牛田山 〜感動の後に静かな山〜
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【広島市 東区 平成28年11月6日(日)】
11月5日、この日広島の街はまるで正月のようなおめでたい雰囲気に包まれていました。午前中に平和大通りでカープの優勝パレードがあり、午後はズムスタで優勝報告会が行われたのです。沿道には31万人のファンが集まり、スタジアムもペナントレース以上の盛り上がりを見せていました。そんな祝賀ムードの一日だったのですが、翌日は余韻を残しながらも落ち着いた日常に戻っていました。広島で一泊したyamanekoは夕方に帰京するまでの時間を使って、久しぶりに牛田山に登ってみることにしました。以前、この山の麓(と言っても山の周囲はぐるり住宅地街なのですが。)に住んでいたので、裏山感覚なのです。牛田山に登るのは12年ぶりです(前回の様子)。
牛田山は広島の市街地の北側にある標高260mあまりの低山です。馬蹄形に連なる稜線を持っていて、その内側を含め、中腹辺りまで住宅地になっています。稜線に沿って縦走路があり、そこからのエスケープルートも多数あります。都合のよいところから登れ、気の向いたところから下山できる、お手軽な山なのです。
上の写真は南側(海側)から見た牛田山。市街地の奥に位置しています。(前日、グランドプリンスホテル広島 スカイラウンジから)
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Kashmir 3D |
完全に縦走しようと思えば饒津口から登って牛田旭口に下りる(またはその逆)ことになるのですが、12年前と同様に、天神峠から登ることにしました。この峠は車道が通っているので峠の上までタクシーで行こうとか緩いことを考えていたのです。ところが、妻の(強制力を伴う)進言により峠の上までは歩くことに。妻の会社の健康イベントで期間中に歩いた歩数を競うコンテストがあり、そのため妻はこのところ常に万歩計を身に付けているのです。車道が通っているとはいえそこは峠道。かなりの急傾斜でしたが、ふうふう言いながらも天神峠に上りました。もう登山は始まっているのです。
今日のコースは、天神峠口から山に入り、反時計回りに稜線を辿ります。最初のピークが尾長山。一旦下って、小さなアップダウンを繰り返しながら主峰の牛田山へ。そこから更に進んで神田山に向かい、最後は見立山を経て牛田旭口に下りてくるというものです。
入口 |
天神峠から住宅地の道を30mほど上がったところに山道への入口があります。斜面に立つマンションの際で、足元は崖のような急傾斜。知らない人は本当にここでいいのか?と辺りをキョロキョロすること間違いなしです。かろうじて「牛田山・尾長山ハイキングコース」のプレートがあるのでここが入口と分かります。
馬蹄の内 |
登山口から馬蹄の内側を見下ろした図。住宅が密集していますが、概ね全部牛田地区です(住居表示は、牛田東、牛田旭、牛田本町、牛田早稲田など。)。写真右端のピークが牛田山で、稜線を左にたどったところにあるピークが神田山、稜線の先端が見立山です。
登りはじめ |
マンションの裏手に回るといきなり乾いた登山道になりました。まずは天神峠を見下ろす尾長山に取り付きます。
コシダ |
懐かしい風景。瀬戸内の沿岸部にはこのコシダが多く見られます。きっと花崗岩との相性がいいんでしょうね。
マルバハギ |
これはマルバハギ。かろうじて花が残っていました。
ところどころに花崗岩の大岩が現れます。足元がズリズリと滑りやすいので、張られているトラロープが結構助かります。
尾長山直下にはこんな岩場も。でも見た目ほどの大変さはありませんでした。
尾長山山頂 |
12時ちょうど、尾長山の山頂に到着。登山口から20分弱です。
尾長山の山頂からは、今登ってきた方角の眺望がありました。方角としては概ね南西方向になります。直下が天神峠で、その向こうにある小山は二葉山。山頂にある銀色のものは仏舎利塔です。写真右端には今日の山歩きの終点、牛田旭口のある山の端(見立山)が見えています。
航空標識灯 |
尾長山には航空標識灯があります。
しばしの休憩の後、再び歩き始めます。
コシダの中をかき分けるようにして歩いていきます。
クロキ |
登山道沿いの樹木にはところどころ標識が取り付けてあるので、退屈することなく歩くことができます。これはクロキ。面白い樹皮ですね。地衣類が付いてこんな模様になっているのでしょう。クロキは海岸近くの照葉樹林でよく見かける木です。
この時期、花もほとんど見られないので、今日は樹皮を見て歩くことにしましょう。
尾長山から少し下り、登り返すように稜線を歩いていきます。すると登山道脇に麓の方から延びる荷物運搬用の簡易レールが敷設されていました。このレール、しばらくは登山道と並走していましたが、やがて小広いところで途切れていました。どうやら高圧電線の鉄塔を作っているようで、そこへ資材を運ぶためのもののようでした。
樹木のトンネルをくぐります。変化があって退屈しない道です。
カマツカ |
カマツカの赤い実。昔食べた記憶ではリンゴに近い味だったような気がします。カマツカの別名は牛殺し。牛の鼻繰りの穴を空ける際にこのカマツカの枝で作った鏨を使ったのだそうです。カマツカの材は硬く、農具の柄などにも使われたりしていました。まさに鎌柄です。
