大平山 〜富士山絶景の山〜


 

【山梨県 山中湖村 平成18年9月24日(日)】
 
 暑い暑いと言っていた頃からまだそんなに経ってはいないのに、気がつくともうすぐ10月。早いものです。この過ごしやすい季節がずっと続けばよいのですが。そういえば「暑さ寒さも彼岸まで」。昨日が彼岸の中日でした。
 さて、こんないい季節に家でじっとしているわけにはいきません。なのでやっぱり今週も出かけることに。場所はベランダから真正面に見える富士山、の麓にある小山、大平山(おおひらやま)です。
 
                       
 
 7時前に家を出て、順調に流れる中央道を一路西へ。八王子を過ぎ小仏トンネルを抜けると相模湖(神奈川県)、さらに西に進むとすぐに山梨県に入ります。大月で河口湖線に分岐。すぐにリニアモーターカー実験線の高架をくぐりました。河口湖で南東方向に大きく回り込み、ここから先は東富士五湖道路になります。

 山中湖の向こうに大平山

 富士山の東麓に湖水をたたえる山中湖。富士五湖の中で最も大きく、最も高いところにある(標高982mで全国でも第3位の高さ)湖です。湖畔の駐車場に新ドリーム号(仮称)を停めたのは8時30分。東京から1時間半で到着しました。ちなみにこの駐車場、無料です。
 時間が早いせいか散策をする人もまばら。靴を履き替えて、ストレッチをして、コンビニで食料を買い込んだら、もう9時。向こうに見える大平山(▼印)を目指してスタートです。


Kashmir 3D

 コースは大出山(上の写真で山頂に白いリゾートホテルが乗っている山)の下から稜線に登り、あとは尾根筋に沿っていくつかのピークを越えていきます。帰りは来た道を戻り、途中から北側に下りてみようと思います。

 登山口

 湖畔に沿って歩道を歩き、9時20分、大出山の下にある登山口に到着しました。この道は大出山の中腹にある別荘地のための道路。この道を上り詰めると山道につながるのです。

 センニンソウ(果実)

 センニンソウの果実。花よりもむしろ派手な姿です。秋の日差しを受けて輝いています。

 ツルニンジン

 木立の中の舗装路を上がっていきます。別荘地なので車の往き来もほとんどありません。
 林の縁にツルニンジンが鈴なりに咲いていました。(実じゃないんだから「鈴なり」はおかいしいか。) ひと蔓に蕾のものから開花したものまで。成長の過程がよく観察できます。

 キオン  ヤマトリカブト

 木漏れ日の適度の光量を好む花たちが迎えてくれました。湿潤でもなく乾燥でもなく、林の縁はそんな環境なのです。
 写真のキオンはまだ株が小さいので、特徴でもある葉の鋸歯が目立っていないし、頭花の数も少ないですが、成長すると1m近くになり、茎の先端で枝分かれして頭花をたくさん付けます。紫色の花を連ねているのはヤマトリカブト。トリカブトの仲間は広く日本全土に分布していますが、このヤマトリカブトの分布は局所的(名前は全国区なのに)で、関東西部から中部東部だそうです。まさにここは分布域のど真ん中です。

 登山道へ

 舗装路のまま稜線に出て、そのまましばらく行くと行き止まりが駐車スペースになっていました。ここからが登山道です。そして気になる看板が。先月、この近くでクマが3頭連れだって目撃されたとのこと。腰にぶら下げた熊鈴が御守りです。

 ハコネギク  ウラギンヒョウモン

 このハコネギクも株が若いので図鑑やネットの写真などと少し印象が違いますが、総苞片の形や葉の表裏にごく短毛があることなどで区別できました。ちなみになぜ小さい株の写真が多いかというと、単に茎が長いと風に揺れてブレやすいからです、ハイ。

 草原状の道

 ここまで木立の中を歩いてきましたが、途中にある飯盛山というピーク辺りから草原状の道に変わりました。ススキが揺れています。
 爽やかに風が吹き渡り、なんとも気持ちいい山歩き。でも、直に日光を浴びて歩くと少し汗ばむほどです。

 ワレモコウ  ナンブアザミ

 これでもバラの仲間のワレモコウ。名の由来はいくつかあるようですが、「われもまた紅い」という意の「吾亦紅」と字を充てるのが自分としてはしっくり来ます。アザミはキク科。これは本州中部以北に分布するナンブアザミです。これぞアザミという刺々しさ。総苞が球形で総苞片は反り返ります。下向きに咲くのも特徴です。

 カワラナデシコ  ダイコンソウ

 秋の草原といえばカワラナデシコですね。理性的なキキョウ、情緒的なオミナエシと並んで蠱惑的なカワラナデシコは秋の七草の代表格です。(個人的な評価です。)
 ダイコンソウ。なんとも垢抜けない名前ですが、花は結構派手な造りです。名の由来は根生葉がダイコンの葉に似ているからだとか。なんとこれもバラ科なんですよ。

