浅間隠山 〜山上の花畑ははや秋の装い(後編)〜


 

 (後編)

【群馬県 東吾妻町・長野原町 令和元年8月25日(日)】
 
 浅間隠山に秋の気配を探す野山歩き。後編です。(前編はこちら

 Kashmir 3D

 軽井沢分岐を過ぎてしばらく。山頂に向かって急な斜面を登っていきます。

 ○○アザミ

 ノハラアザミ? いや、もしかしたらニッコウアザミでしょうか。葉には荒々しく尖がり先端が針状になった鋸歯があります。うっかり触れません。

 オオカメノキ

 オオカメノキの枝に若い実が付いています。これから秋が深まるにつれて真っ赤に熟していきます。
 オオカメノキの別名はムシカリ。これは「虫喰われ」から転訛したものと言われ、葉が虫食いで穴だらけになっていることが多いからだそうですが、少なくともこの木の葉はまだまったく無傷ですね。



 傾斜は更にきつくなり、足元も不安定になってきました。息も荒いです。

 ソバナ

 そんな中でも、しばし足を止め花々に見入ると少し力が湧いてくるような気がします。例えば、このソバナに出逢うためのここまでの苦しみだったのだ、きっとこの先にもと。

 南峰

 そして9時25分、浅間隠山の南峰に到着しました。



 ピークではあるものの眺望はまったくなく、休憩できるような場所もありません。

 主峰へ

 ということで、南峰は素通りし、主峰の北峰に向かいます。こことの標高差は60mほどあります。



 5分ほど歩くと頭上が開けてきました。

 シモツケソウ

 シモツケソウ。繊細で可憐な花です。
 この辺りから次から次へと花が現れて、なかなか山頂に到達できませんでした。



 そしてついに視界が開けました。こんなに青空だったんですね。



 山頂直下には花畑が広がっていました。まさに空中庭園です。

 オミナエシ

 オミナエシ。秋の七草のうちの一つです。漢字で「女郎花」と書くのはよく知られています。別に「男郎花」と書くオトコエシという花もあります。こちらは花の色が白色で、オミナエシに比して全体的にがっしりした印象を受けます。

 オオバギボウシ

 これはオオバギボウシ。花は俯いて付きますが、どちらかというと明るい環境を好む花で、葉も旺盛に茂り、力強さを感じる植物です。

 ホソバノヤマハハコ

 足元に白い小さな花が現れました。ホソバノヤマハハコです。山地のガレ場などで見かける花で、乾燥など厳しい環境にも適合できている植物のようです。
 それにしてもキク科には様々な花がありますね。今日出逢っただけでも、シロヨメナ、キオン、 マルバダケブキ、イナカギク、オヤマボクチ、ナンブアザミ、とそれぞれ別の特徴を持っていて、バラエティに富んでいます。

 マツムシソウ

 秋の草原といえばこの花、マツムシソウですね。一見、キク科の植物に見えますが、別のマツムシソウ科だそうです。ところでマツムシってどんな虫だったっけ?最近、外来種のアオマツムシはよく目にするのですが。

 コウゾリナ

 これはおそらくコウゾリナ。漢字では「顔剃菜」と書きます。葉や茎に粗い毛が密生しザラザラしていることから、髭剃り時の感触に似ているとして名付けられたものだそうです。実際に触ってみると確かにそんな感じがします。これもキク科ですね。



 さあ、そろそろ山頂に向かいましょう。

 浅間隠山山頂

 9時40分、浅間隠山の山頂に到着しました。広さはそれほどなく、三角点のある広場が6畳間ほど、その奥に同じくらいの広さの細長い広場がありました。先客が4人ほどいました。

 浅間山、誰が隠したか

 で、浅間山は?
 ドドーンと広い眺望ですが、残念ながら浅間山には雲がかかっていました。本当に浅間山を隠していたのは雲だったというオチです。写真中央手前の緑の濃い山は岩淵山。今日はその向こう側から上ってきました。岩淵山から左奥に向かって、駒髪山、氷妻山、鼻曲山と続いています。
 ところで、後で知ったのですが、この日の朝ちょうど登山を開始した頃、なんとこの浅間山が噴火したとのこと。まったく気がついていませんでした。噴火警戒レベルも引き上げられたそうです。

 笹塒山

 こちらは浅間山とは反対側(東方向)。中央に見えているのは笹塒山(ささとややま)(1402m)です。「塒」は馴染みのない文字ですが、音読みでは「シ」又は「ジ」、訓読みでは「ねぐら」だそうです。

