谷根千界隈 〜江戸の下町を歩く〜
【東京都 台東区、文京区 平成21年5月10日(日)】
5月になり、野山歩きにはもってこいの季節となりましたが、相変わらずハードな日々が続いているため、なかなか遠くに出かけるパワーが出てきません。でも家の中でゴロゴロしているのも性に合わないので、のんびり街角散歩でもしてみようということになりました。
場所は、江戸の風情があちこちに残っている「谷根千」界隈。
「谷根千」とは台東区の谷中、文京区の根津、千駄木のことで、この辺りは昔ながらの下町情緒が残されている地域として有名。散策マップを片手に路地を歩いたり店を覗いたりしている人がそこここに見られます。
Supper Mapple Digital |
谷根千界隈は武蔵野台地の東北部、細長く延びた本郷台をさらに短冊状に切り分けた旧谷田川沿いに位置していて、その東に広がる下町低地とは異なり、起伏のある地形になっています。その中で、谷中は台地の上とそこから西に向かってなだらかに下る斜面に広がっていて、根津と千駄木は旧谷田川の削った低地からその東側に立ち上がる急な斜面の地域を占めています。
Kashmir 3D |
本郷台を削った旧谷田川は戦前のうちに暗渠化されていたそうで、川の面影はありません。でもその谷の行き着く先で上野の不忍池を形成しており、立派な川だったことがうかがわれます。さらに時代をさかのぼると、中世に飛鳥山で台地が開削され(自然にか人工的にかは諸説あるようです。)石神井川の流路が隅田川方面に変わるまでは、この旧谷田川が石神井川だったのだそうです。
さて、そんな地形的は特徴を頭に入れたうえで、散策開始です。
丘の上への階段 |
JR山手線の日暮里駅を昼過ぎに出発。南口はそのまま小さな路地につながっていて、その先には本郷台の縁を登る階段があります。垣根の真紅のバラが見事に咲き誇っていました。もう初夏ですね。
花屋さん |
階段を上りきるとそこは本郷台の上。ここには谷中霊園が広がっていて、見渡す限り墓、墓、墓。その数約7千基だとか。有名なところでは、徳川慶喜や横山大観、渋沢栄一などもここに眠っているそうです。そしてあの牧野富太郎翁も。
坂の上で見かけた花屋さん。この辺りの場所柄に応じて品揃えが特化しているようです。
谷中霊園 |
霊園といっても、園内に大きな通りが通っていたりして、気味が悪いなんて雰囲気はありません。風薫る五月、頭上では桜の青葉が揺れて、路上の木陰も波打っていました。きっと花見の季節には賑わったでしょうね。
のんびりと |
「ここ、ヒンヤリしていて気持ちいいんだよね…」とでもいっていそうなワンちゃん。ベスポジなんでしょう。ここに限らず谷中にはのんびりとした時間が流れています。
パティシエ イナムラ ショウゾウ |
広大な霊園を抜けると落ち着いた住宅街。その一角にある超有名なケーキ屋さん。霊園から出てすぐのところにありました。行列ができるので専属の誘導員さんが配置されていました。
旧吉田屋酒店 |
住宅街をしばらく歩いて言問通りに出ると、古い商家風の建物が。入ってみると昔の酒屋さんでした。今では下町風俗資料館の展示施設になっていました。柱時計はちゃんと動いていましたよ。
谷中ボッサ |
すぐ近くには超くつろぎ空間を提供してくれる喫茶「谷中ボッサ」がありました。さっそくドアを開けてみると、民家を改造して造ったらしい天井の高い空間が。BGMにボサノバがかかっていると聞いていましたが、この曲がボサノバなのかどうなのかよく分かりませんでした。もともと知らないので。アイスコーヒーとケーキを注文して、辺りを見渡すと、店内はギャラリーにもなっているようで、誰かの絵(漫画)が展示してありました。あと、本棚にあった「思いつき大百科事典」という絵本にはかなりグッときました。
谷中堂 |
再び住宅街の中に戻ると面白そうな民芸品店が。店内には黄色い招き猫がたくさんあり、それがメインのようでしたが、yamanekoが気に入ったのはこの張り子の鯉のぼり。端午の節句は終わってしまいましたが、購入することに。
