島根少年自然の家 〜指導員交流会〜
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【島根県江津市・大田市 平成15年11月2日(日)〜3日(月)】
NACS−J(日本自然保護協会)の自然観察指導員は全国に約22,000人。その活動の最小単位は個人ですが、多くの指導員はより多様な活動を展開していくために、また、相互に研鑽していくために、グループを結成して活動しています。そのひとつが自然観察指導員連絡会です。
この連絡会は、各県ごとに自主的に組織され、その設立経緯や形態も様々です。広島の場合、広島自然観察会の会員のうち指導員資格を持っている人達で組織しています。
広島県自然観察指導員連絡会では、お隣で、かつ、先輩格でもある島根県の連絡会と平成7年から交流会を行っていて、指導員の親睦と相互啓発を図ってきました。やがて途中から山口県の連絡会が加わって「三県交流会」と称して持ち回りで開催するようになり(
yamanekoもこのあたりから参加するようになりました。)、そうなると当然の成り行きとして誰ともなく「中国五県交流会の実現」を口にするようになりました。しかし、現実には鳥取県には連絡会組織はなく、また、岡山県はかつてあった連絡会が現在は休眠状態となっていて、その道のりは容易ならざるものがあったのです。
ところが、先月下旬、鳥取県で初めてのNACS−J指導員講習会(指導員を養成する研修会)の開催を機に、同県在住の指導員による鳥取県の連絡会が結成されるはこびとなりました。一方、NACS−J本部では岡山県在住の指導員たちに個別に働きかけるなどして同県の連絡会の活動再開を強力にバックアップしはじめ、これにより「五県交流会」が一気に現実味を帯びてきたのです。
開会前 |
こういう状況のもと、今年は島根県主催で第9回の交流会が開催されました。
場所は島根県江津市にある県立少年自然の家です。参加したのは総勢50名。島根、山口、広島の連絡会と新たにできた鳥取県連絡会、それと連絡会としての参加ではないものの呼びかけに応じてくれた岡山県在住の指導員も加わり、初めての「五県交流会」が実現したのです。何はともあれめでたい。
島根県の佐藤代表 |
11月2日(日)、午後1時30分、島根県の佐藤代表の挨拶で交流会は始まりました。
簡潔なお話しでなによりです。
そして、次はアイスブレイク。
アイスブレイク |
手にした文字カードで言葉を作るゲームです。例えば、「4文字の言葉を作ってください。」と言われたら、自分を含めて4人で集まって言葉を作ります。初対面の人も多かったのですが、これでかなり打ち解けた雰囲気になりました。
続いて、今回のテーマのひとつ「ネイチュア・フィーリング」についての研修です。
「ネイチュア・フィーリング」を「障害を持つ人を対象とした自然観察会」と認識している人は多いのでは。かくいう yamaneko もそう思っていました。
ネイチュア・フィーリングとは、人種、性別、年齢、身体的特徴などといった様々な個性や個人差に関わらず、だれもが楽しく参加できることを基本に、特に障害を持つ人には、その障壁をできるだけ感じさせないよう配慮した自然観察のことをいうのだそうです。
今回は島根県の指導員の手引きのもと、われわれ他県の指導員が障害を持つ参加者を疑似体験することにより、ネイチュア・フィーリングの入り口を学ぼうという企画です。
まずNACS−J本部から駆けつけた伝井さんから、自身がスタッフとして関わっている新宿御苑でのネイチュア・フィーリングの様子について紹介がありました。
そして次に参加者役の人を4つのグループに分け、各グループごとにローテーションしながら4つのメニューをこなしていきます。
◎車イス体験
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乗ってみて、押してみて、 …なるほど! |
車イスに乗るのも押すのも初めて、という人がほとんどでした。
