大町自然観察園 〜下総台地の四季・1月〜


 

【千葉県 市川市 平成22年1月9日(土)】
 
 同じ場所を1年間継続的に観察してみようという「定点観察」。なんだかんだで去年1年間はできずじまいでしたが、一昨年は多摩丘陵の生田緑地で、その前は府中の野川公園で観察していました。ということで、今年は千葉県市川市の北端にある大町自然観察園で定点観察してみようと思っています。野川公園も生田緑地も、そしてこの大町自然観察園も都心から直線距離でほぼ20qのところ。いずれも開発を免れ、地域の人々の努力で今の姿が保たれているところです。昭和中期のよき時代の面影ですね。
 
                       
 
 大町自然観察園へはいくつかのルートがありますが、今回は車で訪れました。高速を使って約1時間半。首都高での渋滞がなければもう20分くらいは短縮できたかもしれません。

 自然観察園の南側にある駐車場(1日500円)にドリーム号を停めて、てくてくと歩き出します。自然博物館の前を通り過ぎると、上の写真のような気持ちのいい小径になります。ここは冬には日差しが差し込み、木々の葉が茂る季節になると日差しが遮られて涼しい場所になります。

 下総台地の斜面から湧き出した水が、小さな流れとなり、やがて小川となって里を潤す。ここはそんな環境のところです。時刻はまだ正午過ぎ。でも日陰にはいるとシンと冷えて、まだ季節は寒中であることを再認識させられます。

 ニガキ

 さすがにこの時期、辺りを見渡しても花らしいものは見あたらないので、今日はもっぱら冬芽とか果実とかを中心に見てみようと思います。
 その一番手はニガキの冬芽。起毛のコートを着込んでいますね。この木は名前のとおり葉や芽など全体に強い苦みがあるそうで、樹皮や材は健胃薬に利用していたのだそうです。花は緑色で小さく目立ちませんが、4月下旬、枝先にびっしりと花を付けた姿はいかにも新緑といった色合いで、若々しさを感じます。

 ムラサキシキブ

 ムラサキシキブの冬芽。ピンクの花、紅紫の実とはうって変わって地味な色合いです。こちらもビロードのような毛に覆われています。

 マユミ

 磯のカメノテのようなマユミの冬芽。つけ根にある白い半月形の部分は葉痕です。

 定点写真

 観察路は左右の樹林に沿って延びているので、この時間、左側(西側)の道を行くとずっと日陰になります。この場所はちょうど左右の観察路をつなぐ通路。これからこのポイントでの風景の移り変わりを毎月写真に収めていきたいと思っています。

 ソメイヨシノ

 これはソメイヨシノ。観察園の南側は庭園風になっていて、ソメイヨシノも何本か植わっていました。花見のシーズンには賑わうんでしょう。

 ガマズミ

 まだ冬芽自体小さいガマズミ。真ん中の部分がもうちょっと大きくなるとそれらしくなります。この花が咲く頃は梅雨のまっただ中でしょうね。6月の観察が楽しみです。

 カルガモ

 途中にあった池にはカルガモの群れが。本州以南のカルガモは渡りはしないとのことなので、ここでは1年中見ることができます。どおりで人に慣れていたわけだ。それにしても足冷たくないか。

 ノキシノブ

 東屋の茅葺き屋根に密生していたのはノキシノブ。昔、田舎ではよく見かけた光景です。ノキシノブはシダの一種。葉の裏のイカの吸盤のようなものは「ソーラス」(胞子嚢群)と呼ばれるもので、いくつもの胞子嚢が寄り集まっているところです。

 ハンノキ

 高さ15mくらいはある立派なハンノキ。もう少し暖かくなると開花ですね。「湿った場所を好む」といわれますが、湿ったところでも生きていけるメカニズム(幹の皮目から空気を取り込んで地下に送り込む機能)を手に入れたことから、他の種との競合を避け、生育範囲を確保できたということでしょう。アカマツが痩せた土地で優勢に生育するのに似ていますね。

 コブシ

 暖かそうなファーに身を包んでいるのはコブシの冬芽。コブシは比較的身近な植物ですが、なんと四国には自生していなのだとか。つい最近まで知りませんでした。

 ムクノキ

 この干しぶどうみたいなのはムクノキの果実。これだけ干からびると、もう食べても美味しくないでしょうね。晩秋に黒く熟した頃には干し柿みたいです。

 アカガシ

 常緑のドングリの代表格、アカガシ。冬芽は硬く締まった感じです。葉は縁が波打っているのが特徴です。アカガシのドングリは2年をかけて成長しますが、2年目の夏まではごく小さくて、殻斗(帽子の部分)にほとんど埋没している状態。それが2年目の秋になるとぐんぐんと成長しだして、わずか2ヶ月ほどでちゃんとしたドングリになるのです。ドングリの殻斗は大別して、鱗状の模様のものと横縞の模様のものとがあり、アカガシはビロードのような手触りの横縞模様です。

