四阿屋山 〜木々の緑に染まる休日〜


 

【埼玉県 小鹿野町 平成20年5月17日(土)】
 
 どうもこのところ週末を狙って雨が降るようです。せっかくのいい季節なのに。と、恨めしく思っていたら、でもこの土日はなんとか晴れ間が覗きそう。
 そうなるとやっぱり野山へGO!です。今回は職場の同僚とその子どもと一緒に秩父の四阿屋山(あずまやさん)に行ってみることにしました。

 
                       
 
 午前6時過ぎ、ドリーム号Uで出発。首都高4号線の初台から中央道へ。府中で同僚をピックアップしてから、所沢、入間、飯能と一般道を走っていくと、道はやがて山道に。高麗川の蛇行に沿ってくねくね道を行き、正丸トンネルを抜けてしばらく行くと、広々とした秩父盆地にでます。埼玉県というと開けた印象を受けますが、秩父地方は群馬、長野、山梨にも接する山深いところです。それにしても秩父山地の中にぽっかりと空いた空間。いったいどうやってこんな地形になったのか、不思議です。 


Kashmir 3D
 マウスオーバーで経路表示

 上の地図でも分かるとおり、秩父山地の真ん中に不自然に存在する平地。しかも平らな堆積地形が広がり、昔は湖でもあったのかと想像させます。それにしては中央の筋のような地形が今ひとつ解せません。どうしてだろうとウェブで探していると、これについて説明してくれるサイトがありました。その概要はこうです。
 今から1650万年から1500万年前(まさに大陸から日本列島が離れ独立しつつある頃。すでに哺乳類は栄えはじめていた時期ですが、人間はまだ出現していません。)に起こった地殻変動で、東西方向に引っ張る力で地盤が地滑りのように沈み込み、その上に堆積層が積み重なったのだそうで、このような地形をハーフグラーベン(半地溝)というのだそうです。このハーフグラーベンは広大な関東平野の基盤にもあるとのこと。東京の地下に巨大ガス田を作った「関東造盆地運動」と関係があるのかもしれません。ちなみに、秩父盆地では沈み込んだ基盤の上に5000mもの堆積層が積み重なっているのだそうです。

 道の駅
 「両神温泉薬師の湯」

 さて、話を野山歩きに戻しましょう。渋滞で所沢を抜けるのにずいぶん時間がかかってしまって、出発地点の道の駅「両神温泉薬師の湯」に着いたのは10時過ぎ。ここまでで既に一仕事した感じです。ここは3年前に小鹿野町と合併するまでは両神村だったところ。村の名前は消えてしまいましたが、四阿屋山からさらに分け入ったところに聳える両神山にその名を残しています。


Kashmir 3D

 今日のコースは、往路は谷をはさんだ北の尾根、復路は南の尾根を歩きます。

 登山口

 道の駅のすぐ横にある両神神社から山の方へ向かう小道に入ります。しばらく行くと右手に中華風の門が。ここが登山口のようです。写真右端のHさんは義父から装備一式を貸与され、立場上断り切れなかったそうで、見た目はちょっとしたベテラン風です。真ん中のSさん親子はこれから公園にでも出かけるかのよう。左端のB君にいたってはどうみてもコンビニ帰りです。

 本当の登山口

 石畳の坂道を上がっていくと丘の上に本当の登山口が。ここからが山道です。

 ツクバネウツギ

 さっそくかわいい花に出会いました。ツクバネウツギです。花筒の網目模様はやっぱり虫を引きつけるためのものでしょうか。果たして虫の目にはどのように映っているのか。あと、模様は人間の指紋のようにそれぞれで異なっているのでしょうか。

 尾根筋の道

 道は基本的に尾根筋です。ところどころに植林地がありましたが、比較的手入れがされているように見受けられました。鳥の声の他には何も聞こえない山道。気持ちいいです。

 緑のステンドグラス

 見上げると緑のステンドグラス。葉の上に葉陰の模様が重なって、何とも涼やかな感じですね。

 ヤスデ

 体長5センチほどのヤスデを発見。一見ムカデに似ているので間違われやすいですが、噛まれるとその毒で猛烈に痛いムカデとは違い、身の危険を感じると臭い液体を出すくらいなもので、たいして害はありません。むしろ森に住む分解者として土壌を清潔かつ栄養豊かにしてくれています。見た目で害虫扱いされがちなので、気の毒なものです。
 Sさんの息子は最近の子どもに似合わず、まるで怖がる様子もなく、しげしげと興味深げに眺めていました。

