横隈山 〜山里の春、のんびりと〜


 

【埼玉県 本庄市 平成27年3月15日(日)】
 
 花粉、今まさに飛散のピークですね。野山の花が咲き始めるこの時期、当然にスギも花を咲かせまいす(花弁はないので花らしくありませんが。)。しょうがないことです。yamanekoは毎年1月中旬から薬を飲み始め、症状の緩和を図っていますが、薬にも相性があって、今の薬にたどり着くまでに10年以上はかかりました。幸い良く効いて眠くもなりにくいので助かっています。
 さて、そんな時期でもやっぱり野山には出たいもの。このところだいぶん暖かくなってきたし。ということで、今回の目的地は埼玉県の横隈山(よこがいさん)にしてみました。標高は594m。秩父盆地の入り口に位置する、知る人ぞ知る山です。前日の夕方、天気予報を確認してから急遽ガイドブックをめくり選んだ山なので、これまでyamanekoもまったく知りませんでした。
 
                       
 
 朝7時30分、ドリーム号で出発。圏央道の高尾山ICから高速へ(ところで今年度中に供用予定だった相模原ICはその後どうなったのか?)。鶴ヶ島JCTで関越道に入ります。道は渋滞もなくスムースに流れていました。花園ICで一般道に下りて、後は国道140号線を秩父方面に向かって走っていきます。途中の中野上という交差点を右折して更に山の中へ。旧児玉町(現在は本庄市と合併)の横畑という集落がスタート地点になります。


Kashmir 3D

 今日のコースは、集落の中心部にある「いろは橋」から車道を歩いて山間に入ります。その奥にある平沢集落の民家が途切れた先が登山口。そこからが山歩きになります。沢沿いに登って平沢峠に至ると後は尾根道となり、登り詰めたところが山頂部。三角点は東西に長い山頂部の東端にあります。帰りは同じルートを辿ります。

 いろは橋から

 いろは橋から平沢集落に向う車道をしばらく上っていったところにある広い路側帯に車を停めました。9時45分、スタートです。ここから登山口まで標高差170mの車道歩きになります。天気予報は曇りから晴れへ。空の青い部分がだんだん広くなってきました。
  「イノシシやシカが出るから気をつけて。っても気をつけようがないけどね。」歩き始めてすぐ、地元のおばさん(yamanekoと同年輩)が話しかけてきました。気さくで親切な人でした。ひとしきり雑談をしてから再出発。こういう交流も楽しみの内です。

 平沢集落

 平沢集落が見えてきました。新日本紀行に出てきそうな長閑な集落です。背後に見えている山が横隈山でしょう。 平沢集落は、2万5千分の1の地形図には家屋の形が20個くらいは記されていましたが、実際に見渡してみると人が住んでいそうな家は数軒といった感じでした。いわゆる限界集落という状況でしょうか。

 道端の祠に今日の安全を祈願して先に進みます。本来の祠は内側の小さいやつ。昔から大事にされてきたんでしょうね。

 ロウバイ

 見事なロウバイを見上げていると、農作業をしていたおじいさんが「立派なロウバイだろう。それは八重だから華やかに見えるんだ。」と教えてくれました。それにしてもロウバイにしてはずいぶん遅咲きです。「ずいぶん遅くまで咲いていますね。」の問いかけには「うーん」と言ってそれ以上の反応はなし。

 登山口

 10時5分、車道のどん詰まりまでやってきました。ここが登山口です。リュックを下ろして水と菓子パンで元気を注入しました。

 あらためて柔軟体操をしてからスタート。最初はスギやヒノキに囲まれた谷沿いの道を登っていきます。天気はすっかり青空になったようで、木漏れ日が薄暗い谷間に差し込んできます。

 黙々と小径を登り、谷の最奥で急に斜度が増してきたらほどなく頭上が開けてきました。

 平沢峠

 10時20分、平沢峠に到着しました。登山口からわずか15分ほどでの到着です。

 道標

 峠には小さな石碑が一つ。表面は かなり磨耗していますが、目を凝らして読んでみると北面に「→住居野ヲ経テ(?) ←本泉村字平沢ヲ経テ(?)」、東面に「→若泉村ヲ経テ鬼石 ←秩父郡金沢村更(?)」とあり、ここが十字路だったことを示していました。残りの面には「立太子記念」、「太駄部青(?)」と彫られていました。立太子記念ということは大正の初めか昭和の初めに建てられたものということになりますね。「太駄」は横畑の近くの集落の名です。

 尾根道

 さあここからは尾根道です。右手は葉を落とした雑木林。左手はスギやヒノキの植林地になっていました。

 植林地は管理が行き届いて、最近間伐が行われた形跡がありました。こんな場所での作業は大変でしょうね。

 しばらく行くと開けた場所に出ました。この時期ならではの開放感のある森です。道はここで左に直角に曲がります。右手にもかなりはっきりした道らしきものが延びていますが、入り込まないように丸太が横たえてありました。