 水路

 谷地のあちこちに自然にできた水路があり、これが谷地を潤しています。昔は谷地の入口部分は水田で、その奥は茅場、山際は薪を拾う薪炭林として人々と関わってきました。その環境は様々な生物の命を育み、調和の取れた生態系が維持されてきたのです。人間が関わることによって保たれる生態系もあるのですね。

 ミズキ

 こちらはミズキの冬芽。葉の展開は4月、花は5月です。これから成長していくためにどんどん水を吸い上げるでしょう。早春に枝を切ると水が滴り落ちることからミズキの名が付いたといわれているので、その吸い上げる力は並々ならぬものがあると思われます。

 観察路の日陰の部分に入るとヒンヤリ。湿地の部分にある大きな木はハンノキです。

 アオハダ

 これは冬芽ではありませんが、アオハダの枝(短枝)です。このような短枝があちこちにできるのがアオハダの特徴でもあります。名前の由来は、樹皮の内側が緑色だから。同じようにキハダは黄色いですよね。

 観察路が日向に出るとこんな感じ。今日は風もなくてちょうどよい観察日和です。

 コガマ

 この谷地には、ガマ、コガマ、ヒメガマと、3兄弟そろって生えているそうですが、写真のものはコガマでしょうか。また季節を替えて観察してみましょう。

 ニワトコ

 ニワトコの丸い冬芽は「混芽」といって、葉芽と花芽が一緒に詰まっています。一方、単独の葉芽もあって、こちらの方は細身です。写真の混芽の下の部分にある黄緑色のものはアブラムシ。こんな冬にもちゃんと生きて活動しているんですね。

 早春

 まだ早春と呼ぶのもはばかられるくらいの季節ですが、ぽつりぽつりと春の便りが。

 湧水

 谷地の最奥部までやってきました。ここには台地の斜面から湧き出した水が溜まっている池があります。これが自然にできているものか、それとも人為的に池にしているのかは分かりませんが、長田谷津の水はここから流れ出しています。ここから台地の斜面を登って800mほど行くと分水境。台地の尾根に沿って新京成電鉄が通っているので分かりやすいです。
 さて、今度は谷地の東側を通って戻りたいと思います。

 アオサギ

 獲物を狙うアオサギ。素晴らしいバランスコントロールで、同じ姿勢で微動だにしません。

 トウカエデ

 トウカエデの翼果。もうドライフラワーのようになっていますね。散りそびれた(?)のでしょうか。

 イヌザクラ

 赤いマニキュアをしているのはイヌザクラの冬芽。まだ伸び始めたばかりです。5月にはとてもサクラとは思えないような花を咲かせます。

 ヨコヅナサシガメ

 コナラの樹皮の隙間になにやら黒いものが。よく見るとヨコヅナサシガメが密集して越冬をしていました(アップの画像は自粛しておきます。)。ヨコヅナサシガメとはカメムシの仲間で、他の昆虫の体液を吸うなかなかの強者。毛虫なども補食するので益虫とされることもあるのだとか。指されると激しく痛いそうです。もともとは中国とかにいたものが、昭和の初め頃に九州に入ってきたのだそうで、関東地方で見られるようになったのは1990年代になってからだそうです。

 コナラ

 そのコナラの冬芽はこちら。コナラは落葉するドングリの代表格です。関東地方では最もなじみ深い樹木ですね。

 ムラサキシキブ

 ムラサキシキブの果実。いい感じで干からびています。ひところ流行ったリース作りの格好の素材です。

 時刻は3時前なのにこの夕暮れ感。逆光で分かりにくいですが、小さな羽虫が蚊柱のように沸き立っていました。こんな寒い時期に羽化する虫もいるんですね。午後の光を反射してダイヤモンドダストのようでもありました(ちょっと良く言いすぎですが。)。
 
 さて、本年最初の定点観察。天気にも恵まれて楽しく観察できました。かえって2月の方が寒かったりするので、来月も防寒対策をしっかりとしてやって来ようと思います。
 
 

  下総台地と大町自然観察園