吉和冠山 〜登って下りて8時間〜


 

【広島県吉和村 平成14年6月15日(土)】
 
 今日はいつもの山歩き仲間と吉和冠山に。
 このグループは自然観察(主に植物)をしながら歩くので、「超」が付くほどスローペースです。

 吉和冠山
 (奥の山塊)


 写真左下の松の木峠(山口県との県境)から、山頂に向けて写真右上方向に歩きました。
 「烏帽子」の首もと部分から写真奥方向(寂地山方向)に寄り道した後、引き返してあらためて山頂へ。
 下山は山頂から写真右下方向へ急角度で。きついはずです。「国体コース」ですから。
 トータル8時間の自然観察でした。(登山目的の人はもっともっと短時間で登れます。)


 松の木峠

 下山ポイントの汐原に数台の車を置いてから、登山口の松の木峠へ。
 天気はピーカンですが、登山道は天然のサンシェードのおかげでいい気持ち。

 登山道わきには興味を引くいろんなものがあります。
 次から次へと出てくるので、いきおいペースは遅くなります。

タンナサワフタギ
 果実は黒に近い紺色です。
シロシタホタルガ(幼虫)
 トトロの猫バス?
マムシ
 伸ばしてもせいぜい30pほどでしょうか。
コゴメウツギ
 秋には味わい深い黄色に「黄葉」します。


 標高900mあたりからブナが現れはじめます。

 何とも言えない存在感がありますね。


 1,200mを超えたあたりから今日の目的の花に次々とご対面。

 トケンラン

 ショウキラン

 オオヤマレンゲ

 山頂に着いたのは3時を回っていたでしょうか。
 しかし、スッバラシイ眺めです。

      中央奥の山が恐羅漢山(広島県最高峰)
      右は十方山。その間にはうっすらと臥龍山
      手前の山ひだは中津谷渓谷が刻んだもの。


 途中、大きな木がつる性植物に締め付けられていました。そして、そのつるは目の高さのところでブッツリと切断されていました。
 径5pはあろうかと思われるそのつるは、やがてその宿主を絞め殺すのかもしれません。絞め殺さないまでも見ていていかにも痛ましい光景です。
 切断して行った人の無言の、しかし強固な、「山を愛す者としてこの大樹を救う」という主張が感じられるような切り方でした。
 しかし、どうでしょう。そのつるは人為的に巻き付けられたわけでもないでしょうから、放っておくことはできなかったでしょうか。
 そのつるは、生存の競争に勝利すべく、先代の遺伝子を未来に引き継ぐべく精一杯に生きたでしょう。結果、宿主の木が朽ちたとしても、ここ吉和冠山の自然条件に適合した種が残ったということであり、それはこのように登山道わきの人目に付く場所のみならず、深い森のそこここで繰り広げられている日常のはずです。
 大きな木が倒れると、そこには大きな空間が開き、いままで遮られていた日光が林床まで降り注ぎます。するとそれを待っていたかのようにたくさんの植物の芽が伸びていき、また新たな生の競争が始まるのです。何千年もの間繰り返されてきた自然の循環ですよね。

 朽ちた木は自らの命を終えても、新たな生き物たちの中にその命を引き継ぎます。
 もちろん、それは植物だけにとどまらず、形を変えて、地中の微生物から、昆虫、小動物、鳥、そして生態系の頂点にある我々にまでも。
 急な下山ルートをたどりながら、そんなことを考えました。(よく転ばなかったものです。)



    ※ 手のひら写真館 ※

クワの実 ブナの実 オトシブ