堂所山 〜奥高尾縦走路で花粉浴(前編)〜


 

 (前編)

【東京都 八王子市 令和6年3月22日(金)】
 
 飛んでいます。花粉が、大量に。朝の天気予報で流れる花粉の飛散マップを見るだけでも目が痒くなってきます。それをわざわざ山に出かけるとなるとどんなことになるか。毎年そう考えるのですが、やっぱり春の足音を聞くこの時期になると野山に足が向いてしまいます。
 今回登るのは、東京と神奈川の都県境に位置する堂所山(731m)。高尾山から北西に延びる奥高尾縦走路上にある山です。登山道沿いには植林された杉林が続いているので、今日は森林浴ならぬ花粉浴になりそうです。
 
                       
 
 午前9時過ぎ、自宅を出発。JR横浜線から八王子を経由して中央線の高尾駅で下車しました。ここからはバスです。京王バスの小仏行きは民家も途切れた谷間のどん詰まりに向かう路線ですが、バス乗り場に行ってみるとびっくりするような長蛇の列。他にも近隣の団地などに向かう路線もあるのですが、小仏行きの乗り場だけ異様な数の人がバスを待っていました。ラッキーなことにyamanekoは最後から2つ目の空席に座れましたが、出発時には通路はもちろんドアの開閉スペースまでギュウギュウの混雑ぶり。都心の通勤電車かというくらい混み合っていました。これが週末とかだったら同時刻発の臨時便が用意され2台連なって出発したりするのですが、この日は乗り切れず次の便(1時間後!)の列に並ぶ人もいたほどでした。平日なのに。

 小仏バス停

 10時半過ぎ、終点の小仏バス停に到着しました。乗車していた人のほとんどはここで下車した模様。そしてものの10分もしないうちに誰もいなくなりました。さっさと出発したようです。みんな準備運動とかしないで大丈夫なのか。
 ところで、写真右上に見えているのは中央道の車線増設工事の現場。渋滞対策として掘られている新小仏トンネルに向かう新しい道路です。小仏トンネルといえば休日には通過に2時間以上かかるのはあたりまえという最悪の渋滞ポイント。これまでは上下4車線のトンネルでしたが、もうじき上り線に新しいトンネルができます。

 Kashmir3D

 今日のコースは、小仏バス停から更に奥に向かって延びる車道を歩き、そのまま山道へ。そこから小仏峠に向かって一気に高度を上げ、峠に出たら北に向かって稜線を歩きます。山頂に茶屋のある景信山を通過し、陣馬山に至る稜線を歩いて堂所山へ。復路は来た道を戻ります。

 白梅

 10時45分、yamanekoも出発しました。左手に小川を見ながら歩いていきます。対岸から伸びるウメの枝。3月も下旬ですがまだいきいきと咲いていました。

 フサザクラ

 これも対岸から伸びているフサザクラ。早春の花ですね。今まさに満開です。フサザクラの花には花弁はなく、細く束になっているのは雄しべです。

 アブラチャン

 アブラチャンの花も今が盛りのようでした。木全体に脂分が多く、材はよく燃えるそうです。クスノキの仲間で、よく似るものにダンコウバイがありますが、アブラチャンの花序には短いながらも柄があり、一方ダンコウバイの花序には柄はなく枝に直に付いています。分かりやすい見分けポイントです。

 セツブンソウ

 花の時期を終えたセツブンソウに果実ができつつありました。子孫をつなぐため、これからが植物にとって重要な時期ですね。



 渓流の岩の上でミソサザイがさえずっていました。上に向けた尻尾を細かく震わせて、小さな体に見合わないほどの声量でした。(残念ながら写真には撮れず。)



 車道はヘアピンカーブを連ねて高度を上げていきます。写真右手の崖を上っていく道は、小仏峠を経由せずにショートカットで景信山に向かう道。距離が短い分平均斜度は若干大きいはずです。ここはyamanekoは直進です。

 車道終点

 登り始めて20分。車道の終点までやってきました。ここからは登山道です。とはいえここまでの車道もこれからの登山道も同じ都道516号線なんですがね。



 森の入口には車止め。ここで立ち止まって靴の紐を締め直しました。さああらためてスタートです。

 ヨゴレネコノメ

 道沿いに何かないかなと探してみると、ありました。これはネコノメソウの仲間、ヨゴレネコノメです。日陰でも苦にしないタイプですね。白っぽい萼が目立ちますが、特徴的なのはその一段下側にあって水平に伸びる葉の方。名前の元となっている汚れのような斑文が入っています。



