牛田山 〜スタートは身近な山から〜


 

【広島市東区 平成16年1月3日(土)】
 
 穏やかな日和で幕を開けた平成16年。今年も楽しく野山歩きができますように、という願いを込めて、初歩きは最も身近な牛田山に登ることにしました。

 牛田山は、標高261mの緩やかな山で、尾長山、神田山などとともに馬蹄形の山塊をなしています。
 昔から広島は平坦地が少なく、市街地を形成していた三角州部分のすぐ奥には山あいの農村風景が広がっていました。牛田山はその三角州の頂点部分近くに位置していて、街と農村との境目にあったのですが、戦後、人口増加とともに宅地開発が進み、いつの間にか周囲を住宅街に取り囲まれて、海に浮かぶ島のようになってしまいました。
 この山を「裏山」とする人々は多く、それだけにたくさんの人に親しまれている山といえます。
 縦走路(全長約5km)に通じる登山口もあちこちにあり、気が向いたところから登り、気が向いたところで降りることができる、お手軽な山です。
 
 朝食に雑煮の餅をしっかり3個食べて腹ごしらえはOK。天気も上々で絶好の山歩き日和となりました。
 玄関を出てから今日の登山口「天神峠口」までは、途中コンビニに寄っても20分ほどです。
 11時30分、登山口に到着。峠のてっぺんまで住宅が進出しているため、案内板がなければどこが登山口なのか迷いそうです。

 天神峠の登山口

 ここから尾長山にとりつきます。峠の高さが約80m、尾長山の高さが186mなので、一気に100mほど登ることになります。登り始めると左右にあるシロダモの濃い緑の葉が目に入ってきました。コシダが繁る明るい林床。ヒヨドリやメジロの声がにぎやかです。

 登山道

 いきなりの急な上りなので息が荒くなってきました。久々に汗も出てきます。山歩きには吸湿即乾性の肌着を着ていると快適です。夏場はもちろん、特に冬場はかいた汗が冷えて体温を奪ってしまうので、風邪を予防するうえでも欠かせません。

 尾長山

 11時45分、天神峠登山口から15分ほどで尾長山の頂上に到着しました。ここからは西方向の展望が開けていて、牛田山の馬蹄形の内側に広がる街を一望に見渡すことができます。
 ここからはいくつものアップダウンを繰り返しながら牛田山の山頂を目指すことになります。登山道沿いには、ヒサカキ、コバノミツバツツジなどの低木やヌルデ、ミヤマガマズミなどの中高木、コナラやアオハダなどの高木も見られます。
 メジロの声に混じって、ポポ、ポポ…、ポポ、ポポ… ツツドリの声が。???… ツツドリは初夏に渡ってくる夏鳥なのに、なぜ?
 しばらくすると鳥類標識調査を行っている小屋がありました。ここでは環境省の委託で通年調査が行われています。なんとツツドリの声はここのラジカセから聞こえていたのです。どうもメジロの声を流して鳥を呼んでいるようですが、そのBGMにツツドリの声が入っていたのです。きっと初夏に録音したのでしょう。

 ヒメヤシャブシ

 正月ということもあってか、さすがにすれ違う人もほとんどいません。
 見上げると吸い込まれるような青空です。この空をバックに冬の枝がくっきりと映えています。
 11時55分、尾長山の山頂から10分ほどで牛田東口への分岐点に到着。
 カクレミノ、アラカシ、アセビ、タブノキ。いずれも常緑なので緑の葉をつけています。右手のふもとの方から遠く列車の音が聞こえてきます。タタンタタン、タタン、タタン… JR芸備線を走る列車の音です。

 ナナミノキ

 登山道沿いの樹木には名板が取りつけられていているので、これを見て楽しみながら歩くことができます。
 ネジキ、エゴノキ、ヤマザクラ。 リョウブ、アベマキ、ヤマウルシ。 ネズもあります。
 12時15分、中山口の分岐点までやってきました。かいた汗もさっと乾いて、快適な山歩きです。
 12時30分、戸坂南口への分岐点を通過。このあたりから上りが続き、いっきに山頂に向かいます。また汗がにじんできました。

 牛田山山頂

 12時40分、山頂に到着。スタートから1時間10分です。お昼はとおに過ぎていますが、山頂には数人の先客が昼食をとっていました。
 荷物を置いて深呼吸をしてみます。冷たい空気が肺の隅々にまで行き渡るようです。山頂は以前から不法に作られていた鉄棒や花壇、小屋などが撤去されていて、さっぱりとした気持ちのいい場所になっていました。

 北方向の眺め

 山頂からは東方向を除いてきれいにパノラマが広がっています。北の方向を見てみると、太田川の向こうに安佐南区の街が広がり、その背後に武田山が控えています。そしてその向こうには年末に登った荒谷山が見えます(写真中央)。

 南方向の眺め

 南には広島デルタが広がり、街並みは冬の陽射しを乱反射してまぶしく輝いていました。写真では白く飛んでしまっていますが、広島湾にはぽっかりと宮島が浮かんでいます。
 写真中央やや左にある小山が二葉山。その左に続くのが尾長山で、その間の鞍部が天神峠。そこから登り始めて、グルッと反時計回りに山頂にやってきたのです。
 コンビニ弁当を食べ終わったら、地図を広げて遠くの峰々の名前を確認していきます。これがけっこう楽しい暇つぶしになるのです。
 13時10分、十分に休憩したので再び歩き始めることにしました。

 ハンノキ

 登山道沿いには、コシアブラ、ソヨゴ、アセビやカクレミノなどが見られます。
 13時30分、神田山に到着。高さは尾長山より10mあまり低い170mです。ここには雨をしのげるようブルーシートを張った東屋があります。

 イソノキ

 13時35分、不動院口への分岐点を通過します。そしてすぐに神田山荘口への分岐点です。下り道なのでどんどんペースが上がります。
 13時50分、最後の山、見立山に到着しました。
 戦国時代、中国地方の大半を平定した毛利氏は、平城を求めて広島への築城を計画しました。当時広島はいくつかの州に分かれた葦の生い茂る寒村だったそうです。築城の場所を探すべくあちこちをまわりましたが決めかね、そして最後にこの山にやってきて広島の平野を見渡しました。そしてもっとも大きな州を築城の場所と見立てたといいます。以後この山は見立山と呼ばれるようになったそうです。

 見立山から見た牛田山

 振り返るとさっきまでいた牛田山がそこにあります(写真中央奥のピーク)。その左には神田山です。神田山は牛田山より約100mほど低いのですが、ここから見ると同じくらいの高さに見えます。
 見立山からはいっきにふもとの住宅街に下っていきます。下り始めてすぐにクロバイの大木がありました。根本にツチトリモチがないかと探してみたのですが、やっぱりありませんでした。

 牛田旭口

 14時ちょうど、牛田旭口に到着しました。さっきまでの山道がうそよのうにすぐに住宅街に入っていきます。
 ゆっくり歩いて正味2時間。二葉山の饒津口から登って縦走路を踏破しても2時間半あれば十分でしょう。途中で帰りたくなったらエスケープルートはいくつもあります。
 身近にこんな楽しい山があるということは幸せなことなのかもしれません。

 ソシンロウバイ

 帰り道、民家の塀ごしにロウバイの甘い香りが漂ってきました。
 寒の入りを控えこれからが寒さの本番なのですが、遠くの春を予感させてしばらく立ち止まってしまいました。