戸河内 〜定点観察・盛夏〜
観察場所はこんなとこ |
【広島県安芸太田町 平成17年7月30日(土)】
本年度2回目の定点観察会です。梅雨は明けたとはいえ、ここのところぐずついた天気が続いています。
9時30分に安芸太田町役場前に集まったのは全部で13人。そこから500m先の観察地点に移動です。
キカラスウリ |
まず最初に目についたのはキカラスウリの繊細な花。カラスウリは夜の間だけ咲きますが、このキカラスウリは午後に咲き始めて翌朝くらいまでは咲いているそうです。また、この花の根から採れるでんぷんで「てんかふん」ができるのだそうです。漢字で書くと「天瓜粉」。天まで届くほど蔓を伸ばす瓜から取れる粉、といった意味だとか。おっと、そもそも「てんかふん」が何か分からない人がいますか、若者を中心に。風呂上がりにパタパタとはたいてあせもなどを治す、あの白い粉です。シッカロールといえば分かるでしょうか。それでも分からなければ、ベビーパウダーと言い換えれば分かるはず。
観察開始 |
まずは太田川本流の蛇行に沿って延びる細い道(ここが観察コース)を歩きます。花の少ないこの時期ですが、それでも興味をひくものはいっぱいあります。
キツネノカミソリ |
キツネノカミソリ。この花を見ると夏本番だなと感じます。名前はシュッとした葉の形から。その葉は春に延びて茂りますが、夏になると枯れてしまい、その後で花茎が伸びてきます。今日はこの花がたくさん咲いていました。雄しべと雌しべが花の外に突き出ているのはオオキツネノカミソリ。全体的に大型です。
チャノキの実 |
今は人が住んでいない住居跡の近くにチャノキが茂っていました。まるっきり放置されているようでもなく、剪定しているのか、はたまた茶摘みの際に枝先ごと摘み取ってしまっているのか、ビミョーな感じに手が入っていました。どなたかが利用しているのでしょう。
チャノキはもともと薬用として奈良時代に日本に入ってきた植物ですが、現在では日本の一部で野生化しているとの報告もあるそうです。
オトギリソウ |
オトギリソウの葉を油に浸したものは切り傷や関節炎などに薬効を示すそうで、この花の名前の由来となった言い伝えを思い出させます。その言い伝えとはこうです。昔、兄弟の鷹飼がいました。鷹の傷を治す薬としてこの花が有用であることを固く秘していたのですが、ある日弟がうっかりその秘密を漏らしてしまったため、兄は泣く泣く弟を斬ったのです。そのときに飛び散った血が葉や花に黒点となって残っている…。と、そんな話です。確かにルーペで葉を見てみると小さな黒点がたくさんあります。特にふちの部分に多く並んでいます。
ナワシロイチゴの実 |
ナワシロイチゴが見るからにつややかでジューシーな実をつけていました。やや酸味がありますがなかなか美味。それぞれの粒の中に小さな種があるので、それは吐きだした方がいいでしょう。
命のプール |
路肩から河原に向かって枝を広げているケヤキ。その下には大きめの水たまりがあり、水面をたくさんのアメンボが滑っていました。たまたま通りかかったオバチャンの話によると、この木の枝には毎年モリアオガエルが卵塊を産み付けるのだそうです。そしてもともとここは原野化した河原なのにその頃になるときまってこの木の下に水たまりができるのだそうです。ご存じのとおりモリアオガエルは卵塊の中で孵って、オタマジャクシになって下にある水面に落ちていきます。親ガエルは下に水があることを確認してから産卵するのでしょうか。水たまり次第で立ち消えてしまう危うい命です。
ホタルブクロ |
赤紫色のホタルブクロが咲いていました。ホタルブクロといえば「白」のイメージですが、赤っぽいのもあちこちで見かけます。赤いのは別種のヤマホタルブクロかなと勘違いしていましたが、両者は萼の切れ込みのところが反り返るか膨らむかで見分けることができるのだそうです。花冠の中に蛍を入れて透かしてみたらきれいでしょうね。実際にやってみたことはありませんが。
イネの花 |
この時期、田んぼの上を風が渡るとイネの葉がなびいてその風の姿を明らかにしてくれます。近寄ってみるとイネの花が咲いていました。といっても花びらのようなものはなく、穎(えい)と呼ばれるもみ殻の部分の隙間から雄しべと雌しべを外に出しているだけです。イネって風媒花だったんですね。
ウバユリ |
