多摩丘陵でフットパス 〜よこやまの道(後編)〜


 

 「よこやまの道」(後編)

【東京都 多摩市 令和2年8月2日(日)】
 
 いにしえに防人たちが歩いたという多摩の横山。その跡に設けられた「よこやまの道」を辿る野山歩きの後編です。 (前編はこちら
 
                       
 
 前回歩いたのは梅雨真っ只中(でも梅雨の晴れ間)の6月20日。それから一月半経ってようやく昨日梅雨が明けたので、続きを歩くことにしました。ギラギラの陽射しの下、熱中症には要注意です。
 

 Kashmir3D

 今日のルートは、前回ゴールとした一本杉公園から。一本杉公園はよこやまの道のちょうど中間地点です。そこから多摩の横山の稜線部をたどり、最後は丘の上広場まで。京王線、小田急線が並行して多摩の横山をくぐる辺りにあります。歩き終えた後は若葉台駅から電車で戻ってくるというものです。

 一本杉公園

 多摩センター駅からバスで向かいました。降りたバス停の名前は「一本杉公園」でしたが、スタート地点となる公園入口までは結構歩かされました。
 さあスタートです。時刻は11時30分。たまたま前回と同じ時刻のスタートとなりました。



 スタートしていきなり森の中に入って行きます。この道は通称「鎌倉裏街道」と呼ばれていて、この奥にある杉並木からここに古道があったことが分かったとのことです。関戸の渡しから乞田を通って横山の尾根を越え小野路へと続く鎌倉街道に対して、その約500m西側を並行するように延びるのがこの鎌倉裏街道。関戸の関所を通るのを避ける道だったともいわれています。

 鎌倉裏街道

 石畳が敷いてあります。歴史を感じさせますね。江戸時代には、日野往還とか小野路道とか呼ばれ、土方歳三や沖田総司も日野宿から多摩川を渡り、この鎌倉裏街道を歩いて小野路に出稽古に通っていたそうです。



 階段が現れました。古道を離れ、ここから下って行きます。

 階段を下りるとこんな感じのところに出ました。長閑な風景ですね。多摩の原風景といった佇まいです。左手の森の向こうが一段高くなっていて、そこが一本杉公園になっています。

 ツユクサ

 一日花のツユクサ。早朝に咲き、朝露の似合う花ですが、この時間でもまだ瑞々しいものもいました。

 再び一本杉公園

 畑の脇を30mほど進んでから左手に階段を登り、一本杉公園内に戻ってきました。ここは古民家などが移設展示されている庭園風のエリアです。



 涼しげな池もありました。

 歌碑

 ここに万葉集で唯一「多摩の横山」を詠んだ歌の碑がありました。「赤駒を山野に放し捕りかにて 多摩の横山徒歩ゆか遣らむ」 詠んだのは宇遅部黒女(うぢべのくろめ)という女性で、防人として長旅に出る夫を想って詠んだものとのこと(歌の意味は前編参照)。歴史上まったくの無名の女性の歌が千数百年後の世に伝わっていることに、小さな感動。本人はこんなことになるとまったく想っていなかったでしょうね。

 恵泉学園

 一本杉公園から通りに出ました。今日のスタート地点だったところから続いている通りです。右手には恵泉女学園大学が。学生にとって通学がなかなか大変そうな立地です。

 ムクゲ

 街路樹のムクゲ。夏の花ですね。

 妙櫻寺

 坂道を下りきるとなにやら立派なお寺が。石柱に「南無妙法蓮華経」と御題目が刻まれているところをみると日蓮宗のお寺ですね。よこやまの道はこのお寺の手前から裏手の丘に上がっていくようになっていました。

 丘の上へ

 それらしい雰囲気の小道になりました。木陰もあって助かります。

 オオマツヨイグサ

 オオマツヨイグサ。夜に咲く花ですが青空バックでも絵になりますね。

 クヌギ

 クヌギには若い実が付いていました。そういえばシイやカシなどのドングリは食べられるという話はよく聞きますが、クヌギの実を食べたという話はあまり聞きません。どうやらアクが強く、少なくとも生では食べるのは難しいようです。これはクヌギと同じコナラ属のコナラやミズナラなども同様だそうです。一方、スダジイなどは煎って食べると美味しいです。yamanekoも子供の頃、おばあちゃんが焙烙で煎ってくれたのをおやつに食べていました。

 「ん、なんか用か?」

 そのクヌギの木で目があったハラビロカマキリ。「邪魔すんなよ、忙しいんだから」とか言っていそうです。

 ヤマハギ

 梅雨明けしたばかりですが、早くも秋の気配が。ヤマハギですね。



 木立の向こうにまた道路が見えてきました。そこに向かって下りていきます。



 道路に出るといきなり立派な橋。といっても橋の下には川ではなく鎌倉街道が通っています。防人達が通った時代にはここは稜線が切れ込んだ峠だったでしょうね。

 鎌倉街道

 この峠を南に下れば町田市野津田、北に下れば多摩市乞田に至ります。

 トウネズミモチ

 橋を渡ってそのまま行けば強制的に東京卸売市場の構内に入ってしまうので 、その手前で右に折れて丘の上に上って行きます。
 これは路傍のトウネズミモチ。まだ若い実です。

