等々力渓谷 〜武蔵野台地の先端に〜


 

【東京都 世田谷区 平成18年9月3日(日)】 

  東京の、23区内の、しかも世田谷に「渓谷」があるのをご存じでしょうか。都内在住の方は結構知っている人も多いと思いますが、あるんです、これが。前に東京に住んでいたときに、野毛公園前にコイン洗車場があってそこによく行っていたので、この辺りには土地勘があったのですが、実際に渓谷に下りてみるのは初めてです。
 
                        
  
9月に入ったとはいえ、ぎらぎらと真夏の日差しが降りそそいでいます。残暑どころかまだ夏本番のようです。
 山手線を渋谷で下車。東急東横線に乗り換えて自由が丘へ。そこで東急大井町線に乗り換えて3駅目が等々力駅です。

 等々力駅

 等々力駅周辺は住宅地です。駅横の南北の通りが商店街になっていて、ここを南に下っていきます。
 
 等々力渓谷がある世田谷区の野毛、等々力地域は武蔵野台地の南端に位置し、この渓谷は多摩川が形成した河岸段丘(いわゆる国分寺崖線)を谷沢川が南北に浸食することによってできた、延長約1Kmの渓谷です。台地と谷との高低差は約10mもあります。

 渓谷入り口

 駅から50mほど歩くと右手に豆腐料理屋があり、その角にある大きなケヤキを目印に右折します。角を曲がって20m先に渓谷入り口が。「いったい、どこ?」という感じですが、ゴルフ橋という橋のたもとから川筋に下りていくことになります。
 入り口近くにある看板のデジタル温度計は28.5度と表示されていました。思ったより低いのは木陰のせいでしょうか。
 ちなみに、「ゴルフ橋」とは変わった名前ですが、地図をみても付近にゴルフ場らしきものは見あたりません。それもそのはず、これは昭和初期にこの付近にあったゴルフ場に通じる橋だったことから名が付けられたものだということです。ゴルフ場自体は戦前になくなったそうですが、名前だけはその後半世紀以上も残っているのですね。

 ゴルフ橋の上から

 ゴルフ橋の欄干から乗り出して下を見てみると、渓谷を散策する人々が。思ったより鬱蒼とした感じです。さっそく下りてみましょう。

 ここ、世田谷?

 渓谷という名前に期待して涼を求めていたのですが、今日はまったくの無風。川もよどみのようにほとんど流れがありません。基本的に2面ないし3面護岸になっていて、厳しいようですが、渓谷と名を付けるのにはややはばかられるのではないかと感じました。ただし、植生はシラカシ、ケヤキ、コナラなどの高木、アオキ、ヤツデ、シュロなどの低木、シダ類、湿性の草本など、かなり豊かな様相を呈しています。ヤツデ、シュロなどは近所の住宅地から逃げ出したものかもしれませんが。

 環八

 しばらく行くと頭上に大きな橋が現れました。これは環状8号線(いわゆるカンパチ)が渓谷をまたぐ橋で「玉沢橋」といいます。環八の交通量はハンパではありませんが下から見上げるとそんなにも気になりません。音は上に向かって広がるのでしょう。

 玉沢橋

 ちなみに上に上がってみるとこんな感じ。歩道橋の向こうに橋の欄干が見えます。

 ノラたち

 橋の向こうにあるセブンでパンを買って、再び渓谷へ。ノラたちを横目に昼食をとりました。でも、やつらは特段腹も減っていない様子。「毎日のエサに不自由なんかしていないよ。」とでもいいそうな表情でした。



 一面のツユクサ

 粘土層(東京層)と礫層(武蔵野礫層)との境目から地下水がしみ出してきて、谷はところどころぬかるむほどに湿っています。遊歩道の脇に一面にツユクサが生えているところがあって、ここにも水分が多くあることが分かります。
 
 しばらく歩いていくと、手水鉢がありました。ここで手を清めて奥に進んでいきます。バチャバチャと水が落ちる音が聞こえてきました。対岸にちょっとした祠があり、その手前にある渓谷の壁面から水が流れ落ちています。これは「不動の滝」といって、この崖の上にある等々力不動尊の敷地内になります。



不動の滝

 「等々力」の地名はこの「不動の滝」の音が響き渡り轟(とどろ)いたところからついたとの言い伝えがあるそうです。その昔は分かりませんが、少なくとも今は轟くほどの水量はありませんでした。
 階段を上って等々力不動尊に行ってみましょう。

 等々力不動尊

 ここの不動尊は、かの有名な修験道の開祖「役の行者」(えんのぎょうじゃ)が作ったものなのだとか。そういわれれば何かただならぬ「気」を感じます。(いや、気のせいです。)

 武蔵野台地の先端

 不動尊の裏手から上がってきて、境内を通りぬけて、表の山門から外に出てみました。そこは広い通りが。ここは目黒通りが環八と交差し、さらにその先に延びたところに位置します。この辺りがちょうど武蔵野台地の先端部で、ここから先は下り坂になって多摩川河川敷の高さまで下っていきます。

 三たび渓谷に戻って、またぶらぶら歩き始めます。するとほどなく両側の緑の壁がとぎれ、住宅地に出てきました。こうなると谷沢川もただの用水路です。
 ここからは川筋を見失わないように、民家の軒先を通って歩きます。

 そして多摩川へ

 渓谷を抜けるととたんに気温が急上昇。照りつける日差しにまた汗が出てきました。やっぱり渓谷の中は涼しかったのです。
 谷沢川はやがて多摩川に至りました。ここで合流です。
 
 等々力渓谷のあの緑の深さ。まるで都会の真ん中にぽっかりと残された緑の小島のようでした。ああいった地形ゆえに開発により崩されることもなく、今にその姿をとどめているのでしょう。これからも残してもらいたいですし、できれば蛍が棲み着くくらいに流れを浄化できたらいいと思います。昔はきっとそんな清らかな流れだったのでしょうから。