宇品島 〜懐かしい瀬戸の海辺で〜


 

【広島市 南区 令和5年8月19日(土)】
 
 台風7号の余波で新幹線のダイヤが大幅に乱れる中、カープ応援のために訪れた懐かしい街広島。滞在最終日に宇品島に行ってみました。お盆明けとはいえ猛暑全開の野山歩きとなりました。
 
                       
 
 午前9時半、駅前の路面電車乗り場から広島港行きの電車に乗りました。宇品島は広島港の東側に位置しているのです。朝の広島駅、外国人観光客が多かったです。
 広島は全国一の路面電車王国で、8運行系統、総延長19km(軌道線の宮島線を加えると35km)で営業しています。広島駅から広島港に向かうには八丁堀や紙屋町などの中心街を経由する1番系統の電車もありますが、広島駅からまっすぐ南下する5番の電車に乗車しました。yamanekoが30数年前に住んでいた街も通ります。

 暁橋から

 終点の1つ手前の元宇品口電停で電車を下りると、目の前に宇品島の北端のこんもりとした森が見えました。
 宇品島は、毛利輝元が太田川河口の中州に広島城を築城した戦国時代までは沖に浮かぶ島だったそうです。江戸時代になると城下拡大のために干拓が始まり、明治時代中期に沖合まで進展し軍港が築港されるに至って陸地に接続するようになったとのことです。今でも暁橋でつながっています。

 Kashmir 3D

 島の名前としては「宇品島」ですが、島全体が「元宇品」という住居表示となっているので、地元の人は元宇品と呼んでいます(アクセントは「も」ではなく「う」)。なので宇品島の話を振っても「宇品島? ああ元宇品のことね」という反応が返ってきます。対岸の本土側には宇品の名が付く地域が広がっていて(宇品東、宇品御幸、宇品神田など)、これらに対して元々の宇品という意味で「元宇品」なんだと思います。
 今日は、暁橋で宇品島に渡り、しばらく海辺の車道を歩きます。住宅地が切れるところで車道と分かれ森の中へ。山腹を登って稜線部に出るとさっき分かれた車道と再開。再び車道歩きです。島の南端部に至ると宇品灯台があり、そこから海辺に下ります。後は水際の遊歩道を歩いて住宅地の端に戻ってくるというルートです。

 広島湾遠望

 島の西側には平地はほとんどなく、海岸の道路沿いに民家、マンション、病院などが並んでいます。その道路脇の防波堤から望む広島湾。写真左の島は似島(にのしま)。中央やや右に薄く見えるのが宮島です。

 分岐

 住宅地が切れたところで車道と分かれて階段を登ります。一方の車道は急勾配でカーブしながら島の稜線部に上がっていきます。時刻は10時15分。ここまでで既に大汗です。
 なお、今日は島の西側を回って、最後に写真の電柱の右手前に出てきます(ここがゴール)。



 いきなりの急階段。宇品島には照葉樹林が広がっていて、森の中に入ると薄暗いです。

 ヤブツバキ

 照葉樹林の代表、ヤブツバキです。冬から春にかけて花が咲き、今は若い実が付いています。熟すと厚い果皮が3つに裂けて、中から硬い種子が顔を出します。子どもの頃その種子で笛を作って遊んでいました。