 ズミ(果実)

 頭上の梢にはズミの実が。そういえばこれもバラ科でした。これから晩秋にかけて紅く色づいていきます。その遠景に富士山です。この登山道は振り返るたびに富士山を見ることができます。ですが、山頂からの眺めが感動的なので、途中ではなるべく振り返らないようにするのがよいでしょう。さあ、あと少し。道はだらだらとした上りですが、青空と秋風と木や花に囲まれてまったく苦になりません。あぁ、やっぱり野山はいいなぁ、って声に出して言ってしまいそうです。

 テンニンソウ

 シソ科のテンニンソウです。これもまっすぐに伸びて1mくらいにはなります。シソの仲間だけあって茎の断面は四角形。以前、四国の石鎚山の谷筋で大群落に出会ったことがあります。ぞくっとするような幽玄な趣がありました。

 セイタカトウヒレン

 頂上の手前でまた木立の中の道になりました。
 すっくと立った背の高いアザミが咲いていました。その茎には特徴的な翼があります。主に関東から中部地方にかけて分布しているそうです。アザミの仲間は区別が難しくてこれまで避けがちでしたが、いくつかの着眼点を決めて観察すると、それなりに親しみがもてるようになってきました。

 山頂

 さあ頂上に到着です。時計を見ると11時30分。さんざん立ち止まったり休んだりしてこの時間ですから、普通に山歩きをする人だったら1時間くらいで到着するような行程でしょう。頂上には東屋とベンチ、それとNHKのアンテナ施設がありました。けっこう広々としています。

 富士山
 
(写真をクリックすると迫力アップ)

 西の方角に超ド迫力の富士山です。周囲に他の山を寄せ付けない広大なすそ野。ものすごく広いエリアにたった一座のみです。おそらくこんな空間は日本中探しても他にはないでしょう。富士山の手前に広がる薄茶色の部分は陸上自衛隊の東富士演習場です。その手前には山中湖。この湖は富士五湖のなかで唯一流出河川をもつ湖なのだそうです。
 あぁ、雪を頂く富士山もきれいですが、風に揺れるススキの背景の富士山もいいものですね。大平山は東京の自宅と富士山とを結ぶほぼ線上にあるので、この形の富士山を小さくしたものをベランダから見ていることになります。ちょうどこの写真を撮ったときと同時刻に自宅から息子がこの富士山を見ていたそうで、この雲の形を覚えていました。直線距離にして約80q離れたところから同時に見ていたことになり、ちょっと不思議な感じがしました。

 ハンゴンソウ

 雄大なパノラマは西方向だけではありません。西から南、南から東にかけて270度の景色です。
 山頂を越えていく心地よい風にハンゴンソウが揺れていました。これも西日本では目にすることのなかった植物です。ハンゴンソウ(反魂草)の「反魂」と死者の魂を呼び返すこと。何か曰くありげな名前です。

 アケビ

 ゆっくりと昼食をとって、雄大な富士山をしっかりと目に焼き付けて、さて下山開始です。
 歩き始めてすぐアケビの実を見つけました。でも、まだ開いていないので、そのままに。来週あたりに登った人がこのごちそうにありつけるかもしれません。

 ノダケ  コウシンヤマハッカ

 帰りは途中から北に張り出した尾根の道へ分岐します。林の中を歩く道なので涼しく、また違った植物にも出会えました。
 ノダケはセリの仲間。葉柄の根本が袋状の鞘になっているのが特徴です。コウシンヤマハッカはシソの仲間。コウシンは「甲信」のことで、その名のとおり山梨県と長野県南部に分布しているそうです。4本ある雄しべのうちの2本が長いのが特徴。

 ミズヒキ

 どうにもフォーカスを合わせにくいミズヒキ。これはタデの仲間です。「蓼食う虫も好き好き」のタデです。この花を観察するときはルーペが必要。なかなか都会的な容姿の花ですよ。

 下山しました

 さてさて北側のふもとの別荘地に下りてきました。今日も花三昧の山歩き。紹介したもの以外にも、ヒヨドリバナ、マツカゼソウ、ゲンノショウコ、アキノキリンソウ、ツリガネニンジン、ヤマラッキョウ、サラシナショウマ、タチフウロ、キバナアキギリ、ナンテンハギなどなど。まさに「秋の花オールスターズ」といったところでした。
 時刻は14時。ここから山際沿いに迂回して新ドリーム号(仮称)の待っているところまで歩いて帰ります。
 
 朝、ガラガラだった駐車場は車でいっぱいになっていました。ここから南に下り篭坂峠を越えて御殿場から東名高速で帰るという方法もありますが、ちょっとだけ距離が短い中央道経由(すなわち朝通ってきた道)で帰ることにしました。まぁ、どのみち強烈な渋滞にはまるのは同じでしょうから。今日一日の楽しい山歩きを思い返しながらゆっくり帰ろうと思います。