東館山高山植物園 〜スキーリゾートで百花繚乱(前編)〜
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(前編) |
【長野県 山ノ内町 令和4年7月16日(土)】
7月に入る前に早々と明けた今年の梅雨。この夏は水不足かと思わせましたが、その後ぐずついた天気の日が続き、海の日を含む連休も東京は雨との予報が出ていました。とはいえ、どっかに天気の良いところはあるのではないかと探したところ、長野県北部はそこそこの天気のよう。雨が降ったら温泉を楽しもうと腹を決め、出かけることにしました。目的地は北信の志賀高原です。
午前7時過ぎ、東京を出たときには梅雨末期を思わせるしっかりとした降り。覚悟はしていたのでそれほど残念な思いはなく、圏央道、関越道、上信越道とドリーム号Vを走らせました。ところが高速が碓氷峠を越えて長野県に入った辺りから雨が上がり、空が明るくなってきました。そして長野市辺りまで来ると雨が降った形跡すらないような状況に。この日は小布施の岩松院の鳳凰図を見に行くつもりだったので、ありがたかったです。
夕方に山ノ内町の渋温泉に移動して宿泊。熱めの温泉にゆっくり浸かって背中に凝り固まった日頃の疲れを解放しました。
横手山山頂からの眺望 |
そして翌日、朝風呂に入ってから出発。国道292号線(志賀草津道路)を走って、まずは群馬県との県境にある横手山へ向かいました。標高は2305mと高山ですが、リフトで山頂まで行けるので、まさに観光です。
その横手山山頂からの眺望が上の写真。方向としては北西の方角です。雲の下は長野盆地。その向こうには北信五岳(妙高山、黒姫山、飯綱山、斑尾山、戸隠山)などの山々が並んでいるはずです(心眼で。)。
山頂でひとしきり眺望を楽しんだら、今日の本来の目的地、東館山にある高山植物園に向かいました。横手山からだと渋温泉に向かって戻る形になります。
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Kashmir3D |
横手山と麓の渋温泉とのちょうど中間辺りにある蓮池地区から右手に道をそれ、県道471号線を走って発哺(ほっぽ)地区にあるゴンドラリフト乗り場へ。そこから東館山の山頂に上がりました。この山頂の東側に高山植物園が広がっているのです。
この辺り、東館山を中心としたエリアは志賀高原スキーリゾートの中心地。地図を見るとリフトやゴンドラの腺が縦横に記されていますね(18スキー場に49基だそう。)。その中でも特に東館山の南西麓や焼額山の南東麓などは長野オリンピックのアルペン競技会場になったほどの本格的コースとのことです。
山麓駅 |
午前11時45分、ゴンドラリフトの山麓駅に到着しました。ここ発哺地区は温泉のホテル・旅館などが数軒ある地区ですが、「山麓」とは名ばかりで、この辺りは標高差700mの山腹の中程斜面上に位置しています。
黄色のゲレンデ |
ゴンドラの中から撮った写真。急勾配のゲレンデ一面にニッコウキスゲが咲き誇っていました。まさに黄色い絨毯状態です。ちなみにこのゲレンデは長野オリンピックの男女大回転が行われたところだそうです。雪のないこの時期に立っても大回転できそうな斜度ですね。
山頂駅 |
11時55分、山頂駅に到着。結構大きな建物で、中には洒落たレストランもあります(シーズン営業)。
ほぼ四半世紀前になりますが、ここでオリンピックが開催された当時、アスリート達はこの駅でゴンドラを下りてスタート地点に立ったんですね。
イブキジャコウソウ |
早速、山頂駅周辺から観察開始です。
これはイブキジャコウソウ。麝香(じゃこう)の名を持つだけあって近づくと芳香がするそうですが、yamanekoの鈍い嗅覚ではこれまでそれを感じたことはないんですよね。残念ながら。
キバナカワラマツバ |
もともと河原で見かけるので名前に「カワラ」と付いているのですが、ここは標高2000m近い山の上。生育環境は河原に限定することなく多様なようです。ちなみに「マツバ」は葉の形が松葉に似ているから。
イブキボウフウ |
セリの仲間、イブキボウフウです。漢字で書くと「伊吹防風」。伊吹は伊吹山のことでしょうが、防風とは? 調べてもよく分からなかったのですが、イブキボウフウは沈痛の漢方薬として用いられていたことから、「防風」の「風」は痛風のことなのでは、というのはyamanekoの推測です。つまり痛風の痛みを防ぐということではないでしょうか。
テガタチドリ |
すっくと伸びたテガタチドリ。テガタとは、根の形が手型なんだそうです。本来は花序はもうちょっとふっくらとした形になるのですが。さっき通った横手山手前の車道脇にたくさん咲いていました。
タカネバラ |
愛らしいタカネバラの花。これぞまさしく「高嶺の花」ですね。
ニッコウキスゲ |
この日の主役、ニッコウキスゲ。標準和名はゼンテイカですが、別称の方が圧倒的に認知度が高いようです。