前から引っ張られるのと違い、後ろから押されるのは何か不安を感じます。特にちょっとしたスピードの変化でもドキッとします。また、段差を超えるとき後輪を支点にして前輪を持ち上げるのですが、わずかしか持ち上げていないつもりでも乗っている方からすればのけぞるような感覚です。自分の身体を人に制御されるときの不安感を体験することができました。
◎不自由体験(視覚)
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こんなところを歩いてたのか |
目隠しをしていろんなところを歩いてみます。
これは不安というよりはっきり言って「怖い」という感じです。前の人に従ってアスファルトの上を歩くだけでもビクビクもの。普通では感じないほどの傾斜でも目隠しをしているとずいぶんと傾いているように感じました。
一人ずつスタッフに手を引かれ斜面を降りて、そこからはロープづたいに一人で歩いていきます。目隠ししただけでまるで全身の感覚器官が増幅されたよう。靴の裏の感触や落ち葉を踏む音など、いろんな情報が飛び込んできます。ロープの終点に着いて目隠しを外したときは「ここはどこ?」、そして安心感とともにドッと疲れたような気がしました。
◎五感を使った観察
五感を使って |
「この木の名前は…」こんな説明をする前に、「ちょっとこの実を味わってみて。」
見た目赤黒くすっぱいのはナツハゼの実、もろ塩辛いのはヌルデの実、苦〜いのはセンブリの葉。名前を口にするのは強烈な印象を与えてからでも遅くはありません。いっそ名前など言わなくても、という場面もあるでしょう。
◎視覚障害を持つ方のサポート
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景色の描写も忘れずに |
どうやったら不安を感じさせることなくサポートすることができるだろうか。二の腕をかるくつかんでもらって歩調を合わせて歩く。階段の上り下りは常に1段先を行く。そして何よりもまわりの様子をこと細かく言葉にすることが有効なのだそうです。でも、視覚障害を持つ方の不安の多くは人に関することだとか。相手がどういった人物なのか分からないことに強い不安を感じるので、まずは自己紹介をして安心してもらいましょう。
ということで、4つのメニューを終えました。
「ネイチュア・フィーリング」と聞くと、何か特別なものといった感があり、指導員としてもつい構えてしまいがちです。でも普段の観察会でも軽い障害を持った方が参加されることはあるわけで、その方たちとも自然の不思議やすばらしさを共有したい、そのために観察会スタッフとしてどう関わればいいか、といったレベルから取り組んでいけばずいぶん敷居が低くなるような気がします。
夕方5時からは今回のもうひとつのテーマ「三瓶小豆原埋没林」についてのレクチャーです。
明日の午前中に現地を見学することになっていて、埋没林の成因やその発見の経緯などについてスライドを使いながら分かりやすく解説されました。単に学問的な解説にとどまるのではなく、発見から保存、展示にまで中心的に関わってきた佐藤さんならではの隠されたエピソードなども紹介され、もともとこの種の話には個人的にも興味があったので、楽しく聞くことができました。
本日最後のプログラムは、各連絡会の活動報告です。
今回の交流会を機に鳥取、岡山両県の連絡会の発展をみんなで応援していこうということで、めでたくまとまりました。(拍手)
夜7時からはお楽しみの懇親会です。これがなければ交流会の所期の目的を達することはできません。(というか、これを目当てに参加している人もいるはず。)
和気藹々 |
ここは少年自然の家。この種の教育研修施設とは思えないほどおいしい料理にビックリ。聞くところによると、こだわりのシェフがおられるそうで、その味になるほど納得でした。
となりに座った人が初対面であっても、そこは同じ志をもつ者同士、すぐに打ち解けて楽しい懇親会になりました。このHPを見たことがあるという奇特な(?)方もおられて、感謝感激です。
当初の配席から席を立ち、一升瓶を片手に注ぎまわる人が出始めたらいよいよ懇親会も最高潮。会場がみんなの楽しそうな笑顔で溢れています。
