地倉沼 〜空の沼に咲くチョウジソウ〜


 

【島根県津和野町 平成15年5月13日(火)】
 
 「一週間のごぶさたでした。玉置宏です。」で始まるロッテ歌のアルバムを覚えている方は、けっこうな年輩です。
 今回、代休をとって向かった先は、1年間のごぶさただった津和野の地倉沼です。この時期、この沼にはサファイアブルーのチョウジソウが咲くのです。
 2日前の大潰山で急遽決まった地倉沼行き。好奇心が服を着てメガネをかけているようなM女史が付き合ってくれました。

 登山口

 広島を9時に発って現地に着いたのは11時半。直線距離では短いのですが、山間の道をぬって行くのでそこそこ時間がかかります。
 JR山口線の踏切手前から畦道に下りてスタートです。ここから山肌をつづら折りに一気に350m登って頂上付近の峠を越えると、そこに静かに佇んでいるのが地倉沼です。ふもとから見上げると空の上にあるかのようです。

 ムラサキサギゴケ

 登山道沿いにも目を楽しませてくれるものは多くありました。
 このムラサキサギゴケもそのひとつ。花冠の中央に虫のためのランディングポイントが。夜、飛行場に着陸するときに見える誘導灯のようです。
 ところどころ陽が差し込む場所にはウマノアシガタが咲いています。花弁の金属光沢がきれいです。

 
 アマドコロ  花冠

 アマドコロが鈴なりに花を付けていました。葉も勢いがあって見事です。
 ここは去年、サイハイランが咲いていた場所ですが、株ごと無くなっていました。
 ギンリョウソウやヤブデマリ、コマユミなども花を付けていました。ハナイカダはもう実です。
 
 背中が汗で濡れる頃、やっと峠にたどり着きました。もうすぐそこが地倉沼です。

 岸辺に腰を下ろして、まずは昼食。
 カエルの合唱が辺りを取り巻いています。遠くの森からはツツドリの声が。後ろの梢からはヤマガラの声です。

 空腹を癒して落ち着いたところでチョウジソウの観察です。

 「丁字草」

 観察のために一つだけ花冠をいただきました。M女史は声に出して「いただきます。」
 花弁は5個ですが「丁」の字の縦棒の部分が筒状に合着しています。正面からみると筒の出口の部分は周囲から中心に向かって密集して生えている毛のために奥をのぞくことができません。筒状の部分を縦に裂いてみると、穴をふさぐように毛が生えているのは筒の入り口部分だけで、花粉をたくさん付けた葯がそのすぐ奥にありました。そこから奥の内壁には基部に向かって毛が生えていました。
 ここからは推測ですが、この構造は一度入り込んだ虫が出にくくなうような作りになっているのではないでしょうか。出口を求めてじたばたするうちに花粉をたくさん付けてしまうようになっているのでは。
 どんな虫が媒介するのかは分かりませんが、花の近くで見かけたワインレッドの小さな甲虫がその役割を負っていたのかもしれません。

 チョウジソウはまだしばらくは花期が続きそうです。

 周囲を山に囲まれた静かな沼。アカショウビンの声が聞こえてきます。遠く東南アジアからはるばるやってきたのでしょう。どんな旅だったのだろうか、なんて考えながら、久々にゆったりとした時間を楽しむことができました。
 全身リフレッシュしたところで、そろそろ下山です。

 登ってくるときもそうでしたが、森の奥から奇妙な鳴き声が聞こえてきていました。ジャングルの猿の鳴き声を、か細く、かつ、もの悲しくしたような声です。やっぱり鳥の声なんでしょうが、なんだったんでしょうか。

 鉄橋の下 


 ふもとまで下りてきて鉄橋をくぐると登山道は終わりです。登って下りてけっこうな運動量でした。
 それにしても平日に山に行くことのなんと楽しいことか(不謹慎ですね。)。
 そして、今度はマイヅルソウを見に行こうということに話がまとまりました。できれば平日に。