岩湧山 〜人の手で守る山頂大草原(前編)〜
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(前編) |
【大阪府 河内長野市 平成31年3月9日(土)】
来てます。スギ花粉のシーズンが。晴天ということもあり、予報では近畿中部南部ともに3月下旬並みの気温だそう。これは覚悟して出かけるしかありません。場所は金剛山地の南部にある岩湧山(897m)。山頂部のススキの原が見事とのことで、秋にはたくさんの人が訪れるそうです。当然今の時期にもススキはあるわけで(枯れススキですが)、きっと同じように素晴らしい景色が待ってくれていると思います。
年度末のバタついている時期ではありますが、こんなときこそ野山歩きでリフレッシュ。大切なことです。
7時28分藤井寺駅発の近鉄電車に乗って南大阪線を南下。古市駅で乗り換えなしで長野線に入り、7時55分、河内長野駅に到着しました。ちなみに市名や駅名こそ「河内長野」ですが、地元の方は当地を普通に「長野」と呼んでいて(長野中学校や長野小学校などもある)、長野といえば信州を思い出す者としては違和感がありありです。
そういえば車内放送でも、例えば「次は河内山本、山本です」とか「次は河内小阪、小坂です」と必ず二回目には河内を付けない駅名をコールします。
登山口がある滝畑ダムへは駅前ロータリーの7番乗り場からバスで向かいます。発車時刻は8時30分。待ち時間を使って入念にストレッチをしておきました。
定刻どおりバスは発車。車内は数人が立っている状況で、山登りの格好の人が半分、ジャンパー姿の若者が半分でした。バスは河岸段丘を最上段まで上がり(河内長野駅は河床近くの段に位置しています。)、しばらくバイパスを走った後、滝畑ダムを目指して山間の道に分け入って行きました。 ずいぶん山の中に入ったと思う頃にサイクルスポーツセンターという施設が現れ、若者集団はみんなそこのバス停で降りて行きました。若い従業員さんかバイト君かそんな感じでした。
滝畑ダムバス停 |
9時ちょうど、終点の滝畑ダムに到着しました。バスを降りるとさすがにシンと冷えています。バス停はダム湖の最上流部にあり、対岸には集落もありましたが、この辺りの集落はダム建設によっても水没していないとのことで、昔ながらの民家もあるそうです。
登山口 |
バス停から川を遡る形で200mほど歩くと、食堂が現れ、その先にトイレと登山口がありました。 9時10分、靴の紐を締めなおして出発です。
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Kashmir 3D |
今日のコースは、登山口から扇山の西斜面を登り、カキザコというポイントで南斜面に出て山腹をじわじわ登っていきます。稜線に出たらひたすら東へ。岩湧山の山頂を踏んだらそのまま反対側に下っていき、五ツ辻から隣の稜線に移ります。岩湧山三合目から一気に谷底に下り、あとは川沿いに紀見峠駅まで歩いて行きます。歩行距離11kmちょっと。しっかり歩けるコースです。
出だしから |
さて、いきなりの急登です。山の西側斜面なのでまだ日差しはなく、アウター越しに冷気が感じられます。
林道 |
すぐに林道に出ました。ここは道を横切る形で奥の階段に取り付きます。
山道の脇にこんな看板が。岩湧山の山頂部は毎年山焼きをしているとのことで、今年は4月7日に行われると書いてあります。そこはススキの草原状で、これが岩湧山のウリのようなのですが、その状態を維持するために毎年山焼きが行われているんだそうです。
登るにつれだんだん体が温まってきました。胸元を開けて体温調節です。野山歩きの際にはいつも吸湿速乾素材のインナーを着ていますが、こういったこまめな調節が下山まで良好なコンディションを保つうえで大切なことです。
ダイヤモンドトレイル |
まだ新しい立派な石柱がありました(この後いくつも出てきました。)。ダイヤモンドトレイルと彫られています。ダイヤモンドトレイルは金剛山地の峰々をつなぐ縦走路で、全長40q以上もあり、この辺りはトレイルの南端部に当たります。
アオキ |
これはアオキの芽吹きですね。日陰でもそれを苦にしない花です。
ヤマコウバシ |
落葉樹でありながら枯葉を落とさずに冬を越すのはヤマコウバシ。もう光合成を行うという葉としての機能はないですが、落葉するのは新しい葉が出てくる頃でです。変わり者ですね。
ダンコウバイ |
おお、花に出会えました。ダンコウバイ、早春の山で見られる花です。クスノキの仲間で、漢字では「檀香梅」と書きます。果実に強い香りがあるからのネーミングのようですが、実際に嗅いだことはないような気がします。ちなみに「檀香」とはビャクダンのことだそうですが、そのビャクダンの香りも知りません。
この写真は望遠で撮ったもの。だいたい身長より高いところに花を付けるので、花冠を間近で見られることは少ないです。
登山道修復工事 |
