赤城自然園 〜天国での花巡り(前編)〜


 

 (前編)

【群馬県 渋川市 令和元年7月27日(土)】
 例年になく異常に長い梅雨。一昨日あたりから青空と猛暑がやってきましたが、週末に台風の接近が予想されているからか、関東地方に梅雨明け宣言はお預けのままです。予報では、27日は紀伊半島付近に接近するものの関東地方はエアポケット状態で雨は夜半頃とのことだったので、このチャンスを逃すまいと野山歩きに出かけることにしました。場所は群馬県の赤城山山麓にある赤城自然園。この季節に訪れるのは初めてのことです。
 
                       
 
 午前8時にドリーム号Vで出発。この時点では申し分のない夏空です。圏央道から鶴ヶ島JCTで関越道へ。ほとんど渋滞もなく順調にドライブし、現地には10時45分頃到着しました。

 入り口(総合案内所)

 駐車場は空いていました。観光バスは数台停まっていましたが、天気予報を見て来訪を見合わせた人もいるのかもしれません。
 総合案内所の受付で入園料1,000円を支払って入ります。ここは西武系列の施設なので、セゾンカードを提示すると、なんと半額になります。

 ヤブカンゾウ

 園内に入って最初に目についたのはヤブカンゾウ。野に普通に見られる花で、ちょうど綺麗に咲いていました。花冠の中心部には花被片のように変化した雄しべや雌しべがあって、八重咲きのような姿になっています。 ただすべてが変化するというものでもないようで、一つの花冠に雄しべや雌しべとその花被片化したものとの両方が存在する場合もあります。



 ここからメインの散策路を歩いて行きます。赤城自然園は入り口に近い方から「セゾンガーデン」、「四季の森」、「自然生態園」と3つのエリアが続いています。ネーミングのとおり奥に行くほど自然度が高まっていきます。

 オオバギボウシ

 森の中の園路をゆっくりと上って行きます。さっそく現れたのはオオバギボウシ。涼しそうな姿をしていますね。

 チダケサシ

 こちらはチダケサシ。一般的にもう少し濃いピンク色をしているものが多いです。茎が丈夫で、山で採った乳茸をこの茎に刺し連ねて持ち帰ったというのが名の由来だそうです。

 イヌトウバナ

 イヌトウバナは見落としてしまいそうなくらい目立たない小型の花。シソ科の植物で一つの花の大きさは8mmほどしかありません。でも、ちゃんとこの花を訪れる虫もいるんでしょうね。

 レンゲショウマ

 レンゲショウマ。涼やかな姿で人気の花です。真ん丸の蕾もユニークですね。奥多摩の御嶽山にはこの花目当てで毎年この時期たくさんのファンが詰めかけます。

 カンパニュラ・トラケリウム

 一見チシマギキョウにも見えますが、咲く標高が違いすぎます。これはヨーロッパ原産のカンパニュラ・トラケリウムという花だそう。和名では「ヒゲギキョウ(髭桔梗)」と呼ばれているそうです。確かに花冠の内側に剛毛が密生しています。

 ビヨウヤナギ

 これはビヨウヤナギ。生け垣などに多く用いられる種です。そういえば、この時期、黄色の花は少ないですね。



 園内は長雨の影響でか若干足元が悪く、ところどころにぬかるみが見られましたが、今日このまま晴天が続けば状態は良くなっていくでしょう。

 ソバナ

 これはソバナですね。「蕎麦菜」と間違えそうですが「岨花」が正解。険阻な岩場などに生える花という意味です。

 ギンバイソウ

 小さな流れに沿うようにギンバイソウが咲いていました。漢字では「銀梅草」と書き、花冠が重たいのか花柄が長いのか、ちょっとうな垂れるように花を付けます。あと、花冠もさることながら葉の形も特徴的で、先端が二つに大きく分かれています。



 広々とした園地に出ました。少し休憩です。



 この赤城自然園は野生種であっても基本植栽されているようです。園路を巡りながら鑑賞しやすいようにでしょうね。特に入り口から近いエリアでは庭園のテイストも濃い目です。

 トチノキ

 トチノキの実ができていました。華奢で華麗な花からは想像もつかない野暮ったい(?)形です。この実から栃餅が作られるのですが、アク抜きが大変だと実際に作った知人が言っていました。

 オカトラノオ

 オカトラノオ。もうほとんどの株で花期の終盤を迎えていて、その中で比較的綺麗なものを写真に収めました。

 マツムシソウ

 草原エリアにやってきました。
 マツムシソウ。茎がひょろっと長く、花冠を撮影するとどうしても空中に浮いているようになってしまいます。筒状花と舌状花がありキクの仲間にも見えますが、マツムシソウ科という独立した科に属しているそうです。

 クガイソウ

 これはクガイソウです。輪生する葉を「天蓋」に見立て、これが茎葉として何層にも重なることからこの名が付いたということです。去年の夏行った伊吹山で咲き誇っていたのを思い出します。さっきのオカトラノオをちょっとスマートにした感じですね。

 タマアジサイ

 タマアジサイの蕾がほころび始めています。芽吹いてこのかた窮屈な中に閉じ込められていて、ようやく解放されたといったところでしょうか。

 ハクウンボク

 おお、見上げると葉陰に何かの実が。これはハクウンボクでの実ですね。春には純白の花が枝先に連なって付くので、豪華な印象を受けます。葉裏に咲くので慎ましさも兼ね備えている感じです。

 キキョウ

 キキョウは秋の花のようなイメージですが、7月くらいから普通に咲いています。風に揺れる姿は涼しげですね。
 両性花ですが、雄しべが先に成熟し、その後雌しべが時間差(期間差?)で成熟する特性を持っています。これは同時期に成熟して自家受粉してしまうことを避けるためと言われています。写真の3分割のうち左は開花後間もない時期のもので、雄しべと雌しべがくっついて、まだ両方とも未熟な状態です。真ん中は雄しべが成熟して花糸と葯が開き、虫を迎える準備ができた状態です。右は雄しべが枯れて役目を終え、今度は雌しべの柱頭の先端が開いて、いつでも受粉可能な状態です。

 ヤナギラン

 枯れ草のように見えますが、これはヤナギラン。ヤナギでもなければランでもない、アカバナ科の植物です。既に花期は終わり、実が熟して綿毛の付いた種子が飛び出しています。これが柳条に似ているからヤナギの名が付いているんですかね。ランはもちろん花の姿からのネーミングでしょう。

 オトギリソウ

 次から次へと花が出てきますね(我が家では赤城自然園のことを「天国」と呼んでいます。「今度天国行ってみない?」とか。)。
 これはオトギリソウ。漢字では「弟切草」と書き、何やらいわくありげです。
 
 天国での花巡りはまだまだ続きます。続きは後編で。