谷津干潟 〜旅路の途中のオアシス〜


 

【千葉県 習志野市 平成19年8月4日(土)】
 
 8月になってようやく梅雨が明けました。で、明けたとたんに毎日暑いこと。なにか遅れを挽回するかのような猛暑っぷりです。
 で、こんな日は家でエアコンと仲良くするのが一番と、午前中はゴロゴロしながら一週間の疲れを癒していたのですが、やっぱり天気がいいとどっかに出かけたくなってしまいます。
 今日は千葉県西部、東京からすぐのところにある谷津干潟に行ってみました。
 
                       
 
 干潟というとどのような風景を思い浮かべるでしょうか。有明海のような遠浅の海辺でしょうか。おそらくそれが正しいのだと思いますが、ここ谷津干潟に来てみると、そんな既成のイメージが吹っ飛んでしまいます。なぜなら谷津干潟は高度経済成長期の開発ラッシュを生きのび埋め立てを免れた、エアポケットのような場所。いわば忘れられた海だからです。

 観察センター内のジオラマ

 上の写真は谷津干潟自然観察センター内に展示されているジオラマです。写真手前が東京湾側。海までの距離は1qほどです。その間は干潟の両端から延びている2本の川(高瀬川と谷津川)でつながっていて潮が出入りしています。川と行っても、まあ水路のようなものですが。
 写真を左右に横切っているのは東関東自動車道とJR京葉線です。

 入り口

 関東でバードウォッチングをする人で谷津干潟を知らない人はおそらくいないでしょう。それほどその筋では有名な場所なのです。
 干潟の南側にある駐車場に新ドリーム号を停めたのは2時半過ぎ。真夏の日差しが容赦なく照りつけます。

 自然観察センター

 園内に入って間もなく自然観察センターがあります。館内には1階、地階に観察デッキがあり、職員の他多くのボランティアの方が活動していました。yamanekoはまず喫茶室に入って冷たいものを。そして人心地ついてから観察を始めました。
 今日の潮は、満潮が9時39分と21時56分、干潮が3時41分と15時42分。もうじき潮が引ききるので観察にはちょうどよいです。

 地階デッキから

 谷津干潟は周囲約3.5q。広さ約40haの干潟で、ここには、ゴカイ、貝類、カニやエビ、小魚などたくさんの生き物たちが生息しています。中でも、ここを訪れる鳥たちの種類の豊富さ、数の多さは特筆すべきものがあり、北方のシベリアと南方の東南アジア・オセアニアとの間を往き来する旅鳥の中継地としての重要性が認められて、ラムサール条約登録地となっています。また、旅鳥の他にも、ここを繁殖地とする夏鳥、越冬地とする冬鳥と、一年中鳥たちの姿が絶えることはありません。

 望遠鏡を覗いてみると

 観察センター内に、今日確認された鳥として、ゴイサギ、シロチドリ、イソシギなど20種あまりが表示されていました。
 ここにやってくる鳥のうち、シギやチドリなどの旅鳥はシベリアからオーストラリアまでの約1万2千qを旅するものがいるそうです。あんな小さな体のどこにそのパワーが隠されているのでしょうか。もちろん一気に移動するのではなく、ここのような中継地をいくつも経由し、栄養と休養をとりながら渡っていくのでしょうが。
 解説によると、シギやチドリの渡りルートは、地球上に3つあるとのこと。一つは「シベリア〜オーストラリアルート」、もう一つは「北アメリカ〜南アメリカルート」、更に「ヨーロッパ〜アフリカルート」だそうで、谷津干潟は、このうち「シベリア〜オーストラリアルート」の真ん中ににあることになります。

 満ち潮へ

 自然観察センターを出て、干潟から谷津川が流れ出るところ(ジオラマでは干潟の右下角)にやってきました。干潟には少しずつ潮が入ってきています。谷津川は川とはいっても用水路のようなもので、幅も2、3mくらいなものです。もともとこの辺りは埋め立て地なので、天然の川はなかったわけです。

 周回観察路

 さて、今度は谷津干潟を周回する形で設けられている観察路を歩いてみましょう。

 ハマナス

 歩道の脇にハマナスが植えられていました。本来は浜辺に群落を作る植物です(そういえばここも元もと浜辺だった。)。もう盛りは過ぎていましたが、花と実(偽果)の両方を見ることができました。この偽果の姿が梨に似ているとして「浜梨」、転訛して「ハマナス」になったとも言われています。

 ウミネコ

 ウミネコの集団が干潟の上でくつろいでいました。若鳥でしょうか。

 ハコネウツギ

 沿岸の森に生育するハコネウツギ。これはもちろん植栽です。ハコネウツギの花ははじめ白色で、しだいに紅色に変化します。関東では自生のものも植栽のものもよく見かけます。「ハコネ」と名が付くものの、長い間箱根には分布しないと考えられていました。しかし、近年箱根に自生していることが判明したのだそうです。

 カクレミノ

 こっちは逆に関東では少ないカクレミノです。ちょうどかわいい花を付けていました。葉は、幼木では大きく、また、3〜5裂しますが、成木になると写真のように1枚が小さく、かつ、切れ込みのない広卵形になります。この木も沿岸の森を代表する種です。秋になると果実は黒紫色に熟し、ヒヨドリのごちそうになります。ヒヨドリのおかげで分布を広げてきたと言っても間違いではないと思います。

 ムクゲ

 ご存じ韓国の国花であるムクゲ。でも朝鮮半島には自生していないそうです。写真の木は園芸種で、雄しべが花弁状になり八重咲きとなってるものです。一般的なムクゲに比べて華やかですね。

 西側から

 植栽されている樹木を見ながらぶらぶら歩いているうちに西側の端までやってきました。外周の4分の3ほど歩いたことになります。干潟にはだいぶん潮が満ちてきています。このまま歩くとあと20分ほどで自然観察センターに戻ることができるでしょう。
 
 今日、できれば干潟に下りて泥の中の生きものなども観察してみたいと思ってやってきたのですが、ここでは干潟に下りることはできないようになっていました。それに、いかにアシや泥中の微生物が頑張っていても、やっぱり閉鎖された海なので、なかなか浄化しきれない部分もあるようです。風向きによってはちょっとムッとする臭いのある場所もありました。
 でも、やっぱりここは鳥たちにとって、休息の場所、栄養補給の場所として、なくてはならないところなのでしょう。東京からだと海沿いに、浦安、市川、船橋、習志野と十分通勤圏内。今、再びマンション建設ラッシュが訪れていますが、これからもここが埋め立てられることのないように願うばかりです。