雲月山 〜雲降りて山路の露に秋深し〜


 

【広島県芸北町 平成16年10月11日(月)】
 
 体育の日をからめたこの三連休。台風22号の影響もあってか、天気予報では最終日のみに晴れマークが付いていました。すると、やはり最終日の体育の日には朝から秋晴れの穏やかな天気。これはやっぱりじっとしているわけにはいかないでしょう。
 というわけで、晴天の山歩きを思い描いて、芸北町の最奥、島根県との境界に位置する雲月山に行ってみることにしました。この山の呼び名は「うんげつざん」、「うづつきやま」、「うづきやま」と様々ですが、個人的には「うんげつさん」が何となくしっくりきます。 

 本日の主役の一人
 ヤマラッキョウ

 中国道を戸河内インターで降りて、国道186号を加計町方面へ。いや、加計町は隣接する戸河内町や筒賀村とともに今月から「安芸太田町」になったんだった。あちこちで新しい団体ができるのでややこしくて。地図業界などはこの特需でさぞや忙しいことでしょう。
 旧加計町を過ぎて温井ダムの辺りまで来ると、前方の中国山地一帯にどんよりとした雲が覆い被さっているのが見えてきました。おいおい今日は秋晴れじゃあなかったのか? 芸北町役場の先で国道に別れを告げて右折。ここから雲月山をめざして山あいの道を進むのですが、雲月山周辺の山々の頂きには雲が降りてきていて、その姿を目にすることはできません。
 最後の集落、土橋を過ぎると、離合もできないほど狭い木立の中の道をぐんぐん登っていきます。しばらくすると稜線に出てパッと視界が開け、最初の駐車場に到着しました。
 雲は霧雨を伴って流れ、車のフロントガラスを濡らしています。秋晴れどころか肌寒くさえあります。でも携帯でピンポイント予報を見てみると次第に回復するとのこと。車の中で1時間ほど寝ることにしました。
 
 雲月山の山歩きは、すり鉢の縁を歩くように、円形に連なる稜線を歩くのが一般的です。
 すり鉢を時計の盤面に例え、山頂を12時の位置とすると、駐車場は6時の位置。反時計回りに歩きます。また、ちょうど7時の位置が切れ込んで谷になっていて、すり鉢に集めた雨水をこの一箇所から流し出しています。

 
駐車場(6時の位置)からの山頂(12時の位置)の眺め

 12時15分、雨も上がり少し明るくなってきました。そろそろ出発しましょう。
 実はこの駐車場から300メートル先にも広い駐車場があって正式(?)な登山口はそこにあります。本来はその登山口をスタートして、4時の位置にある岩倉山というピークにとりつくのですが、今回は岩倉山の山腹を巻いて次のピーク高山との鞍部に出ることにしました。

 もう一人の主役
 アキノキリンソウ

 山の道は雨露で濡れています。沿道で出むかえてくれるのは秋の花々。シラヤマギク、ヤマハッカ、ツリガネニンジン…。中でも今日はヤマラッキョウとアキノキリンソウが最も目につきました。
 今回は一人での山歩き。最近連日のようにクマのニュースが流れているので、久しぶりに鈴を付けて歩くことにしました。もっとも当のクマ君たちは里の方に出稼ぎに行っているかもしれませんが。

 岩倉山山腹(4時の位置)から
 駐車場(6時の位置)を望む
 同じ位置から山頂(12時の位置)を望む

 ウメバチソウ、センブリなど草原の花があちこちに。アキノタムラソウも揺れています。
 12時45分、雨で滑りやすい道を一歩一歩登っていって、二つ目のピーク高山山頂に到着です。島根県側から吹き上げてくる霧のような風が気持ちよく体を冷やしてくれます。
 雲月山は、昔はたたら製鉄のための薪炭材の切り出しにより樹木が伐採され、その後も放牧地として使われたため、長く草原状の姿を保ってきました。しかし、平成9年を最後に山焼きが行われなくなったそうで、いずれは落葉広葉樹の山に姿を変えていくことでしょう。ちなみに島根県側にはカラマツやヒノキの植林地が広がっています。

 ウメバチソウ  センブリ

 こんな天気なので他に人はいないのでは、と考えていましたが、なんだかんだでトータル20組くらいのハイカー(死語?)と出会いました。

 高山(3時の位置)から山頂を望む

 アップダウンの小さい道なのでのんびり観察することができます。晴天をバックに歩くのもよいでしょうが、今日のようにしっとりとした雰囲気の中では山肌が見せるなめらかな表情も新鮮に感じます。

 雲月山山頂(912m)

 いつのまにか山頂に着いてしまいました。13時10分です。このときは山頂だけすっぽり雲に頭を突っ込んでいる状態で、真っ白な世界に浮かんだ小島の上にいるような感じです。
 十畳間ほどの山頂には先客が2グループほど。本来ならここで昼食のはずなんですが、今日はスタート前に車の中で済ませたし、そのまま通過することにしました。

 山頂下から仲の谷(7時の位置)を望む。

 すり鉢の底の方からザーザーといった水音が聞こえてきます。山ひだに沿って底に集まる水の音です。

 上の写真のピーク(8時の位置)から
 岩倉山(右、4時の位置)と高山(左、
 3時の位置)を望む。

 すり鉢の縁をぐるっと回って8時の位置までやって来ました。ここから先は一気に仲の谷に向かって下っていきます。足下が滑りやすくてヒヤヒヤです。

 仲の谷を流れる小川

 やはり谷筋は湿気が多く、ミゾソバやツリフネソウ、オタカラコウなど湿気を好む植物が幅を利かせています。
 この大きなすり鉢の上に降った雨水のすべてを集めてここから流れ下り、滝山川となって、途中、王泊ダム、温井ダムを経て旧加計町で太田川と合流するのです。

 オタカラコウ

 さて、ここからはスタート地点の駐車場まで階段で一気に登っていきます。胸を突くような、とよく言いますが、まさにそんな感じ。息が上がります。
 
 14時05分、駐車場に到着。ゆっくり歩いても2時間たらずの行程でした。山頂の方を見渡すとスタート時よりも明るくなっていました。少しずつ天候が回復しているようです。振り返って南の方を見てみると、遠くでは青空ものぞいています。おそらく一日中良い天気だったのでしょう。
 軽くストレッチをしてから帰途につきました。


 朝、雲月山を目指してドリーム号を運転していると、観察会でお世話になっているOさん夫妻の車とすれ違いました。電話をしてみると先方は芸北町の臥龍山に向かっているとのこと。お互い休みにはじっとしていられないタイプです。