爪木崎 〜初春の海〜


 

【静岡県 下田市 平成22年1月2日(土)】
 
 年が明けました。平成もはや22年。21世紀になって10年目。ほんと年月は飛ぶように過ぎていきます。
 
 それにしても去年は最後の最後までハードな一年でした。心身を相当酷使したので今月末に予定している人間ドックが怖いです。
 一段落したらどっかの温泉でオーバーホールでもと思ってちまちまへそくっていたので、この正月、南伊豆は下田に行くことにしました。
 
                       
 
 元旦。家でお屠蘇とお雑煮をいただいた後、さっさと支度をして、一家そろって出発です。山手線で品川まで行って、そこからはスーパービュー踊り子号に乗り換えて一路下田を目指します。品川駅も混雑していましたが、電車もほぼ満席。元日からあちこちに出かける人も多いようです。
 横浜を過ぎ、大磯に近づく辺りから相模湾が間近に迫ります。沖には穏やかな波に反射する陽光が…、という感じではなく、年末から続いている強い冬型の気圧配置のせいで、強風に白い波頭がちぎれて飛んでいるのが車窓からもはっきりと見てとれました。天気こそ雲一つない日本晴れですが、外はかなり寒そうです。
 静岡県に入り、熱海を過ぎるとすぐに伊東です。JRはここまでで、伊東から先は伊豆急行。スーパービューはJRから伊豆急線に直接乗り入れるのです。下田はその終点になります。

 歌碑

 一夜明けて2日。昨日までの強風も収まり、ポカポカ陽気です。となれば自然観察。路線バスで爪木崎に行ってみました。ちょうど「水仙まつり」をやっていると聞いたので。

 終点でバスを降りると、そこは高台の展望の良い公園になっていました。目の前の入り江は海底がくっきりと見えるほどの透明度。東の方向、遠くには伊豆大島の島影が望め、素晴らしい開放感です。公園の先端には歌碑が。見ると昭和天皇の歌碑なのだとか。ここからすぐ近くに皇室の須崎御用邸があるので(写真左の岬の向こう側)、その関係かもしれません。刻まれている歌は歌会始のものだそうです。

 イヌツゲ

 歌碑の脇にイヌツゲの小さな花が咲いていました。葉先の尖り方がやや鈍いので、ハチジョウイヌツゲかもしれません。「イヌ」と名が付く植物のご多分に漏れず、ツゲに似るものの材が役に立たないことから「イヌツゲ」と名が付いたということです。花は可愛いのに。

 イソギク

 千葉の犬吠埼から静岡の御前崎までの海岸沿いに分布するイソギク。かなりローカルなキクです。この時期、もう花は終わり、茶色のドライフラワーのようになっていました。葉の方は若干しおれ気味ですが、まだ緑です。このキクの特徴でもある葉の白い縁取りもなんとか確認できます。

 池ノ段

 高台の公園から南側を見下ろすと、池ノ段と呼ばれる平地が。地形から見て昔は海岸の後背湿地だったところかもしれません。今は観光客用の駐車場とその周辺にお土産物屋が並ぶエリアになっていました。向こうの岬の先端に爪木埼灯台が見えます。

 キダチアロエ

 池ノ段に向かう途中になにやらエキゾチックな植物が。葉を見るとお馴染みのアロエです。正式にはキダチアロエというそうです。いかにも南国の植物っぽいですね。

 キダチアロエの属する科は、分類体系によって異なっているようで、アロエ科であったり、ユリ科であったり、ツルボラン科であったりするそうです。個々の花をアップで見てみると、そういわれればなんだかユリに近いような気もしますが…。

 スイセンの群落

 池ノ段に下りてみました。一面のスイセンです。今のこの風景は人の手によって植え付けた結果でしょうが、もともと温暖なこの地に大きな群落があったのだと思います。

 スイセンのややうつむき加減なところを気に入っています。これだけの量があると、しゃがんで顔を近づけるまでもなく、辺り一帯に甘い香りが漂っていました。

 青空を背景に。見るからに暖かそうな風景です。

 丘の斜面もスイセンで埋め尽くされていました。
 水仙まつりは12月20日から1月いっぱいまで。下田での宿泊客には甘酒のサービスも。そういえばホテルのロビーでも終日甘酒を振る舞っていましたが、この辺りは正月には甘酒なのでしょうか。

