大町自然観察園 〜下総台地の四季・7月〜
【千葉県 市川市 平成22年7月24日(土)】
今年も下半期に入りました。梅雨も明け、ジリジリというかギラギラというか、地上を焦がすような日差しの日々が続いています。7月の長田谷津、さてどんな表情を見せてくれるでしょうか。
自然観察園に入ってすぐ左手に丘があり、これまでもまずはこの丘に上がっていました。今回、その丘に上がる階段のところにゲート状の看板が掲げられていて、そこには「やまゆりの里」と記されていました。どうやらヤマユリを植栽してあるようで、この時期、ヤマユリ観察会も開催されているようでした。ただし、入口に申し訳なさそうに張り紙がしてあって、今年は生育がよくないとのこと。1年間手をかけてきた職員の方の残念さがこの張り紙から伝わってきました。
ヒヨドリバナ |
辺りには早くもヒヨドリバナが咲き始めていました。イメージとしては秋の花なんですが。しかもまだ7月。せめて暦の上ででも秋になってからにしてもらいたいものです。(今年の立秋は8月7日です。)
この花、近づいてよく見てみると、繊細な形をしていますね。針金のように飛び出ているのは雄しべと雌しべで、その根元にごく小さい花弁が5個付いています。名前はヒヨドリが山から下りてきて鳴く頃に咲くからだそうですが、それって具体的にいつなんだ。ヒヨドリは公園で1年中鳴いているような気がするのですが。
アキノタムラソウ |
アキノタムラソウにハナバチが来ていました。ずんぐり体型のハナバチにしては訪問する花が小さすぎやしないでしょうか。しがみついたとたんに、ぐらーんとたわんでしまいそうです。
このアキノタムラソウも「秋」といいつつ真夏から咲いていますね。そういえば、今年の1月に南房総の烏場山で季節外れに咲いているのを見かけました。いくら温暖な土地だからといって、季節感なさすぎです。
脱け殻 |
蝉の抜け殻を見ると子供の頃の夏休みを思い出します。四方八方から聞こえてくる蝉時雨の中、裏山に虫取りに行ったものです。収穫のないときにはこのセミの脱け殻を採って帰っていました。あと、学習雑誌の写真で見たセミの羽化を見たくて、朝のラジオ体操後すぐに山に入ったりしていましたが、その時間にはとっくに羽化を終えた後でした。結局この年になるまで未だ1回も生で見たことはありません。
ところで、学習雑誌といえば学研の「学習」と「科学」。(今は休刊になっているそうです。)当時、業者さん(書店の人だったのかも)が月イチで学校にやってきて、注文をしている生徒に配っていました。たしか、図書室でだったと思います。その場で代金を支払っていたのか、それとも集金袋で他の集金と一緒に集められていたのか。少なくとも注文用紙は先生が配っていたような気がしますが。いずれにしても、現在では考えられないような便宜供与がされていたんだと思うと、おおらかな時代だったんだなと隔世の感があります。
丘の上 |
丘の上はこんな感じ。ランニングシャツ姿で虫網を持った当時のyamanekoが出てきそうです。
ヤマユリ |
丘の上の奥の方、いつもはフェンスで仕切られて立ち入りできなくなっているところが、今日は解放されていて、そこが「ヤマユリの里」となっているようでした。ヤマユリはちょうど今が見頃といった感じでしたが、確かに数は少なく、かなり過疎化が進んだ「里」でした。
このヤマユリは東日本に自生する花で、広島にいたときには見ることはありませんでしたが、広島県内にはササユリのことをヤマユリと呼ぶ地方があるようで、はじめ「ヤマユリ」が自生していると聞いて「?」と思った記憶があります。ササユリはヤマユリの豪奢さとは対極に位置する「清楚」の代表のような花なんですが。
丘を下りていつもの観察路へ。ちょうど太陽が真上に来る時刻ということもあって、とにかく暑いです。池の水も微動だにせず、まるで蝋細工のような質感で暑さを増幅させています。唯一、アジサイだけが「涼」を感じさせますが、それも焼け石に水か。
マユミ |
2ヶ月前には白い4弁の花を咲かせていたマユミ。今は若い果実ができていました。これが秋には熟してピンク色になり、4つの稜の部分が隙間ができるようにして開裂して、中から赤い種子が顔を出します。このマユミ、結構高い山の上でも見かけたりします。
バラ園 |
バラ園までやってきました。あまりの暑さのせいか誰もいません。写真から伝わるでしょうか。熱せられた空気がそよとも動かず、露天サウナ(?)の中にいるようなんです。こんなろくに日陰もないようなところに長居をすると、高確率で熱中症になってしまいます。
定点写真 |
濃い緑に覆われて、目の前を流れている水路も見えなくなっています。左手の丈の高い植物群はヒメガマです。ベルベットのような質感の穂を蓄えていました。
ヒメガマ |
ヒメガマの穂です。アイスの「チューペット」のような形の部分は雌花穂。即ち雌花の集合体です。雄花穂はこの上部にあったはずですが、あらかた脱落してしまっています。雄花穂の花粉が風に吹かれて近隣の株の雌花穂に付着する仕組みの風媒花なので、雄花穂の方が高い位置にあるのも理に適っています。
ヤブガラシ |
