北本自然観察公園 〜小さな長閑な観察会〜
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【埼玉県 北本市 平成19年4月21日(土)】
去年の梅雨時、埼玉県東松山市にある武蔵丘陵森林公園に行ったときのことです。広い里山をそっくり公園にしたようなところで、花壇やサイクリングコースが整備されている一方で、ほとんど手つかずの里山が残っているエリアもあちこちにありました。そんな一角にすでに花の時期が過ぎたクマガイソウを見つけたのです。(見つけたというか、観察ルート上にあるのですが。) 広げた扇子を2つ合わせたような特徴のある葉。来年の花の時期には忘れずに見に来ようと思っていたのです。それで、今日、まずはそのクマガイソウを見に行って、その後はその辺でぶらぶらしてみようと。
武蔵丘陵森林公園へ行くときには、一般的には関越道を使います。天気は上々。渋滞もなく、新ドリーム号はすべるように走っていきました。
自然観察ルート |
9時30分の開園とともに、トコトコと野草の観察ルートへ。ここを訪れるのはおおむね植物に興味のある人たちだけで、一般のカップルや家族連れはまずお目にかかりません。ちょっと離れたところを通っているサイクリングコースからときどき嬌声が聞こえてくることがあるのを除けば、本当に静かな林です。
ジロボウエンゴサク |
ヤマシャクヤク |
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ヒイラギソウ |
シロバナエンレイソウ |
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ジュウニヒトエ |
ホタルカズラ |
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キンラン | ヤマオダマキ(蕾) |
ちょっと散策路を歩いただけで、こんなにも花に出会いました。
クマガイソウ |
そしてお目当てのクマガイソウです。ちょうど良い時期に訪れたようで、どの株もみずみずしい花を付けていました。
この環境を保全するために活動している地域のボランティアの方に話を伺ってみました。
広葉樹林の里山の小さな谷地に広がるクマガイソウの群生地。東向きの斜面に約600株ほどが生育しているとのこと。もともとこの群生地の一角に自生していたものを大切に育て、また山梨県(長野県だったか?)から移植してきたりして、現在の規模にまでなったのだとか。やはりこの限られた場所の中でも生育に適したエリアでなければ育たないそうで、やみくもに植えてもだめなのだそうです。
クマガイソウは、その花を平安末期の武将、熊谷直実(くまがいなおざね)の背負った母衣(矢除けの布袋)に見立てたもの。一方、似た花に赤い花冠をもつアツモリソウというものもあり、こちらは一ノ谷の戦いで直実に討たれた平敦盛(たいらのあつもり)の母衣に見立てたものです。敦盛、享年16歳。その後直実は出家したといいます。白は源氏の旗の色、赤は平氏の旗の色なので、このような名を付けたのでしょう。なかなかうまいネーミングだと思います。
お昼になったので森林公園をあとにして、街道沿いにあるバーミヤンで腹ごしらえ。駐車場でナビを見ると、ちょっと離れた(15qくらい)ところに「北本自然観察公園」というのを発見しました。
北本自然観察公園 |
北本自然観察公園は、北本市の中心部から3qほど離れたところにあります。地形としては荒川の氾濫原が里山と出会う、疎林と葦原が広がる場所。行ってみると静かな場所でした。「公園」といってももちろん遊具などがあるようなところではなく、また桜並木や藤棚があるわけでもない、自然学習の場といった感じでした。
生きものマップ |
学習センターの館内に入るとホワイトボードに様々な情報が書き込まれていました。例えば、「4/13 マムシ」とか、「4/15 ニホンミツバチ活性化」、「4/18
ウワミズザクラ開花」など。また、「4/15 センダイムシクイ」など夏鳥の飛来情報も。写真やイラストなども添えられていて、このボードを見ているだけで生き生きとした自然の息吹を感じることができます。
また、レクチャールームや工作室もあり、年間を通じてさまざまな行事が予定されていました。自然観察を中心とした様々なメニューが揃っています。
カケスの羽根 |