タカノツメ |
これはタカノツメ。何が鷹の爪なのかというと、枝から鍵型に飛び出ている短枝が鷹の爪に似ているからだそうです。タカノツメの落ち葉はまるで綿あめのような甘い匂いがするので、歩いていてもすぐに分かります。
リョウブ |
この鹿の子模様はリョウブ。特徴的なので一度見たら忘れません。樹皮がぽろぽろ剥げて、いつもツルツルです。
いくつ目かの小ピーク。牛田山ではこういう場所にはマリオの土管のようなものが設置されています。おそらく登山者がタバコの吸い殻をポイ捨てして山火事にならないように、灰皿代わりに設置されていたものだと思います。
ウラジロノキ |
風情のある黄葉はウラジロノキ。
ウラジロノキ |
樹皮はこれです。
ナツハゼ |
ナツハゼの実。 熟していますね。このくらい黒熟しないと酸っぱいんですよね。昔、自然観察仲間のTさんからナツハゼ酒をよく頂いていました。
三角点のある小ピークに至りました。東側、温品(ぬくしな)方面が見渡せます。くねっている高架は広島都市高速です。
コバノガマズミ |
この赤い実はコバノガマズミ。
イソノキ |
ここから樹皮4連発で。これはイソノキ。本州から九州にかけて分布するとのことですが、東京近郊で目にしたことはありません。多摩地方にもあるのだろうか。初夏に小さな目立たない花を付け、その花はほとんど開花しないのだそうです。実はまん丸で黒く熟し目立つので、こちらは広島に住んでいた当時見た記憶があります。
ザイフリボク |
斜めストライプはザイフリボク。花弁が細長くて、しな垂れる様子が采配のようだということで、「采振り木」の名になったのだそうです。以前、この牛田山で満開のザイフリボクに出逢ったことがありました。
エゴノキ |
エゴノキ。これは多摩の地元、小山内裏公園でも見かける、親しみのある木です。見るからに硬そう。
アベマキ |
逆に触って柔らかいのはアベマキ。樹皮は分厚く、コルクの代用とされたそうです。
カキノキ |
この紅葉はカキノキか。常緑樹の多いこの山で紅葉が目立っていました。
戸坂南口への分岐にベンチがあったので小休止。時刻は午後1時ちょうどです。尾長山から1時間でここまできました。
ここから牛田山の山頂に向けて最後の上りです。 風化花崗岩のマサ土は崩れやすいです。常緑の森に黄土色のマサ土。瀬戸内ではお馴染みの風景です。
コウヤボウキ |
コウヤボウキの花。やや元気がないか。
コバノミツバツツジ |
完全に季節外れのコバノミツバツツジ。この時期は虫も来ないのでは。
おっ、あそこが山頂です。
牛田山山頂から |
1時25分、牛田山の山頂に到着しました。天神峠を出発して1時間40分です。眺望はというと…、牛田山の頭上を含め市街地の半分には雲がかかっていますね。朝は素晴らしい晴天だったのですが。眼下の山は二葉山。その左手に天神峠をはさんで尾長山が見えていますね。
広島湾 |
広島湾。なんだかもう夕暮れのようですね。まだ1時半ですが。
山頂ではお菓子を食べて小休止。昼食は下山後にお好み焼きを食べようと思っています。
下山開始 |
1時45分、下山開始です。ここからは馬蹄形の西側尾根を歩いて行きます。
コシアブラ |
登山道に落ちていたコシアブラの葉。いい具合に色が抜けていますね。若葉の頃は山菜として食用になったりします。
アオハダ |
再び樹皮。これはアオハダ。瓶詰めジャムの…それはアオハタ。表面を爪でひっかくと緑色の内皮が現れ、これがアオハダ(青肌)の名の由来だそうです。
ソヨゴ |
こちらはソヨゴ。別名をフクラシバといいます。葉を火に炙ると、表面がぷくっと膨らみパチンとはじけます。
神田山山頂 |
2時5分、神田山に到着しました。静かなやまです。
牛田山 |
木立の間からさっきまでいた牛田山の山頂が臨めました。
一方こちらは西側。太田川の川筋が2本見えます。太田川は河口部のデルタ(三角州)で6本の川筋に分かれて広島湾に注ぐのです。正面の山は大茶臼山です。
牛田旭口に向かって更に下って行きます。ここは左へ。右に行くと神田口です。
天神峠 |
天神峠が見えました。峠の上まで民家が上がっていますね。左の山が尾長山です。なんか再び陽が差してきました。
牛田総合公園 |
途中、公園の東屋が見えました。ここは牛田総合公園の最上部になります。
ヤマコウバシ |
この黄葉はヤマコウバシ。こんなに鮮やかに色づくんですね。印象に残っているのは冬でも葉が枝に残る姿で、その頃の葉は茶色になっています。
見立山 |
神田山から更に先端に張り出したピーク、見立山です。戦国時代、毛利輝元が広島に城を建てる際に、ここに登ってどこに建てようか見たてたということです。確かに三角州に広がる市街地が一望できました。
見立山から急降下すること5分、牛田旭口までやって来ました。すっかり住宅地の裏手です。
2時45分、下山完了。牛田旭口からは、二葉山と尾長山にはさまれた天神峠が臨めました。あそこから歩いてここまで来たんですね。のんびり3時間の野山歩きでした。
さて、これから昔住んでいた辺りを散策し、その後お好み焼きを食べに行きましょう。お腹もぺこぺこです。
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