この洒落た和菓子のようなもの。これ自体が小さな花のようにも見えますが、これはヤブガラシの「花盤」という部分です。簡単に言えば花の台座の部分で、ここから蜜を出して虫を呼ぶのだとか。本来なら目立つ花弁で虫を呼ぶところですが、ヤブガラシの花弁は小さく、緑色で、しかも花盤の下に向けて反り返っていて、まったく目立ちません。花より団子で勝負、ということですね。たしかヤツデの花も花盤から蜜を出して虫を呼ぶと聞いたことがあります。この花盤、まずオレンジ色になり、その後ピンク色に変色します。ピンク色になった頃には雄しべや花弁も脱落してしまいます。
クサガメ |
この猛暑の中、ひとり涼しそうな顔をしているのはクサガメ君。この亀はもともと大陸の出身のようで、近世になって移入されたものという説が有力とのことです。都市近郊の水辺では、同様に外来種として近年問題視されているミシシッピアカミミガメ(子供は縁日でミドリガメとして売られている。)など、「外人さん」しか目にしないような気がしますが、日本の在来の亀ってどんなのがいましたっけ。思い出せません。
ミソハギ |
お盆の花として知られるミソハギですが、yamanekoの田舎でお盆にこの花を供えているのは見たことがありません。名前は「禊ぎ萩(みそぎはぎ)」からきているとのことで、やはり祭事に由来するもののようです。山中の湿ったところに生える花です。
カラスウリ |
カラスウリは夜に咲く花。なので昼間の観察でその花にお目にかかることはありません。写真左は明日あたりに咲く蕾。写真右は昨夜咲いた後の花です。
谷地の中央部には日陰がなく、逃げ場がありません。両サイドの木陰をたどるように歩いていきます。
イヌザクラ |
このイヌザクラ、花もそこそこ派手でしたが、実もカラフルですね。最終的には黒くなります。いかにも鳥が好みそうです。
およそ植物の名前に「イヌ」が付くときには、付かないものに比べて劣っているといった意味合いがありますが、いったい何が劣っているのか。やっぱり実ですかね。
ノブドウ |
こちらはまだ青いですが、熟してくると青紫から赤紫へと微妙なグラデーションで見るものを楽しませてくれます。でも口に入れると…。
ヌマトラノオ |
花穂がぴんと立っているので、これはヌマトラノオですね。よく似るオカトラノオは花穂の上部が垂れています。
さっきのイヌザクラといい、このヌマトラノオといい、動物の名を用いた植物って結構ありますね。他にもウシハコベ、キツネノマゴ、ネコヤナギ。まだまだあります。クマシデ、ヒツジグサ、サルナシ、ブタクサ、ネズミモチ…。変わったところではミミズバイやハエドクソウなんかも。
木陰に入るとほっとします。それにしても風がない。つーっと汗が背中を伝います。
フジ |
フジの実がボテッとぶら下がっていました。もちろん微動だにしません。風がないですから。
ソクズ |
咲き始めのソクズ。別名をクサニワトコというだけあって、全体の印象がニワトコに似ています。近づいてみると思いの外都会的な花でした。黄色いビーズのようなものは腺体で、ここに蜜を溜めて虫をおびき寄せるのだとか。花に蜜はないのだそうです。でも花に来てもらわなければ意味がないと思うのですが。どんな虫が来るのかしばらく見ていましたが、強烈な暑さに挫折してしまいました。
アサザ |
谷地の最奥部にある遊水池までやってきました。小さな池にアサザが。この日差しに負けない濃い黄色をしています。アサザは漢字で「浅沙」と書き、浅いところに生えるという意味からその名が付いたということです。ふーん。
遊水池は満々と水を湛えています。覆い被さる木々の梢を水面に映し、辺りが緑一色に。心なしか体感温度が下がったような…。
ハンゲショウ |
暦の雑節に「半夏生」(毎年7月2日頃)というのがあり、その頃に咲くことからハンゲショウという名が付いたと言われています。葉が半分白くなるので「半化粧」となったという話も聞きますが、これはどうも後付けっぽい気がします。写真のように全部白くなることも多いですし。
調べてみると、そもそも「半夏」と呼ばれる植物があり、これはカラスビシャクであるとのこと。そのカラスビシャクが生える頃のことを暦上で半夏生というふうに呼んでいたということです。この方式で考えるとハンゲショウは「ハンゲショウショウ(半夏生生)」ということになりませんか? どうでもいいか。
トンボ2種 |
左はウスバキトンボ? 右はオオシオカラトンボ(♀)ですね。
エゴノキ |
エゴノキの実が鈴なりに。普通これだけたわわに実っていると美味そうに見えるもの。でも、みるからに堅くてえぐそうな感じですね。花はきれいなんですけどね。でも、実にサポニンが含まれることから、石けんの代用にしたり、その毒性を利用して漁をしたりと、人間様にとっては有用な一面もあったようです。
ヘクソカズラ |
気の毒な名前の花ですが、ご覧のとおり花は可愛いし、実もリースの素材にできるしで、もっと評価されてもいいと思います。サオトメバナとか他の呼び名もあるようですが、ヘクソカズラは万葉の頃からの呼び名だそうで、ある意味由緒のある名前ともいえますね。ところで、実際に臭ってみても名前ほど強烈な臭いはないように思うのはyamanekoだけ?
時計を見ると午後1時半。今まさに最も気温の高い時刻です。今日の長田谷津は、人影が少なかったせいか静かでした(セミの声は別として。)。それより、無音のはずの日差しがジーーッというか、ギーーッというか、そんな音を発しているようにも感じました。このところテレビをつけると熱中症の話題が多いです。yamanekoも暑さにやられないうちにドリーム号の中に避難しようと思います。(エアコンが効いてくるまでの車内がまた尋常ならざる暑さなんです。)