天城山 〜輝きはじめた峰々(後編)〜


 

 (後編)

【静岡県 伊豆市 平成23年5月15日(日)】
 
 天城山の後編です。(前編はこちら


Kashmir 3D
 

 天城高原ゴルフ場近くの駐車場をスタートし、四辻、万二郎岳、馬ノ背と歩いてきました。ここから万三郎岳との鞍部に向かいます。

 万三郎岳

 10時50分 「石楠立」に到着。ここが鞍部です。「石楠立」は「はなだて」と読むそうで、すなわちここで花といえばシャクナゲ(石楠花)、ということなのでしょう。たしかにここから万三郎岳にかけてアマギシャクナゲの群生地があり、それは天城山を代表する花なのです。

 ムシカリ

 装飾花がないですがムシカリの花です。葉が特徴的ですね。

 コハウチワカエデ

 こっちは展開したばかりのコハウチワカエデ。触ってみたらしっとりとしていました。色も淡いです。

 ブナ

 ブナの林に入りました。ブナにはいかにも風雪に耐えてきたという風情がありますよね。これは武骨な立ち姿によるところもありますが、樹皮に地衣類が付きやすく独特の斑紋のようなものができるのもその要因だと思います。

 アマギシャクナゲ

 アマギシャクナゲが出てきましたが、まだそのほとんどが蕾の状態でした。そんな中で一株だけ咲き始めているものが。蕾もそれなりに可愛いですが、花が開くとさすがに豪奢な感じがします。来週くらいが見頃でしょうか。ここには毎年たくさんの人が訪れるそうです。

 

 標高1400m近く。ここではまだサクラが満開です。

 マメザクラ

 これはサクラの仲間では最も葉が小さいマメザクラです。別名をフジザクラといい、関東、中部の太平洋側に分布しているそうです。ランプシェードみたいですね。

 万三郎岳

 面白そうなものがあるとその都度立ち止まるので、次々と抜かれていきます。それでも万三郎岳がだいぶん近づいてきました。
 ところで、去年あたりまでテレビなどで話題になっていた「山ガール」。最近はブームも一段落したようですが、今日も女性単独や2、3人のグループの登山者が結構いました。気がついたのはその服装の傾向。ファッション性が高いウェアを身に付けているのは女性だけの2、3人のグループに多く、男女のペアの場合は機能性重視のウェアが多いようです。街からそのままやって来たような格好の人は少なくなりましたね。(写真は撮っていません。念のため。)

 

 万三郎岳の山頂に向けて最後の上りにかかりました。振り返ると平坦な頂をもつ「馬ノ背」が見えます。その奥には万二郎岳。さらにその向こう、洋上に浮かんでいる島影は伊豆大島です。写真左のこんもりした山は遠笠山です。天城山の火山活動が終息した後にできた火山だそうです。

 

 11時20分、万三郎岳の山頂に到着しました。標高1405m。伊豆半島の最高峰です。山頂はどこにいたのかと思うほどの人で賑わっていました。それほど広くないところにざっと5、60人くらい。しばらくは昼食もとれそうにありません(上の写真は大人数のグループが去った後のもの。)。

 万三郎岳の山頂も樹林の中で眺望は限られていました。唯一北側に少しだけ開けているところがあり、そこから富士山が望めました。普段なかなか南側からの富士山を見る機会がないので、またちょっと違った印象があります。裾野の広がり方が東西で違うんですね。東側の裾野は標高900mくらいまで下がるの比べ、西側は標高550mくらいまで下がるのでその分傾斜が大きいのだと思います。

 昼食

 団体さんが去って静かになったので、おもむろに昼食にとりかかります。備蓄しているガスを使い切ろうと、今回もわざわざ道具を持参しました。カップヌードルは中身だけのやつを売っているので、それとあとコンビニむすびが2個。チタンコッフェルにちょうど収まります。でも水のペットボトルとガスカートリッジなどを合わせると、やっぱりコンビニ弁当の方が省スペースですね。ちなみに未使用のカートリッジがまだ3個あります。子供とよくキャンプに行っていた頃には、バーナーやランタンであっという間に消費していたのですが。

