鞆の浦 〜オッパイ、鯛飯、塩、ツメレンゲ〜


 

【広島県福山市 平成15年12月13日(土)】
 
 今年も余すところあと半月。
 毎年12月の声を聞くと加速度をつけて日々が過ぎていくようです。これから年末に向けて仕事を片づけ飲み会をこなし年賀状を書いて大掃除を…。イカン、このままではアソビが足りない。忙しいときにはそれ以上に遊ばないと。
 ということで、やむなく今週末も遊びに行くことに。メンバーは観察会でいつもお世話になっている長身のTさんとM女史。ちなみにこの二人はyamaneko以上に遊びに力を入れている猛者です。
 今日の予定で決まっているのは、「鞆の浦で鯛飯を食べて、仙酔島でツメレンゲを見る」ということだけ。あとはいつものとおり行き当たりばったりです。
 広島から山陽道を東に向かって福山西I.Cで降りて、あとは海岸沿いにドライブ。陽射しが暖かく、瀬戸の冬はホント穏やかです。このまま目的地に直行するのもなんなので、途中で「阿伏兎観音」に寄ってみることにしました。

 阿伏兎観音

 阿伏兎観音は、けわしい海食崖が続く沼隈半島の南端にある磐台寺観音堂のことです。
 この観音堂は今から千年ちょっと前、花山法皇という人が海上交通の安全を祈願して、岬の岩の上に十一面観音の石像を安置したのがその開基だそうです。
 この岬に船がぶつかったというニュースを以前聞いたことがありますが、その御利益のほど如何、といった感じです。

 この十一面観音は、子授け、安産の御利益もあるそうで、小さなお堂の中は太宰府の合格祈願絵馬のようにたくさんのオッパイで埋め尽くされていました。「母乳がたくさん出ますように」とか「元気な赤ちゃんに恵まれますように」といった微笑ましくも真摯な願い事が書かれていて、科学万能の現代にあってもこういった祈りに身を置かずにはいられない人の心に、何故がホッとするようです。

 燧灘

 ちょうど昼時に鞆の街に入りました。離合もままならない街並みは、潮待ちの港として栄えた当時の面影を色濃く残しています。
 駐車場に車を入れて、さあ昼ご飯です。
 お目当ての店「鯛亭」は、ともすると見過ごしてしまいそうな店構えですが、店内は清潔感のある落ち着いた調度の造りになっています。
 鯛飯(800円)を注文すると、まずお通し。そして懐石料理のような手の込んだ5品。お吸い物の具はもちろん鯛。メインの鯛飯は濃すぎず上品な味付けです。今日は食後にサービスでぜんざいが付きました。生姜の風味が甘さを引き立てます。一つ一つの品が丁寧に調理されていて、口にするときが適温になるよう配慮されています。カウンターの中の板さん(たぶんご主人)のこだわりが伝わってくるようです。鯛飯はもうひとつデラックス(1500円)もありますが、普通の鯛飯で十分に満足感を得ることができます。これははっきり言ってオススメです。

 鯛亭

 腹も心も満足したところで、市営の渡船に乗って仙酔島に向かいました。
 所要時間わずか5分ほど。あっという間に到着です。

 散策路

 その昔、空の上から瀬戸の海を見た仙人が、そのあまりの美しさに酔いしれて伏してしまい、そのまま島になったといういわれがあります。ここから見る瀬戸の海は確かに美しい。仙人でなくとも酔いしれそうです。
 島自体は流紋岩質凝灰岩でできていて、地学的には特徴のある島なのだそうです。
 
 海沿いに散策路が続いているのですが、途中落石のため通行止めになっていて、山越えをして目的の岩場を目指します。

 ナナミノキ  クロガネモチ

 この季節、さすがに花はほとんど目にしません。でも、その代わりに常緑樹の緑の葉と赤い実が目を楽しませてくれます。

 ツメレンゲ

 岩場に降りてきてしばらく行くと、ありました。手の届かないくらいの高さの所にポツン、ポツンと。いや、見上げるほど高い岩場にはたくさん生えています。この写真はちょっと怖い思いをして撮ったものです。
 ああ、今年も会うことができました。これで今日の目的は達したということになります。
 
 彦浦という浜には広島大学生物生産学部の実験所の跡が残っています。今はその施設を改修して、年輩の男性が純瀬戸内海産の塩を作っていました。目の前の海の水だけを使った味わい深い塩です。精製の過程で出るニガリを舐めさせてもらったのですが、形容しがたい苦さに降参。まいりました。

 100%海水塩

 今日一日を通じて最もよく目にしたのはウバメガシでした。
 万葉の歌人、大伴旅人がここ鞆の浦で詠んだ「我妹子が見し鞆の浦のむろの木は常世にあれど見し人ぞなき」という歌。3年前、都から太宰府に赴任する時に妻とともに見た鞆の浦のむろの木は今もこうしてあるけれど、妻は亡くなってしまってもうともに見ることはできない、といった意味です。
 ものの本にはこの「むろの木」はヒノキ科のネズのことと記載されていますが、Tさんは様々な状況証拠から「むろの木」はウバメガシではないか、と推察しているそうです。

 ウバメガシ

 今日は小春日和に恵まれ、気の置けない仲間と楽しい時間を過ごすことができました。
 こんなぶらぶらっとしたミニ観察会もなかなかよいものです。さあ、しっかりと遊んだから、週明けにはちょっとは仕事をしなければ。