戸河内 〜定点観察・初夏〜
観察場所はこんなとこ |
【広島県安芸太田町 平成17年5月28日(土)】
太田川流域の定点観察も3年目になりました。
一昨年の観察ポイントは広島市安佐北区口田地区。太田川が平野部に出て数q下ったあたりで、河口からは10qほどさかのぼったあたりです。市街地から近くて周辺には宅地が広がっていますが、まだまだ畑も点在しているような地域。整備された河川敷での観察でした。
去年の観察ポイントは広島市安佐北区野冠・宇賀地区。太田川が山間を蛇行しながら流れ、川に沿って集落が点在しているようなところ。蛇行の内側には砂の洲が作られ、淵では泳いだりできるような、川小僧にはもってこいの場所です。河口から35qほどさかのぼった野冠(のかずき)地区から上流に向けて約2q先にある宇賀地区までの右岸。交通量の少ない生活道路を川沿いに移動しながらの観察でした。
観察ポイント |
さて今年の観察ポイントは安芸太田町戸河内地区。河口からは71qほどさかのぼった地点になります。写真左手の橋の下を通って流れてきた太田川本流と、写真右手の白い橋くぐって流れてきた柴木川との合流地点あたりで、川岸には大きな岩がごろごろと転がっています。ここから太田川の源流までは32q。かなり上流部までさかのぼってきました。
開会 |
午前9時30分、開会。スタート地点は、安芸太田町役場からR191を500mほど進んだところの交差点を左折、すぐに出合橋を渡り、その先の分岐にある広場です。この分岐を直進する道は県道296号線で、立岩ダムを経由して旧吉和村に至ります。またこの分岐を右折すると県道252号線となり、内黒峠を越えて恐羅漢スキー場まで行くことができます。
今日はこの広場に車を置いて、徒歩で分岐を左折して、太田川本流の右岸を歩いてみることにしました。
コメガヤ |
小穂を米粒に見立てたネーミングのコメガヤです。きれいに並んだ小穂は柄の根もとに節があってそのせいでみんな下を向くのだそうです。イネ科の植物はどれも同じに見えてしまいなかなか覚えられないのですが、このコメガヤも現地では判別できず、帰ってから調べがついたものです。
観察風景 |
左岸は県道296号線で、ときおり車が行き来していますが、この右岸は道幅も狭くほとんど車は通りません。いや、車どころか地元の人ともすれ違うことはありませんでした。唯一出会ったのは道の脇の畑で作業をしていた年輩のご夫婦。挨拶をして観察会をさせてもらっている旨を告げると、快く受け入れてもらいつつも、こんなところで何か見るものがあるのかといった表情。ところがどっこい、このような何の変哲もないところにも自然の不思議はあちこちにあるのです。
今回の観察会も、誰が先生で誰が生徒といった構図はありません。観察を通じて感じた疑問はみんなで考え、見つけた感動はみんなで共有する。名前を知らないことを恥ずかしいと思う必要のない、楽しい観察会です。
クサノオウ | コガクウツギ |
どこででも見かけるクサノオウの茎や葉を切ると黄色い乳液が出てくること、その乳液は有毒であるとともに薬効もあるらしいこと。コガクウツギの葉は薄暗い林の中で見ると紺色の金属光沢に光って見えること、ゆえに「紺照り木(こんてりぎ)」の別名をもっていること。そんな話を聞くだけでただの雑草、雑木から自分の中で特別な存在に変わっていくのです。
シライトソウご一行様 |
山の斜面の林の中にシライトソウの群落が。こんなにもたくさんのシライトソウを一度に見たのは初めてです。北向きの日当たりの悪い斜面で、他の植物にとっては必ずしも住みやすい環境ではないのでしょうが、このシライトソウにとってはのびのびと生活できる環境なのでしょう。それにしても壮観です。
アップで |
シライトソウの花びら(正確には花被片)は線状で、図鑑では6個と記されています。確かに一箇所から線状の白い棒が1本、2本、3本…、んっ? 4本しかありませんが。でもよーく見ると、4本が出ているところと同じところに極小の棒というか粒というか、とにかくそれらしいものが2個ついています。これを入れて計6個。
しかし何でこんな形に? シライトソウに限らず、植物をよく見てみるとそう思うことはしばしばあります。それらしい答えを思いつくこともありますが、ときにはまったく???のことも。そもそも神の造形に必然などないのでは?などと首を捻ることしきりです。でも、これだから自然観察はやめられない。
太田川本流(上流側から) |
河原の藪の中からキジが飛び立っていきました。突然の羽音にビックリです。
お昼になったので朝のスタート地点に戻ってきました。ついでにその周辺も歩いてみましょう。
ナガバノモミジイチゴ | ハンショウヅル |
今日はこのナガバノモミジイチゴの実をおやつ代わりにたくさん食しました。味といい食感といい、ジューシーさといい、なかなかのものです。後で聞いた話ですが、ちょうど同じ頃野生のサルがこれを食べているのをみんなが目撃していたとのこと。行動パターンがサルなみですか…。
水棲昆虫の調査 |
昼食後、柴木川側の河原に下りて水棲昆虫を採集しました。ほんの10分ほどでいろんな昆虫を採集することができたところをみると、この川は生き物の影の濃い昔ながらの姿を保っているのかもしれません。
結果の分析 |
水棲昆虫に詳しい指導員の柴田さんが解説してくれました。どれも同じように見える虫たちにもそれぞれの生活史や生活様式があることに、一同「へぇ〜」の連続です。特にトンボの幼虫のヤゴは餌を捕食するとき折りたたんでいる下あごをマジックハンドのように伸ばしてガシッと一瞬にして捕まえるという話を、実物のヤゴを使って実際に見せてもらったときにはどよめきが起きたほど。強烈なインパクトでこれからも決して忘れることはないでしょう。先ほどのシライトソウの群落を見たときにも劣らないほどの感動でした。
カワゲラ(幼虫) | ヘビトンボ(幼虫) |
カワゲラもヘビトンボもきれいな水に棲む昆虫。これらは完全変態で成虫になるとのこと。トンボは不完全変態といって、ヤゴから直接トンボの形で出てきます。すなわちヤゴの体の中ですでにトンボの形でいるということ。一方、完全変態の場合は、幼虫(水棲昆虫)の時期から次にいったんサナギになります。そしてサナギの中で体の構造をガラガラポンしてまったく別の生き物になり、そうやってサナギから出てくるのだそうです。
続いて太田川本流側での採集。こちらからはヒラタドロムシなど少し汚い水に棲む昆虫なども採集されました。水温もこちらの方がやや高く感じられたようです。
梅雨入り前の晴天の一日。「照りつける」といった形容が大袈裟でないほどの午後の光に、参加者の中にはお疲れ気味の方も。そろそろ解散の時間です。
3年目に入った太田川流域の定点観察。予想どおり豊かな自然に次回以降も十分に楽しめそうです。
往年の「川ガキ」3人組 |