二ヶ城山 〜まず咲く花に逢いに行く〜


 

【広島市東区・安佐北区 平成17年2月26日(土)】
 
 風邪が流行っています。yamanekoも先週末はインフルエンザと格闘していたので結局どこにも行かずじまい。今週末は多少天気が悪くてもどっか行きたいな、と思っていたら、朝から雪がちらついているではありませんか。
 軽く眉間にしシワを寄せながらも、山歩きの準備が完了。今日は市内の東区と安佐北区との間にある二ヶ城山(ふたつがじょうざん)に行くことにしました。先月歩いた木宗山の隣の山です。

 二ヶ城山
 (安佐北区落合南地区から)

 天気予報では今日は冬型の気圧配置が強まるとのこと。確かに気温は低い。雲が速いスピードで動いていて、そのたびに日が陰ったり日が差したり、雪が舞ったりしています。
 11時、登山口に到着。山陽自動車道のすぐ脇なので、車の通る音がよく聞こえます。つい最近、広島市内の高速道路の橋の上からブロックを落とす悪質な事件があったばかりなので、折しもスーパーカブに乗ったお巡りさんが見回りに来ていました。

 山陽道(岩上橋から)

 登山口から林道をまっすぐ登って行きます。両側は竹林とササ。風が通り抜けるたびにザワザワと音がしています。
 しばらく歩くと沢の音が聞こえてきました。流れは細いけど水量は豊富です。このあたりからヒサカキ、アセビ、アラカシ、リョウブなどが混じったアカマツの疎林に変わってきました。木漏れ日が道に明るい光を落としています。

 登山道への分岐

 11時半、登山道への分岐点に到着。東区のボランティアの方が設置した案内標識があるので迷うことはありません。傾斜は緩やかですがうっすらと汗をかいてきました。
 
 沢を左手に見ながら細い登山道を登っていきます。
 古い堰堤の周りにアテツマンサクが咲いていました。4年ぶりの再会です。以前よりも花の数が増えたように感じられ、少しホッとしました。「アテツ」とは、岡山県北西部の阿哲郡のあたりを意味する言葉です。

 アテツマンサク

 マンサクの木肌は白く、細く、根元から株立ちになって伸びています。そして、先端の方に淡い黄色の花をまばらにつけている。その姿は決して逞しくなく、また豪奢でもありませんが、春まだ浅い森の中でこれに出会うと、やはりしばらく足を止めて見上げてしまうのです。この木に逢うのが今日の目当ての一つでもありました。
 
 また雪が舞ってきました。空気はピンと張りつめて現実に冷たいのですが、足下の沢の音が体感温度を一層低くしている感じがします。

 急登

 登山道は沢筋を離れ、山肌を一気に登りはじめました。ときおり足を止めて息を整えます。聞こえるのは呼吸の音のみ。遠くで飛行機の音がくぐもったように聞こえるだけで、それも過ぎ去ってしまうとまた静かな世界の中にひとり自分がいます。

 稜線に出ました。大きな高圧電線の鉄塔のふもとです。
 北西方向を中心としたワイドな眺望。左から、新興住宅地を囲む丸山、火山、武田山。その向こうには、大峰山、東郷山、ずっと奥に雪にけむって天上山。手前に岳山、その手前に荒谷山、野登呂山。最前列に権現山とそれに並んで阿武山。両者の鞍部の向こうには久地冠山が覗いています。阿武山の右手には太田川を挟んで福王寺山、その向こうの堂床山は雪のカーテンに覆われています。さらに右奥には可部冠山が見えます。
 太田川が阿武山の山塊の裏側から大きく回り込んで、眼下の平野部を右から左へと縦断して流れています。

 尾根筋の道

 尾根筋の道は明るいのですが、稜線を越えていく風が体を冷やします。
 さっきまでくっきりと見えていた荒谷山が雪のカーテンに覆われてきました。雪雲がだんだんと北西から近づいてきています。このぶんだと2、30分もすると二ヶ城山に雪雲が到着するでしょう。

 広島湾に浮かぶ宮島

 広島湾にぽっかりと宮島が浮かんでいます。雲の隙間から光のベールが差し込んで宮島の島影を照らすとき、あぁ古代の人々はこの姿を見て宮島を神の島として祀ったのかもしれない、とも思えてきます。

 ヒメヤシャブシ  タカノツメ(冬芽)

 12時半、山頂に到着。思ったとおり誰もいません。
 山頂は決して広くはなく、大きな岩がいくつも寄り集まっています。戦国時代に狼煙を上げた場所なのかもしれません。名前のとおりここには山城があったのでしょう。でも「二ヶ城」があるのなら近くに「一ヶ城」があってもよいのでは、と思ったのですが、地図で調べてもどうもないようです。

 山頂

 山頂からの展望は南南西から北東まで。南には広島湾の島々、東には呉娑々宇山がどっしりと、北東には先月登った木宗山が臨めます。

 【北東】木宗山(手前)と高鉢山(奥)  【南】広島湾の向こうに江田島

 一息ついたところで昼食。案の定雪降る中での昼食となりました。足下から寒気がはい上がってくるようです。でも食べ終わる頃には雪雲は呉娑々宇山に移って、二ヶ城山の上空には青空が覗いていました。 それにしても今日の天気は猫の目のようです。

 ソヨゴの「黄葉」

 あちこちでソヨゴの葉が「黄葉」していました。常緑樹もクスノキなどに見られるように落葉間際にわずかに紅葉するものがあります。でも常緑樹の落葉は新しい葉が展開してからのはず。それ故の「常緑」なのですから。ということはこの黄色く変色するのはどういうこと?
 調べてみると、ソヨゴの葉は乾燥すると褐色になりやすいのだとか。気温が下がると空気は乾燥するので、急激な冷え込みで変色したのかもしれません。それにしてもみごとな黄色です。
 
 1時、下山を開始します。もっとゆっくりしたかったのですが、いかんせん寒い! とりあえず体を動かしたいのです。

 まず咲く花

 登るときには気がつかなかったところにも何箇所かマンサクの木をみつけました。早春、他の花に先駆けて咲くことから、「まず咲く」が訛って「マンサク」となったといいます。この花を見ると春は遠くないと教えられます。

 安佐北区落合南地区  拡大写真

 下る途中、今朝、二ヶ城山の姿を写真に撮った場所を展望することができる場所がありました。このページの最初の写真です。
 何時間か前、あそこからここを見ていたのかと思うと、それ自体はなんてことはないのですが、タイムスリップというかすこし過去の自分を見ているような気がしてなんか変な感じです。

 1時50分、登山口の駐車場に到着しました。日差しのおかげで車内はポカポカに暖まっています。とりあえずラジオを聞きながらまったりとして、それから家路につくことにしました。
 やっぱり野山はいいなぁ。