開始から1時間半。このあたりでいったん中締めです。あとは宿泊棟の談話室に場所を移して、さらにエンドレスな意見交換へと突入していくのです。指導員には体力も必要なのだ。
一夜明けて、11月3日(月)の朝は小雨がぱらついていました。
そうそうに朝食を済ませて、約50q離れた大田市の三瓶小豆原埋没林に移動です。
左手に日本海を見ながら国道9号線を北上します。どんよりとした空模様にしては海は穏やかに凪いでいるようでした。幸いにも雨はあがったようです。
車20台あまりの大キャラバンなのではぐれて道を間違えないように、大田市内に入ってからは島根県のスタッフが矢印プレートを持っていくつかの交差点に立ってくれていました。きめ細かな対応に感謝です。
埋没林公園 |
ここ大田市三瓶町小豆原地区は三瓶山の山麓にあり、今から3500年前までは現在の地表面より約20mほど深い谷筋になっていたそうです。谷を覆う広葉樹の林のあちこちからスギの巨木が天を突くように突き出ている、そんな風景が広がっていたのでしょう。(見たわけではないんですが…。)
そんな頃、三瓶山の北斜面が噴火し、猛烈な火砕流が標高差500mを駈け下ってきてこの谷を埋めたのだそうです。
埋没林なので地上に出ている施設は入り口のみ。展示は地下にあります。あたりまえか。
巨大なスギ |
「なんじゃこりゃー」(松田優作調) 入り口を入って、まずその威容に圧倒されました。
天井が現在の地表面。こんな大きな木が林立していたこと自体十分驚愕に値しますが、3500年もの間朽ちることなくじっと土に埋まっていたことにも感動を禁じ得ません。
直立しているスギの足元には押し流されてきた倒木が残されています。発掘当時は一面に折り重なっていたそうですが、展示の都合上一部のみ残したのだそうです。
それにしても、こんな巨木が数メートルの間隔で林立することができる、その自然の豊かさというか力強さに驚くばかりです。
最初の一株 |
続いて別の展示場に入ってみました。
つい最近まで、小豆原地区は谷間の隠れ里のようになっていて、小さな水田が肩を寄せ合うように集まっていました。そこの圃場整備が発見のきっかけだったそうです。この展示場にはその最初の一株があります。「合体木」といって、いくつかの株が成長する過程でくっついてそのまま大きくなったものだそうです。その証拠に切り口には年輪の中心が複数あります。
ちなみに、この木の上部は三瓶自然館「サヒメル」に展示されています。現在の地表面の高さのところで切れていて、それより上は朽ちて消失していますが、生きていたときには高さ40mあまりであっただろうと言われています。
サヒメル(新館) |
ふたたび移動して、次は三瓶山の「北の原」にあるサヒメルに向かいます。
ここは自然史博物館として充実した展示があることはもちろんですが、興味を惹く実験や体験をつうじて子どもたちに自然科学への入り口を開いてくれています。もちろん大人にとっても楽しい場所です。
それと島根県の指導員連絡会の拠点になっていて、こういった場所があることをうらやましく感じます。
ここでは、島根県の指導員の星野さん(サヒメルに勤務)のガイドで博物館のバックヤードを見せてもらいました。
展示標本の窒素薫蒸などの前処理をする部屋とか、実験研究スペースとか、普段は決して見ることのできない博物館のウラ舞台です。
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アンモナイト | 剥製標本 |
サヒメルの研修室にもどってきて、昼食を済ませると、今回の交流会の全プログラムは終了です。
全体を通して、島根県の連絡会の豊かな企画力、スタッフ同士の連携のすばらしさに、正直なところ感服しました。
これはいったい何なのか、次回開催県としてじっくり考えてみる必要がありそうです。(でも、あまり背伸びしないで我々なりのカラーを出せばいいのかもしれません。広島県連絡会も発展途上なのですから。)
広島に帰る途中に立ち寄った断魚渓(島根県石見町)
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