬山を見上げたときに、この山から立ち昇る黒雲がたちまちにして雷鳴を発し恵みの雨をもたらしてくれることから、闇龗神がおわす処として信仰されたことによるのだそうです。ちなみに、「闇」は深い谷を、「高」は険しい山を意味するのだそうで、両神は対の、または同一のものと考えられているようです。
 山頂には10人くらいの先客がいました。中にはイヌ連れで登ってきている人も。社殿の中にイヌも上げて一緒に休憩しているのを見てギョッとしましたが、室内犬だったら飼い主さんも違和感がないのかもしれません。闇龗神のバチが当たらなければ良いですが。

 

 神社からは南を中心とした180度の展望が開けていました。上の写真は神社を背にして立って右の方、すなわち西方向を見たところです。春霞でぼやけていますが、榛名山の外輪山から麓にかけてなだらかに下る稜線が、墨絵のように見えていました。

 ヤセオネ峠へ

 山頂では長居をせずにさっさと下りてきました。下りは上りより危険なので、より慎重に。そして2時5分、朱色の鳥居のところまで戻ってきました。ふぅ~、やれやれです。
 ここからはヤセオネ峠を目指して森の中を下っていきます。

 ヤセオネ峠

 2時25分、ヤセオネ峠に出ました。この道は、今朝、バスで向こうから上ってきた道です。
 yamaneko達はここから50m先を右手に入って、再び山道へ。この峠でカルデラにおさらばして、外輪山の外側を伊香保温泉に向かって下りていきます。

 ヒゲネワチガイソウ

 ヒゲネワチガイソウがありました。ここまででも既に花弁が枯れてしまった株はいくつか見かけましたが、この株はまだ生き生きしています。普通のワチガイソウと比べると、花弁も葉も幅が狭いです。また、花冠に近い2対の葉が接近して付いているのも特徴です。

 ミヤマハコベ

 ヒゲネワチガイソウの仲間、同じナデシコ科のミヤマハコベです。花弁は10個あるように見えますが、1個の花弁が深く裂けてるため、5個でも10個あるように見えるのです。確かに派手に見せる効果はあるようですね。

 

 この辺りは明るいマツ林。道も歩きやすいです。

 

 右手には二ツ岳。もっとも最近(といっても飛鳥時代)に噴火してできた山です。

 

 二ツ岳からの噴出物と思われる岩がごろごろ。苔と腐葉土に覆われ、いい感じの林を作っています。下り道だし、気持ちのいい山歩きです。

 シロバナエンレイソウ

 エンレイソウを見ると深山に来たなと感じますね。

 車道へ

 標高差にして180mくらい下ったところで車道に出ました。ここは右手に折れて100mばかり車道を歩き、その先でまた左手の森の中に入っていきます。

 ハナイカダ

 ハナイカダです。まだ蕾が寄り集まっている状態ですね。しばらくすると葉の中央で花が咲き、まるで筏に乗っているようになります。ハナイカダは雌雄異株で、写真のものは雄の木です。雄の場合は花は複数付きますが、雌の木の場合は1個だけ、なのでハナイカダの実を見かけるといつも一枚の葉に1個だけです。

 ツクバネウツギ

 ヤセオネ峠からさきほどの車道に出るまでの山道は、二ツ岳の噴出物で作られたなだらかなスロープの上を通っていましたが、車道からさらに下る道は、そのスロープが深く浸食された谷の道。道の上にはこぶし大の石がごろごろしています。
 写真はツクバネウツギ。必ず下向きに咲いていますが、そんな恥ずかしがり屋の割にはのぞき込むとオレンジ色の網目模様がきれいです。

 崩落箇所

 この山道には何箇所も砂防工事がされていました。ところがどの砂防ネットも崩れてきた石で満杯になっていて、写真のようにあふれている箇所も少なくありませんでした。当然あふれた石は山道を覆っています。石はみんな新しかったので、これはきっと3月の地震で崩れたものだと思います。ちょうど上の写真の箇所を通過しているときに、妻が突然走り出し、その直後に斜面の上の方から石が数個転がり落ちてきて、山道でバウンドし、さらに谷の下の方に落ちていきました。危うく妻を直撃するところでした。妻いわく「上の方でカラカランと転がる音がして、慌てて走った」とのこと。立ち止まって見上げていたりしたら危なかったかもしれません。冷や汗が出るようでした。すぐに時刻を確認したら3時25分のこと。帰宅後、ネットで地震情報を調べてみたら、同時刻に滋賀県を震源とする地震があったようで、ひょっとしたらその揺れがわずかに届いたのかもしれません。いや、ただ偶然に落ちてきただけかもしれませんが。いずれにしても、落石の怖さを身にしみて感じました。

 茶色の川

 ほうほうのていで下っていくと、しばらくして谷底に茶色の水の川が見えてきました。明らかに温泉成分の含まれた川のようです。このすぐ下流に伊香保の温泉街があるのです。

 

 3時35分、温泉街の最上部に下りてきました。無事下山できてやれやれです。ここから駐車場までは1㎞ほどです。

 

 3時55分、駐車場に到着しました。今回の野山歩きはここで終了です。リュックを下ろし、車内から入浴セットを取り出して、これからはお楽しみの温泉へ。
 伊香保温泉といえば石段の温泉街が有名ですが、その石段の入口辺りにある市営の温泉、その名も「石段の湯」へ行きました。駐車場の管理人さんお勧めの温泉です(路地を抜ける近道も教えてくれました。)。

 子持山

 温泉で2時間。身も心もほんわかとして、湯上がりに温泉街をひやかして、土産に温泉饅頭(ここが温泉饅頭の発祥の地といわれている。)をゲットし、ぶらりぶらりと駐車場まで戻ってきました。そろそろ夕暮れ。榛名山の北側にある子持山も薄いシルエットになっていました。
 (帰りの関越道は目立った渋滞もなく、楽に帰宅できてラッキーでした。)