 ヤブニッケイ

 これも照葉樹林でよく見かけるヤブニッケイ。葉を単体で見るとシロダモに似ていますが、葉の付き方に特徴があり、枝に対して左右交互に並んで付いています。

 森の中の道

 宇品島の大部分は瀬戸内海国立公園特別地域に指定されているので、ほぼ原生林の様相を呈しています。

 カクレミノ

 これはカクレミノ。下の2つは蕾、上のは若い実です。



 10時25分、車道に出ました。木陰はありがたいですが、いかんせん風がない。立ち止まるとブワッと汗が噴き出てきます。

 アラカシ

 照葉樹林を構成する樹木の葉は、質が厚く、表面が濃緑で光沢があるのが特徴です。アラカシもそんな樹木のうちのひとつ。



 眼下の道は、今歩いている道が島の南端で折り返すように回って戻ってきているものです。

 カクレミノ

 カクレミノの花序。花が咲き始めていますね。

 灯台分岐

 島の南端部までやってきました。ガードレールが切れている先に広場と駐車場があり、その先に宇品灯台があります。yamanekoもそちらへ向かいます。

 アカメガシワ

 アカメガシワの雌株。成熟した実から黒い種子が露出していました。

 灯台前の駐車場

 こんなにも暑いのにそこそこ車が停まっていました。釣り客のものでしょうか。それともドライブ中の休憩か。

 ヌルデ

 ヌルデの葉軸に虫こぶが付いていました。中ではアブラムシが多数生活していて、虫こぶはアブラムシの寄生に刺激された植物側が作った組織。それ自体にはタンニンが多く含まれていて、昔、これからお歯黒の染料を作っていたそうです。

 ビワ

 ビワの葉もテカっていますね。

 バイオトイレ

 広場にはバイオトイレがありました。その背後にある高い木。枝先になんだが薄赤色の物のが付いていますが…。

 ニワウルシ

 双眼鏡で覗いてみると、ニワウルシの果序でした。果実のタイプは翼果で、これから晩秋にかけて乾燥しベージュ色になります。そして熟した後にハラハラと散るのですが、水平にロールしながらゆっくりと落ちてくる様子がなんともおもしろい。

 灯台へ

 駐車場の奥から一段下がったところに宇品灯台があり、その脇を通って海岸に下りる道があるはずです。
 元々ここには旧陸軍の信号所があったそうで、戦後それを海上保安庁が改造して灯台として使っていたそうですが、老朽化により昭和46年にこの灯台を新設したのだそうです。先代の灯台は信号の改造版なので、簡素なものだったよう。今のものは地上高21m、海面高46mで、白亜の灯台らしい灯台です。

 クスノキ

 灯台の前には、灯台に負けないくらい立派なクスノキが立っていました。こちらの方が年長なのは明らかです。



 灯台から急な坂道を下って海辺に向かいます。



 ほどなく海岸に出ました。眩しい世界にワープしたみたいです。

 鉢ヶ谷の浜

 まずは左手に。さっきの灯台の下あたりを通ってちょっとだけ島の東側に回ってみます。

 トベラ

 トベラの名前は扉から来ているそうです。トベラの枝には臭気があって邪気を祓うという言い伝えがあり、それを戸口に差す風習から「扉の木」と呼ばれたとか。

 マサキ

 マサキ。以前は生垣として植えられているのをよく目にしました。この時期の実はまだ若いです。冬には実が4つにわれ、中から朱色の種子が顔を出します。子供の頃は特に何も感じませんでしたが、色の少ない季節に朱色や緑色があると、ホッとした感じがします。



 満潮が近いようで、海面が遊歩道の高さに迫っています(この日の満潮は11:15)。遠くに見える高架は広島高速。広島デルタの先端部を東西に走っています。その向こうのこんもりとした山は黄金山です。更にその背後は呉娑々字山か。

 テイカカズラ

 崖をカーテンのように覆っているのはテイカカズラ。生き生きと繁っていました。寒さにも暑さにも強そうですね。

 ニワウルシ

 ニワウルシの葉が目の高さで観察できました。まだ若い木で、この上にある駐車場のニワウルシから種子が飛んできてここに根付いたのかもしれません。長さ1m近くにもなる大きな葉。葉軸に左右12対付いている小葉がセットで1個の葉です。奇数羽状複葉ですが、先端に付く小葉がごく小さいので、ぱっと見、偶数羽状複葉に見えてしまいますね。小葉をよく見ると根元の部分にだけ鈍い鋸歯があります。

 プリンスホテル

 遊歩道の先に大きな建物が。これはグランドプリンスホテル広島で、今年G7首脳会議の会場となったところです。広島の中心部から外れたところにありますが、テロ対策として地理的に宇品島は警備しやすいということだったのでしょうね。



