忠生自然観察園 〜野辺に咲く愛しき雑草たち〜


 

【東京都 町田市 平成22年4月10日(土)】
 
 やぁ、今年もやって来ましたね、春が。桜が咲き始めてからも冷え込みが戻ってきたりしましたが、もうちゃんと本番の春がやってきました。四季のうちでも最も心が弾むこの季節。でも、この季節はそんなに長くは続きません。悔いを残さないよう、せっせと出かけなければ。
 ということで、今回は町田市にある忠生公園に向かいました。ここには鶴見川の源流部に数ある谷地のうちの一つを自然観察園にしたところがあるのです。さあ、ドライブがてら、野辺に咲く春の使者に会いにいきましょう。
 
                       
 
 この週末、散り始めたとはいえ、まだ桜はあちこちで咲き誇っていました。新宿の街はこの時期特有の浮ついた感じを漂わせていましたが、そんな中をドリーム号は西に向かい、首都高4号線から中央道へ。稲城ICで下りて、多摩川を渡り、すぐに多摩丘陵越えにかかります。ところどころ田舎の雰囲気が残る街道を走り、丘陵のあちこちに点在する住宅地を抜けて、道中のいたるところで咲いている桜を楽しみながら2時間近くかかって到着しました。

 忠生がにやら自然館

 忠生公園の入口には「忠生がにやら自然館」というビジターセンターのような施設がありました。「がにやら」とは、「カニの棲む谷戸」という意味だそうです。施設内には展示ホールやレクチャールーム、小さな図書コーナーなどもありました。ボランティアの皆さんの活動拠点にもなっているようです。
 この自然館の裏手は急な斜面になっていて、一気に谷戸の底まで落ち込んでいました。普通、谷戸というと、里山のひだに入り込む細長い平地をイメージしますが、ここの場合は平坦な台地面を深い谷が削り込んでいるという形なのです。

 広場では

 さて、目的の谷地に向かいましょう。自然館の横にある広場ではまだ桜が満開。お花見を楽しむ家族連れが楽しげでした。

 谷底へ

 谷地の底へと下りていく階段は、ちょっとダンジョン風。斜面を途中まで下って、そこから谷の反対側まで橋で渡ります。渡った先から谷の底までは、段々畑状の階段と坂道とに分かれていました。(なんかムダに金をかけてないか?)

 ヤマブキ

 最初に迎えてくれたのは、咲きはじめのヤマブキ。黄色の花は数々ありますが、ヤマブキの花の色は和風の黄色ですね。まだ蕾も多く、花の時期はこれからといったところです。

 タチツボスミレ

 タチツボスミレは日本列島津々浦々、様々な環境に適用できているタフなやつ。分布域の広さから、意識せずにこのスミレを目にしている人は多いでしょう。そう考えると日本人にもっとも親しまれているスミレといってもよいのでは。その姿には飾らない愛らしさがありますね。

 モミジイチゴ

 モミジイチゴの花がいつもうつむいているのは、訪れてくれる虫たちを雨から守ってあげようということなのでしょうか。
 葉がヤマブキのそれに似ていますね。どちらもバラ科で、親戚同士です。

 谷地の底

 落葉広葉樹の芽吹きはまだこれから。白いのはコブシの残り花です。やはり谷地の底は気温が低いのでしょう。季節が2週間ほど遅いような気がします。

 アオキ

 背中に暖かい日差しを感じながら、のんびりと観察していきます。
 めずらしい茶色の花。地味な色合いのアオキの花ですが、緑の中で見ると輪郭がくっきりとしていて目立っていました。ところでこの色、虫たちには何色に見えているのか?

 カキドオシ

 繁殖力が旺盛で、密生した垣根でさえ貫通して繁ってしまうことから「垣通し」の名をもらいました。小さな丸い葉が可愛くて、yamanekoの好きな花です。昔からの薬草で、子どもの癇にに効くといわれたそうですが、それって鎮静剤ということでしょうか。今ではカキドオシ茶がダイエットティーとして売られているようです。

 ムラサキケマン

 一風変わった形の花を付けるムラサキケマン。有毒植物です。誤って食べたりすると、呼吸困難や心臓麻痺を引き起こすそうです。恐ろしや。

 タチヤナギ

 湿地にやってきました。水辺を好むタチヤナギが雌花を上に向けて咲かせていました。この木は水際ぎりぎりに生えていることもめずらしくなく、中には完全に水中から立ち上がっているものもあります。名前の由来は枝が上向きに伸びるからだそうです。それにしても若々しい緑色ですね。