 横隈山

 正面を見上げると木立越しに目的地の横隈山のピークが見えました。これから行くからなー。

 直角の角を折れて小さなピークを越えると、左手斜面に未舗装の林道が現れました。林道はここが終点になっているようです。

 三波川結晶片岩

 登山道は林道と別れ、尾根に従って延びています。やがて岩が露出しているところを通過。 やや緑色がかったミルフィーユ状の岩で、多分この辺りに広く分布している三波川結晶片岩というやつだと思います。三波川はここの北側を流れる神流川の支流で、川としては小規模な部類ですが「三波川帯」という名前は地学の世界ではどメジャーですよね。中央構造線に沿ってその南側に伸びる変成岩の帯のことで、yamanekoでも高校の地学の授業で名前は聞いたことがありました。三波川結晶片岩は三波川帯を代表する岩石です。

 岩はすぐになくなり、また元のような尾根道になりました。トラロープが張ってあるところもありましたが、頼るほどの斜度でもありません。

 しばらく行くと登山道をかすめるように左手に林道が現れました。今度はコンクリート舗装のしっかりした道です。ここは林道に入らずに右側を通過。
 山頂近くのこの辺りにまで舗装路が延びているのは、言うまでもなく山仕事のため。戦後植林したスギ林などを中心に山が荒れているのは、林業従事者の減少や安い外材の普及などとともに山での作業の効率の悪さも原因の一つなのだそうです。例えば切り出した木材を麓に運び下ろす作業一つとっても、ここのようなしっかりした林道が整備されていないと並大抵の苦労ではないでしょう。以前は山歩きの際に若干苦々しい目で見ていた舗装路も、むしろ山の荒廃を食い止める役割もあるんだなと見方が変わってきました。

 林道を避けるとすぐに傾斜がきつくなり、その先に山頂部の稜線が見えてきました。あの向こうにはどんな風景があるんだろう、こういった感じの場所ではいつもワクワクします。

 山頂部の西側が展望台っぽくなっているようです。

 登り切ると…。石碑がありました。途中からポッキリ折れてますね。両方をつなげて読むと「御嶽蔵王大権現」となります。昔はここが山頂だったんですね。
 蔵王権現とは修験道の神。石碑には「蔵王」ではなく「座王」と彫ってありましたが、木曽御嶽山では「座王権現」と記しているのだそうです。

 眺望はというと、こんな感じ。開放感満点です。 正面の低地は神流川が削ったもので右岸が埼玉県、左岸が群馬県になります。雲がなければ正面奥に赤城山や榛名山など上毛の名山たちが見えるはずなんですが。写真左の大きなピークは御荷鉾山(みかぼやま)(1286m)です。

 ひとしきり眺望を楽しんだら三角点がある山頂にむかいます。途中にまた石碑がありました。こっちには「御嶽大神國常立尊」と彫られています。調べてみると、とある神道では國常立尊(くにのとこたちのみこと)は大己貴命(おほなむち)、少彦名命(すくなひこなのみこと)とともに御嶽大神のうちの一つなのだそうです。ここの一連の石碑はその関係の方々が建立したものなのかもしれません。

 山頂部は平坦でほとんどアップダウンはありませんでした。

 おっ、なにやら標識が見えてきました。あそこが山頂か。

 横隈山山頂

 10時55分、横隈山の山頂に到着しました。三角点と標識が立っています。
 ごらんのとおり誰もいません。静かな山頂です。そういえば、今日はここまで誰とも行きあっていませんな。

 昼食

 リュックを置いて一休み。そしてちょっと早いですが昼食にしました。定番の助六とゆで卵です(登山口でパンを食べたのでまだ腹が減ってないんだけど。)。

 木立越しに見える町並みは群馬県の鬼石町(現藤岡市)辺りです。

 山頂のミズナラ。 なかなかの風格です。もうだいぶ年老いているような感じでした。

 昼食を済ませるともう何もすることがないので、おとなしく下山することにしました。展望台のところまで戻って、そこから林の中を下っていきます。

 ヘクソカズラ(果実)

 花がないのでヘクソカズラの果実でもどうぞ。よく見るときれいな造形をしていますね。

 直角の曲がり角まで降りてきました。ここを直進してはいけません。右手に下りて行きます。

 木の切り口はまだ新しいですね。ほんの数日前に作業したみたいです。

 平沢峠

 11時25分、平沢峠まで戻ってきました。ここは左手前に折れます。

 谷沿いの湿った道。

 登山口

 11時35分、登山口に下りてきました。帰りは特にあっという間でした。

 やれやれ、リュックを置いてしばし休憩です。それにしても、こんな集落の奥にある畑もよく手入れされていますね。先祖が開いた畑を大事にしているんだろうなと感じました。

 カントウタンポポ

 平沢集落の舗装路をのんびりと下っていきます。
 カントウタンポポの花冠の上で日向ぼっこ中のハナアブ。近づいてもピクリとも動きませんでした。まだ体が完全に目覚めていないのかもしれません。

 フクジュソウ

 集落の中にフクジュソウの群生地が。もうだいぶん伸びてきていますね。

 ドリーム号が見えてきました。時刻は12時ちょうどです。登って下りてトータル2時間15分ほど。その間登山者とは一人も出会いませんでした。ネットでは登山の記事が結構アップされているんですが…。
 
 帰りの高速道路も渋滞はなし。家には2時に到着しました。今日は穏やかな天気だったので、花粉も相当飛んでいるようでした。花粉症なのにわざわざスギ林に入っていくなんて。でも早春の野山は心がウキウキするんですよね。痒い目をこすりながらでもまた山に行きたいです。