 マルバウツギ  コゴメウツギ

 茎が中空なところから名が付いたウツギ(空木)。マルバウツギはそのなのとおり本家のウツギより葉が丸っこいです。いずれもユキノシタ科の木本です。これらのウツギの他に、「ウツギ」と名が付く植物はいくつかありますが、まったく血縁関係のないものもいるからややこしい。例えば、先ほどのツクバネウギはスイカズラ科。ミツバウツギやドクウツギはそれぞれミツバウツギ科、ドクウツギ科。変わったところで、コゴメウツギはバラ科です。
 唱歌「夏は来ぬ」に歌われる「卯の花」は、このウツギのこと。 ♪卯の花の匂う垣根に 杜鵑 早も来鳴きて 忍び音洩らす 夏は来ぬ
 この時期の里の様子をよく表している歌です。(この歌を口ずさむと小学校の音楽室を思い出すなぁ…)

 ササバギンラン

 ギンランに比べて葉が細いササバギンラン。葉の太さ以外にも区別の方法があって、花序の下の何個かの葉(正確には「苞」)が花序より高く伸びるということ。このギンランの写真と比較してみてください。
 早春の野山には黄色い花が多いけど、初夏はやっぱり白い花が多いです。

 ホオノキの蕾

 登山道沿いには興味深いものがいっぱい。ホオノキの蕾もその一つ。写真ではなかなか大きさがつかめませんが、これで長さ15pくらいはあります。花が開くとサラダボウルくらいの大きさに。遠目にもよく目立ちます。
 このホオノキをはじめ、渓畔林を構成する木(ミズナラ、トチノキ、サワグルミなどなど)はどれも好きな木です。

 タチシオデ

 タチシオデはこんな姿でもユリの仲間。線香花火みたいな花は雄花序、すなわち雄花の集まりです。シオデは蔓性の植物ですが、この花は自立することろから「タチ(立)」が付いたということでしょう。

 緑に染まりそう
 

 こんな癒される風景に包まれて小休止していると、体まで緑に染まりそう。あぁー、やっぱり野山はいいなぁ。

 両神神社奥社

 谷をはさんだ向こう側からの登山道と合流する地点に両神神社の奥社があります。ここにベンチがあるので昼食とすることにしましょう。汗がスーッと引いて体が冷えるので、シャツを着替えてから弁当を広げました。いただきます。「これ、どうぞ」、Hさんが義母から持たされた漬け物をお裾分けしてもらいました。これがおむすびとよくマッチして美味いこと。
 
 昼食後、一休みしてから再スタート。ここは山頂直下に位置していて、標高は約700mです。ここからは鎖場が連続している難所。一気に70mを登ると山頂です。

 鎖場へ

 さあ、いよいよ鎖場の始まりです。岩場を鎖でよじ登る最もハードなところは、自分自身余裕がなかったので写真がありません。あしからず。

 急斜面を行く

 Sさんの息子は小学2年生ながら、一回も怖いと口にしませんでした。エライ、エライ。

 山頂はすぐそこ

 最後は細い尾根を伝います。木が生えているからいいようなものの、これがなかったら恐ろしくて足が進まないでしょうね。

 山頂

 13時、山頂に到着しました。標高772mの四阿屋山のてっぺんです。わずか四畳半ほどの平坦面があるだけで、数人で満員になってしまうような狭さでした。すでに大学生っぽい集団の先客がいたので文字どおり立錐の余地もないくらいの状況でしたが、しばらくすると下山していったので、ゆっくりと山頂からの眺めを楽しむことができました。(ひょっとして押し出してしまったか?)

 奥秩父の嶺々

 山頂は西方向に展望が広がっていて、遠く(写真中央奥)に両神山がテーブルマウンテンのような重厚な姿を見せていました。また、そこから北(写真では右)に視線をずらすと、二子山の特徴的な稜線が。いずれもここから直線距離で10qほど離れたところに位置しています。今日は午後から大気の状態が不安定になるのだとか。空気も湿気を含んでいて、遠くはぼんやりと霞んでいます。

 下山ものんびりと

 山頂で15分くらいのんびりしてから、再び鎖場を下ってとりあえず奥社のところまで。そこで小休止してから、往路とは異なる尾根道を下っていきます。
 中程まで下りてきた頃、ゴロゴロと雷の音が。雨粒も落ちて来はじめましたが、幸い大部分は木々の梢が遮ってくれて、ほとんど濡れることはありませんでした。その雨も下山した頃にはすっかり上がり、また初夏の日差しが戻ってきていました。やっぱり新緑の山歩きは気持ちいいですね。
 
 道の駅に帰ってきて、みんなで足湯に浸かって筋肉の緊張をほぐしました。ところが、確かにふくらはぎの張りはなくなりましたが、大変なものを背負い込むことに。なんと水虫をうつされたのです。生まれて初めてのことで、ほぉ、これが水虫か、などと観察していたのですが、家族の強力な勧め(というか命令)もあり、早々に病院で見てもらうことに。ちなみに他のメンバーは何ともなかったとのこと。だとすると、あのとき横で一人で浸かっていた若い女性が犯人か? なんともトホホな話で、当分塗り薬のお世話になりそうです。