 湿地の観察路

 湿地には観察路が縦横に巡らされていました。奥に見えるのは台地面を走る幹線道路で、谷地の上を橋梁で跨いでいます。高さはざっと20mほど。けっこう深く刻み込まれた谷地であることが分かりますね。

 アゼスゲ

 今日の観察で一番ぐっときたのがこのアゼスゲ。このもさもさしたものとかブツブツしたもの、これでも花です。田の畦などに生えていることから「畦菅」の名が付いたのだそうで、湿潤な場所を好むスゲです。

 高さ30センチほどの茎の先端部10pほどが雄小穂。褐色の鱗片がムックのようです。雄小穂の下にはムカデのような雌小穂が。シラスのように見えるのは雌しべの柱頭。試験管ブラシのように細かい毛が密生していて、風に飛ばされてきた花粉を効率的にキャッチできるようになっています。
 なんとも奇妙な造形。こうなる必然があったのでしょうね。

 カラスノエンドウ

 これはカラスノエンドウ。キング・オブ・「雑草」ですね。マメ科の特徴の蝶形花です。雑草とは、人間の意図にかかわらず自然に生える植物のことをいうのだそうです。野に生きる植物を雑草と言ったりすると、「『雑草』という植物はありません」とたしなめられたりしますが、その言葉が持つたくましさから、yamanekoはあえて「雑草」と敬意をこめて呼ぶことにしています。

 トキワハゼ

 こちらはトキワハゼ。よく似た花にムラサキサギゴケがありますが、匐枝(ランナー)の有無で区別がつきます。匐枝を伸ばさないのがトキワハゼ。地面に張り付いたこんな小さなでも、近づいてよく見てみると、手の込んだ造形をしていることが分かります。

 キュウリグサ

 春の野辺で普通に見られる植物を、ここでは一通り見ることができるようです。上の写真はキュウリグサ。立ち上げた花茎の先に小さな小さなパステルカラーの花を咲かせています。花の大きさは直径わずか2oほどで、ルーペとかがあるとその可愛さが分かります。いまにも開こうとしている蕾がまた可愛い。葉っぱもです。

 セイヨウタンポポ

 まだ花茎も短いセイヨウタンポポ。総苞外片が反り返るのが特徴です。セイヨウタンポポは外来種で、その生息域拡大が在来種のカントウタンポポの生活を脅かしているのだそうです。受粉しなくても単為生殖で結実できたり、都市化が進んだ環境にも適応できたりと、その生命力はまさに「雑草」以上です。

 スズメノエンドウ  カラスノエンドウ

 スズメノエンドウはカラスノエンドウに比べて華奢な感じ。巻きひげの蔓もしなやかで、葉も細長く柔らかいです。

 キランソウ

 デジカメではキランソウの本当の色を表現するのは難しいです。肉眼で見るともう少し赤みのある紫色なのですが。この花も地面にへばりつくようにして生きています。

 少し陽が傾いてきたようです。そろそ斜面を上って谷地の上の台地面に戻りましょう。それにしても木立の中のこの雰囲気、好きだなあ。

 周囲に市街地が広がっているとは思えないような雑木林。ここも谷地の斜面です。
 
 いやいや、今日は長閑な花散歩ができました。いずれも小さな花ばかりで、足早に通り過ぎる人々にはなかなか気づかれない存在なのですが、立ち止まり、視線を下げて花たちに向き合うと、それぞれがハッとするほど美しいことに驚かされるのです。(いつもそばにいる幼なじみが運命の人だったという、二流青春ドラマのパターンです。)


 かたたごの森

 忠生自然観察園の谷地から道路をはさんで北側に「かたたごの森」というのがあったので寄ってみることに。でも開園時間は午後3時までだったらしく、残念ながらフェンスが閉まっていました。上の写真はフェンスの隙間から撮ったものです。小さな丘の北斜面にたくさんのカタクリが花を開いていました。

 カタクリ

 フェンスの外側で咲いていた一輪。しょんぼりと帰途につくyamanekoをなぐさめてくれました。ありがとさん。