進入禁止 |
谷中霊園を取り巻くようにたくさんの寺社が密集している地域があります。昭和風に表現するなら「寺社銀座」。そんな路地の一角にあったこの看板。これを見て引き返すような人はドロボウになんかなりません。
大名時計博物館 |
旧家のお屋敷といった雰囲気の「大名時計博物館」。門をくぐると木々が鬱蒼と繁っていて、その先に小さな集会所っぽい建物が。木製の壁掛け看板に「大名時計博物館」と書いてありますが、たいがいの人はここまできてビビって引き返していました。でもyamanekoは勇気を持ってドアを開けることに。入ってみると大学生くらいの若者が受付で本を読んでいて、彼が入場料を徴収していました。てっきり無人かと思いましたが、しっかりした施設のようです。展示の品は江戸時代のお殿様お抱え時計師が作った灯台のような形の時計。おそらく貴重なものなのでしょう。確か都の重文クラスと書いてあったと思います。
この博物館、航空写真で見ると結構なお屋敷のようでした。
猫町カフェ29 |
異空間から現世に戻って、ふたたび街並み散歩です。こんな可愛いカフェがさりげなくあったりして、散策には申し分ないです。この猫町カフェは緑のテントの上に猫の親子の人形が。でも人形だけでなく、テントの軒下にはここの飼い猫のくつろぎスペースがあって、店内から自由に往き来(猫のみ)できるようにしつらえてありました。谷中はかなり猫の地位が高いようです。
あかじ坂 |
この辺りから根津に向かって下り斜面になっています。坂の下には外国人旅行者にとって超有名な澤の屋旅館があります。
小石川金太郎 |
坂を下りきって不忍通りを渡ってすぐのところにあった金太郎飴のお店。金太郎飴は登録商標で、正式な店の名前は「小石川金太郎飴」というのだそうです。飴が入っている木箱やその下の台もいい味出してます。
根津神社 |
この辺りでひときわ大きな神社、根津神社に参拝。今から1900年前に日本武尊により創建されたという由緒をもっています。古くは千駄木にあったということですが、江戸時代になってこの地に移されたのだそうです。
いろいろとお願いすることもあるので、しっかりと手を合わせていきました。
茶茶 |
根津神社で参拝したら北門から出て、近くにある甘味処へ。あんみつにも惹かれましたが、ここは冷たい抹茶と心太で。心身ともにリフレッシュです。
根津のたいやき |
茶茶で休憩してから、不忍通りへ。ここでも行ってみたい鯛焼きやの店がありましたが、ご覧のとおり閉店でした。どうやら既に売り切れたようです。残念。
山雲海月 |
通りを渡ると粋なアロハシャツ屋が。アトリエ風の店構えで、ちょっと敷居が高めでしたが、中を覗いてみることに。アートとして見るといずれも派手カッコイイ絵柄。でもこれを着こなすのはなかなか。面構えに風格が出てないと難しいでしょうね。少なくとも若者は着負けします。値段は1着、2万円前後でした。
へび道 |
不忍通りから一本奥に入ったところにちょっと面白い通りがありました。地図で見ると必要以上に蛇行していて「へび道」と書いてあります。このくねくねはまるで川のような…。そう、これが暗渠となった旧谷田川の跡。この辺りでは藍染川と呼ばれていました。それにしてもこんな小さな川がこの谷を刻んだのだとは。気の遠くなるような時間がかかっているのでしょうね。
クレマチス |
へび道沿いの民家の玄関先に咲いていたクレマチス。涼しげです。
菊見せんべい |
へび道から三崎坂に出たら、再び不忍通りへ向かって歩きます。煎餅屋さんの店先のガラス容器がなかなかいいですね。明治8年創業の老舗だそうです。
いせ辰 |
こちらは江戸民芸小物の店。外国人にも大人気です。
谷根千工房 |
25年間続いた地域雑誌「谷中・根津・千駄木」を発行している谷根千工房。どんなところか興味がありましたが、想像どおりの雰囲気でした。でも今日は休日のようで、閉まっていました。