崩落した登山道の修復工事が行われていました。作業箇所は結構な斜面で、谷側はかなり切れ落ちています。この写真は通らせてもらった後振り返って撮ったもの。山側に木を立てて壁を作り、崩落を防いでいます。さっきの林道に止めてあったトラックはこのためのものでしょうね。資材はそこから人力で運んだのでしょうか。
急な階段に息が上がります。暑くなってきたのでアウターは脱いで、ザックに突っ込みました。
少しずつ日差しが入ってきました。この先のカキザコという場所で支尾根を回り込み南面の山肌に出ると、完全に日向になるはずです。
カキザコ |
9時40分、カキザコに到着。先客の二人組が汗を拭いていました。
左手から登ってきて、ここで90度曲がって写真奥方向に登っていきます。
傾斜はそれほどでもないのですが、いかんせん延々と続いています。でも、やっぱり日差しを浴びて歩くと、春の訪れを肌に感じますね。もう完全に春のそれです。
ナワシログミ |
これはナワシログミの若い果実。里に苗代が作られる頃、4月から5月頃に赤く熟します。それ故のネーミングなんですね。昔は生活の中心に農耕があって、それが様々なことがらの物差しになっていたんでしょう。
モチツツジ |
モチツツジの葉が展開し始めていました。近畿地方に多いツツジで、あと1箇月もすると花を咲かせ始めます。
落葉樹が葉を茂らせる前、林床までさんさんと日が差し込みます。気持ちいい野山歩きです。
神野山 |
木立の向こうに神野山(こうのやま869m)の均整の取れた姿が望めました。和歌山県との府県境の山です。
ひたすら登る。階段も上る。息も上がる。
ソヨゴ |
ソヨゴの幼木。別名をフクラシバ。葉は固めで縁が波打っているのが特徴。花は白く小さく、実は赤く丸いです。広島で自然観察会をしていた頃、その存在を教えてもらってから好きになった木です。
杉林の中を行きます。日差しが作るマーブル模様。きれいですが、飛んでいる花粉も相当なものでしょうね。
yamanekoは毎年1月下旬から花粉症の薬を飲み始めます。長年の試行錯誤で自分の体に合った薬を見つけ出し、医師に処方してもらっています。朝夕1錠ずつ、日常生活はこれで十分で、5月の連休明けまで快適に過ごせるのですが、今日のように「敵地」に乗り込むときには、点鼻薬と目薬も使います。
杉林をジグザグに登ることしばし、頭上が開けてきました。稜線が近いようです。
稜線へ |
10時30分、登り始めて1時間20分で稜線に出ました。ベンチに腰を下ろして小休止です。
登ってきた方を振り返ると、さっき見た神野山です。
ハゼノキ |
見上げるとこんなものが。これはハゼノキの果実ですね。これからロウを採るため古くから栽培されてきた植物です。
さて、腰を上げて再び歩き始めましょう。
今日は最高の野山歩き日和です。休日と晴天と用事がない日が重なることは、そう多くはないんですよね。ラッキーです。
南河内 |
北側の眺め。河内長野や富田林の街並みを見下ろせました。南河内(みなみかわち)と言われる地域です。ざっくり大阪府を立てた唐辛子に例えると、淀川より北を唐辛子のへたとして、実の部分を縦に切った右半分が河内。それを3分割し、上から北河内、中河内、南河内といいます。大阪弁の中で最もアグレッシブといわれる河内弁。そういえば40年くらい前、「河内のおっさんの歌」って歌がありました。その歌を聞いたとき、ウケるとともに「河内っていったいどんなところなんだ?」といろいろ想像したことを思い出します。「そやんけワレ!」と言われても決して脅されているわけではなく「そうでしょう、君」と言われているだけです。
稜線の北側を辿る道。 この辺りまで来るとほとんど水平移動で楽チンです。
木の根元の日陰になっているところに雪が残っていました。明け方などはまだ冷え込むんでしょうね。
木立の向こうに何や明るい世界が。いよいよ山頂部か。
林を抜けると、おお、ススキの丘だ!いよいよ山頂部に向かうのか。 気がはやります。
とはいえこの急な階段。yamanekoには一気に登るのはちと難しい。途中で立ち止まり、息を整えつつ振り返ると、さっき木立越しに見えていた神野山がこちらを見ていました。大きな山塊です。その左端のピークは燈明岳ですね。
丘を登り切ったかと思っても、まだまだ階段は続きます。
高度を増すにつれ視界が広がり、神野山の右側に連なる山塊が見えてきました。中央のピークは三国山(885m)です。ちなみに三国とは、河内、和泉、紀伊です。
空の安全は任せろ |
三国山山頂の構造物。望遠レンズで捉えました。 レーダードームとアンテナ施設のようです。調べてみると航空路監視レーダーと放送局の中継施設のようでした。ああいった施設の保守のために山頂に上がる人もいるんですよね。もちろん車ででしょうが。
西側に向き直り眼下を見下ろすと、谷底に滝畑ダムの湖水が見えました。今日のスタート地点です。あそこから登ってきたんですよね。
さあ、岩湧山の山頂までもう少し。素晴らしい眺望に足が止まりがちですが、楽しみながら一歩一歩進みましょう。続きは後編で。
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