蔵王 〜真夏の高原に涼を求めて〜


 

【山形県 山形市・上山市 平成18年8月16日(水)、17日(木)】
 
 夏です。夏休みとともに、ようやくyamanekoにも夏がやってきました。
 関東平野ごとフライパンの上に乗せられて炒められているような、連日の炎暑。やはりこのエリアから脱出するしかないとの強迫観念に駆られた結果、東北地方ならきっと涼しいだろうという見込みで、山形県の蔵王に行くことに急遽決定。ネットで2泊分の宿を予約して、ドリーム号で東北道をかっ飛ばすことにしました。世間はお盆のど真ん中。果たして渋滞やいかに。
 
                       
 
 8月16日午前4時、首都高5号池袋線の高松ランプのゲートをくぐったドリーム号は、中央環状線、川口線と走ってそのまま東北道へ。この時間帯でも決して車は少なくないのですが、流れは極めて良好です。
 西日本に接近している台風10号の余波なのか、埼玉、栃木、福島、宮城と、ずっと小雨が降っていました。ところが、山形自動車道に分岐して、奥羽山脈を越えた途端に、スカッと晴れているではありませんか。なんとラッキーなことか。せっかくの夏休みなのに雨か、と少しがっかりしながら運転していたのですが、山形の真夏の青空を目にしたら、そんな気持ちは跡形もなく消え去ってしまいました。
 
 午前9時、道中の渋滞もまったくないまま山形市内に。所要5時間のクルージングでした。

 山寺(立石寺)

 とりあえず午前中は山寺へ行ってみることに。ここは芭蕉の句「閑さや…」で有名な古刹です。
 ふもとから千段以上の階段を上らなければならず、早起きによる寝不足の身にとってはかなり厳しかったです。木立の中を上っているときはまだよかったのですが、頂上近くになって日差しを遮るものがなくなるとジリジリと容赦なく照りつけてきます。(あとでニュースで聞いたところによると、この日を含めて数日間、台風に遠因するフェーン現象で山形県内は猛暑になったとのこと。避暑のつもりがいきなり計算が狂ってしまいました。)

 蔵王の山並み

 午後はお目当ての蔵王へ。宿は蔵王高原にとってあります。
 蔵王といっても独立峰ではなく、いくつかのピークが連なる山塊になっています。山容を大きく俯瞰すると、なだらかに盛り上がったベースとなる山塊があり、それのあちこちが不規則に浸食され、また、噴火により削り取られたりして、全体としては奇観に富んだ地形になっています。


Kashmir 3D

 標高850mの蔵王温泉から、ケーブルカー、ロープウェイを乗り継いで、一気に地蔵山の頂へ。山頂駅の標高は1660m。さすがにここまで来ると涼しい風が吹いています。

 山頂駅前

 東の宮城県側からやってきた厚い雲は、ここ蔵王を越えると乾いた空気になるのか西の山形県側はきれいに晴れていて、ちょうど山頂部では陽が差したり陰ったりを繰り返していました。

 ヤマハハコ  オヤマリンドウ

 ロープウエイの山頂駅からすぐ隣にある三宝荒神山のピークまでの間を遊歩道が巡っていて、ここを歩くだけでも蔵王の特徴的な植生に触れることができるのだそうです。

 地蔵山

 遊歩道を歩いて三宝荒神山(1703m)の山頂までやってきました。ロープウェイ駅をはさんで向こう側に地蔵山(1735m)が見えます。

 ミヤマシャジン  アズマシャクナゲ

 ちょうどミヤマシャジンの盛りの時期でした。この花はヒメシャジンの変種だそうで、萼の鋸歯で見分けるのだそうです。
 蔵王といえばモンスターと呼ばれる樹氷が有名ですが、この標高になるともう高木はありません。アズマシャクナゲもここのものは身をすくめるようにして生えていました。花は最後の数輪といったところ。この花が株全体に咲いている時期に訪れたなら、辺りはいい香りに包まれていたでしょう。

 鳥兜山

 下りのケーブルカーから鳥兜山がすぐ横に見えました。この頂にもロープウエイが伸びています。夏の夕方の青空。yamanekoの好きな空です。

 ヤマユリ

 ヤマユリは東日本に特有のユリ。大きさといい模様といい、なかなか豪華な花ですよね。

 三宝荒神山

 ロープウエイの蔵王温泉駅までもどってきてから再びドリーム号で林道を上り、蔵王高原まで上ってきました。ここは先ほどまでいた三宝荒神山の山頂直下。ここにホテルがあります。山頂との標高差は350mほど。(写真ではそれほどに感じませんが)のしかかるようにそびえ立つ壁がこの山を神々しいものにしているようです。
 
 夜、ホテルの前の広場に出て夜空を見上げてみました。ビックリするほどの星の数です。ほんと降ってくるような感じ。
 今見えている光の粒たちは、自ら光り輝いている恒星だったり、その恒星が無数に集まった銀河であったり。見上げているこの夜空が宇宙に向かってぽっかりと開いた扉であるかのように錯覚してしまいます。
 それにしてもこの無限の空間の広がりはいったい何なんだ。意識を中天に集中させ、周囲の木立や建物が視界から消えてしまうと、まるで宇宙のただ中に放り出されてしまったように思え、自分の今立っているこの大地の、この地球の、危うさ、儚さをあらためて感じざるを得ません。

 御釜

 翌日、刈田岳の有名な「御釜」を見に行きました。到着したときは雲の中でまさに「五里霧中」の状態でしたが、わずかな時間だけ雲が引いてその姿を見ることができました。そしてすぐまた真っ白な世界に。
 予定ではここから熊野岳まで歩いてコマクサを見たかったのですが、なにしろ10m先は真っ白で何も見えない状態。残念ながらこの辺りで植物観察です。

 シロバナトウウチソウ  コケモモ

 シロバナトウウチソウは東北地方の特産種。北海道から本州中部にかけて分布するタカネトウウチソウに取り囲まれるように分布しているのだそうです。バラ科の植物でワレモコウの仲間です。トウウチ(唐打)とは中国の組紐のことで穂になって咲く花の姿から名付けられたもののようです。
 地を這うようにこんもりと群落をつくっているコケモモ。高さはせいぜい20p程度。これでもツツジ科のれっきとした樹木です。ちょうどたくさんの実を付けていました。この実はジャムの原料にしたり、コケモモ酒にしたりと用途が広いですが、高山帯の貴重な植物なので、もちろん採集してはいけません。(国定公園内ですし。)

 ミヤマコウゾリナ

 


 レンゲショウマ

 ふもとまで下りてきたらやっぱり夏空です。
 林の中に佇むレンゲショウマの涼しそうなその姿に、すーっと汗が引いていくようです。
 
 さて、今回のこの旅行。もう一つの目的だった米沢牛もしっかりと味わうことができ、これで短かった夏休みも終了となりました。
 帰りも渋滞と言うほどの渋滞もなく、無事に東京に帰り着くことができました。長旅を走り抜けてくれたドリーム号に感謝です。