五月の午後 |
そろそろ歩き疲れてきたので、階段に腰かけて休憩です。暑からず寒からず、気持ちのいい風が吹き抜けていきました。
カキノキ |
一休みしたら再び散策を始めます。不忍通りを渡り、民家の路地を歩いていると、上からポトッ、ポトッと何かが落ちてきます。しゃがんで拾い上げてみると、なんとカキノキの花。見上げるとまだ柔らかそうな葉をいっぱいに広げた柿の木があって、葉腋にクリーム色の小さな花がたくさん付いていました。その花が雨だれのように落ちてきていたのです。
果実の方は馴染みがあっても花を見たことのある人は少ないのでは。こんなメルヘンな花なんです。あの柿が。
指人形笑吉 |
「指人形」の看板に惹かれて路地の奥に入ってみると、想像していたのよりかなりリアルな人形でした。注文があるとその人にそっくりな人形を作ってくれるのだそうですが、向こう数年分の注文は既に埋まっているそうです。ちょうど店内でミニ公演が行われていました。
平井履物店 |
再び三崎坂にやって来ました。今度はこの坂を登っていきます。さりげなくこんないなせな履物屋も。
かえる屋ケロリン堂 |
今度は三崎坂から左に折れて、丘の斜面の等高線に沿うように延びる小径に入りました。もうそろそろ夕日が射してきていて、その陽が斜面全体を照らしています。小径に入ってすぐのところにあるカバンや小物の店。カエルなどのオリジナルキャラクターがいて、なかでも後ろ姿の猫「こずえちゃん」に心惹かれました。Tシャツとかメモ帳とかを購入。
岡倉天心記念公園 |
日本美術院の創始者、岡倉天心の記念公園がぽつんとありました。ここに創設当初の日本美術院があったのだそうです。最初、岡倉天心と聞いて、長崎辺りの宣教師かと勘違いしていましたが、看板を読んで大略理解できました。日本美術界の大物だったんですね。
そろそろ夕暮れ |
豆腐売りのパープーというラッパの音が聞こえてきそうな路地です。
戦うTシャツ屋 伊藤製作所 |
最後にお目当ての店、伊藤製作所にやって来ました。外観からも異空間のオーラがビンビン感じられます。入口の引き戸の取っ手のところに黄色いビニールテープが貼ってあって、そこには「勇気を持って入ろう」と手書きの文字が。いきなり脱力です。店内にも笑うときに鼻から息が抜けていくようなテイストの商品がずらり。どうも基本、ご主人の作りたいものを思いつくままに作っているということのようです。ちょうどこのときもミニ卓球台をくりぬいて顔ハメの看板を制作中でした。店番そっちのけで。
店外に吊してあるTシャツには、全部当たりのあみだくじとか、「俺が」、「俺が」、「いや俺が」と自己主張をしまくる「俺ンジャー」とか、自由にもほどがあるだろ、って感じのものばかり。お店のHPも面白いですよ。ここでもTシャツ数枚をゲットしました。
夕やけだんだん |
さて、散策ももう終わりに近づいてきました。谷中銀座商店街に出ると、ここから日暮里駅まではあとちょっと。「夕やけだんだん」として有名な階段を上り、丘を越えると眼下に山手線が走っているはずです。
皆に愛されるノラ |
坂の途中に佇んでいたノラ。行儀良く前足をそろえています。みんなに愛されているようで、通りがかりの人から声をかけられていました。携帯で写真を撮っていく人も多数あり。夕やけ段々にいる猫。これがホントの「夕焼けニャンニャン」です(かなり古いか。)。
夕暮れの下町(イメージ) |
夕やけだんだんの上から振り返る下町の風景。ここから見る夕焼けがときどきテレビで紹介されたりしていますが、実際に歩いてみると、なんとなくノスタルジックな感じがして、昭和生まれの昭和育ちにはいいですね。
さて、これで今日の下町散策は終了です。あとは日暮里駅で夕食の買い物をして帰るだけです。同じ東京でもyamanekoの住んでいる辺りとはずいぶん雰囲気も違っていて、いろんな発見もありました。また訪れてみたいと思います。