十種ヶ峰 〜中国山地 西の秀峰〜


 

【山口県阿東町、島根県津和野町 平成17年4月23日(土)】

 「十種ヶ峰」 「とくさがみね」と読みます。
 山口県と島根県との県境にまたがるこの山は標高989mの独立峰で、山の南東側から見ると、山頂から両サイドに流れる稜線が美しい印象的な姿をしています。「長門富士」と呼ばれる所以です。
 一方、西側から見ると大きな台の上に小山を乗せたような無骨な姿をしていて、ちょっと不思議な山でもあります。
 今日は仲間うちの数人でこの山に登り、山頂からの眺めを楽しもうというもの。道々で出会うであろう数々のスミレも楽しみのうちの一つです。

 中国自動車道を西に向かい、山口県の鹿野ICで降りて国道315号へ。阿東町徳佐地区で国道9号を横切ることになりますが、ちょうどこの辺りから長門富士を臨むことができます。コンビニで弁当を買って更に315号を北上し、十種ヶ峰の北西側に回り込みます。
 国道を右に折れて北麓にある青少年野外活動センターに向かい、スキー場のゲレンデを横目に見ながらなおも車で登っていきます。この道は十種ヶ峰の中腹にある電波塔の保守のためのものです。
 やがてリフトの最上部が見えてきたら、その横の広場に車を停めて、ここからゲレンデを登って行きます。

 ゲレンデ中腹の空き地

 天気予報では見事な晴れマークでしたが、上空には薄雲が広がっています。でもそこは考えよう。日を遮るもののないゲレンデを歩くにはむしろ好都合かもしれません。
 今日のメンバーは皆この山に登るのは初めてなので、QJYのレポートを参考にしながらのコース取り。このコースを歩いていればおそらくハズレはないはずです。

 マルバスミレ

 ストレッチを済ませて、午前10時スタート。
 リフトはここまでなのに、ここから上にも長いゲレンデがあります。山スキー用でしょうか。
 さっそく刈った芝の中にマルバスミレが。(スミレ専門の図鑑を用いて現地で丁寧に調べましたが、名前が違っていたらゴメンナサイ。以下同じ。)

 アギスミレ

 葉の形に特徴のあるアギスミレ。葉の基部が広がったハート形をしています。背丈の低い可愛いスミレです。
 ゲレンデは蛇行する車道をショートカットする形で二度ほど横切ります。そのゲレンデをあっちにフラフラ、こっちにフラフラしながら登っていくのです。

 霞む山並み

 振り返るとゲレンデ越しに幾重にも重なる山並みが続いていました。北方向の眺め、山口県と島根県の県境を構成する山々です。 
 下から高校生の一団が登ってきました。引率の先生によると防府市にある高校のクラブの一行だそうで、この春卒業した先輩たちと一緒に「登山+バーベキュー」だそうです。それにしてはバーベキュー機材を持っていないなと思っていたら、下山してからふもとの野外活動センターでするのだそうです。考えてみればあたりまえか。向こうから挨拶してくるような爽やかな青年たちでした。

 オオタチツボスミレ

 オオタチツボスミレ。花弁の後方にある「距」と呼ばれる突き出た部分が白いのが特徴です。

 「青い壁画」  タチツボスミレ

 二度目に車道を横切るとき、のり面を青く染めるスミレの群落がありました。こちらはだたのタチツボスミレです。
 ゲレンデの両脇にはクロモジがズラーッと並んでいました。植栽でしょうか。でも、公園じゃないんだからわざわざ植えたりしませんよね。スキー場なんだし。今がちょうど花を付けている時期です。

 ホオジロ

 どこからかホオジロの鳴き声が。見ると木のてっぺんで縄張りを主張していました。何かこちらに向かって呼びかけているようにも聞こえます。

 シハイスミレ

 シハイスミレです。花はピンク色で葉は細長く裏が紫色なのが特徴。肝心の葉が上手く撮れていませんが。シハイとは「紫背」、すなわち背面が紫色という意味です。

 リョウブの林

 ゲレンデの最上部まで行かないうちに右手の林の中に延びる小径をたどります。まだ葉を展開する前なので明るい小径です。この道に入ってまもなく左手に人一人が通れるほどの幅の道があり、伸びたササをかき分けこの道を進みます。去年の台風のせいでしょうか、何本かの倒木がありました。