 折り返して宇品島の西岸沿いに北上します。手前の小島は峠島。奥は江田島ですかね。

 ヒトツバ

 崖の斜面をヒトツバが覆っていました。シダの一種です。一般にイメージするシダとは違って、細長い1個の葉のような姿をしています。

 イヌビワ

 熟し始めたイヌビワの実。通常、緑→黄→赤→黒と変化していきます。見た目はビワというよりイチヂクですね。雌雄異株で、雌株の実は食べられるものの、雄株の実は固くて食べられないそうです。ただ、その見分けが難しそうです。

 ハマナデシコ?

 ハマナデシコだと思うのですが、なんだか花弁の幅が狭いような。とは言え他に思い当たるものもないし…。

 海食崖

 花崗岩の海食崖ですね。調べてみると、この島はほぼ全島が黒雲母花崗岩でできているとのことでした。見るからに風化に弱そうです。看板にも「落石に注意してください」とありました。

 セトノジギク?

 この葉はノジギクのものでしょうか。それともリュウノウギク? 花がないので今ひとつはっきりしませんが、この場所の環境からすると前者か。

 ヤブニッケイ

 葉の付き方がよく分かるヤブニッケイ。陽を照り返すまさに照葉樹林の樹木です 。先端が尖らず丸くなっているのは老木だから?

 ハゼノキ

 ハゼノキです。秋の紅葉はなかなかのもので、瀬戸内の海岸部での紅葉はこのハゼノキである場合が多いです。

 モチノキ

 これはモチノキですね。若い実が付いています。冬には赤く色づきます。モチノキのモチは「餅」ではなく「黐」。黐とは粘着力の強いいわゆる鳥もちのことで、この木の樹皮から作っていたとのことです。でも、餅と黐、どちらも粘るものなので、どちらかがどちらかに由来する言葉なのではないでしょうか。



 セミの声の一瞬の静寂に波の打ち返す音が耳に届いてきました。心の落ち着くひとときでした。波の音、久しぶりに聞いたような気がします。

 ツワブキ

 崖にしがみつくように生えていたツワブキ。まだ若々しい質感です。強い陽射し、潮風、貧栄養など過酷な環境でよく生きていけるものです。



 広島港が見えてきました。持参した飲み物も底をつきそうですが、もうゴールもそう遠くはありません。

 クサギ

 一つだけ咲いていたクサギの花。ずいぶん時期遅れです。

 ハマナデシコ

 これもハマナデシコだと思うのですが、やっぱり花弁の幅が狭い。ひょっとして花期も終盤で栄養が足りてないとか? いや、そうであれば花が付かないとかそういう状況になるでしょうね。



 11時20分、海岸べりに建つマンションの裏手にやってきました。遊歩道は崖とこのマンションの間を裏路地のように通り、最初に登った階段のところに出ます。実質的にここで今日の野山歩きは終了です。
 今日は海岸特有の植物をたくさん観察することができました。そして、熱中症にならずに無事歩き終えてよかったです。
 ところで、この島に住んでいる方はサミット期間中(数か月前から?)大変だったでしょうね。

 広島湾からの宇品島

 観察後、とにかく涼しいところに入りたくて、広島港まで歩きターミナルビルの待合スペースで涼ませてもらいました。ついでに食堂で昼食も。カツ丼食べて元気回復です。その後、宇品島を海から見てみようと、似島行きのフェリーに乗りました。 片道450円。一日13往復運行しているようでした。
 
 宇品島の名前は、島の形が牛が伏せたようなので「牛の島」と呼ばれそれが転訛したという説や、湾内の島という意味で「内ノ島」が転訛したものという説があるそうです。
 船から見ると思ったより平べったい島でしたが、いにしえの波打ち際(現在の平和大通りあたり)から見える姿はどうだったでしょうか。
 
 片道20分の船の旅。結局島には上陸せず、船上から写真だけ撮ってそのまま広島港に戻ってきたのでした。