戸河内 〜静かな観察路にタイムスリップ〜


 

【広島県 安芸太田町 平成27年12月12日(土)()】
 
 この週末、広島に行く用があり、翌土曜日に懐かしい場所に行ってみることにしました。ちょうど10年前に定点観察で訪れていた安芸太田町の戸河内地区(旧山県郡戸河内町)です。ここに太田川と柴木川の合流点があり、その辺りを中心とした観察会を広島自然観察の定例行事として行っていたのです(こちら)。
 太田川は最終的に広島市の市街地を流れ瀬戸内海に注ぐ一級河川。柴木川は芸北の掛頭山に端を発し、国の特別名勝三段峡を作り上げた太田川の支流です。
 
                       
 
 午前9時半、広島駅のレンタカー屋でデミオをレンタルして出発。ここはやはり広島だけにマツダ車で。 祇園新道を北上して広島ICから高速道路へ。山陽道、広島道、中国道と乗り継いで、加計スマートICで高速を降りました。戸河内へはこの先の戸河内ICが最寄りになりますが、その手前で降りたのは寄りたいところがあるから。
 ちなみにこのIC、全国でも珍しい高速バスストップを利用したICです。

 よしお

 寄りたいところとは、加計地区(旧加計町)にある「よしお」という鯛焼き屋さん。広島在住時に芸北地域に来た時は、必ず立ち寄っていました。家族でやっている小さな店でしたが、当時から人気で、ひっきりなしに客が来ていました。ネットで確認してまだ営業していることは分かっているので、安心して行ってみました。
 10年ぶりに訪れて見ると、おや、ちょっと改装したのか綺麗になっているような気がしますが。隣には駐車場もできているじゃないですか。店に入ってさっそく3個注文。タッチの差で先客が20個(!)注文したので、店内の様子を観察しながらしばらく待っていました。
 そして出来たてが手元に。おそらく同年輩と思われるご主人と10年前の頃の話をしながアツアツの鯛焼きをいただきました。昔のままの味でした。聞くと今ではネットでも買えるとのこと。でも、やっぱり現地で食べるのに勝るものなし。

 新明神橋

 よしおを後にして国道185号線を西進し、目的地にやってきました。 二つの川の合流点の柴木川側に架かる橋(新明神橋)を渡ったところが観察のスタート地点になります。「恐羅漢スキー場」の看板は、昔はここがスキー場への入り口だったから。といっても実際にはここから山道を数km行き、内黒峠を越えた先なのですが。今ではかなり遠回りにはなりますが北側から回り込んで入る広い道路ができているので、ここから行く人は少ないのでは。

 デミオ

 ちょうど看板の裏側辺りに車を停めました。ここには公衆トイレもあって、なにかと便利なんです。


Kashmir 3D

 今日は、明神橋を渡って太田川の右岸を歩き、川の蛇行に沿って回り込んで、須床橋を渡って左岸へ。そこでUターンして元の新明神橋に戻ってくるという、当時の定点観察と同じルートです。
 ちなみに地図上のJR可部線は既に廃線になっています。

 太田川

 11時20分、スタート。ここは合流直前の太田川。見えている橋は明神橋です。昨日降った雨の影響で、水量も多く勢いも激しいです。広島を出て加計辺りまでは晴れていたのですが、いつの間にか空の大部分を雲が覆ってしまいまっています。

 ミヤマフユイチゴ

 明神橋を渡って右岸側の小径を歩いていきます。これはミヤマフユイチゴ。鈍色の風景の中にあって、赤い色は少し気持ちをほっとさせてくれます。

 寒そうにうなだれるアザミ。よく見ると花の下にキチョウがぶら下がっています。本来成虫で冬を越すのですが、それにしてもさぞ辛いでしょうね。

 セイタカアワダチソウ

 セイタカアワダチソウです。まだ開花前の状態。遅れて花を付けたばかりに、寒さで成長が止まってしまったのかもしれません。 仮に開花したとしても花粉を媒介してくれる虫もいないでしょう。

 シシウド?

 うーむ、これはセリ科の植物の実ですね。シシウドか。

 ヤブコウシ

 赤い実に常緑の葉の取り合わせは、古来おめでたいものとして歓ばれます。例えば、センリョウとかマンリョウとか。で、これは別名を「十両」というヤブコウジ。つややかな赤い実です。

 ヤブラン

 ヤブつながりでヤブランも。こちらは光沢のある漆黒の実(種子)。

 川が大きく蛇行するところの外側にも水が溢れていました。ここは普段なら乾燥しているか、せいぜい水たまりがあるような場所。洪水時のバッファ地帯のような河原です。

 一応舗装はしてありますが、苔に覆われています。行きあう人も全くいません。この先には民家もあり元々は生活道路なんでしょうが、車の通行は難しいので住民の方はもっぱら反対側に出るのです。 結果、道が苔をむすということに。

 クジャクシダ

 これはクジャクシダです。羽状複葉が横に並ぶように付いていて、全体で見ればしなやかな扇のような状態になっています。

 やがて民家が見えてきました。蔵もあります。一段高いところにあるのは川に近い立地だから? そういえば以前この近くの堤防が決壊したことがありましたが、おそらくこの高さであれば難を逃れたのではないでしょうか。

 冬寒

 民家の庭先にザクロが一つ。風もなく、音も止まったような景色です。

 ツリフネソウ

 ツリフネソウの残り花。じっと寒さに耐えているかのようです。バックの藪とのコントラストでよく目立っていました。

 須床橋

 小さな集落までやってくると、川の左岸に渡る橋(須床橋)があります。住民の方はみんなこの橋を渡って出かけるのだと思います。

 橋の上から下流方向の風景。右手の山際を歩いてここまで来ました。蔵のあった民家群が遠くに見えています。

 タラノキ

 橋を渡って、ここからは国道をスタート地点に向かって歩いていきます。これはタラノキの芽(先端部)ですね。まだ小さいです。

 ヤツデ

 歩道はないので白線の内側を歩かないと車に轢かれてしまいそうです。 まあ、車もめったに通りませんが。
 ヤツデが大きな葉を広げていました。めいっぱい光を受けるぞ!という感じ。この植物は寒くても元気です。

 太田川

 太田川本流。さっきは対岸の道を歩いていました。

 カワラハンノキ

 道路から河原を見下ろすと、水際近くにカワラハンノキが。細長いのは雄花序です。幹の下の方は水に浸かっていましたが、およそそんな環境を苦にしない植物です。

 明神橋まで戻ってきました。相変わらずザーザーと流れています。奥に見える赤い橋は明神大橋です。

 ヌルデ

 水に浸かりそうなヌルデ。昨日、強力な低気圧が列島を駆け抜け広島でも結構降ったようで、上流からどんどん水が流れてきます。

 明神大橋から見た合流地点はこんな感じ。左から流れてきているのが太田川で架かっているのが明神橋、右から流れてきているのが柴木川で架かっているのが新明神橋です。真ん中にある神社が明~様のようですが、現在は立入禁止。いつぞやの洪水で荒れたままになっているようです。
 
 小一時間でぐるっと観察して回りました。広島市内は新しい都市高速ができるなど結構変わっていましたが、ここ戸河内は静かなままでほとんど当時のままでした。10歳歳を取った自分がタイムスリップしてきたような変な感じでした。
 この後、戸河内IC近くにある「グリーンスパつつが」という温泉レジャー施設に立ち寄り、ゆっくりと温泉に浸かって、ついでに昼食もいただいて帰りました。