 山頂下の広場

 11時半、林を抜けて頂上直下の平坦地にやって来ました。「大きな台の上に小山を乗せたような」という山容のその台の部分です。ここから最後の小山を登っていくことになります。さっきゲレンデで我々をさっさと抜いていった高校生たちが早くも山頂から降りてきていました。早っ。
 登山道はここで左右二つに分かれていて、右手は熊野神社経由とあります。距離はほぼ同じですが、ここは左手の道を登ることにしました。

 最後の急坂

 ようやく山登りらしくなってきました。足下を見ながら一歩一歩登っていきます。ときどき立ち止まり後ろを振り返ると、ふもとの集落やその先に広がる山々まで一目で見渡すことができ、この先にある山頂からの眺望を期待させます。
 この辺りからオオバヤシャブシが多くなってきました。

 山頂まであとわずか
 (北方向)

 樹林帯を抜けるとササ原に出てきました。この山も近世まで放牧が行われていたのでしょうか。そういえば大きな樹木も見あたりません。
 さあ、山頂まであとわずかです。 

 山頂
 (南方向)

 上の写真を撮った場所から後ろを振り返ると、すぐそこに山頂が。景色を遮るものは何もありません。
 目的地を目の前にすると自然と歩みが早くなってしまいます。
 
 11時50分、山頂に到着です。遠くが霞んでいるのが残念ですが、それでも申し分のない眺めといってよいでしょう。

 青野山
 (東方向)

 東方向に連なる山々のうち、ポコッとお椀を伏せたような形の山が目立っています。地図で確認してみると青野山でした。ということはそのふもとには津和野の街があるはずですが、山ひだの向こうに隠れていてここからは見ることができませんでした。
 まずは昼食です。同行のRさんはここ数ヶ月山でカレーヌードルばっかり食べています。よっぽど気に入ったのでしょう。yamanekoはといえば最近デザートに豆大福を食べるのが定番となっています。
 
 遠くから汽笛の音が聞こえてきます。音の主を探してみると、南側、徳佐の田園風景の中を走るSL山口号でした。
水を張り終えた水田の間を走っていく蒸気機関車。過ぎた後に残される煙。なんともノスタルジックな風景です。
 この蒸気機関車は県境の峠をトンネルでパスして、津和野まで走ります。
 
 こうやってぼんやりしていると眠くなってくるとは必定。シートを敷き直して本格的に寝ることにしました。

 下山開始
 (西方向)

 30分あまり熟睡して気分もスッキリ。どうやらみんな寝ていたようで、背中が痛いとか言っています。
 そろそろ下山の準備です。
 西の空に青空が覗いてきました。薄雲が風に吹き寄せられてポッカリと穴が空き、それがどんどん広がってきています。

 ニオイタチツボスミレ

 1時20分、下山開始。山頂直下の広場で右手に分かれていた熊野神社経由の登山道を逆に降りていきます。
 白い小花をたくさん付けたハクサンハタザオや赤紫の唇形花のカキドオシなどが小群落を作っていて、日当たりのよい小径となっています。
 すぐに小さな祠が現れました。これが熊野神社です。

 フモトスミレ

 山頂直下の広間まで戻ると、帰りは別の道で電波塔の近くまで下って、そこからは車道をたどって降りていくことにしました。
 車道沿いにもスミレがたくさん見られました。上空の青空もどんどん広がり、日差しが暑いくらいです。
 途中、ホオノキが若葉を展開させ始めていました。葉芽を1本(本という単位がふさわしいほど大きい芽です。)だけ頂いて観察してみました。まず驚いたのは葉の一枚一枚が縦半分にきれいに折りたたまれて格納されていること。もう一つは、折り重なる葉と葉の間に仕切り紙のようなものがあること。ちょうど弁当に使うアルミホイルのカップ一つ一つの間に紙のカップが挟めてあるように。
 ここからは勝手な想像ですが、葉が表側を内側にして縦半分に折りたたまれているので、葉脈が出っ張っている葉の裏側が両面に出ています。この状態で葉と葉が重なっていると、お互いに葉脈のデコボコが引っ掛かって、葉芽の中で成長しにくいのではないか。だから葉と葉の間に一枚ずつ保護膜を挟んでいるのではないでしょうか。
 
 そんなことを考えながら歩いているとやがてスタート地点が見えてきました。
 時計を見ると3時です。今日も楽しい山歩きをすることができました。気の置けない仲間達のおかげです。
 空を見るとすっかり快晴。後は安全に帰るのみです。  

 徳佐高校裏からの十種ヶ峰