 イソギク

 ひとしきりスイセンを堪能したら、次は爪木埼灯台へ行ってみましょう。おっと、まだ花が黄色いイソギクが。葉もしっかりしています。

 サルトリイバラ

 美味しそうな赤い実。サルトリイバラの実ですね。正月らしい、なんかおめでたい感じです。

 安山岩柱状節理

 灯台手前の海食崖が凄いことになっていました。写真では分かりにくいですが、断面が六角形の柱状節理で、調べてみると今から約1千万年前に噴出した安山岩なのだそうです。そのころは海が最も広かった時期と考えられていて、日本列島はほとんど洋上に顔を出していない状況だったでしょう。もっとも伊豆半島自体は当時まだ南洋に浮かぶ島で、ゆっくりと北上しつつあり、その後日本列島にぶつかって半島になったのはわずか100万年から50万年前のことだそうです。目の前の何気ない風景にもスペクタクルといって良い歴史があるんですね。

 爪木埼灯台

 爪木埼灯台までやってきました。この灯台は相模湾に入る船舶の安全を確保するために、昭和12年に設置されたものだそうです。高さは地上17m、海面からだと38mもあり、堂々たるものです。ところで、地名としての爪木崎には「崎」の字が使われていますが、爪木埼灯台は「埼」の字です。おや?っと思って調べてみると、辺りの地名や建物などに使われているのはみんな「崎」で、灯台名のみが「埼」のようでした。他の灯台はと調べてみると、同様に犬吠埼灯台や石廊埼灯台、御前埼灯台なども。更に調べてみると、「崎」は地形を表し、「埼」は地点を表すのだそうで、灯台は地点を船舶に知らせるものであることから、統一して岬名に「埼」の字を使うのだそうです。初めて知りました。(ちょっと待て、故郷の灯台「日御碕灯台」は「碕」だったはずだぞ。)

 伊豆高原

 灯台から振り返ると、伊豆半島のつけ根方向に伊豆高原のひときわ高い丘陵地が望めました。伊豆半島が本土にぶつかって、今なお押し込んでいるので、半島の中央部が盛り上がっているのかも。

 ヒメカジイチゴ

 カジイチゴかと思いましたが、ちょっと小型で刺もあったのでヒメカジイチゴでしょう。カジイチゴとニガイチゴの雑種だそうです。海岸近くに生える植物の特徴として、葉が厚めでテカテカしています。

 ツワブキ

 ツワブキの葉も厚めでテカテカ。花はもうしおれかけていますね。

 トベラ

 トベラの葉も同じ。種子はモロキュウの醪(もろみ)に似ていませんか。

 寝姿山

 さて、爪木崎には昼過ぎまでいて、その後はいったん下田の街まで戻り、駅前からロープウエイに乗って寝姿山に登りました。ふもとからの山容が釈迦の寝姿に似ていることから付いた山の名だそうです。

 下田港

 眼下に下田港と須崎半島。その向こうには太平洋です。湾の奥に風を除けて停泊しているヨットたち。天然の良港ですね。

 ソシンロウバイ

 冬晴れによく似合うソシンロウバイ。遠い春を予感させてくれるこの花が大好きです。

 カンザクラ

 カンザクラは3分咲きでした。本当に春が近いかのような錯覚を起こしてしまいそうです。高度にハイブリッドが進んだサクラ属。このカンザクラもカンヒザクラとヤマザクラ系のサクラとの雑種と考えられているそうです。
 
 この朝、ホテルのロビーで餅つき大会があり、お客さんの中でどなたかついてみませんかとのことだったので、遠慮なく餅をついてきました。ずいぶん久しぶり、20年ぶりくらいでしょうか。昔、田舎では暮れの30日に正月の餅をついていました。蒸籠で餅米を蒸して、石の臼でペッタン、ペッタンと。杵の柄の先端部を左手で、その50pくらい前の部分を右手で持って振りかぶり、杵を振り下ろしながら右手をスッと左手のところまでスライドさせる。これが餅つきのコツで、遠心力を使って強くつくことができ、腰のある餅になるのです。クリティカルヒットしたときはパーンって音がして爽快な気分に。強すぎて杵の木くずが餅に混ざったりするのが難ですが。
 
 さあ、今年も始まりました。何をさておき、まずは健康ですよね。たくさん野山を歩いて、楽しく仕事して。そろそろ第二の人生のことも考えながらちょっとずつ準備を始めようかな。