 

 11時55分、昼食を終えて下山にかかりました。以前は山頂から直に北側の支尾根を下るルートだったそうですが、崩落などで危険になったため現在は迂回して下るようになっています。なので西に延びる尾根をしばらく歩き、その後旧ルートの1本西側の支尾根を下っていきます。

 ムシカリ

 このムシカリの花は装飾花が満開です。中央部の両性花はまだ開いていませんね。ということは、さっき両性花だけが開花していたのは既に装飾花が散ってしまった後だったということか? いやそうだとすると装飾花の意味がないですよね。装飾花で虫を呼んで両性花の受粉を助ける役目なのですから。ムムム…。
 ちなみに装飾花といえばアジサイを思い浮かべますが、アジサイの装飾花は萼が変化したもの。ムシカリの装飾花は花冠が変化したものだそうです。

 

 支尾根をどんどん下っていきます。左右の谷は結構深いようです。

 

 見上げるようなアングルで撮っているので、結果としてフラット感満点の何でもない写真になってしまいました。実際には今にも岩が転げ落ちてきそうな感じだったのですが。

 

 12時30分、涸沢分岐を通過しました。「分岐」といっても通行止めになっているので通過点でしかありません。

 アマギシャクナゲ

 おっ、ここにもアマギシャクナゲが。日当たりもそんなに良くはないのに五分咲きくらいになっています。確かに、薄暗い森の中で見事に咲き誇るこの花を見かけると、誰でもが足を止めて見とれてしまうでしょう。その周囲だけがポッと発光しているような感じです。

 

 涸沢分岐からは多少のアップダウンを繰り返しながらも基本的に水平移動です。ただところどころ足場の悪いところがあるので、気が抜けません。

 ワチガイソウ

 万三郎岳までの乾燥した尾根道とは違って、沢筋などには小さな花も見かけられました。写真はワチガイソウです。岩の隙間に生えていました。

 

 累々と連なる苔むした岩。昔の崩壊地でしょうか。

 シコクスミレ

 ここは伊豆ですがシコクスミレ。図鑑には主に埼玉西部以西の太平洋側のブナ林に生えるとあります。距が短く、萼片の付属帯に切れ込みがあるなど、シコクスミレの特徴を備えていました。

 ハコネシロカネソウ

 出ました、ハコネシロカネソウ。5年ぶりくらいの再会です。いつ見ても上品な花です。

 鎖場

 鎖場を渡りきってホッとして振り返ったところの写真。写ってはいませんが、谷はかなり深いです。

 ヒメシャラ

 天城山はヒメシャラでも有名です。赤く滑らかな木肌に繊細な枝振り。群生地に足を踏み入れると、明らかに周囲とは異質な空間であることが分かります。ヒメシャラの仲間のナツツバキも滑らかな木肌ですが、ナツツバキはマーブル模様ですよね。花はヒメシャラの方がかなり小さいです。(ナツツバキは別名「シャラノキ」と呼ばれているので、「姫」=「小さい」シャラノキということですね。なるほど。)

 

 何度も何度も谷を渡り徐々に高度を下げていきます。

 

 やがて四辻まで戻ってきました。時刻は1時25分です。万三郎岳から1時間半。ちょっとペースが速かったようです。もう少しじっくりと下りてくれば更にいろんな面白いものに気がついたかもしれないのに。まあ、谷に転がり落ちることもなく、無事に下りてこれたのでよしとしましょうか。
 とうとう、というか、ようやく天城山に登ることができました。季節はあとちょっと後ろの方が良かったのかもしれませんが、そうなると人出も多かったでしょうから、今日の山歩きはまあ満足ということで。
 1時30分、駐車場に無事帰還。足が、特に向こう脛の脇の筋肉が張っています。荷物を下ろしてゆっくりと揉みほぐして帰路につきました。
 (帰りの東名は事故渋滞でベッタリ。伊勢原から横浜町田ICまでは歩いた方が早いくらいのペースでした。どっと疲れました。)