 カセンソウ

 まだ昼食には早いので、山頂周辺で観察です。これはカセンソウ。これまたキク科です。漢字では「歌仙草」と書き、なにやら曰くありげですが、名前の由来は不明とする図鑑が多いです。

 トモエシオガマ

 これはトモエシオガマ。花がスクリューのように付くので「巴」です。写真のものは花がまばらなので、あまりスクリュー感がありませんが。

 ウスユキソウ

 またまたキク科の登場。かのエーデルワイスと近い親戚のウスユキソウです。白い葉が花弁のように見えますが、中央の褐色の部分が頭花。葉を使って花を大きく見せようとする戦略、のように人間には思えます。

 ウメバチソウ

 ウメバチソウ。秋の草原で見かける花です。菅原道真の家紋が「梅鉢」というものだそうで、ウメの花を真上から見た姿を図案化したものだそうです。その意匠あってのこの花の命名なんでしょうね。

 ハンゴンソウ

 ハンゴンソウです。漢字では「反魂草」と書き、反魂とは魂を(彼岸から)呼び戻すという意味だそうです。山頂を渡る風に吹かれ、葉がゆっくりと手招きしていました。これもキク科。

 コウリンカ

 熾火のような色合いのコウリンカ。高原に咲く花で、これが満開の状態です。初めて会ったのは広島県の吾妻山だったか。懐かしい花です。ところで、やっぱりこれもキク科なんです。秋が近いだけあって、キク科の花が多いですね。

 南峰

 山頂で他の登山客と雑談を交わし、のんびり休憩した後、10時20分、下山を開始しました。まずは目の前の南峰を目指して下っていきます。

 ワレモコウ

 足元にワレモコウが。こんな姿をしていますが、バラ科の植物なんです。この頭花をほぐしてみると、一つ一つの花は4弁で、窮屈に身を寄せ合っていたことが分かります。



 道もよく分からないほどに茂ったササ原を下りていきます。



 下山開始から10分弱で南峰に至りました。下るときはあっという間です。さあ、ここから傾斜がきつくなるので注意です。



 ほとんど滑り台みたいな感じの山道を、じわじわ下っていきます。山の事故は下山時に多いと聞きますからね。

 軽井沢分岐

 軽井沢分岐まで下りてきました。急な下りはここまでです。ここは左手へ。

 レンゲショウマ

 やっぱりレンゲショウマを見かけると足が止まってしまいます。下からの撮影は逆光になりがちで、難しいんですよね。

 カラマツ林

 岩淵山の南斜面のカラマツ林斜面を見下ろす。晩秋には真っ黄色の世界になるでしょうね。

 ヒヨドリバナ

 ヒヨドリバナ。ちょっとくたびれ気味でしょうか。アサギマダラが訪れることで有名な花です。今日13種類目のキク科です。



 登山口へと下る鞍部までやってきました。再び急な斜面に注意しなければなりません。

 ノリウツギ

 ノリウツギ。装飾花が一見ヤマアジサイに雰囲気が似ていますが、よく見ると花序の付き方や茎の茂り方が違います。でも近い仲間ではあります。



 ずいぶん下った頃、登山道を水が流れているところに出ました。ということはもう登山口が近いということですね。

 登山口

 11時10分、無事に登山口まで下りてきました。意識して歩幅を小さくして下ってきたので、膝の痛みもありません。
 さあ、最後に駐車場まで車道を100mほど歩きます。

 シモツケ

 わずか数分で着く距離ではありますが、車道わきの花に目が行ってしまいます。これはシモツケ。シモツケソウに雰囲気が似ていますが、向こうは草本。こっちは木本です。同じバラ科ではありますが。

 ツリフネソウ

 ツリフネソウ。朝見たキツリフネの近くに咲いていました。気が付きませんでした。こちらもやっぱり宙吊りになっていますね。距と呼ばれる尻尾みたいなところが巻いていて、ユニークな姿をしています。



 花々に引き止められつつも、ようやく駐車場に戻ってきました。結局ここでもまだ昼食には早く、朝コンビニで買った弁当をザックに入れたまま帰ることにしました。
 
 帰る途中、麓の温泉施設「はまゆう山荘」で温泉に浸かって、入念にストレッチをしました。ようやくホッと一息です。
 ところで、かなりの山の中なのに「はまゆう」とは。なんで?