安達太良山 〜燃え立つ紅葉再び(後編)〜


 

 (後編)

【福島県 二本松市 平成24年10月21日(日)】
 
 安達太良山登頂、5年ぶりのリベンジ。その後編です。(前編はこちら

 
Kashmir 3D

 ロープウエイで楽をするという当初予定の変更を余儀なくされ、やや遠回りとなる勢至平経由で山頂を目指すことにしたyamaneko。とりあえず勢至平の向こう側の谷筋にあるくろがね小屋まで行ってみて、そこで山頂を目指せるか考えることにしていましたが、途中でショートカットして、篭山の斜面を横切り直接峰の辻に向かうことにしました。

 

 スタート時の青空も完全にどっかに行ってしまって(というより自ら雲の中に入っていって)、辺りは一面乳白色です。霧雨もいつの間にかしっかりした雨となり、強風とともに波状に吹きつけてきます。「山の天気は…」とはまさにこんなことを言うんでしょうね。

 

 途中でレインウエアを着込み、これで雨&寒さ対策もOK。山登りでは常識中の常識ですが、どんなときでもレインウエアは持参しなければいけませんね。天気予報は秋晴れでも、局地的な荒天までは予報してくれませんから。それにしても紅葉狩りとはかけ離れた格好ですな。

 

 篭山の斜面を横切るように進んでいきます。視界は概ね10mくらいなんですが、たまに上の写真のように視界が開けることがあり、岩の上にペンキでマークされた道標が向こうまで続いているのを確認できます。

 峰の辻

 11時20分、植物の少ない広場状のところに出ました。大きな岩に何か書いてあります。写真では分かりにくいですが、「くろがね」と書いてあり、矢印が右下方向を指しています。ということはここが峰の辻か。
 さて、ここが判断ポイントです。このまま山頂を目指すか、それともくろがね小屋に向かって下山するか。
 上に向かう道はここで山頂方向と矢筈森方向の2方向に分かれているはずなんですが、だだっ広い上に視界が悪いので、あるはずのルートがいずれも確認できません。ここで道を間違えると深刻な事態にもつながりかねず、気持ちは半分以上下山する方向に傾いてきました。妻も「もう山頂は無理」という顔をしています。ちょうど上から下りてきたご夫婦がいたので様子を聞いてみると、山頂直下まで行ったが強風で山頂には立てなかったとのこと。yamanekoだけでも山頂までピストンしてこようかとも考えていましたが、この言葉で意を決し、くろがね小屋に向かって下りることにしました。…むう、無念。

 クロマメノキ

 下るとなると急に気が楽になったのか辺りの自然にも目が行くように。これはクロマメノキの果実。ブルーベリーそっくりですが、そのとおり近縁の種です。味を確認してみると(拾い食いしたということ)ブルーベリーそのものでした。クロマメノキは紅葉も鮮やかで、目と舌とで楽しませてもらいました。

 ガンコウラン

 こちらはガンコウランの果実。大きさは直径8oほどでちょっと小さめ。あまり美味しくはないですが、ジャムなどにする人はいるそうです。

 

 相変わらず視界が悪い中、岩のマークを頼りに下っていきます。そろそろおなかが空いてきました。くろがね小屋まで下りたらそこで昼食にしたいと思います。

 雲の向こうに

 むむっ、白いベールの向こう、谷の底に建物らしきものが。あれがくろがね小屋か。

 くろがね小屋

 さらに下っていくと、よりはっきりと見えてきました。やっぱりくろがね小屋のようです。どうやら雲の底辺から抜け出たようで、視界が広がってきました。

 

 12時05分、谷筋まで下りてきました。ここから奥、谷をさかのぼることは禁止されています。有毒ガスが噴出しているからだそうです。この谷は矢筈森と鉄山との鞍部を源流とする湯川が削ったもの。名前からして温泉が湧き出していたことが分かりますね。安達太良山の中腹にある岳温泉はここから温泉を引いているのだそうです。

 

 小屋は人であふれかえっていました。雨は降っていないので、小屋の周囲で昼食をとっている人もたくさんいます。上の写真は勢至平の先端部を谷底から見上げたところ。まさに錦衣をまとっているような感じですね。この風景を眺めながらお湯を沸かしてカップラーメンをいただきました。

 

 小屋の前から谷の奥を眺めたところ。荒涼としていますね。雲の底まで50mといったところでしょうか。

 

 12時45分、くろがね小屋を後にして下山開始です。

 

 紅葉に包まれながらの山歩き。道も広く歩きやすくて、いい気持ちです。山頂を目指して登っていたときの厳しい状況とはうって変わって、心も軽くなります。

 

 どどーん。なんだこりゃ。湯川の右岸の壁一面がこんな感じです。パノラマ処理しているので現実よりも若干湾曲していますが、色合いはまったくこのまま。むしろ実際にはまっすぐな壁のように立ちはだかり、より圧倒される感じでした。それにしてもこの色彩。視野全体のホワイトバランスが狂ってしまいそうです。この風景を見られたことで、これまでの苦労が全部吹き飛びました。網膜に焼き付けて帰りたいと思います。

 

 谷の上流部を振り返ると、くろがね小屋がもうあんなに遠く高いところに見えています。

 

 1時20分、峰の辻に向けて左折した分岐点まで戻ってきました。くろがね小屋からあっという間でした。

 

 馬車道を下っていきます。途中、急降下でショートカットする登山道との分岐があったので、下りはそちらを辿ることにしました。

 

 結構な角度で下っていきます。この辺りまで下りて来ると日が射していますね。すれ違う人もほとんどなく、静かな山歩きです。

 

 烏川の近くまで下りてきました。穏やかな秋の午後といった感じになっていますが、数時間前とは別世界。今日は一日で様々な天気に出会いました。

 

 森の中に1本だけ赤い木がありました。よく見るとこれは木全体にツタウルシが絡みついているもので、もともとこういう姿をしているわけではないようです。根元に近い方では蔓の太さは10pくらいもあり、すでに宿主の木(カラマツだったと思います。)と一体化しつつあるようでした。

 帰着

 2時20分、スタート地点の駐車場に戻ってきました。西日が射していますが、どうやらこの辺りもザッとひと雨来たようです。

 薬師岳

 ザックを下ろし、整理体操を済ませて見上げる薬師岳。午前中ほどではないにしろ、まだ風は強く、雲はちぎれるように飛んでいきます。
 今日は5年ぶりに安達太良山リベンジだったのですが、5年前とまったく同じようにはね返されてしまいました。悔しいです。でも、山頂にこそ立てませんでしたが、燃え立つような紅葉に包まれることができました。しかも観光ポスターで紹介されているような塗ったような青空を背景としたものではなく、幽玄というか侘び寂というか、和の雰囲気の深い紅葉だったと思います。ひょっとするとこれは5年ぶりに訪れたyamanekoに安達太良山が用意してくれたものだったのかもしれません(と、負け惜しみを言ってみる。)。