 スギやヒノキの植林地の中を歩いていきます。目には見えませんが花粉の濃度が高そう。腐海の中を行くナウシカの気分です。

 水場

 水場が現れました。神社の手水舎くらいの水量があり、コップをかけるようなフックもあります。利用者がそこそこいるのかな。

 ユリワサビ

 ユリワサビの花が咲いていました。ワサビ同様、山地の湿った礫地を好む植物です。何がユリなのかというと、根茎の先がユリの根に似るからだとか。ただ、それは東北地方に分布するこの花の変種に見られる特徴なのだとか。ということはユリワサビの名はまず東北地方で変種の方に対して名付けられ、それを基本種が乗っ取って標準和名にしたということでしょうかね。地上部だけ見るとよく似ているので、ひっくるめてユリワサビと呼んでいたのかも。植物の名前の付け方に興味のあるyamanekoとしてはなんか気になります。



 少しずつ標高を上げていきます。木漏れ日の下を歩く気持ちの良さ。深呼吸したくなります。そこがスギ林の中であっても。

 ニリンソウ

 これはニリンソウの葉ですね。花茎はまだ伸び出していないようです。

 アケボノスミレ

 スミレはみんな同じに見えて苦手ですが、これはアオイスミレだと思います。新しい葉は両側がくるっと巻いて出てくる特徴があり、あと全体に毛が多いところや双葉葵に似る葉の形で判断しました。



 警告板が現れました。「道路をみだりに損傷、汚損したり、道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為をすることは、道路法で禁止されています。」と記されていて、その下に「高尾警察署」と「東京都南多摩西部建設事務所」と書かれていました。見た目登山道でもここが都道516号線であることは先程書きましたが、ここにこの警告板を立てる必要性があるのか首をかしげました。ひょっとしてユーモアのつもり?

 峠に到着

 11時40分、標高548mの小仏峠に到着しました。結構広い場所になっていて、ベンチで休憩しているグループもいました。



 展望の開けているところから来た道の方を眺めてみました。遥か向こうに関東平野が広がっているのが見えます。方角としては埼玉南部方面か。その昔、峠越えをする人々も汗を拭き拭きこの風景を眺めたでしょうね。
 眼下の谷にはJRの中央本線と高速の中央道が通っていて、いずれも小仏峠の下をトンネルでパスしていきます。その谷を登り小仏峠を越える道が昔の甲州街道。今登ってきた道です。現在の甲州街道は国道20号線のことをいい、高尾駅の西側で旧甲州街道(都道516号線)と分かれ、この小仏峠の南約2kmのところにある大垂水峠を越えていきます。

 ネコノメソウ

 何かないかなと見回してみると、マルバネコノメを見つけました。さっきのヨゴレネコノメの仲間です。

 小仏峠

 峠の広場。yamanekoは右奥から峠に上がってきました。稜線は写真手前から左奥に向かって延びていて、これからそちらの森に入っていきます。



 広場の先はすぐに急な登り坂。息が上がります。

 テイカカヅラ

 テイカカヅラが古い切り株を覆っていました。常緑ツル性の樹木です。

 霜柱

 今日は朝から晴天ですが、暖かいといった気温ではなく、足元には霜柱が立っていました。土もカチカチになっていて、まるで舗装路を歩いている感触です。



 延々と登り坂が続きます。杉林の中は見られる植物の種類が少なく、単調です。

 景信山

 通過ポイントの景信山が見えてきました。山頂には茶屋もあり、休日には登山者で特に賑わうところです。

 キブシ

 まだ花序が伸び始めのキブシ。見たところ雄花序のようです。

 クロモジ

 これはクロモジ。冬芽がほころび始めています。今日歩き始めの沢沿いでは木々は開花の時期を迎えていましたが、そこより400m弱標高を上げたこの稜線ではようやく目覚め始めたところといった感じです。

 小仏層

 頭上が開けてきました。この赤っぽい土は「小仏層」と呼ばれる地層で、約1億年前に海底に堆積したものだそう。長い時間をかけてその地層が乗っかっている基盤のプレートごと移動し、やがて大陸にぶつかってきて大陸側の縁に押し付けられ盛り上がったものだそうです(プレートはそのまま大陸の下に潜り込む)。元々硬い岩盤だったものが長年の風化により細かい土になっているとのことです。確かに武蔵野台地で見られるような火山噴火由来の黒っぽい土とは異なります。



 景信山手前の最後のひと上り。登り切ると展望台があるようです。

 景信山山頂

 12時35分、景信山の山頂に到着しました。そこには平らなスペースがあって、その奥の一段高いところに茶屋があります。今日は平日なので開店していませんが、天気の良い週末には手前のこのスペースも人で賑やかになります。

 展望台

 そして振り返ると展望台が。なんとも眺めの良さそうな展望台です。

 南東方向

 正面に高尾山。そしてそこから延びる奥高尾縦走路がよく見えます。最奥には丹沢山地も見えていますね。ここまで杉林の中を登ってきたので、この開けた風景が余計に気持ちいです。(写真にマウスオンで山名表示)

 霊峰富士

 富士山もくっきり。ここからは50kmちょっと離れていますが、他を圧倒する存在感です。
 
 素晴らしい眺めに時間も止まってしまいそうですが、ここはまだ通過点。この先も稜線歩きが待っています。とりあえずランチタイム休憩をとってから次の行動に移ります。(後編に続く