 クロガネモチ

 こちらはクロガネモチの若い実。熟すと丸く太り、濃い朱色になります。

 ヘクソカズラ

 路傍には様々な花が誰に愛でられることもなくひっそりと咲いています。このヘクソカズラもそう。ツル性で垣根とかに絡みつくのでほとんど厄介者扱いです。よく見るとヨーロッパ辺りのアンティーク装飾のようでもあるのですが。

 ヤマユリ

 このヤマユリなどはその大きさといい華麗さといいどこぞの庭園に植えても十分鑑賞に耐え得るレベル。

 シラカシ

 シラカシの実です。今は1cmにも満たない大きさですが、秋には立派なドングリになります。シイやカシなどブナ科の植物には結実した年の秋に熟すものと翌年の秋に熟すものとがあります。何か戦略の違いなのでしょうか。



 古道五差路との標識です。付近には鎌倉時代から南北朝時代にかけての関所跡や戦場跡など歴史の伝承地がいくつもあるそうです。



 歩きやすい、そして心地のいい小道になりました。セミの声の中を歩いて行きます。他にも散策する人もちらほらいました。

 イチモンジカメノコハムシ

 イチモンジカメノコハムシ。漢字では「一文字亀甲羽虫」です。この虫の面白いところは伏せた透明な皿のようなものの下に体が格納されているということ。外敵から身を守るためかもしれませんが、透明である必要はあるのでしょうか。ムラサキシキブの仲間の葉を好んで食べ、一株丸々穴だらけにします。

 陸上トラック

 小道の右手に国士舘大学のグラウンドが見えました。左手には野球場があるのか、歓声が聞こえてきています。

 オオブタクサ

 これはオオブタクサの葉です。形といい大きさといいグローブのようです。秋の花粉症のアレルゲンとして有名ですね。

 国士舘大学

 国士舘大学の校舎の裏手を歩いて行きます。



 木陰を歩くのは気持ちいいのですが、蚊に食われてしまって、爪で×したところに汗が滲みてヒリヒリでした。

 防人見返りの峠

 視界が開け、その先に展望台が見えました。右側の森の縁沿いに回り込むようにして道が延びています。上り坂ですがとりあえずそこまで頑張りましょう。手前の施設は学校給食センターです。



 あと少し。吐く息も熱い。汗が吹き出します。

 防人見返りの峠

 展望台に到着。「防人見返りの峠」です。西から北にかけて展望が開けています。



 多摩ニュータウンが一望。遠く丹沢や奥多摩の山並みも見えます。空気が澄んでいれば富士山も望めるでしょう。写真中央奥の高いビルは多摩センターにあるベネッセのビルですね。

 昼食

 時刻は1時20分。ちょっと遅めですがここで昼食としました。おむすびにかぶりつく妻の図です。



 もちろんこの展望台は近年に整備されたものですが、防人達が本当にここから故郷を妻を振り返ったかとなると、正直疑問です。なぜならここは横山の稜線から外れていて、数十m背後に別途尾根道があるからです。そもそもここから振り返ってもその稜線に遮られて故郷武蔵の国はおろか麓の集落すら見えないのですから。
 ここは尾根幹道路の歩道から階段を付けやすい場所なので、あくまでも地域の歴史紹介を兼ねた公園整備の一環としての展望峠ということではないでしょうか。でも、写真のとおり眺めがいいのは間違いありません。



 展望台を後にして丘を下り、耕作地の脇を歩いていきます。

 キハダ

 この特徴的な葉は? 幹の様子とかも併せて考えた結果、キハダと認定しました。多分。



 また丘を上がり、多摩の横山の稜線に戻ってきました。ここは小道の交差点になっていて、4月の野山歩きでもこの地を通りました。そのときは奥から来て右手に折れましたが、今回は逆(手前)から来て左手に向かいます。

 諏訪ヶ岳

  交差点を過ぎてしばらく行くと丘のピークに至りました。ピークであることすら分からないくらいの地形ですが、ちゃんと「諏訪ヶ岳」という立派な名前がありました。三角点もあり、標高は144mです。

 はるひ野

 諏訪ヶ岳を過ぎると道はなだらかな下りとなります。やがて右手の木立の間から住宅地が見えました。はるひ野団地です。

 小田急多摩線

 すぐ近くに多摩の横山をトンネルで貫いて小田急多摩線が通っています(線路沿いの木立の向こう側には京王線も通っています。)。写真のすぐ先がはるひ野駅になります。

 マメコガネ

 これはマメコガネですね。日本在来種の甲虫だそうです。アメリカではジャパニーズ・ビートルと呼ばれ、農産物に大きなダメージを与える害虫だそうです。

 丘の上広場

 おお、丘の上広場が見えてきました。いよいよゴールです。



 2時5分、よこやまの道の東側の起点に到着しました。暑かった。前回分も合わせて約10km。「よこやまの道」を歩き通しました。この道は開発されたエリアと自然の残されたエリアとの境界上に延びていて、いろんな発見がありました。暑かったけど、楽しい野山歩きでした。
 
 さて、ここから若葉台駅までは1kmちょっと。もう一汗かく必要があります。