こんなものも貼り出してありました。青い模様も鮮やかなカケスの羽根。来館した人が園内でひろったもののようです。こんな綺麗な羽根をもつカケスですが、鳴き声は「ゲー、ゲーッ」。そう、カラスの仲間なのです。
観察会 |
ちょうど2時からの観察会の募集をしていたので申し込みをしてみることに。この観察会は毎週土日の午後に行われているそうで、そのときどきのおもしろい自然を約1時間で紹介するというお手軽なもの。誰でも参加でき、もちろん無料です。今日はニホンミツバチが巣作りをしているとのことで、それを観察するという内容でした。
アシの話 |
スタートしてしばらくすると葦原にでました。ミツバチのところに行く前に、アシが環境のために果たす役割についてレクチャー。
今回の参加者は、年配の方から小さなお子さんを連れたお母さんまで、全部で11人。案内役は職員の岩井さんと佐々木さん。見かけは東京メトロの駅員さんのようですが、インタープリターとしてはなかなかのもので、自然についての知識はもちろん、自然保護についての考え方もしっかりしていた方でした(何様?)。こういうスタッフをそろえているところがこの施設のよいところなのでしょう。
ニホンミツバチの観察 |
学習センターから200mほど離れた場所に大きな木があり、その手前に小さな看板。「ニホンミツバチが巣作りをしています。そっと見守ってください。」といった内容のことが記されていました。
巣を遠巻きにしてのぞき込むと、木の根元にある穴から小さなミツバチが盛んに出たり入ったりしています。家屋の軒下などで見かける漏斗状の蜂の巣はアシナガバチのもので、ミツバチはこういった木の穴や家屋の隙間などに巣を作るのだそうです。
ニホンミツバチ |
しばらく観察した後、少し離れた場所に移動してミツバチについての解説がありました。辺りを飛んでいたニホンミツバチを1匹採集し、みんなでよく見てみることに。思ったより小さくて、スリムな感じです。
養蜂に利用されるのはセイヨウミツバチで、これは130年前に移入されたもの。ニホンミツバチに比べて飼いやすく、あっという間に全国に広まったことから、その野生化が心配されたそうですが、日本にはミツバチの天敵のオオスズメバチがいて、今のところセイヨウミツバチの野生化は報告されていないのだそうです。(ニホンミツバチはオオスズメバチを大勢で取り囲んでボールのような固まりを作り、その中で蒸し殺してしまうという対抗策をもっているのだそうです。)
ミツハチが花の位置を仲間に知らせるために、巣に戻って8の字ダンスをするということはよく知られていますが、その距離や方角まできちんと伝えているという話、集めてきた密は口移しで貯蔵係のハチに渡し、足に付けてきた花粉は子供の餌にするという話、そのほかミツバチに関する楽しい話を聞かせてもらいました。
観察ルート |
学習センターに戻る道々、いろんな葉っぱを触ってその感触を確かめてみようという遊びをしました。観察会ではよく行われるプログラムです。ザラザラなもの、ツルツルなもの、毛が生えているもの、しっとりしたもの、硬いもの…。葉っぱにも様々な個性があるものです。
イヌコリヤナギ? |
ヤナギの果実が熟して開裂し、白い綿毛を出していました。この綿毛は種子の一部で、風に乗って飛んでいくのです。ネコヤナギのようでもありますが、果穂が短いのでイヌコリヤナギのようでもあります。
クロスジギンヤンマの羽化 |
今日、みんなが一番目を輝かせたのが、このクロスジギンヤンマの羽化でした。トンボは半日くらいかけて羽化するそうで、普通は早朝暗いうちから始まるのだそうです。こうやって午後に羽化しているのはめずらしいのだとか。そもそもこういった場面に巡り会うこと自体が希なことです。
アケビ |
ちょうどアケビの花が満開。透きとおるような紫色が爽やかです。
1時間ほどで観察会が終わり、学習センターまで戻ってきました。大人にはちょっと物足りないような気もしますが、短時間なのでふらっと来たついでに参加でき、また、子供の参加にも適しています。解説の中身も充実しているし、安全管理もしっかりしていました。なにより何の変哲もない自然の姿を楽しく、継続的に紹介するというそのスタイルが気に入りました。遠いのでしょっちゅう来るわけにはいきませんが、また季節を変えて訪れてみたいと思います。
「何か…?」 |
日向ぼっこ中のアマガエル(武蔵丘陵森林公園で)
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