力強くすっくと伸びるウバユリ。山の奥で大きいのに出会ったりすると天狗にでも出くわしたかのような気になります。この花、姿は立派なのですが、ユリにしてはいまひとつ華麗さにかけるという点でみんなと意見が一致しました。ひとつは花弁がきれいに開ききらず根元まで深く裂けたようになることと、もう一つは汚れた茶色のような模様(?)があること。写真の状態がこの花にとってちょうどベストの時期なのです。
河原 |
スタート地点に戻ってきて昼食を済ませたら、午後は水生昆虫の調査です。加えて今回は水質の調査もしてみることにしました。
水質調査の説明 |
指導員の新川さんから調査キットの使い方の説明がありました。
今回調べるのは川の水のpH(ペーハー)とCOD。pHは「水素イオン濃度」といって、ご存じ水の酸性・中性・アルカリ性を示す数値。値が大きくなるとアルカリ性、小さくなると酸性です。CODは「科学的酸素消費量」といって、水の中の有機物(プランクトンや生活排水、家畜のし尿など)の量から水の汚れを測ろうというもの。水の中の有機物を酸化させるのに必要とした試薬の量を酸素の量に換算して表します。したがって値が大きいほど有機物の量が多い、すなわち汚れているということになります。
調査キット | 標準色表 |
調査キットはチューブの両端が圧着してあってその中に粉末の試薬が入っています。一方の端に糸が挟み込んであって、これを抜くとその部分が水の吸い込み口に早変わり。チューブを半分ほどつまんだ状態で水に浸け指を緩めるとスポイトの要領で吸い込み口から水が入ってきます。緑の試薬が入っているのがpH用、白い試薬が入っているのがCOD用です。
水棲昆虫の採集 |
まずは前回同様に水棲昆虫の採集から。虫網とトレイを持って河原に下りると、あっという間にン十年前の川ガキに変身。時間を忘れて石をひっくり返します。(ひっくり返した石は必ず元に戻しておきましょう。)
カワゲラ |
短時間のうちにさまざまな生き物を採集することができました。(中には虫網でトンボを採っている人も。)カワゲラ、トビゲラ、ヘビトンボ、サワガニ。いずれもきれいな水に棲む生き物たちです。でもヒルも採れたところをみると清流といった感じでもなさそうです。
水質は… |
さて水質調査の結果ですが、pH値は6.5と7の中間くらいでした。pH7が中性なのでほとんど中性といったところです。CODは2ppm程度。わずかに汚染されている程度でした。これは柴木川側も太田川本流側もほとんど変わりはありませんでした。
調査地点(柴木川側) |
最後に「川の自然調べ」です。これはNACS−J(日本自然保護協会)が全国展開している自然の定期健康診断。今年は川です。(●が調査地点の様子)
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調査地点の得点はトータルで14点。4ランク中上から2番目の位置づけで、「まだ自然が残っています。これ以上自然が失われないように注意しましょう。」といった評価でした。その中でも最上位の評価に近い方です。
このデータは指導員の六重部さんのもとでまとめられて、NACS−Jに送られることになります。
今日は薄曇りの天気で蒸し暑かったですが、熱中症にかかる人もなく無事に終了することができました。
芸北の方の空は黒い雲に覆われてゴロゴロと雷の音がしています。2時30分、雨が降り出さないうちに解散となりました。
解散後、一人で芸北の八幡高原に行ってみました。
シラヒゲソウのポイントがあったのですが、水路にコンクリートを張る工事が施されていてほぼ全滅に。この場所から一つの種があっけなく消滅してしまっていました。
トンボソウ |
でもその近くにトンボソウの姿を見ることができました。先日、棲真寺の近くでみたオオバノトンボソウとは異なり、繊細な感じがします。
夕方、家に帰ってから近所の京橋川の河原に下りて水質調査をしてみました。
京橋川(工兵橋下) |
調査地点は太田川本流から京橋川が分かれて100m。工兵橋の下です。ここは干満によって潮が上がってくる汽水域。ちょうど満潮に向かい潮が上がってきている最中でした。
結果は、pH値は7.5くらいで、ややアルカリ性か。COD値は3ppmくらい(写真は採取直後なのでピンクがかっていますが、CODは5分後の色で判断します。)。河口近くなのでこんなものでしょうか。