ヤマノコギリソウ |
ヤマノコギリソウ。葉が櫛の歯のような形状で、これが名前の由来だそうです。
ミネウスユキソウ |
エーデルワイスの仲間、ミネウスユキソウ。ウスユキソウの名を持つものは他にもミヤマウスユキソウ、ヒメウスユキソウなど多数あり、いずれも高山に咲く花です。ハッポウウスユキソウやハヤチネウスユキソウといった特定の山の名を冠したものもあります。登山者に人気の花ですね。ただの(?)ウスユキソウもあります。
キバナノヤマオダマキ |
まるで工芸品のような姿をしているキバナノヤマオダマキ。漢字では「黄花山苧環」と書きます。
キンロバイ |
キンロバイは周北極植物だそう。ちょっと聞き慣れない言葉ですが、周北極植物とは、北極を取り囲むようにして寒帯から亜寒帯にかけて広く分布する植物のことだそう。日本の高山帯はその分布の南限の一つなのだそうです。
オニアザミ |
オニアザミ。うな垂れていますが枯れかけているのではなく、これが開花時の姿。頭花が重いからでしょうか。でも、蕾の時からうつむき気味ですね。
東側斜面 |
山頂付近だけでもこんなにもたくさんの花に出会えました。そろそろ東側斜面を下って行きます。
キンレイカ? |
キンレイカ、もしかしたらハクサンオミナエシかも。今は蕾の状態ですが、開花すると見分けがつきやすくなります。キンレイカの花冠には3mmほどの距があるからです。
大沼池遠望 |
木立の向こうに青い水面が見えました。あれは大沼池。ここから3kmほど離れています。靄のベールに覆われてなかなか神秘的でした。
ネバリノギラン |
ネバリノギランです。ちょっと盛りが過ぎたあたりかも。その名のとおり、花穂を触るとネバネバしています。ノギランが低山で見られるのに対し、ネバリノギランはもっぱら高山で出会います。
アカショウマ |
これはアカショウマですね。「○○ショウマ」という名の植物はいくつかあり、キンポウゲ科であったり、ユキノシタ科であったり、バラ科であったり、出自は様々あります。でも、見た目は総じて似ていて、白い小さな花が密集して付く花穂を持っています。
ニッコウキスゲ |
いきいきしていますね、ニッコウキスゲ。標準和名のゼンテイカは、漢字では「禅庭花」と書きます。何やら曰くありそうな名前ですね。ちなみに、日光に限定することなく、東日本の山地や北海道に分布しているとのこと。
モミジカラマツ |
カラマツソウの仲間で、葉がモミジのようだから、モミジカラマツ。亜高山帯以高の場所に分布しているそうです。白く細いものは雄しべの花糸。花弁はありません。
キンコウカ |
キンコウカ。この花を見ると尾瀬ヶ原を思い出します。「草紅葉」の主役でもあります。そういえばコロナ禍もあってここ3年ほど尾瀬に行けていませんが、今年当たりはなんとか。
ヒオウギアヤメ |
ここの植物園にはヒオウギアヤメと、よく似たシガアヤメとがあるそうで、ぱっと見では見分けにくいです。図鑑では、内花被片が直立するのがアヤメ、外花被片(3つの大きな花弁状のもの)に添うように寝ているのがヒオウギアヤメ、ということです。
オオバギボウシ |
オオバギボウシはこれから開花の盛りを迎えるところですね。既に数個咲いています。
イブキトラノオ |
イブキトラノオが風に揺れていました。草原から頭を突き出して咲くのは、多くの虫に来てもらいたいからでしょうね。
ニッコウキスゲ |
ここは楽園か。夏の午睡の夢に出てきそうな風景です。
山頂駅から40mほど下って、向かいのピークとの間にある谷間にやってきました。谷一面を覆い尽くすニッコウキスゲに圧倒されます。
谷に添ってしばらく歩いてみましょう。
コバイケイソウ |
コバイケイソウはどの株も花穂が若干褐色味を帯び始めていました。盛りを過ぎたあたりのようです。この花には開花に当たり年があると聞いたことがあります(確か3年周期だったか?)。今年はどうだったのか。
ショウジョウバカマ |
これは? ショウジョウバカマの花後の姿ですね。開花は早春です。
ホソバノキソチドリ |
ランの仲間、ホソバノキソチドリ。漢字では「細葉木曽千鳥」です。花冠の形が千鳥に似ているということなんでしょうが、なんで「木曽」?千鳥といえば海辺の鳥なので「イソチドリ」とかのほうがしっくりきますね(こじつけ)。
ヤナギラン |
これはヤナギランの若い株かな。この園では、もう花期が過ぎつつあるもの、今まさに盛りのもの、これから盛りを迎えるもの、様々な植物が同居しています。
谷のずっと向こうまでニッコウキスゲに覆われています。すごいの一言。
ここからは、谷添いに武衛門池まで行き、そこからまた山頂近くまで戻って、最後に南側斜面を散策しようと思います。この後もどんな花に出会えるか楽しみです。(後編に続く)
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