大町自然観察園 〜下総台地の四季・9月〜
【千葉県 市川市 平成22年9月19日(日)】
暦的には明日からお彼岸。例年なら野のあちこちにヒガンバナが咲く季節ですが、今年は観測史上最強の夏だったせいか(というより体感的にはまだ真夏ですが)、ほとんど咲いていません。ヒガンバナの絨毯で有名な埼玉県の巾着田でも、まだ花茎を伸ばしただけの状態で、例年どおりのタイミングでやってきた大勢の観光客をがっかりさせていると報じられていました。
さて、千葉県は市川市内陸部にある長田谷津はどんな感じでしょうか。「まだ連日猛暑日だったりして」と先月書きましたが、猛暑日とまではいかないものの未だに真夏日が止んでいないので、相当疲弊しているかもしれません。
丘の上への階段 |
自然観察園に入って、まずはいつもどおり左手にある丘の上に上がってみました。
丘の上 |
ざっと見る限り、モミジの葉は生き生きとしているようです。ベンチがあるので格好の休憩場所ですが、ここに上がってくる人はあまり見かけません。きっと紅葉の季節になると賑わうのでしょう。このあたりだと12月に入ってからが見頃でしょうかね。
オトコエシ |
丘の上で目立っていたのはオトコエシでした。よく似た黄色いオミナエシとは近縁の間柄で、それぞれオトコエシは「男郎花」、オミナエシは「女郎花」と書きます。名の由来には諸説あるようですが、白い花を米粒に見立てて「男飯」、黄色い花を粟粒に見立てて「女飯」というのが有力なのだとか。全体の印象もオトコエシの方が大きくがっしりしているようです。
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丘を下りて谷津の奥の方に行ってみましょう。今日も暑いので人影はまばらです。
アマチャヅル |
小さくて緑色なので気づかずに通り過ぎてしまいそうでしたが、散策路脇にアマチャヅルの花が咲いているのを見つけました。掌状に付く葉には粗い鋸歯があり、一見、ヤブガラシに似ています。花はヒトデのようですね。ちなみにお釈迦様の誕生を祝う花祭りで供される甘茶は別の植物(アジサイの仲間)から作るものなのだそうです(アマチャヅルからもお茶を作るそうなので話がややこしい。)。
定点写真 |
あちこちで草刈りが行われていたせいか、ちょっとこざっぱりとした印象を受けます。全体的に少し秋めいて来ましたか。アシ原の茶色の部分も広がったようにも見えますが、これが暑さ疲れなのか、秋の到来なのか。おそらく前者でしょう。
ツユクサ |
強い日差しを透過して花弁が明るく輝いています。鮮やかですね。でも、夕方にはしぼんでしまう一日花です。
ハリギリ |
散策路に覆い被さるように葉を茂らせているのはハリギリです。天狗のうちわのような大きな葉。このくらいの大きさになるとハリギリの特徴である棘も目立たなくなるようです。散策路沿いにはこんな立派な木がたくさんあって、退屈しません。
アカバナ |
湿地を好むアカバナ。名前は秋に葉が赤くなることから。花の方は赤というより淡い桃色や白です。他にアカネという植物もあり、こちらはその名のとおり根が赤いです。正確には赤というよりも茜色ですが(いや、そもそもアカネの色だから茜色か。)。「茜空」とか「アキアカネ」とか、名の元となった植物そのものよりもその色の名前の方が広く用いられているようです。
バッタ君 |
フキバッタ型のバッタで体長は約4p。名前は…ちょっと判別できませんでした。ヤブマメの花を撮影しようとして葉裏をのぞいてみたら、バッタり目が合ってしまいました。
ジョロウグモ |
こちらはジョロウグモ。大型の網を二重に張って獲物を待ち構えていました。上の方に写っている小さなクモが雄です。大きさがあまりにも違うので、交尾は雌の着替え(脱皮)中や食事中に気づかれないようにササッと行うのだとか。獲物と間違えられるのを避けるためだそうです(悲しすぎます。)。
シラカシ |
ブナ科のドングリには、花を付けたその年に成熟するものと、その年は小さな実のままでいて翌年の秋に急激に大きくなるものとがありますが、このシラカシはその年に成熟するパターン。これから秋に向けて大きくなります。
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茶色は落葉樹 緑色は常緑樹 |
表にまとめてみると、その年に成熟するものと翌年に成熟するものとはほぼ同数ですが、翌年に成熟するものには常緑樹が多いのが分かります。落葉樹が冬を前にして葉を落とすのは低温による乾燥から身を守るため。そう考えると、やはり実も葉と同じように冬までに育てきってしまおうということか?
スズメウリ |
カラスウリの実がニワトリの卵なら、このスズメウリはウズラの卵。ところでこれもカラスウリのように朱くなるんだっけ?(調べてみると、なんと灰色になるようです。)
ニオイタデ |
開けた湿地をバックにすっと立っていたニオイタデ。全体に細かい毛があって、やや逆光ぎみの日射しに明るく輝いていました。名前のとおり良い香りがするとのことですが、yamanekoにはあまり感じられませんでした。
チョウジタデ |
タデといいながらタデ科ではなくアカバナ科。花は1pにも満たないごく小さいものです。ニオイタデの足元に這うように繁っていました。確かに葉はタデのものに似てますね。
谷津の最奥には、経10mほどの池が2つあります。そのうちのひとつ。水面に覆い被さるようなモミジの樹形がそのまま映っていました。ちょっとだけ涼しそうです。
フジバカマ |
野生ではなかなか見られなくなったフジバカマ。秋の七草の内の一つです。ちょっと見ただけではヒヨドリバナと見分けがつきませんね。葉が深く三裂するのが特徴です。
ツリフネソウ |
ツリフネソウです。谷津のあちこちに群落を作っていました。手前の花がまさに盛りの頃。その奥はこれから開くところ。その更に奥は蕾です。一番奥の細長いのは若い実でしょうか。
トウカエデ |
この夏の猛暑のせいか、トウカエデの果実はあらかた枯れてしまっていました。そういえば今年は山の堅果類も実りが少ないのだとか。クマが里に下りて来なければよいのですが。
オニグルミ |
オニグルミの実です。花の姿からは想像できない形です(花のときにも「あの実ができるとは想像できない」と書いていました。)。こちらは猛暑にもめげずに無事実ったようです。
ウド |
これはウドですな。葉の広げ方といい花茎の伸ばし方といい、なかなか均整のとれた姿をしています。晩秋の黄葉の時期もまた趣があって良いですよ。
中秋 |
気温は真夏のようですが、太陽の運行は例年と変わらないので、この時期の日射しの角度はやはり中秋のもののはずです。「暑さ寒さも彼岸まで」 今週は週半ばの雨から急に秋めいてくるとの予報です。
ジュズダマ |
9月の長田谷津。暑い暑いと言いつつも、やっぱり季節は移ろいはじめていて、谷津の自然もそれを感じ取るかのように少しずつ姿を変えていました。
ところで、今回、シルバーウイークということもあり、行く先々で道路が激混みでした。しかも自然観察園の近くに大規模な霊園があるので、お彼岸の墓参りの人出ともかち合ったりして、片道2時間もかかってしまいました。ついでにこの辺りは梨の名産地。街道沿いには直売所がたくさんオープンしていて、帰りも…。